524 / 586
第13蝶 影の少女の解放と創造主
箱庭思考からの脱却
しおりを挟む「みんなはここから村に帰って。道中、魔物と遭遇しても、あれぐらい戦えるんだからもう大丈夫でしょ? それとジーアもいるしね。私はこれからマヤメと山頂に行ってみるよ。一応、回復薬も置いていくから」
「ん」
マヤメと二人で相談しあった結果、クロの村の人達には、ここで戻ってもらうことにした。
「「「は、はい、わかりましたっ!」」」
みんなが予想以上に戦えることもわかったし、意識の改革もできたはず。
それと今回の件でかなり自信も付けただろう。
だから、村に戻るだけなら問題ないはずだ。
普通の魔物ぐらいだったら、恐らく苦戦することはないだろう。
「あ、あにょっ!」
「ん? なに?」
頂上に向かい歩を進めたところで、回復薬を渡したジーアから呼ばれる。
「あ、あのぉ~、わ、わたしも一緒に行くでしゅっ!」
「「「………………」」」
意を決したように、真剣な顔でそう告げるジーア。
そんなジーアの発言を、みんなは大人しく聞いていた。
「なんで? ここから先はかなり危険だよ? さっきの見たでしょ?」
「そ、それを言ったら、なんでスミカさんは行くんですかっ!」
「いや、質問を質問で返さないでよ。私は確認したいこともあるから行くんだよ」
そう、さっきの人型も気になるし、ジェムの魔物も現れるだろうから。
「な、ならわたしも一緒でしゅっ! あんなのが村の近くにいるのが怖いんでしゅっ! だから一緒に行って、わたしもお手伝いしたいんでしゅっ! じゃ、じゃないと――――」
「気持ちはわかるけど、ここからは私たちに任せて。絶対退治してくるから」
宥める様に、不安げな表情のジーアに歩み寄る。
まだ何か言いたそうだったけど、ここから先は私の領分だ。
「――――じゃないと、わたしだけ『ご褒美』が貰えないでしゅっ!」
「………………は?」
ジーアの返答の続きを聞いて、思わず絶句する。
こんな場面で、またズレた事を言っているのかと。
まぁ、怖い云々より、こっちが本音っぽいけど。
さっきより声が大きかったし、何よりも目力が凄いし。
ポン
「ん、なら連いてくる。ご褒美ゲットの為に」
「ふぇ? マヤメしゃん?」
ジーアの肩に手を乗せ、マヤメがうんうんと頷く。
「いや、だから危ないって言ってるじゃん。それよりもみんなはそれでいいの?」
ずっと口を出さずに見ていた、みんなにも聞いてみる。
「はい。私たちはそれで構いません」
「ジーアにはいつも助けてもらったから」
「たまのわがままぐらい聞いてあげたいしな」
「ジーアの成長に繋がるなら喜んで」
「それにジーアだけ、ご・褒・美・ないですからね~」
「「「わ、はははは――――」」」
「ううう、みんな~っ! ありがとでしゅ~っ!」
賛成してくれたみんなに、感極まって涙を浮かべるジーア。
そんなみんなは薄目で、チラチラとこっちを見ている。
『………………え?』
なんなのこれ?
なんでご褒美部分を強調して、示し合わせたように私を見るの?
