剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

おかしな村と変な村人

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「よっ!」

 ギュム、ギュン――――

 『Gホッパー』に変化させた透明壁スキルを蹴って、一気に速度を上げる。
 反発力を最大にしているだけあって、初速は軽く弾丸の速度を超えている。

 急ぐ理由と目的地は、この先10キロほどにある村だ。
 マヤメの話によると、空を飛ぶ魔物(約50体)に襲われているらしいから。


「お?」

 宙を移動して数分、瞬く間に流れゆく景色の中、眼下にそれらしい人工物のような、建物が見えてきたが、
  
「あれ本当に村なの? なんだかやけに気合入ってない? コムケの街よりも防衛力が高そうなんだけど」

『ん?』

 数百メートル先に見えたのは、やたら高い外壁に囲まれた大きな村だった。

 外壁の中には、確かに建造物が点在しているが、全体の面積に対して家らしいものが少ない。っというか、居住区の敷地面積に対して、やたら田畑が広すぎるのだ。

 それよりも目を引いたのは、全てが石造りの頑丈そうな建屋もそうだが、見張り台だと思われる巨大な塔らしきものが、10棟以上も建っている事だった。

 一見、空から見れば、農業が盛んな村にも見える。

 けど、高い外壁と物々しい数の見張り台のせいで、どこかちぐはぐな印象を受ける。 


「なんだか魔物がいないんだけど…… 間に合わなかったの?」

 透明壁スキルの上に留まり、空から見渡すが、肝心の魔物の姿が見えない。
 それどころか、襲撃を受けた村人の姿も見当たらない。

  
「もしか、して…………」

 不吉な単語が頭をよぎる。
 魔物が去った=全滅、と言う、絶望を意味する二文字が。

 
「ん、澄香。気配ある」

 蝶のリュックを背負ったマヤメが、影の中から飛び出し隣に並ぶ。

「気配? ちょっと待って………… あれ?」

 この距離で感知するマヤメに感心しながら、索敵モードに切り替える。
 村の全域は見えないが、あちこちにマーカーが残っている。

 殆ど動きがない事から、どうやら建物の中に身を潜めているらしい。
 姿は見えないが、きっと逃げ延びた村人たちだろう。


「良かったぁ。隠れて生き残った人たちもいるみたいだね。なら治療を――――」
「んっ! 澄香、上っ!」
「上っ?」

 警告を知らせるマヤメの声で、頭上を仰ぎ見る。
 
「えっ!?」

 すると、宙に浮く私たちの更に上から、無数の炎の玉が降り注いでくる。
 列をなしてこっちに向かって来ることから、恐らく魔法の類だと思われるが、


「はっ!? なんで? もしかして魔物が隠れてたのっ!?」
「んっ! わからない。でも殺気を感じる」
「殺気って事は…… 人? って、今度は下から来るんだけどっ!」

 眼下に目を向けると、これまた無数の岩がこちらに向かって飛んでくる。
 理由はわからないが、これで私たちを狙っているのは明らかになった。


「んっ! ならマヤは下に降りる。澄香は火を消して、じゃないと―――」
「わかってる。建物はともかく、農作物が燃えちゃうからね。気を付けて」
「ん」

 タンッ

 テンタクルSマフラーを広げて、マヤメは地面に降下していく。
 飛来してくる無数の岩を、グラインダーのように旋回し、躱していく。

 
「随分と器用だね。よし、ならこっちはあの火の魔法を何とかしないと。よっと」
 
 マヤメを見送った後で、頭上の魔法に視線を向ける。
 幸い、私たちを狙って攻撃をしてきた事から、範囲はそこまで広くない。 
 なので最大面積で頭上にスキルを展開し、相殺することにした。

 
 ボッ、シュシュシュシュ――――――
 シュシュシュシュ――――――
 シュシュシュシュ――――――


 展開したスキルに、次々と炎がぶつかり、盛大に火の粉をまき散らす。
 数は多いが威力は大したことなく、何の負荷も感じず、その全てを防ぐ。

 
「で、次は岩だけど、あっちに飛ばしちゃえばいいかな?」

 地上から撃ってきたであろう無数の岩は、『Gホッパー』に変化させたスキルを設置し、比較的安全なところに飛ばすことにした。


 ギュム、キュ ――――――ンッ!

 ズドンッ! バキバキバキバキ――――ッ!


「うわっ! 反発力を最大にしたままだったっ!」

 跳ね返したはいいが、村の外れにある林をハチの巣にしてしまった。
 10倍以上の速度で、全てを跳ね返したのが原因だった。
 

「…………よ、よし、林が無くなって、更地になっちゃったけど、幸い誰もいなくて良かったよ。そ、それよりも桃ちゃんは熱くなかった?」

『ケロ?』

 ふと思い出し、フードの中の桃ちゃんに声を掛ける。
 確実に無事だと分かってはいるが、それでも念のため。

 決して目の前の惨劇から、目を逸らしたい訳ではない。


『ケロロ~』
「うんうん、大丈夫だね。なら次はマヤメの助っ人に行こうか」

 無事を知らせる可愛い鳴き声を聞き、一先ず安心したのも束の間、

『ケロッ!? ケロロッ!』
「ん、どうしたの? げげっ!」

 気が付けば、今度は無数の鉄球のようなものに囲まれていた。
 拳ほどの大きさしかないが、その数は3桁を超えていた。
      

「はあっ? さっきの炎と岩もそうだけど、本当にいつ仕掛けてるのっ!?」

 突然出現した、おびただしい数の魔法を前に唖然とする。
 これほどの数と規模なら、普通は何かしらの気配を感じるはず。

 だと言うのに、気が付けば目前にまで迫ってきていた。


 ヒュヒュン――――――
 ガン、ガガガガガガガガ――――――ンッ!


「もしかして、魔法で魔法を隠せるそんな便利な魔法があるの?」  

 早口言葉のような事を愚痴りながら、一気に攻撃してきた鉄球を弾いていく。 
 トンファー形態にスキルを変化させ、回転しながら全てを撃ち落とす。


「ラスト」

 ガンッ!

「ったく、これ魔物の仕業じゃないじゃん? なんで村人が攻撃してくるの?」
「あひゃっ!?」

 びゅんっ!

「あ、待って」

 最後の一つを打ち落とした後で、見張り台に見えた人影を睨む。
 だけど、私と目が合った瞬間に、脱兎のごとく中に隠れてしまった。

 トン

「はぁ~、無事を確認できたのは良かったけど、なんでこう敵意を向けて来るかな? 私たちを何かと勘違いしてない?」

 さっきの人影を追って、見張り台の付近まで近づくと、そこかしこから無数の殺気を感じる。
 家の中や建物の物陰、他の見張り台からも強い視線を感じる。

 すると、


((ジーアッ!))

「ひゃいっ!」

 周囲に響き渡った声で、見張り台からさっきの人影が姿を現す。

 ギュルンッ

「てっ! 今度はなにっ!?」

 その途端に、私の体に何かが巻き付いていた。
 よく見ると植物の蔦のようなもので、いつの間にか上半身を拘束されていた。


「ま、また気付けなかった…… 一体どうやって?」

 幾度も繰り返す、摩訶不思議な現象に困惑する。
 気が付いてからでは遅い、多彩で特異な攻撃に。


「ジーア、今よっ!」
「は、はひぃ~っ!」

「なっ!?」

 更に、誰かの号令と共に、今度は私の目の前に巨大な何かが出現した。
 その何かを例えるならば『大蛇』のようなもの。
 恐らく岩石か何かで出来たもので、体長は私の10倍以上だった。
 

「え? これって――――」

 その巨大な岩の大蛇が、私を丸呑みしようと、ガバと凶悪なアギトアゴを開ける。
 無数に突き出た鋭利な牙と、底の見えない暗闇が、身動きの取れない私に迫る。


『これって、どこかで?……』

 見た記憶がある。
 正確には『蛇』ではなく、もっと巨大な『龍』だった気がするけど。

 
 ズバンッ!
 ズババババ――――――ンッ!

 私はスキルを操作し、岩の大蛇を一刀両断する。
 を再現するように、ギロチンに変化させ、更に細切れにしていく。


「よっ!」

 ズババババ――――――ンッ!

「あひゃ? あわわわわわ――――っ!!」
「「えっ!? えええええ――――――っ!!」」

「おまけで」

 ズババババ――――――ンッ! 

「ひ、ひえ――――っ! あばばばばっ!」
「「う、うわ――――――っ!!」」

 それを隠れて見ていた、村人たちが姿を現し、各々に悲鳴を上げる。
 見張り台の中や、物陰から顔を出し、目の前の光景に慄いていた。

 そして蛇だった物は、小石ほどの大きさになって、あちこちに飛び散っていた。


 スパンッ!

「ふぅ、これで全員出てきたのかな? なら説明をお願い」

「「………………ビクッ!」」

 拘束していた蔦をスキルで切断し、パタパタと羽根を動かしながら、村人たちを睨みつける。因みに羽根を動かしたのは、今まで縛られた事なんてないから、一応装備の確認も兼ねてって意味なんだけど、


「「「………………」」」

「あのさ、私の言った事聞いてる?」

 何故か揃って放心している村人たちに、再度話しかけるが、視線は私を見ているようで、どこか違うところを見ていた。それはまるで私の背後を見ているようだった。

 なので、


「………………」  

 パタパタ

「うひぃっ!?」
「「「ビクッ!」」」

「………………」

 無言で羽根を動かすと反応があった。
 中には咄嗟に身構える人もいたけど。

 そして、大蛇の魔法を放ったであろう少女は、膝をついて半泣きになってるけど。


『…………もしかして、昆虫が嫌いな種族なの?』

 まるで凶悪な害虫を見るような反応。

 農業が盛んだから、田畑が荒らされるとか思ってんの?
 誰が見たって、私はか弱くて可愛らしい可憐な蝶だよね?

 そうだよね?

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