剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

作戦会議と子供パ〇ツ

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「あれのどこが求愛行動? もの凄くやる気満々なんだけど」

 ガガガガ、キキキキンッ!

 上空から絶え間なく、真空の刃を飛ばし、その全てがスキルに弾かれるが、それでも攻撃の手を緩めない、蝶型のジェムの魔物。

 誰が見ても敵意を剝き出しにしてるとしか見えない。
 あんなアプローチを受け入れたら、八つ裂きにされてしまう。

 だがそんな行動を、マヤメ曰く、


「ん、メスの前で羽根をはばたかせるのは、蝶の求愛行動の一種」

 私とジェムの魔物を見比べて、そう断言した。

「いや、あれ魔物だよっ!? 姿は蝶っぽいけど、本物の昆虫じゃないよっ!」
「ん、でもあの魔物たちは、この山の頂上に集まってた」
「はあっ!? それが一体何と関係あんのっ!?」

 次から次へと出てくる、突拍子もない話に、思わず声が大きくなる。  

「高いところに集まるのは蝶の習性。だから頂上に集まった。きっと蝶を元に創られたその名残がある。それと澄香に求愛する、最もな理由もある」

「習性? まぁ、そっちはいいや。どうせ聞いても確認のしようがないし…… で、その私にだけアピールしてくる理由ってなに?」

 そう、ここが気になる。
 なんで魔物なんかに気に入られなきゃならないのか。


「ん、そんなの簡単明瞭。澄香が美人だから」
「え? そんな面と向かって言われると、ちょっと照れ――――」

 る、よね?
 美人な私から見ても、マヤメは不愛想だけど、かなりの美少女だし。
 そんな同性にハッキリと言われるとね。


「蝶のメスとして」
「………………はい?」
「ん? だから蝶のメス――――」
「いや、もうその流れはいいよっ! ってか、それ理由になってないってっ!」

 褒められた途端に落とされる。
 なんだよメスって。
 捉え様によっては生々しい単語だけど。


「ん、理由? だって澄香の格好が蝶だから」
「いや、それブーメランだって、マヤメだって羽根あるじゃんっ!」

 リュックから生えている、黒蝶の羽根を指さして反論する。
 それが理由なら、私だけってのはおかしい。

「ん、でもあのジェムの魔物はマヤを攻撃した」
「はい? なに突然?」
「きっとお気に召さなかった。ジェムの魔物の好みと違うから」
「好み? そんなのあるの?」
「ん、ある。きっと澄香みたいな子供が好み。もっと詳しく言えば、その平たい――――」
「好みって、それはマヤメの勝手な憶測だよね?」

 ある部分を凝視しながら、説明を続けるマヤメに割って入る。 
 このまま続けても、不毛な争いになるだけだ。


「はぁ~ で、結局、なにが言いたいの? なにかあるんでしょう?」

 この状況下で、こんな話をしたのには何か意味がある。
 なのでさっさと話しの先を促す。


「ん、だから澄香には囮になってもらう。その美貌で引き付けて」
「美貌って、なんか皮肉に聞こえるんだけど、それじゃ、誰が戦うの?」
「ん、それは、マヤ――――」

「わたしでしゅっ!」

「え? あっ!」 

 眼下から、聞きなれた声がこっちにまで届いた。
 その甲高い声の持ち主は、もちろん、


「ジーアっ! だってもう魔力がっ?」
「もう大丈夫でしゅっ! これで回復したでしゅっ!」

 ブンブンと手を振る、ジーアの手には『バイタリティポーション』【S】が握られていた。

 それは、村に帰るクロの村のみんなにと、ジーアに渡したものだ。
 その中の一本を確保しておき、たった今回復したって事だろう。


『ふふ、なんだかここにきて、二人には驚かされてばっかだよ。なら任せてもいいかなって思うぐらいに、変に期待しちゃうよね? 何かあれば私も加わればいいし……』

 二人が無茶なことを言っているのはわかる。
 けど、色々と予想外な二人だからこそ、その成り行きを見たくなる。

『これも仲間がいる醍醐味なんだろうな。ガムシャラにプレイしてた、あの頃を思い出しちゃうよ。それにちょっとした縛りプレイみたいだし』

 私が万全な状況で、私抜きの戦闘など、今まで経験した事などない。 
 だからこそ挑戦したくもなるし、クリアした時の喜びも大きいものになるだろう。

『なら私は立派に役割をこなしてみせるよ。それでも気を抜くことはしないし、何かあれば割って入って、私が何とかする。それにしても囮ってどうするの?』

 今まで囮なんて経験ない。
 向かってくる敵を、有無も言わせず排除してきただけだから。


「あのさ、私は何すればいいの?」

 なので素直に聞いてみる。
 立案者はマヤメだし、そのやり方も考えているだろうし。


「ん、澄香もアピールする」
「アピール? ああ、これか」

 パタパタと、ジェムの魔物の真似をして、小刻みに羽根を動かす。

「ん、違う。それはオスのやり方。メスは――――」

 シュル

「えっ!? あっ!」

 バサッ!

 私の足元に目を向けるマヤメ。
 そしてテンタクルマフラーを操作し、一気にスカートを捲り上げる。

 そうなると必然的に、肉感的な脚線美と、セクシーな下着が露わになってしまう。


「ちょっとっ! いきなりなにするのっ!」

 バッとスカートを押さえ、そんなマヤメに抗議する。

「ん、これがメスのやり方。中身をアピールする。今日はウサギ」
「いやいやいや、絶対に嘘だよねっ! そんなのわかるわけないよねっ!」

 人族ならまだしも、いくら私の色気が限界突破しているからって、さすがに魔物にまで通用するとは思えない。


「うわぁ~、スミカさん、意外と子供のおパン――――」
「そこうるさいっ!」

 余計な感想を口に出しそうな、眼下のジーアを睨みつける。
 私たちよりも下にいたからか、モロに見られたらしい。


「ん、でも今のでも効果あった。興奮して魔物の攻撃が激しくなった」
「え? 本当?」

 マヤメに言われて、ジェムの魔物を見上げる。


 ガガガガガガガ、キキキキキキキン――――


「…………あ、確かにさっきと違うかも」

 飽きもせず、ひたすらカマイタチを飛ばしているが、マヤメの言うとおりに、攻撃の回数が増えた気がする。

「ん、マヤにはわかる。だから澄香は囮をする」

 私の呟きが聞こえたマヤメが、更に断言するが、どこか違和感を感じる。


『う~ん、なんか――――』

 意固地になってるような気がする。
 何かしらの理由をつけて、私抜きで戦う意思が強過ぎる。

 なのでここは一度折れ、詳しく聞くことにした。


「…………わかった。なら私は何をすればいい? それよりもマヤメはどうやって戦うの? 相手は空だし、左肩だってケガしてるでしょ?」

「ケガなら問題ない。ん」

 シュッ

 心配する私の前で、マヤメはククリナイフを一振りする。
 ただし左腕ではなく、テンタクルマフラーで武器を持っていた。


「ほぉ、また随分と器用だね。でもそれじゃ飛べないでしょ?」

「ん、それも問題ない。このナイフ(影式壱)は分身できて、ある程度操作できる。だからその影に潜って移動可能」   

 いらぬ心配するなとばかりに、右手とマフラーでナイフを構える。
 若干、左肩を庇う仕草を見せるが、表情にはおくびにも出していない。


「そこまで言うなら二人に任せるよ。でもヤバいと思ったら、直ぐに加勢するから。 まぁ、そんな事態にならない方がいいんだけど」

「ひゃっ!?」

 ジーアの乗ったスキルを、私たちの近くに移動しながら返事を返す。

「ん、それでいい。澄香は強いけど、全部の魔物と戦う必要なんてない。英雄も消耗するし、チカラをのもよくない」

「そう、だね。ならお願いするよ。ジーアは魔法壁の中から攻撃してもらうから」
「は、はいでしゅっ!」 

 マヤメとコンビを組む、ジーアに視線を向けると、上擦った声で返事が返ってきた。
 ご褒美の為とはいえ、かなり緊張しているみたいだ。

 
「じゃ、私はジェムの魔物を相手に囮役を引き受けるよ。で、結局私はどうするんだっけ?」

 肝心な事を聞いてないことを思い出した。
 マヤメのケガの話から逸れたままだった。


「ん、さっきマヤが教えた通りにやる」
「さ、さっきって?」
「ん? 知ってて聞いてる?」

 シュルとスカートめがけて、またマフラーが伸びてくる。 
 

「っと、危なっ! って、本当にそれやるのっ!」

 咄嗟にスキルでスカートを守りながら、もう一度確認する。 

「ん、澄香はスカートをヒラヒラさせ、中身を見せる。そうすれば魔物は釘付け」
「ふ~ん…………」
「んっ! でもモロはダメ。ちょっと見えるぐらいが興奮する」
「………………」 
「あ、あと、ちょっとポーズを変えるっ!」
「………………」 

 無言を貫く私に、どこか焦ったように説明を続けるマヤメ。
 段々と声が大きくなり、ジト目がいつもよりも開いていた。

 本音を言うと、かなり嘘くさいとは思ってはいるが、マヤメはマヤメで、何か思うところがあるのは間違いない。だから――――


「はあ、もうわかったよ。マヤメの言うとおりにするよ。別に、魔物に見られても恥ずかしいってわけでもないし、それとここにいるのは女性ばかりだしね」

 スカートをヒラヒラさせながら、マヤメの作戦に乗ることにした。
 不謹慎ながらも、二人がどう戦うか、ちょっと興味があるのはここだけの話だ。
 
 
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