これじゃ、活躍の場を与えなかった、こっちが悪いみたいじゃん。
「はぁ~、わかったよ。ならご褒美は無条件でいいから、ジーアはこのままみんなと帰って。それなら文句ないでしょ?」
半ば投げやり気味に、みんなにはそう伝える。
これが一番最善っぽいし、ジーアに危険が及ぶこともない。
ところが、
「そ、それはズルいですよっ!」
「「「そうだっ! そうだっ!」」」
「はあっ!?」
ここ一番の折衷案を出したのに、何故か一斉に反発される。
「ん、もう澄香の負け」
「いや、負けとかそんなんじゃないから」
「ん、澄香は頑張った。でもみんなが一枚上手」
「………………」
そしてマヤメに慰められる私。
別に悔しいわけではないけど、なんかスッキリしない。
『まぁ、これもみんなが変わってきた証拠なんだよね。ジーアに依存していた、ほんの数時間前とは別人だよ。それと、みんなもジーアの成長を望んでいるんだろうしね』
色々と不安が残るが、これはこれでいい傾向だと思う。
成長を望むなら、変わろうとする時機を逃さないのも大事だから。
こんなことは、あの村の中にいるうちは不可能だっただろう。
あのままだったらあの箱庭で、ずっと漫然と過ごしていただろうから
そんな時は、箱をつつき、刺激を与える何かが必要だった。
その何かが今回は、たまたま私だっただけ。
『それに、外の世界に出た方が、知識も見識も広がるし、きれいな景色も、楽しいことも、美味しい物もたくさんあるからね。それと混血種にも理解ある、たくさんの仲間も増えるはずだよ』
経験者は語る。なんて大袈裟な話ではないけど、過去の私は5年もの間、あの自宅という箱庭で、意味も無く過ごしてきた。
だからか、その無意味さもわかるし、外の素晴らしさもわかる。
引き籠ってたあの時の私を、全否定したいぐらいに。
「わかった。ならみんなの気持ちを汲んでジーアも連れて行くよ。ここまで連れてきた責任もあるし。そもそも焚き付けたのは私だしね」
「は、はいっ! よろしくでしゅっ! スミカさんっ!」
「「「あ、ありがとうございますっ!」」」
「ただ連れてく以上、ジーアにはみんな以上に頑張ってもらうからそのつもりで。それこそ倒れるまで働いてもらうから」
「ふぇ?」
「「「え?…………」」」
「だってそうでしょう? 私の指示を無視するんだから、それ相応に働いてもらわなきゃ割に合わないよ。だって、マヤメと二人の方が動きやすいし」
凄みを利かせながら、チラとみんなの反応を見る。
全てが本音ではないけど、ちょっとぐらい意趣返ししてもいいよね?
「あ、あのぉ~、やっぱりわたしやめ――――」
「「「は、はいっ! それでもお願いしますっ!」」」
「うん。全員賛成だね。なら早速行こうか? マヤメは―――」
『ん、もうダイブした』
「オッケー。桃ちゃんは?」
『ケロロッ!』
「よし、みんな準備できてるね」
「ひゃっ!?」
ヒョイ
二人の返事を聞いて、ジーアをお姫様抱っこで抱える。
「あ、あの、スミカしゃんっ! 反対した人ここにいましたよっ!」
「それじゃ、みんなは気を付けて帰ってね。」
往生際の悪いジーアが「はいっ! はいっ!」と手を挙げ、自己主張しているが、敢えて無視して走り出す。
「「「はい、ジーアをよろしくお願いしますっ!」」」
――――――――
シュタタタタタ――――
「うひゃ~っ! 揺れるし、もの凄く早いでしゅ~っ!」
走り出して早々、ジーアが腕の中で騒ぎ始める。
なので大人しくさせるために忠告することにする。
「そろそろ黙った方がいいよ? また森の中に入るし、かなりスピードも出すから、そのまま口開けてると舌噛み切るよ?」
「…………」
『ん、澄香、なんだか楽しそう?』
『ケロロ~』
こうして、予想外ではあるが、クロの村一番の実力者であるジーアを連れて、4人でアシの森の頂上を目指すこととなった。
距離にして約500メートル。
鬱蒼と生い茂る草木や、足場の悪い坂道でも、私なら数分で着くはずだ。
『さて、一体何がいるんだろうね、あのてっぺんには。ジーアもだけど、私も戦ってないから、なんだかちょっとムズムズするよ』
少しだけ高揚感を感じながら、頂上を見上げて速度を上げていく。
こんな時に不謹慎とは思うけど、みんなの頑張りを見たせいで、心が逸る。
その先に待ち受けるのは、あの人型か、ジェムの魔物か、それとも――――
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる