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第13蝶 影の少女の解放と創造主
予想外!?
しおりを挟む「あ、スミカさんはコムケの街が拠点なんですねっ!」
「うん、そうだよ。そこで初めて冒険者になったんだ」
目をキラキラさせながら、冒険者証と私を交互に眺めるジーア。
ついさっきまでキョドっていたのに、今は見た目通りの快活な少女に見える。
ただ緊張なのか、舌足らずなのか、興奮するとたまに発音が悪いけど。
「偶然でしゅねっ! わたしの尊敬する人が、そこの領主さまなんですよっ!」
「え? コムケの街の? って事は…………」
やっぱりそうだ。
どこかで聞いた事ある話だったし、この少女の魔法も誰かに似ていた。
私を攻撃してきた、鉄球のような土魔法や、岩でできた大蛇。
これは、とある人物の土魔法、『土合戦』と『土龍(ベティ)』と似たようなもの。
規模と威力はかなり見劣りするが、それでもかなり酷似していた。
それと、その領主と、ジーアの関連性を決定づける、要素がもう一つ。
それは――――
「もしかしてスミカさんは、領主さまとお会いしたことがあるんですか?」
「まあね。コムケの街に視察に来た時に、偶然ね? でさ、話は変わるけど、その服ってどうしたの?」
「あ、これはですね、領主さまにいただいたんですよっ! わたしの宝物でしゅっ!」
パッと花が咲いたような笑顔になり、自分の着ている衣装を見下ろす。
胸のリボンや襟を正し、とても嬉しそうに答える。
ジーアとコムケの領主を繋げる、もう一つの要素。
それは、この岩蛇の少女が着ている『制服』だった。
この世界では絶対に存在しない、洗練された、斬新なデザイン。
そもそも夏服の『セーラー服』なんて、違和感があり過ぎる。
ジーアは見た目、C学生くらいの少女で、体型はスレンダー。
黒髪のポニーテールと大きな瞳が印象的で、とても制服が似合っていた。
結論から言うと、ここはナジメが治める、もう一つの領地の『クロの村』
ナジメのような、過去に迫害された者たちが集まる、異種族たちの園。
やたら田畑が広いのも、石の建造物が多いのも、それで説明がつく。
あの幼女は、大陸一の土魔法使いで、二つ名が『鉄壁の開墾幼女』だからね。
『まさか、こんなところにあるとは知らなかったよ。そもそもナジメにも聞いたことないしね。なら帰ったら村の様子を教えてあげるかな? きっと最近来てないだろうし』
あのスク水幼女の笑顔を思い浮かべ、帰る楽しみが増えたと嬉しくなる。
いい土産話が出来たなと、自然と頬が緩むのを感じる。
だけど、そんな空気を一変させる、ある真実が知られることとなった。
「ん、澄香、まだここにいた」
「あ、マヤメ?」
治療を任せたはずのマヤメが、数名の村人と一緒に戻ってきた。
その姿を見ると、どうやら無事にみんなを回復できたようだ。
「ん、マヤはここが何処か分かった」
「ああ、私もさっき気が付いたよ。ここは『クロの村』でしょ?」
ここにいる村人たちと、ジーア、そして村の中を見渡しながら答える。
そんなマヤメはきっと、回復した村人から情報収集したのだろう。
「ん、そう。ここはナジメが澄香に負けるずっと前に、ナジメが造った村」
「えっ!? クロ様が負けっ!?」
「「「はっ!?」」」
「ちょっと、なんでそんな言い方するの、マヤメっ!」
「ん? だってナジメも凄いけど、澄香も凄いから。それに事実」
「え、あ、まあ、確かにそうだけど……」
小声で答えながら、チラと村人たちを盗み見る。
マヤメに悪気はないとしても、一気に剣呑な空気に変わったから。
そんな村人たちの中でも、特に、ナジメ信者であろうジーアが、ね。
「あ、あにょっ! もう一人の蝶のお姉さんっ!」
「ん? マヤの事」
「今の話は本当ですかっ! ク、クロ様が、負けたって……」
「ん? クロ様? ナジメじゃない?」
知らない情報に困惑するマヤメ。
ジーアの顔を無表情で見つめる。
「いいえ、それで合ってましゅっ! ナジメ様はここでは『クロ』と名乗ってましゅっ! 行方不明のナジメ様のお姉さん、クロ様の意思を継いだので、クロと名乗ってるんですっ!」
「ん、知らなかった。それは初耳」
コクンと頷き返答する。
「そ、それでマヤさん、さっきの話は……」
「ん? マヤ違う。私はマヤメ」
「マ、マヤメさんっ! さっきの、クロ様が負けたって本当ですかっ?」
血相を変え、早足でマヤメの元に駆け寄るジーア。
「ん、本当。澄香にお尻叩かれて、ナジメは泣きながら降参した」
「ク、クロ様が、しょんな……」
「ん、しかも澄香は無傷だった」
「うえっ!? しかも無傷でしゅかっ!」
「ん、ナジメの小さな守護者の能力も通じず、ボコボコにされた」
「えっ!? あ、あのクロ様の代名詞の鉄壁を破ったんですかっ! はわわ~」
「ん、それで最後は壁に挟まれて、お尻叩かれて負け宣言した。ふふ」
「う、う、う~、あ、あの、クロ様が、そんな一方的に……」
「んふふ」
『…………う~ん』
マヤメの話を聞きにつれ、わかりやすいほど落ち込んでいくジーア。
最後は地面を見つめて、何やらブツブツと呟いている。
それとは対照的に、薄っすらと笑みを浮かべるのはマヤメ。
腕を組み胸を逸らし、何処か誇らしげに見える。
てか、なんでそんなにマヤメは得意気なの?
私としては、伝える必要のない情報を暴露されて、気が気じゃないんだけど。
ガバッ!
「あ、あのぉっ!」
突如、意を決したように、勢いよく顔を上げるジーア。
その瞳は何かを決意したように、強い光を放っていた。
『ほら、この流れって、絶対勝負とか言われる流れだよ。尊敬するナジメが情けない負け方したら、その仇を討ちたいって、普通は思うはずだもん…… はぁ』
この展開は誰もが予想できた。
その証拠に、村人たちもジーアに熱い視線を送っている。
恐らくここにいる全員が同じ想いなのだろう。
自分らを救済してくれた、ナジメの為にも一矢報いたいと。
なんて、予想してたんだけど、
「わ、わたしと勝負しましょうっ!」
「………………」
「ん? 勝負?」
ただ次の一言で全てを覆された。
ってか、そんなの誰も予想できないって。
なにせその視線は、事の元凶の私ではなく、
「マ、マヤメしゃんっ!」
「はっ! な、なんでっ!?」
「ん? マヤ?」
なんとジーアは私ではなく、隣のマヤメを指名してきたからだ。
予想外どころの話ではなかった。
あまりにも斜め上過ぎて、こっちが逆に困惑する。
だが、そんなジーアの奇行を、何故か無言で見守っている村人たち。
その様子を見ると、奇行ではなく、英断に見えてくるから不思議だ。
『はぁ、結局面倒ごとになるのは当たってるんだけど、それにしても……』
この村を収める領主も変わり者だが、そこに住む人々も負けず劣らずだった。
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