剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

領主の教えと理不尽な蝶の英雄

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「あ、あのさ、なんで私じゃなくマヤメなの? 普通、ナジメをボコした私に挑んでこない? マヤメはその時の話をしてくれただけだよ? ちょっと言い方はあれだったけど」

 何故かナジメの件とは無関係の、マヤメに勝負を挑んだジーア。
 その真意を知りたく、ジーアの前に立って聞いてみる。


「ひ、ひぃっ! だ、だって、スミカしゃんは、クロ様を一方的にいじめて、泣いて謝っているクロ様を、更に痛めつけたんですよねっ! そんな人相手にわたしが敵うはずないじゃないですかぁっ!」

「いや、それちょっと盛り過ぎ?………… でもないか?」

 あの時の戦いを思い出し、否定したかったけど、無理だった。

「ほらっ! だからわたしが逆立ちしたって、勝てるわけないですよっ! きっとクロ様以上に酷いことをされりゅんですよっ!」

「ちょ、酷い事って、勝手に決めつけないでよっ! わたしはそんな極悪非道な人間じゃないよっ! 相手との実力差を考えて、さり気なく手を抜く聖母のような人格者だよっ!」  

 自分で言っておいてなんだけど、真剣と本気の違いぐらいわかる。
 やる気を認めて真剣にはやるけど、子供相手に本気を出すことはない。

 本気を出す=命の取り合い、になるからね。
 魔物やフーナぐらいの強さならともかく、子供相手に本気を出すことはない。
 それぐらいはわきまえてるつもりだ。


「ん? 澄香は極悪。あの時、双子姉妹をみんなの前でひん剥いた」

「ひ、ひぃ~っ! ひん剥かれる~っ!」

「マヤメは黙っててっ!」

 無表情で余計な茶々を入れてきた、マヤメを一喝する。
 お陰でジーアが更に騒ぎ出したし。


「「「………………」」」

 そして、そんな私をマジマジと見つめる村人たち。
 コソコソと何かを話しては、視線が合うと、スっと逸らされる。


「あ、あのですね、これはクロ様の教えなんですよ」
「教え? ナジメの? どういう事?」 

 若干、正気に戻ったジーアが、また不思議な事を言う。


「は、はいっ! 自分より圧倒的な強者には、絶対に立ち向かうなって教えでしゅっ! 弱者には己の実力を大仰に示し、対等の者なら、盛大に見栄を張れ。そんな教えですぅっ!」

「はあ? あ、れ? でも……」 

 意外と的を射ている?

 確かに、圧倒的な差がある相手に立ち向かうのは、勇敢ではなく無謀。
 今はまだでも、いつかは勝てる日が来るかもだからね。

 それで次の、弱者には実力を大仰に示すってのは、圧勝するみたいなこと。
 要は、二度と立ち向かってこれないような、差を見せつけるって事?

 最後の、対等な者なら見栄を張れってのは、心理的に優位に立つこと。
 実力に差がないのであれば、精神的に上回ればいいって事。

 だからナジメの教えは、あながち間違ってないし、寧ろ正しい。 
 生存率を上げるって意味では、理にかなった考え方だ。 

 もちろん私もそっち、の考え方なんだけど……


「そんなの口に出した時点で、効力無くなるじゃん」
「ふぇっ!?」
「それともっと大事なことあるでしょ?」
「だ、大事なこと?」
「気持ちっていうか、勝てない相手に立ち向かう気概って言うか、覚悟みたいなもの」
「か、かくご……」

 オドオドした様子で、私を見上げるジーア。

「そう。その教えだと、最初から気持ちで負けてるじゃない。勝とうっていう意思がなければ、いつまでたっても成長できないし、自分の限界を自分で決めてるみたいなものだし」

 ナジメの教えは間違ってはいない。
 ただ、正しくもない。

 恐らくナジメは、同じ境遇を持つ、ここの村人たちが大切なのだろう。
 冒険者から畑違いの領主になったのも、それが最たる理由だ。
 
 簡潔に言うと過保護すぎる。
 いつまでも与えられた箱庭の中にいる以上は、今以上の成長は望めない。


『まぁ、過保護って言うと、私にも耳が痛い話ではあるんだけど…… でも最近はユーアに色々と任せてるもんね。だからか、最初に会った印象は薄れてきてるし、それに逞しくもなってきたからね』

 劇的に変わった訳ではないが、ユーアは確実に成長している。
 実力的な意味でも、精神的な意味でも、出会った頃より強くなっている。

 【獅子は我が子を千尋の谷に落とす】って、有名なことわざ程ではないけど、それなりの場面を与えて、それを乗り越え、着々と成長している。

 そんなユーアの強さには、私だけではなく、シスターズのみんなも認めている。


「まぁ、そんな訳で、これからジーアは、私たちと魔物退治に行こうか。マヤメはここの人たちに場所聞いたんでしょ?」

 ジーアの前に歩み寄り、マヤメには行き先を確認する。 

「ふえっ!? ま、魔物退治? そんな訳って、どんな訳ですかぁっ!?」
「ん、ここから南南西の『アシの森』ってとこにいる」
「さすがマヤメ、抜かりないね。なら早速行こうか?」
 
 グイッ

「ひゃっ!?」
「ん、マヤは澄香の言う通りにする」

 ジーアの手を取りながら、マヤメには親指をグッと立てる。

「わ、わたしの意思は何処にっ! みんなたじゅけで~っ!」

 私に手を引かれて、逃げ出そうと、ジーアがジタバタと暴れ出す。
 涙を浮かべながら、必死に村人たちに助けを求める。
 
 これには、ここまで大人しく聞いていた村人たちも血相を変える。

「ジ、ジーアをどうするつもりだっ! なぜこちらから危険なところにっ!」
「そ、そうよっ! ジーアはこんなに嫌がってるじゃないっ!」
「無理矢理に連れて行くなんて、理不尽だっ! ジーアの意思を尊重しろっ!」
「「そうだっ! そうだっ!」」

 村人たちは私たちを囲み、口々に怒号を浴びせる。 
 そのどれもがジーアを心配する言葉で、本当に大事にされてるんだとわかる。

 それと、この幼い少女一人に、かなり依存しているって事も。


「ジーアの意思? そんなのあるわけないじゃん。ジーアもそうだけど、あなたたちも白旗上げたんだよ? 戦う前から教えを守って負けを認めたんだよ? そんな人たちに意思なんてあると思ってるの?」

「くっ! そ、それは…………」
「「………………」」

「私は勝った。だから私の好きなようにする。それが勝者の特権でしょ? 今までは弱い魔物ばかりと戦ってきてたみたいだけど、今後もそうだとは限らないから。それと私が魔物だったら、こんなもんじゃ済まなかったよ。それはあなたたちもわかっているでしょ?」

「だ、だけど――――」
「「………………」」

 私がそう言い放つと、目を逸らし、口ごもる村人たち。
 何かを言いたそうだが、今の話で薄々と感じ始めたのだろう。

 教えを守るだけでは、未来を守れないって。

 理不尽な事を言っているのは自覚している。  
 今まで通りの世界だったら、口を挟むこともなかった。 

 ただ現在この世界は、未知なる脅威に晒され始めている。
 各地に現れる強力なジェムの魔物と、それを操るエニグマの手によって。

 だから理不尽でも不条理でも、私は行動に移す。

「あ、それと言い忘れたけど……」

 ここまでして、ナジメが守りたいもの、だってそれは――――


「何もジーアだけ連れてく訳じゃないよ? あなたたちも連れて行くから。だから戦える人を全員ここに集めて」 

「「「な、なんだって――――――っ!!!」」」

 魔物の巣窟への突撃宣言を聞いて、一斉に叫びだすみんな。
 ワナワナと震えながら、怯えた目でこっちを見ている。


『だって、ナジメが守りたいものは私も守りたいからね。これも長女としての務めだよ』

 こうして、総勢30人弱の人数で、魔物が潜んでいるであろうアシの森に、強襲をかける事となった。
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