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第13蝶 影の少女の解放と創造主
箱庭思考からの脱却
しおりを挟む「みんなはここから村に帰って。道中、魔物と遭遇しても、あれぐらい戦えるんだからもう大丈夫でしょ? それとジーアもいるしね。私はこれからマヤメと山頂に行ってみるよ。一応、回復薬も置いていくから」
「ん」
マヤメと二人で相談しあった結果、クロの村の人達には、ここで戻ってもらうことにした。
「「「は、はい、わかりましたっ!」」」
みんなが予想以上に戦えることもわかったし、意識の改革もできたはず。
それと今回の件でかなり自信も付けただろう。
だから、村に戻るだけなら問題ないはずだ。
普通の魔物ぐらいだったら、恐らく苦戦することはないだろう。
「あ、あにょっ!」
「ん? なに?」
頂上に向かい歩を進めたところで、回復薬を渡したジーアから呼ばれる。
「あ、あのぉ~、わ、わたしも一緒に行くでしゅっ!」
「「「………………」」」
意を決したように、真剣な顔でそう告げるジーア。
そんなジーアの発言を、みんなは大人しく聞いていた。
「なんで? ここから先はかなり危険だよ? さっきの見たでしょ?」
「そ、それを言ったら、なんでスミカさんは行くんですかっ!」
「いや、質問を質問で返さないでよ。私は確認したいこともあるから行くんだよ」
そう、さっきの人型も気になるし、ジェムの魔物も現れるだろうから。
「な、ならわたしも一緒でしゅっ! あんなのが村の近くにいるのが怖いんでしゅっ! だから一緒に行って、わたしもお手伝いしたいんでしゅっ! じゃ、じゃないと――――」
「気持ちはわかるけど、ここからは私たちに任せて。絶対退治してくるから」
宥める様に、不安げな表情のジーアに歩み寄る。
まだ何か言いたそうだったけど、ここから先は私の領分だ。
「――――じゃないと、わたしだけ『ご褒美』が貰えないでしゅっ!」
「………………は?」
ジーアの返答の続きを聞いて、思わず絶句する。
こんな場面で、またズレた事を言っているのかと。
まぁ、怖い云々より、こっちが本音っぽいけど。
さっきより声が大きかったし、何よりも目力が凄いし。
ポン
「ん、なら連いてくる。ご褒美ゲットの為に」
「ふぇ? マヤメしゃん?」
ジーアの肩に手を乗せ、マヤメがうんうんと頷く。
「いや、だから危ないって言ってるじゃん。それよりもみんなはそれでいいの?」
ずっと口を出さずに見ていた、みんなにも聞いてみる。
「はい。私たちはそれで構いません」
「ジーアにはいつも助けてもらったから」
「たまのわがままぐらい聞いてあげたいしな」
「ジーアの成長に繋がるなら喜んで」
「それにジーアだけ、ご・褒・美・ないですからね~」
「「「わ、はははは――――」」」
「ううう、みんな~っ! ありがとでしゅ~っ!」
賛成してくれたみんなに、感極まって涙を浮かべるジーア。
そんなみんなは薄目で、チラチラとこっちを見ている。
『………………え?』
なんなのこれ?
なんでご褒美部分を強調して、示し合わせたように私を見るの?
これじゃ、活躍の場を与えなかった、こっちが悪いみたいじゃん。
「はぁ~、わかったよ。ならご褒美は無条件でいいから、ジーアはこのままみんなと帰って。それなら文句ないでしょ?」
半ば投げやり気味に、みんなにはそう伝える。
これが一番最善っぽいし、ジーアに危険が及ぶこともない。
ところが、
「そ、それはズルいですよっ!」
「「「そうだっ! そうだっ!」」」
「はあっ!?」
ここ一番の折衷案を出したのに、何故か一斉に反発される。
「ん、もう澄香の負け」
「いや、負けとかそんなんじゃないから」
「ん、澄香は頑張った。でもみんなが一枚上手」
「………………」
そしてマヤメに慰められる私。
別に悔しいわけではないけど、なんかスッキリしない。
『まぁ、これもみんなが変わってきた証拠なんだよね。ジーアに依存していた、ほんの数時間前とは別人だよ。それと、みんなもジーアの成長を望んでいるんだろうしね』
色々と不安が残るが、これはこれでいい傾向だと思う。
成長を望むなら、変わろうとする時機を逃さないのも大事だから。
こんなことは、あの村の中にいるうちは不可能だっただろう。
あのままだったらあの箱庭で、ずっと漫然と過ごしていただろうから
そんな時は、箱をつつき、刺激を与える何かが必要だった。
その何かが今回は、たまたま私だっただけ。
『それに、外の世界に出た方が、知識も見識も広がるし、きれいな景色も、楽しいことも、美味しい物もたくさんあるからね。それと混血種にも理解ある、たくさんの仲間も増えるはずだよ』
経験者は語る。なんて大袈裟な話ではないけど、過去の私は5年もの間、あの自宅という箱庭で、意味も無く過ごしてきた。
だからか、その無意味さもわかるし、外の素晴らしさもわかる。
引き籠ってたあの時の私を、全否定したいぐらいに。
「わかった。ならみんなの気持ちを汲んでジーアも連れて行くよ。ここまで連れてきた責任もあるし。そもそも焚き付けたのは私だしね」
「は、はいっ! よろしくでしゅっ! スミカさんっ!」
「「「あ、ありがとうございますっ!」」」
「ただ連れてく以上、ジーアにはみんな以上に頑張ってもらうからそのつもりで。それこそ倒れるまで働いてもらうから」
「ふぇ?」
「「「え?…………」」」
「だってそうでしょう? 私の指示を無視するんだから、それ相応に働いてもらわなきゃ割に合わないよ。だって、マヤメと二人の方が動きやすいし」
凄みを利かせながら、チラとみんなの反応を見る。
全てが本音ではないけど、ちょっとぐらい意趣返ししてもいいよね?
「あ、あのぉ~、やっぱりわたしやめ――――」
「「「は、はいっ! それでもお願いしますっ!」」」
「うん。全員賛成だね。なら早速行こうか? マヤメは―――」
『ん、もうダイブした』
「オッケー。桃ちゃんは?」
『ケロロッ!』
「よし、みんな準備できてるね」
「ひゃっ!?」
ヒョイ
二人の返事を聞いて、ジーアをお姫様抱っこで抱える。
「あ、あの、スミカしゃんっ! 反対した人ここにいましたよっ!」
「それじゃ、みんなは気を付けて帰ってね。」
往生際の悪いジーアが「はいっ! はいっ!」と手を挙げ、自己主張しているが、敢えて無視して走り出す。
「「「はい、ジーアをよろしくお願いしますっ!」」」
――――――――
シュタタタタタ――――
「うひゃ~っ! 揺れるし、もの凄く早いでしゅ~っ!」
走り出して早々、ジーアが腕の中で騒ぎ始める。
なので大人しくさせるために忠告することにする。
「そろそろ黙った方がいいよ? また森の中に入るし、かなりスピードも出すから、そのまま口開けてると舌噛み切るよ?」
「…………」
『ん、澄香、なんだか楽しそう?』
『ケロロ~』
こうして、予想外ではあるが、クロの村一番の実力者であるジーアを連れて、4人でアシの森の頂上を目指すこととなった。
距離にして約500メートル。
鬱蒼と生い茂る草木や、足場の悪い坂道でも、私なら数分で着くはずだ。
『さて、一体何がいるんだろうね、あのてっぺんには。ジーアもだけど、私も戦ってないから、なんだかちょっとムズムズするよ』
少しだけ高揚感を感じながら、頂上を見上げて速度を上げていく。
こんな時に不謹慎とは思うけど、みんなの頑張りを見たせいで、心が逸る。
その先に待ち受けるのは、あの人型か、ジェムの魔物か、それとも――――
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