剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

蝶になりたかった影の少女

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「あのさ、本当は全て解決してから話すつもりだったんだけど」
「ん?」


 だったらやる事は決まっている。
 私がやるべきことで、マヤメの為に出来る事は……


「マヤメもシスターズに入りなよ」
「ん」
「もちろん長女は私で、マヤメは一番下の妹って言う事で」


 孤独が辛いなら、家族になるだけだ。  
 その辛さを知っているこそ、解放された嬉しさも知っているから。

 
「全て解決しても、マヤメは独りでしょう? 私のところもみんな独りだったんだよね。ユーアにしても、ナジメにしても、ラブナにしても、ナゴタやゴナタにしても。それに、孤児院のみんなだって」

「ん、澄香?」

「だからマヤメが良かったら一緒に来ない? 住むところも用意してあげるし、なんならご飯だって一緒に食べられるし。それと私だけじゃなく、みんなも喜んでくれると思うんだ。だから」

 マヤメを抱きしめながら、耳元でそう告げた。
 きっとそれが最善で、最高だろうと願いも込めて。  


「ん、澄香ありがとう。マヤは――――」
「あ、返事は全部解決してからでいいよ。急いで結論出す必要ないから」

 体をそっと離し、マヤメを見つめてそう付け足す。
 今のは私の一方的な理由だし、マヤメにも色々と思うところがあるだろう。

 いきなり孤独から抜け出すのにも、勇気が必要になる。
 私は切っ掛けを与えただけで、後は本人の心の整理と時間が必要になる。

 だから焦る必要はないのだ。
 今のマヤメには以前のような、タイムリミットがないのだから。


「ん、違う。マヤはずっと思ってた」

 ポツリとマヤメが話し出す。

「うん。何を?」
「ん、マヤも蝶になりたいって」
「…………」
「蝶の仲間に入れたらいいなって、だから――――」

 私の手の平に遠慮気味に触れ、更にマヤメは話を続ける。

「だからマヤは、澄香のように蝶になって、みんなと飛びたかった」
「…………うん」
「澄香のように楽しい蝶になって、たくさん遊びたかった」
「…………」
「澄香のように優しい蝶になって、みんなに好かれたかった」
「…………」
「澄香のように強い蝶になって、マスターを救いたかった」
「…………」
「澄香のように、澄香のように、マヤは、だから――――」
「…………」

 たどたどしいながらも、そう話すマヤメの目は真剣だった。
 私はその話をただ黙って聞いていた。

『…………』

 きっとこれがマヤメの願い。
 ずっと叶えたかった未来の自分。
 何も知らない人からすれば、ささやかな願望。

 けど、そのどれもが一人では叶わない。
 だからこそマヤメは切望する。

 一人では叶えられないのなら、分かち合える仲間が欲しいと。
 

「ん、澄香ありがとう。マヤを誘ってくれて」
「うん、だったら――――」
「ん、でももう少し考える」
「うん…………」
「まだマヤには早いと思うから」
「…………そうだね、まだやる事が残ってるもんね」

 今のマヤメの最も優先すべき目的。
 それは、マヤメを生み出した、マスターを回収することだ。

 それが解決して初めて、マヤメは解放されるのだろう。
 そう言った制約を自身に科して、今まで堪えていたのだろう。


「ん、でも――――」
「なに?」
「ありがとう」
「それはさっき聞いたよ?」
「ん、でもマヤは嬉しかった。だから何回でも繰り返す」

 そう言ったマヤメの顔は、優しく微笑んだように見えた。
 まだぎこちない。けど、今までで一番人間らしい笑顔だった。
 

※※


 一夜明け、二日目の朝。
 窓から差し込む優しい光が、今日も晴天だと知らせる。


「ん~、良く寝たぁ~。地上に降りて正解だったね」

 大袈裟に伸びをして、ベッドから体を起こす。
 目覚めも良く、グッすりと眠れた。

 透明壁スキルでの移動中は、寝ることは出来ない。
 そもそも運転手が私だしね。
 
 それでも休憩なら可能なんだけど、どこか精神的には休めない。
 違和感と言うか、浮遊感を感じて、なんだか落ち着かない。


「まぁ、緊急の時は仕方ないとして、疲れを取るのにはやっぱり地に足を付けて、って、使い方が違うか? でも空を飛べる生物だって、どこかに足を付けて寝るからね、きっとそれが真理なんだよ。それに良く寝る事は、健康にも成長にもいいし。それは蝶だって一緒だよ。うんうん」

 ガチャ

「ん、澄香起きた」
「え?」

 なんて、独り言でどうでもいい事を言っている最中、マヤメがお風呂場に繋がるドアを開けて出てきた。

 私が寝てる間に、一人でお風呂をしていたようだったが、


「マヤメ、おは―― ってなんで素っ裸なのっ!」

「ん、澄香に全部見られた。責任取って」

 手ブラで胸だけを隠し、直立不動のままでそんな事をのたまう。

「いや、そう言うなら少しは恥ずかしがりなよっ!」

「ん、恥ずかしい」

 片足をぴょんと挙げて、それらしい仕草を取る。
 だけど抑揚のないいつもの発音と、相変わらずの無表情で、本当に恥ずかしがっているかは謎だったが。


「……まぁ、いいや。私もお風呂入るから、その間に出発の準備しておいて。朝食は移動しながら食べるから。それじゃ行こう桃ちゃん」

『ケロロ?』
「ん、わかった」 

 マヤメにはそう告げて、私は桃ちゃんを抱いてお風呂場に向かった。





 シャ――

「にしても、今までより、表情が柔らかくなってきたよね」
『ケロ?』

 熱いシャワーを浴びながら、さっきのマヤメの事を振り返る。

 出会った頃のような、無愛想な感じが薄れてきた。
 人と接する時間が増えた事と、私に心中を明かした事が良かったのだろう。

 
「それと環境かもね。今の環境は、エニグマ(謎の組織)とは違って、精神的に楽になっただろうし、エネルギー切れの件も解決したからね」

 きっとそれが一番の要因だったりする。
 誰しも無理やりに働かせられ、命を握られていたならば、心の余裕がなくなる。

 今のマヤメはそれが解放されたのだろう。
 まだ全てではないが、その差は顕著に出ている。


 シャ――

「――なら、私が出来る事はハッキリしてる。悩みを抱えている全員を助けることは出来ないけど、関わった人たちに手を差し伸べる事は出来るからね。それとユーアとナジメも心配してたし」

 全て解決したならば、もっとマヤメは笑顔になる。
 私はそれを見たいし、マヤメもきっと望んでいる。


「と、それは置いといて」
『ケロロ~』
「マヤメも意外とあったね?」
『ケロ?』

 お風呂上がりで全裸だったマヤメ。
 私の見間違いでなければ、恐らく脅威(胸囲)のDランク。
 半球型で張りがあり、左右の形もきれいに対称だった。

 それは最近成長著しい、ラブナにも匹敵するクラス。 
 ナゴタたちには到底敵わないが、それでもいいものを持っていた。

 キュッ

「ま、まぁ、それで姉妹の順位が決まるわけじゃないからねっ! そもそも私はリーダーだし、みんなも長女だって、認めてくれてるしねっ! あはは」

 シャワーを止め、上半身を真っすぐに滴り落ちていく、いくつもの水滴を眺めながら、なぜか乾いた笑いが出た。 


「さ、それじゃ上がろうか? 桃ちゃんももういいよね?」
『ケロロ』

 水風呂に浸かっている、桃ちゃんを抱いてお風呂場を出る。

 すると、


((んっ! 澄香っ!))

 リビングの方からマヤメの声が聞こえた。
 その声に緊急性を感じた私は、裸のまま慌ててリビングに飛び込んだ。


 バンッ!


「なに? 一体どうしたのって―― 何その鳥はっ!」

「んっ! 澄香。外で――――」

「それと、なんで羽根が生えてるのっ!」

「ん?」

 情報量が多くて、マヤメの言葉を遮り、捲し立てる。

 リビングに飛び込んだ先で目にしたものは、黒い鳥を頭に乗せ、なぜか背中に羽根が生えたマヤメだった。
 少し目を離した隙に、色々と状況が変化していて混乱する。


「ん、澄香、思ったより真っ平――――」

「いいから、何があったか、一つ一つ説明してっ!」

 余計な事を言われる前に、すかさずマヤメに詰問する。
 私の姿を確認した瞬間から、一部をジロジロと見てたから。


「ん、この鳥はマヤの偵察用のボロカラス」
「ボロ、カラス?」

 頭の上でピクリとも動かない鳥を見る。

「ん、違った。ロボカラス」
「…………」
「それでこの羽根は、澄香の街で買ったもの。リュックに羽根が生えてる」
「コムケの街で?」
「ん、おそろい」

 クルリと回って、背中を向け、その購入品を見せてくる。
 確かにリュックの両脇から、黒い羽根っていうか、蝶の羽根が生えている。
 きっとニスマジの店で買った、新商品なのだろう。


「…………で、さっきなんで私を呼んだの?」

 いつもの装備に着替えながら、その訳を聞いてみる。
 色々と突っ込みたいけど、先ずはその件が優先だ。

 まさかそのカラスと、リュックを自慢したくて呼んだわけではないだろうから。

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