518 / 581
第13蝶 影の少女の解放と創造主
領主の教えと理不尽な蝶の英雄
しおりを挟む「あ、あのさ、なんで私じゃなくマヤメなの? 普通、ナジメをボコした私に挑んでこない? マヤメはその時の話をしてくれただけだよ? ちょっと言い方はあれだったけど」
何故かナジメの件とは無関係の、マヤメに勝負を挑んだジーア。
その真意を知りたく、ジーアの前に立って聞いてみる。
「ひ、ひぃっ! だ、だって、スミカしゃんは、クロ様を一方的にいじめて、泣いて謝っているクロ様を、更に痛めつけたんですよねっ! そんな人相手にわたしが敵うはずないじゃないですかぁっ!」
「いや、それちょっと盛り過ぎ?………… でもないか?」
あの時の戦いを思い出し、否定したかったけど、無理だった。
「ほらっ! だからわたしが逆立ちしたって、勝てるわけないですよっ! きっとクロ様以上に酷いことをされりゅんですよっ!」
「ちょ、酷い事って、勝手に決めつけないでよっ! わたしはそんな極悪非道な人間じゃないよっ! 相手との実力差を考えて、さり気なく手を抜く聖母のような人格者だよっ!」
自分で言っておいてなんだけど、真剣と本気の違いぐらいわかる。
やる気を認めて真剣にはやるけど、子供相手に本気を出すことはない。
本気を出す=命の取り合い、になるからね。
魔物やフーナぐらいの強さならともかく、子供相手に本気を出すことはない。
それぐらいはわきまえてるつもりだ。
「ん? 澄香は極悪。あの時、双子姉妹をみんなの前でひん剥いた」
「ひ、ひぃ~っ! ひん剥かれる~っ!」
「マヤメは黙っててっ!」
無表情で余計な茶々を入れてきた、マヤメを一喝する。
お陰でジーアが更に騒ぎ出したし。
「「「………………」」」
そして、そんな私をマジマジと見つめる村人たち。
コソコソと何かを話しては、視線が合うと、スっと逸らされる。
「あ、あのですね、これはクロ様の教えなんですよ」
「教え? ナジメの? どういう事?」
若干、正気に戻ったジーアが、また不思議な事を言う。
「は、はいっ! 自分より圧倒的な強者には、絶対に立ち向かうなって教えでしゅっ! 弱者には己の実力を大仰に示し、対等の者なら、盛大に見栄を張れ。そんな教えですぅっ!」
「はあ? あ、れ? でも……」
意外と的を射ている?
確かに、圧倒的な差がある相手に立ち向かうのは、勇敢ではなく無謀。
今はまだでも、いつかは勝てる日が来るかもだからね。
それで次の、弱者には実力を大仰に示すってのは、圧勝するみたいなこと。
要は、二度と立ち向かってこれないような、差を見せつけるって事?
