530 / 586
第13蝶 影の少女の解放と創造主
マヤメの戦う理由
しおりを挟む※マヤメ視点
『んっ! 後ろを取った』
ジェムの魔物に向かって投擲した、ククリナイフ壱【影式】に潜影し、気付かれることなく、背後まで接近できた。
これも魔物の注意を引きつけている、澄香のおかげ。
私だけならこんなに容易に、近づくことはできなかった。
なにせこの魔物の能力は、『軌道力』と『機動力』だけではなく、
『ん、周りの揺れを感知する事に長けている。だから居場所や攻撃がバレる。きっとあの羽根が、そう』
澄香に向かって、高速に羽根を動かし続ける、その背中を注意深く見る。
8枚の羽根のうち、左右の後翅(一番下)だけが動いていない。
宙に留まっていた時も、澄香を攻撃している、今もそうだった。
『だからあの羽根を狙う。あの羽根はセンサー。あれが無くなれば、きっとマヤたちでも倒せるっ!』
シュッ
ククリナイフをテンタクルマフラーで握り、無防備な背中に向かって投擲する。
後は近づいたところで、ナイフから浮上し、あの羽根を切断するだけだ。
そうすればただ速いだけの蝶の魔物。
それでも手を焼くが、ジーアと二人でならなんとかなる。
「んっ!」
取った。
シュパンッ ×2
間合いに入った瞬間、右手とマフラーのナイフを一閃し、後翅どころか、他の羽根も切断することに成功した。
『んっ!? これで機動力の殆どは失った。もうマヤ一人でいけるっ!』
パラリと落ちていく、数枚の羽根を横目で見ながら、自身の勝利を確信した。
それでも懸念はあった。
攻撃を仕掛けた瞬間、すぐさま反撃される恐れがあった。
だと言うのに、3枚も落とせたのは僥倖だったと言える。
そんな思いもよらない結果に、一瞬戸惑ったが、これも嫌がりながらも、挑発を引き受けてくれた澄香のおかげだ。
「んっ! これで――――」
ギュッ
左腕の代わりのマフラーで、ククリナイフを力強く握る。
これを振り下ろせば、澄香の負担を減らせる。
「――――倒せるっ!」
シュッ!
無防備な背中に向かって、袈裟斬りに振り下ろす。
私は澄香の力になるために、ここまで付いてきた。
なのに自分は愚かにも捕まって、しかもまた助けてもらった。
だからもうこれ以上、澄香の重荷になりたくない。
出番がなくなるジーアには悪いけど、この一撃で全て終わらせる。
それとあまり澄香を戦わせたくない理由もあった。
私はこれまでに数度、澄香とジェムの魔物との戦闘を見てきた。
戦う度に、多彩な技や魔法を駆使し、敵を圧倒する澄香。
苦戦知らずのその強さは、ジェムの魔物を放っている、エニグマ(謎の組織)には脅威に映っただろう。
だけどその反面、
『澄香は実力を見せ過ぎている。だから戦闘を重ねる度に、魔物が強くなってきている。澄香もそれを感じてる。今回の魔物もそう』
澄香の速度やチカラを上回る魔物や、遥かに巨大な魔物。
極小の消える魔物や、再生能力が高い魔物。
それと今回のような、人質を取るほどの知能を持つ、狡猾な魔物。
単純な強さから一転して、現れる度に厄介な能力を身に着けている。
確証はないが何かしらの方法で、情報を収集されている可能性が高い。
『ん、だからマヤが頑張る。澄香の強さを見せないために。澄香の強さを知られないために。澄香の強さがこれからも絶対必要。だからマヤが――――』
止めの一撃を放つ。
袈裟斬りに振り下ろした、この刃が届けばそれで終わりだ。
『んっ!?』
ところが、切っ先が肩口に届く瞬間、ジェムの魔物がクルと振り向いた。
「どうしてマヤメが私を?」
「んっ、な、なんでっ!? うぐっ…………」
ズッ
寸前でナイフを避けられ、そのまま手刀で右肩を貫かれた。
今までジェムの魔物だと思い、止めの一撃を放った相手は、
「ん、なんで、澄香が?」
マスターに次いで、最も多く呼んだ名前を口にする。
そんな澄香は、私を貫いた自分の手を眺めながらこう答えた。
「なんでって、それはマヤメが仕掛けてきたからに決まってるでしょ?」
「ち、ちがうっ! マヤは魔物を――――」
攻撃した筈だった。
なのになぜ?
「私の性格知ってるでしょ? やられたらやり返すって」
「ん、だから違うっ! マヤは澄香の為にっ!」
止めを刺すはずだった。
これ以上エニグマに情報を渡さない為に。
「そう、私の為なんだ。ならそのまま私の糧になってもいいよね?」
「んっ!? な、なんで?――――」
届かない。
私の声は、今の澄香には届かない。
『ん、またエナジーが……』
意識が遠のいていく。
澄香の手から、ジェムの魔物の時のように、体中の力が抜けていく。
『んく、でもまだ』
戦える。
私にはまだこれが残っている。
『ククリナイフ参 影絵式』
私はマスターに貰った、第三のナイフを取り出した。
そしてそのまま――――
『んっ!』
ブシュッ!
自身の腹部に躊躇なく突き刺した。
※スミカ視点
「…………なにか変だ」
ジーアの元を離れた瞬間、ナイフを握ったまま地面に落りて行ったマヤメ。
これも作戦なのかと見守っていたが、地面から起き上がったマヤメは、右肩を押さえて膝を付き、苦悶の表情を浮かべていた。
見たところケガはないが、その表情から何かあったのだと感じる。
「…………ジーアは?」
一方、ジーアの様子は、マヤメが離れた時と殆ど変わらない。
変わった事と言えば、眉間に深い皺を寄せ、額の汗が増えただけだ。
その様子から、今の状況が見えないほど、集中しているのだとわかるが、
「なにかおかしい。ジーアはあれとして、マヤメの様子が……」
マヤメの行動と表情に違和感を感じる。
傷のない右肩を押さえ、何故フラフラしているのか。
仮にあれが作戦だとしても、演技だとしてもおかしい。
「…………だとしたら、マヤメの身にだけ何か起こってるって事? でもなんでマヤメだけ? あ、もしかして、これが関係してる?」
ジェムの魔物の攻撃から私を守っている、透明な壁に視線を向ける。
二人に違いがあるとすれば、スキルで覆われているか、否かだった。
「ジーアはそのままスキルの中で魔法を唱えている。けどマヤメは飛び出した途端にああなった。だとしたら――――」
原因はこの大気中にある。
恐らくマヤメはスキルを出たことで、何かしらの攻撃を受けたかもしれない。
「外傷はない。だとしたら、私の『幻夢』みたいに、精神を攻撃されてるっぽい。そんな素振りはなかったけど、相手も何だかんだ言って、蝶を改造した魔物だし。だったら――――」
もうここまでだと悟り、ジーアを見て胸が痛む。
苦しげなマヤメの姿を見て、胸が締め付けられる。
そしてそんな攻撃を予想できなかった自分に腹が立った。
「二人には悪いけど、もうここからは私が――――」
割って入るしかない。
ジーアは無事だとしても、マヤメがこれ以上戦えるかわからない。
「よし、なら先にマヤメを助けて、その後でジェムの魔物に――――」
自分も戦うと決意し、先ずはマヤメの元に駆け付けようと、振り返った瞬間、
「え?」
それは起こった。
膝を折る、マヤメの足元からドス黒い何かが現れ、私とジェムの魔物の間に割って入ってきた。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる