剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

レッツ育成!

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「さっきみたいにバラバラにならないでっ! どうせ魔物はこっちを狙って来るんだから、中央に集まって、順番に魔法を放てばいいよっ!」

「「「お、おうっ!」」」

「それと、相手は蝶の魔物なんだから、きっと炎が弱点だよっ! 当たらなくても羽根にさえ掠れば、軌道力を半減に出来るよっ!」

「「「は、はいっ!」」」

「あと、魔物の攻撃の範囲を絞りたいから、前面には土魔法でバリケードを作って、空に誘導してっ! そうすれば上からの攻撃に注意するだけになるからねっ!」

「「「わ、わかりましたっ!」」」


 私の出した指示に、何の疑念もなく、懸命に動いてくれるみんな。
 見通しの良くなった森の中央に集まり、各々が得意な魔法を撃ち込んでいく。 

 その効果は絶大で、徐々に数を減らしていき、既に半数ほどになった。

 それでも残りは40以上。

 魔物の数が減れば減るほど、魔法を当てにくくなる。
 今までは、押し寄せる魔物の群れに、がむしゃらに撃ち込んでただけだから。

 だからこそ、ここからが正念場になる。

 数が減ればそれだけ奴らの移動範囲が広がるからだ。
 そうなると必然的に、あの厄介な『軌道力』が猛威を振るう事となる。


「ん、澄香」

「あっ! 水魔法は蝶の特性上弾かれるから、あんまり多用しないで牽制に使ってっ! あと一気に撃つんじゃなく、時間差で撃って、相手の動きを誘導してっ!」

「んっ! 澄香っ!」

「なに? 今忙しいんだけど」

 後ろからマヤメに呼ばれるが、首だけ動かして返答する。
   
 これからがある意味本番なのだ。
 なので、おしゃべりをしてる暇なんてない。


「んっ! なんでマヤだけ戦う」
「なんでって、マヤメの戦い方を見本にして欲しいからだよ?」

 どこか不満げな表情のマヤメにはそう返答する。

 因みに私とジーアは透明壁の中に引きこもり、戦場を俯瞰で見ている。

 その中で私は指揮を取り、危なくなったらスキルで援護できるように、かなり神経を集中させている。

 ここまで連れてきた責任もあるし、みんなの実力も知りたかったから。

 そして、村一番の実力者のジーアには、私の指揮や、みんなの動き、それとマヤメの戦い方を見て欲しく、戦闘には参加させず、私の隣にいてもらっている。 
  
 その理由は簡単だ。

 ジーアには、もっと広い視野と、状況や仲間に合わせた戦略や戦術を。
 村のみんなには、ジーア無しでも戦える自信を持って欲しくて、このような配置にした。


 
「ん? 見本? マヤが?」

 スパンッ

「そう。接近戦と回避に特化したマヤメなら、こんな魔物ぐらい簡単に倒せるでしょう? しかも無傷で」

「ん、そんな簡単じゃない。動きが変で難しい」  
 
 そう言いながらも、マフラーで相手の動きを誘導し、そこへ更にナイフを投擲し、それを避けたところに、黒塗りのナイフの一突きで絶命させている。

 確かに簡単ではない。
 たった一体を倒すのに、3度の動作を行っていた。 

 この蝶の魔物の厄介なところが、正にそこだった。

 飛び込んできた瞬間を狙えば、普通の魔物には絶好のカウンターになるが、この蝶の魔物は、直前で急停止したり、直角や垂直に急回避し、こちらに向けて急接近してくる。

 まるで某レトロゲームの『蛾』が攻めて来る、あの敵の動きそのままだ。
 こっちのカウンターが、そのまま相手のカウンターになってしまう。

 それはマヤメも承知済み。
 だから攻撃を空打ちして、相手の動きを誘導して倒しているのだ。
 
 そんな訳で、マヤメだけは単独で戦ってもらっていた。
 少しでもみんなの参考になればと、私なりに考えての事だった。


「ん、だったら澄香が見本になる。マヤだけズルい」

 理由を説明したのに、まだ納得しないマヤメ。
 口をへの字に曲げて、ジト目で不満をアピールしてくる。

 まぁ、ジト目はいつもだけど。


「私が見本ねえ?…… ならちょっと見てて」 

 『通過』を使って、透明壁スキルから外に出る。
 するとすぐさま蝶の魔物が襲ってきた。


「よっ!」

 ガシッ

「んっ!?」
「へっ?」 

「これでお終い」

 ドガンッ!

