527 / 586
第13蝶 影の少女の解放と創造主
ジェムの魔物の謎行動
しおりを挟む『………………』
グイッ
「い、痛いっ!」
私の目の前まで降下し、ジーアを持ち上げるジェムの魔物。
そんなジーアは右の手首を掴まれ、その痛みで悲鳴を上げる。
「なに? また獲物自慢したいの?」
魔物の動きとジーアを見ながら、慎重に声を掛ける。
言葉が通じるかは不明だが、今までとは何かが違う。
『さっきのマヤメの時も思ったけど、一度姿を消しておいて、わざわざ近くに来る意味が分からない。あの動きなら、ここから離れて、マヤメもジーアもどうにかできたはずなのに、なぜ?』
余裕を見せているのか、力の差を見せつけたいのかは不明だが、この行動が読めない。
今までは現れたと同時に、問答無用で仕掛けてきた。
ただ現段階で幸いなのは、ジーアはマヤメのようにエナジーを奪われていないようだった。魔力が枯渇し、衰弱したあの状態で、吸収されたら命に係わる。
かなり不本意だが、その謎の行動によって、二人とも無事なのは確かだった。
「で、結局何がしたいの? 何もしないならジーアを放しなよ」
無機質な二つの複眼に向かって声を掛ける。
返答は期待していないが、何かしら反応すれば、その隙を突ける。
『………………』
ファサッ
話しかけた途端に、黒い羽根を広げつつ、握っていたジーアの手も放す。
「ひゃっ!?」
唐突に空中に放り出され、バタバタと暴れるジーア。
「って、なんでっ!?」
すぐさま落下を始めるジーアをスキルで覆う。
ドスンッ
「ぎゃぴっ!」
「あっ!」
スキルの中に落ちたはいいが、すぐさま悲鳴を上げる。
どうやらお尻から落ちたようで、涙目でお尻を擦っていた。
咄嗟の事で『Gホッパー』が間に合わなかったのだから仕方ない。
地面に叩き付けられるよりかはマシだったけど、心の中でゴメンと謝る。
「どういうつもりかわからないけど、これで――――」
タンッ
マヤメのいるスキルから飛び出し、ジェムの魔物に向かって跳躍する。
両手にはなんちゃって短剣を装備し、一気に間合いを詰める。
『…………』
キュ ン――――
「それは予測済だってっ!」
ヒュッ!
攻撃が当たる直前で、姿が消えたのを確認し『spinal reflex(改)』の派生形で、避けた方向に短剣を放つが、
キュ ン――――
「はぁっ!? また消えたっ!」
「んっ! 澄香っ!」
「え? マヤメ? 目が覚め――――」
「んっ! そんなのいいっ! アイツは上っ!」
目を覚ましたマヤメの声で、即座に上空に目を向けると、
ヒュヒュンッ
ガガガガ、キキキキンッ!
「くっ! またっ!」
再び襲い掛かってくるカマイタチを、何とかスキルで防ぐ。
羽根を小刻みに揺らしながら、息つく間もなく連続で放ってくる。
「そんなそよ風みたいな攻撃、いくら撃ったって、こっちは傷一つ付かないってっ! 次はこっちの番っ!」
ジェムの魔物の背後に、電柱の大きさのスキルを展開し、射出するが、
キュ ン――――
「もちろん、それもわかってるってっ!」
ギュンッ! ×10
『分割』を使い、避けられたスキルを10機に増やす。
そして後ろ斜め上空に向かって、一気に射出するが、これも、
キュ ン――――
ガガガガ、キキキキンッ!
「ちっ!」
難なく避けられ、再度上空から、カマイタチの攻撃を受ける。
『ったく、読みは当たってたのに、本当にあの機動力は厄介だよ』
動きを追うことは適わない。
だから先読みして、攻撃を仕掛けたがそれも躱された。
『癖なのか習性なのかわからないけど、必ず私の上から仕掛けてくる。だからそれにカウンターを合わせて撃ってるんだけど、並みの速さでは簡単に見切られる。これじゃまるで――――』
ふと脳裏に、あのピンクの魔法幼女の姿が浮かぶ。
あの幼女も見えないはずの攻撃を、何度も避けていた。
ただあの方法は、フーナみたいな膨大な魔力を持った者しかできない。
何せ、魔力を大気中に放出し続けて、その流れを感じ取って避けていたからだ。
「ん、澄香っ! こっち来て」
「マヤメ?」
私よりも低い位置にいるマヤメに呼ばれる。
そんなマヤメは肩を抑えながら、ジェムの魔物を神妙な顔つきで見ていた。
「なに? どうしたの」
スキルで攻撃を防ぎながら、マヤメの元に着いたところで『連結』する。
「ん、ちょっとわかったことがある」
「わかったこと? それよりもケガは?」
右手で押さえている、マヤメの左肩に視線を移す。
「ん、これ澄香が?」
「そうだよ。まだ完治してないと思うけど」
手の下から覗く、リペアパッドを見ながら答える。
「ん、もう治った」
「いや、そのアイテムが残ってるうちは治ってないから」
「ん?」
「そのアイテムは、修復が終わったら自然と消えるものなんだよ」
驚いた様子でリペアパッドを眺めるマヤメに説明する。
効き目とその効果とその後について。
「ん、でも痛みは殆どない。それに澄香だけに戦わせたくない」
「その言葉は嬉しいけど、あまり無理させたくないんだよ」
「ん、でもマヤはもう大丈夫」
押さえていた手を放し、肩をぐるりと回すマヤメだったが、
「んっ!」
「ほら、まだ治ってないじゃん。だから――――」
すぐさま痛みで顔をしかめて、左肩を押さえる。
「ん、でもマヤは戦える。それとわかったことある」
「わかったこと? ああ、さっきもそう言ってたね」
だからマヤメに呼ばれて合流したんだっけ。
「ん、あのジェムの魔物は、澄香の事が好き」
「………………はい?」
唐突に予想外な事を言われ、マヤメの顔を見たまま固まる。
「ん? あのジェムの魔物は、澄香の――――」
「いや、聞き直したわけじゃないってっ! ちょっと面食らっただけだよっ!」
「ん? 澄香は面食い?」
「違うよっ! 驚いたって言ってんのっ! で、その根拠は何なの?」
聞いても意味ないと思いながら、一応確認する。
ただそんな私の心中とは反対に、マヤメの目は真剣だった。
「ん、あの魔物は、獲物を澄香に見せにきた」
「獲物? ああ、マヤメとジーアの事?」
「ん、そう。マヤたちに止めを刺すこともできた。なのに」
「そう、だね。それで?」
確かにその行動には違和感を感じていた。
なのでここは否定せずに、敢えて話の先を促す。
「ん、あの行動は、好きな相手に自分は強いってアピールしてたか、それか贈り物として、マヤたちを澄香に持って来たんだと思う」
「………………うん」
「それと、あの空気の刃を飛ばす攻撃。あれは求愛行動」
「うん、ん? あ、あれがっ!?」
マヤメの発言に驚愕し、上空に視線を向ける。
そんなジェムの魔物は、飽きもせずに、ひたすら攻撃を繰り返している。
『あれが求愛行動って、どういう事? それとこんな話をする意図が読めないんだけど…… ま、それが逆に重要な事もあるかもだけど』
いつものジト目ながら、どこか真剣な眼差しのマヤメ。
だからこそ、意味があるものだと思い、話を聞こうと思った。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる