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第13蝶 影の少女の解放と創造主
口下手とコミュ障
しおりを挟む「………………」
ヒラ、ヒラ、
『………………』
ガガガ、キキキンッ!
「………………」
ヒラ、ヒラ、ヒラ、
『………………』
ガガガガ、キキキキ――――ンッ!
「…………はぁ~」
幾度も弾かれては、何度も放たれる、ジェムの魔物のカマイタチを前に、思わず溜息が漏れ出る。
現在、囮役の私は、ジェムの魔物に向かって、生足と大人パンツを披露している。
スカートをヒラヒラさせて、これでもかとチラ見せを繰り返している。
冷静に考えるとかなり恥ずかしい。
空中で、しかも魔物に対して、女の色気を振り撒いているなんて。
こんな姿知り合いに見られたら、間違いなく引き籠る自信がある。
それこそ立ち直るまでに、優に5年はかかるだろう。
だからと言って、止めることはできない。
囮役を承諾した以上、最後までやり遂げるのが、私の役割だから。
『…………そうは言っても、正直、ね?』
派手に見せないように、マヤメの言いつけ通りにスカートを捲っていたが、それも途中から些か飽きて、今は作業のようにヒラヒラしているだけだ。
最初は羞恥心が頭の片隅にあったが、そんな感情はもう霧散した。
かれこれ10分以上も続けていれば、誰しも慣れるだろう。
ただそれでもわかったことが二つある。
ジェムの魔物が私に対して、執拗に攻撃を繰り返している理由が。
「コイツ、絶対に私の事キライだって」
同族嫌悪なのか、対抗心なのか、ヒラヒラさせるたびに、攻撃が激しくなる。
マヤメは求愛行動とか言ってたが、どう見ても殺意しか感じない。
「まあ、マヤメはわかってたぽいよね? この行為が挑発だってことは」
ヒラ、ヒラ、ヒラ――――
戦う意思も、素振りもないこの行動が、ジェムの魔物にとっては、煽られているように映るのだろう。
私だって、敵がそんな行動をしてたら、同じ反応になるはずだ。
それとわかったことがもう一つ。
それは――――
「ふえっ!? わ、わたしがでしゅかっ!」
「ん、違う。マヤが先に行く」
「じゃ、じゃ、その後であれを放てば――――」
「ん? それじゃ逃げられる」
「だったら、マヤメさんが先に逃げて……」
「ん、でもそうなると、ジーアが――――」
「え?」
「ん?」
会話が自然と途切れ、お互いの顔を見て、首を傾げるマヤメとジーア。
「はぁ~、いつまで続くんだろう、あの作戦会議……」
眼下にいる、そんな二人の様子を眺めて、また溜息が出る。
もうかれこれ10分近くも、二人の話し合いが続いていたからだ。
どうやらマヤメとジーアは、相性があまりよくないらしい。
いや、相性っていうか、意思の疎通が上手くできていない。
そもそもマヤメは、コミュニケーションが得意な方ではないし、言葉足らずで説明がわかりにくい。ジーアはジーアで、戦闘に関すると知識と経験が浅く、自己主張もあまりしない。
だからか、お互いに言いたいことが伝わらないし、伝えられない。
口下手とコミュ障じゃ、細かい話し合いは難しい。
もっと根本的な事を言えば、お互いの事を知らなさすぎる。
相手の性格や能力を把握していなければ、いい作戦など立てられない。
『まあ、それでもマヤメはやる気だし、ジーアも今までで一番気合が入っているのはわかる。だからもう少しだけ我慢してみようか』
口出しするのは簡単。
だけど、それでは二人の想いや覚悟がないがしろになる。
特にマヤメは自分の為ではなく、私を想って行動している節がある。
私が感じていた不安を察し、代わりに戦おうとしている。
「お、やっと終わったかな? どんな作戦を立てたかわからないけど、あまり無茶はしないでよね」
だからもう少しだけ、見守ることに決めた。
二人の関係が、今だけではなく、今後ももっと続くことに期待して。
――――――
※マヤメ視点
『ん』
シュンッ――
「しゅ、しゅごいですっ! わ、わたしもっ…………」
ナイフをジェムの魔物に向かって投擲し、その影に潜ったマヤメ。
ジーアはそれを驚きの顔で見送った後で、目を閉じ、慌てて何かを呟き始めた。
『ん? 呪文を唱えてる? やっぱりナジメとは違う?』
ジーアの魔法を皮切りに、自分が仕掛ける作戦だったが、手ほどきを受けていたナジメと違って、詠唱を始めたジーアの行動にちょっと戸惑う。
『ん、あれはナジメが凄いだけ。なら――――』
比べても意味はない。だから思考をすぐに切り替える。
そもそもジーアはナジメほど鍛錬してないし、戦闘に対する経験値も低い。
それでもジーアの優秀さは知っている。
さっきのおびただしい数の火球もそうだが、初対面で見た魔法も凄かった。
『――――なら、ジーアの準備が終わるまで、マヤが時間稼ぐ』
だから今は一先ず、単独で挑むことにした。
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