『ぐgyつッ!』

 顔面を掴まれたまま、地面に叩きつけられた魔物は、そのまま破裂するようにバラバラに砕け散り、一瞬にして絶命した。  

「んんっ!」
「あわわ……」

 その様子を見ていた二人が、矢継ぎ早に質問してくる。

「んっ! どうして一度で捕まえた。マヤはもっとかかる」
「ス、スミカしゃんっ! 一体どうやったですかっ!」

「どうって、体が勝手に反応するんだよ。私の手を避けた瞬間に、それ以上の速さで掴んだだけ。簡単に言えば条件反射みたいなものかな?」

 これは『spinal reflex 改(脊髄反射)』の派生形で、相手が避けた方向に、反射的に体が反応するプレイヤースキルだ。

 ただそうは言っても、誰しもが日常的に行っている動きでもある。

 蚊やハエが視界に入ったら、咄嗟に叩き落とそうとするのと一緒。
 それの究極系だ。


「だから私がやっても見本にならないんだよ」

 戦場に視線を戻しながら、マヤメとジーアにはそう答える。 

「ん……」
「そ、そうでしゅね……」

「そんな訳で、マヤメは引き続き魔物退治をお願い。後でマロンケーキ(レーション)をご馳走するから」

「ん、わかった。それとイチゴ味の飲み物も所望する」

「了解。なら終わったらお茶にするよ。みんなの事もねぎらいたいからさ」

「ん、ならマヤも頑張る」

 グッと親指を立てて、足取り軽く、マヤメはまた戦場に戻っていった。
 
「よろしくね、マヤメ」

 私はその後ろを見送りながら、今言った言葉を心の中で反芻する。


かぁ…… 今までの流れだと、雑魚敵を一掃すると、最後に必ず出てきたんだよね? あの謎の腕輪を身に着けた、ジェムの魔物が』

 今のところ、このパターンが崩れた事はない。
 なら、今回も現れるとみて間違いないだろう。


『ただちょっと気になるのが、アイツら戦う度に強くなってんだよね。これも今まで通りだったら、かなり面倒かも。もしそうだったら、さすがにみんなには避難してもらった方がいいかな』

 そう。これも事実。
 現れるたびに飛躍的に強くなり、戦うたびにやりにくくなっている。

 直近では、ナルハ村に出現した、顔面が杭のジェムの魔物。
 
 この世界に来たばかりの私だったら、恐らく苦戦していただろう。
 敗北はないにしろ、全力を出さぜる状況まで追い詰められただろう。

 化け物級の強さだった、あのフーナとの戦いのように。


『まあ、そんな事態になっても、最後に立ってるのは私なんだけどね。相手が強くなるなら、それ以上に強くなるだけだから、そこまで心配しなくていいかな? それに今はこの世界に来た、あの時の私とは違って――――』


「スミカお姉さん、どうしたんでしゅか?」
「え、あ、なに?」

 唐突に、ジーアに声を掛けられて、我に返る。

「なんか、マヤメさんを見て笑ってましたですよ?」
「私が笑ってた? こんな時なのに?」
「はいでしゅ。ちょっとだけ笑顔になってたです」

 不思議そうに私とマヤメを交互に眺めるジーア。

「ああ、だったら何も心配してないよ」
「へ? 心配?」
「うん、ここでは一人じゃないからね」
「??」
「まぁ、元々ジーアには関係ないから、気にしないでいいよ」
「???」

 ジーアは私の返事を聞いて、更に困惑した表情になる。  
 まるでたくさんの疑問符が、頭の上に見えるようだ。

 
『そう。今はゲームの世界と違って、この世界では私もんだよね。だからそこまで身構える必要なんてないし、どんな敵が来ても心強いよ。今は私もひとりじゃないからね』 

 影と影の間を自在に移動しながら、確実に数を減らしていく影の少女。
 そんな後ろ姿を見て、頼もしいと思ったが、その当の本人は、


 スパンッ

「ん、ご褒美はマロンとイチゴ♪ それと――――」

 何かをブツブツと呟きながら、どこか上機嫌で魔物を倒していくマヤメ。
 その戦いぶりを見ると、なんの不安も懸念もないが、


『あ――』

 ただアイテムボックス内の、スイーツの在庫だけが心配だった。

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