最後の、対等な者なら見栄を張れってのは、心理的に優位に立つこと。
実力に差がないのであれば、精神的に上回ればいいって事。
だからナジメの教えは、あながち間違ってないし、寧ろ正しい。
生存率を上げるって意味では、理にかなった考え方だ。
もちろん私もそっち寄り、の考え方なんだけど……
「そんなの口に出した時点で、効力無くなるじゃん」
「ふぇっ!?」
「それともっと大事なことあるでしょ?」
「だ、大事なこと?」
「気持ちっていうか、勝てない相手に立ち向かう気概って言うか、覚悟みたいなもの」
「か、かくご……」
オドオドした様子で、私を見上げるジーア。
「そう。その教えだと、最初から気持ちで負けてるじゃない。勝とうっていう意思がなければ、いつまでたっても成長できないし、自分の限界を自分で決めてるみたいなものだし」
ナジメの教えは間違ってはいない。
ただ、正しくもない。
恐らくナジメは、同じ境遇を持つ、ここの村人たちが大切なのだろう。
冒険者から畑違いの領主になったのも、それが最たる理由だ。
簡潔に言うと過保護すぎる。
いつまでも与えられた箱庭の中にいる以上は、今以上の成長は望めない。
『まぁ、過保護って言うと、私にも耳が痛い話ではあるんだけど…… でも最近はユーアに色々と任せてるもんね。だからか、最初に会った印象は薄れてきてるし、それに逞しくもなってきたからね』
劇的に変わった訳ではないが、ユーアは確実に成長している。
実力的な意味でも、精神的な意味でも、出会った頃より強くなっている。
【獅子は我が子を千尋の谷に落とす】って、有名なことわざ程ではないけど、それなりの場面を与えて、それを乗り越え、着々と成長している。
そんなユーアの強さには、私だけではなく、シスターズのみんなも認めている。
「まぁ、そんな訳で、これからジーアは、私たちと魔物退治に行こうか。マヤメはここの人たちに場所聞いたんでしょ?」
ジーアの前に歩み寄り、マヤメには行き先を確認する。
「ふえっ!? ま、魔物退治? そんな訳って、どんな訳ですかぁっ!?」
「ん、ここから南南西の『アシの森』ってとこにいる」
「さすがマヤメ、抜かりないね。なら早速行こうか?」
グイッ
「ひゃっ!?」
「ん、マヤは澄香の言う通りにする」
ジーアの手を取りながら、マヤメには親指をグッと立てる。
「わ、わたしの意思は何処にっ! みんなたじゅけで~っ!」
私に手を引かれて、逃げ出そうと、ジーアがジタバタと暴れ出す。
涙を浮かべながら、必死に村人たちに助けを求める。
これには、ここまで大人しく聞いていた村人たちも血相を変える。
「ジ、ジーアをどうするつもりだっ! なぜこちらから危険なところにっ!」
「そ、そうよっ! ジーアはこんなに嫌がってるじゃないっ!」
「無理矢理に連れて行くなんて、理不尽だっ! ジーアの意思を尊重しろっ!」
「「そうだっ! そうだっ!」」
村人たちは私たちを囲み、口々に怒号を浴びせる。
そのどれもがジーアを心配する言葉で、本当に大事にされてるんだとわかる。
それと、この幼い少女一人に、かなり依存しているって事も。
「ジーアの意思? そんなのあるわけないじゃん。ジーアもそうだけど、あなたたちも白旗上げたんだよ? 戦う前から教えを守って負けを認めたんだよ? そんな人たちに意思なんてあると思ってるの?」
「くっ! そ、それは…………」
「「………………」」
「私は勝った。だから私の好きなようにする。それが勝者の特権でしょ? 今までは弱い魔物ばかりと戦ってきてたみたいだけど、今後もそうだとは限らないから。それと私が魔物だったら、こんなもんじゃ済まなかったよ。それはあなたたちもわかっているでしょ?」
「だ、だけど――――」
「「………………」」
私がそう言い放つと、目を逸らし、口ごもる村人たち。
何かを言いたそうだが、今の話で薄々と感じ始めたのだろう。
教えを守るだけでは、未来を守れないって。
理不尽な事を言っているのは自覚している。
今まで通りの世界だったら、口を挟むこともなかった。
ただ現在この世界は、未知なる脅威に晒され始めている。
各地に現れる強力なジェムの魔物と、それを操るエニグマの手によって。
だから理不尽でも不条理でも、私は行動に移す。
「あ、それと言い忘れたけど……」
ここまでして、ナジメが守りたいもの、だってそれは――――
「何もジーアだけ連れてく訳じゃないよ? あなたたちも連れて行くから。だから戦える人を全員ここに集めて」
「「「な、なんだって――――――っ!!!」」」
魔物の巣窟への突撃宣言を聞いて、一斉に叫びだすみんな。
ワナワナと震えながら、怯えた目でこっちを見ている。
『だって、ナジメが守りたいものは私も守りたいからね。これも長女としての務めだよ』
こうして、総勢30人弱の人数で、魔物が潜んでいるであろうアシの森に、強襲をかける事となった。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる