剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第13蝶 影の少女の解放と創造主

出立と裏側

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新章開始です。





 『リバースワールド』

 誰が名付けたかは不明だが、その名の通りに、反転する世界が存在する。
 
 例えるならば、裏面の世界。
 全てが裏返る、裏側の世界。 

 そこに確かに存在するが、表面と裏面のように、決して交わる事はない。
 密接な位置にありながら、お互いの世界が干渉することはない。

 セピア色のように、どこか色褪せた、彩のない景色。
 太陽は西から東へ、季節は冬から秋へ。

 多くの事象や理(コトワリ)が逆戻し、逆行する、裏腹な世界。

 大地を統べる種族も逆転し、多くの魔物が街や村を、人類は森や山へと追いやられた。

 そして、魔物より繁殖力の低い人間は、徐々にその数を減らしていき、逆に多くの魔物はその数を増やしていった。

 人類と魔物が逆転した『裏面の世界』リバースワールド
 この先人類を待ち受けるのは、絶滅と言う、種としての滅びだけだろう。

 だがそこにも存在する。
 表世界と裏世界をひっくり返す【逆転劇】リバーサルの方法が。


 そもそも裏と表は、永遠に切り離すことの出来ない『表裏一体』の関係にあるのだから。



――――――


「おはよー、マヤメ。昨日はよく眠れた?」
「ん、おはよう、澄香。ちょっとだけ早く起きた」

 ここは、ノトリの街一番の宿屋兼、食事処で有名な『あしばり帰る亭』
 その最上階の一室では、スミカとマヤメが出立の準備をしていた。
  

「どれ、そろそろ行くけど大丈夫?」
「ん、問題ない」

 振り向きざまに、ビッと親指を立てるマヤメ。
 気持ちドヤ顔に見えるが、

「いや、全然ダメじゃん。寝ぐせが酷いよ? 女の子なんだからもっと身だしなみに気を使いなよ。マヤメより幼いユーアだって、最近は気にするようになってきたのに」

 ピョンと飛び出たままの、マヤメの前髪をちょこんと触る。
 なんかそこだけずっと跳ねてるんだよね。


「ん、これは澄香が付けたアイテムっ! マヤのせいじゃないっ!」
「お、そんだけ元気なら、問題なく機能しているみたいだね」

 マヤメの顔と、頭部のメンディングロッドを見比べて、一先ず安心する。

「ん、澄香のイジワル。知ってて聞いた」

「イジワルって…… あ、でもチャージが終わったならば外してもいいんだよ? 触覚みたいに見えちゃうでしょ? また必要な時に装着すればいいし」

 何となくいじけているマヤメにそう教えてあげる。

「ん、これは外さない。だって澄香がくれたもの、だから……」
「なに?」
「ん、何でもない」
「そう? ならそろそろ出発しようか。その、え~と、トットリ砂漠ってとこに」
『ケロ?』

 昨晩、マヤメが教えてくれた地名を思い出し、今日の行き先を確認する。
 現実世界のとある地名に似てたから、直ぐに名前が出てきた。
 まぁ、あっちは砂漠じゃなくて砂丘だけど。


「ん? トットリじゃない。『トリット砂漠』」
「あれ? 間違ってた。で、そのトリット砂漠ってどんなとこ?」
「ん、砂漠。一面砂だらけ」

 私の質問に、真顔でボケるマヤメ。

「それはわかってるよっ! 寧ろそれ以外を砂漠って呼ぶなら教えて欲しいよっ!」
「ん、さっきイジワルされたお返し」

 ペロと舌を出し、上目遣いでこっちを覗き見る。

「はぁ? 別にあれはイジワルした訳じゃないんだけど、でもそう感じたのなら謝るよ。でもあれはコミュニケーションの一種で、ユーアにだって――――」

「ん、わかってる。だから謝らなくていい。ちょっと嬉しかったから……」
 
 そっと目を逸らし、小声で呟く。
 何となく照れてるようには見えるけど、
 

「嬉しい? からかわれるのが?」

「んっ! ち、違うっ! 澄香と話をするのが」

 そんなマヤメを追撃すると、珍しく声を大にして反論する。
 ちょっとだけ眉が上がり、ムッとしているように見える。

『あれ?』

 どうやらしつこかったみたいだ。
 元々感情がわかりにくいから、それを出させたいと思うのは仕方ないよね?


「うん、それもわかってるよ。でも私の性格もわかってよね? やられっぱなしは性に合わないから、最終的には自分に跳ね返ってくるって事をね?」

 ウインクしながら、更にドヤ顔で煽ってみる。

「ん、やっぱり澄香はイジワル。英雄さまは嘘つき」

「イジワルでも嘘つきでもないよ。負けず嫌いなだけ」

「ん、もういい。砂漠の話する」

 若干膨れっ面になりながらも、マヤメの説明が始まった。



 『トリット砂漠』

 この大陸に存在する一番大きな砂漠地帯。
 スミカたちの拠点とする、コムケの街から馬車で20日程の距離。 
 面積は凡そ100ヘクタール程で、これは某夢の国が約2つ分の大きさだ。

 それと頻繁に砂嵐が発生するため、人跡未踏の地ともなっている。




「ん、こんな感じ」

「うん、ありがとう。後の細かい詳細は行きながら聞こうか。結構時間かかるみたいだし、こっちからも聞きたいことあるしね」

 マヤメの説明を聞き終えて、頭の中で何となく計算してみる。

『なるほど。ってか、かなり遠いね? 馬車でそのぐらいだと3日ぐらいかかるかな? 往復で6日ほどだから、約束の期日までには帰れそうだし……』

 約束ってのは、ルーギルから受けた依頼の事だった。
 キュートードのフルコースを、10日後の指定で持ち帰ると言う、謎の件だ。
 

「ん、お願い。それとキュートードはどうする?」 

「モチ連れていくよ? だって一人にするの可哀そうだもん」
『ケロ?』

 桃ちゃんを頭の上に乗せながら返答する。

「ん、でも暑い。きっと丸焦げ。干からびる。焼き過ぎると美味しくない」

 私の頭に視線を向けながら、恐い事を言う。
 さっきのやり取りの意趣返しのつもりなのだろう。


「ん~、だったら私の衣装の中にいてもらうよ。それか、魔法壁の中に居てもらえれば、寒暖差はなくなると思うから、危なかったらそうするよ。それでいいよね? 桃ちゃん」

『ケロロ?』

「よし、桃ちゃんも大丈夫って言ってるから、そろそろ行くよ」

「ん? 言った?」


 こうしてマヤメと三人、二日間お世話になったノトリの街を出て、マヤメが以前根城にしていたと言う『トリット砂漠』に向かい出発した。



――――――



「その後、マヤメのアジトは見つかったか?」

 シスターズのリーダーの『タチアカ』は、通信先の何者かに問い掛ける。


 ここは、スミカのたちが暮らすシラユーア大陸より、南方に遠く離れた小島。
 半世紀以上も、誰にも発見されることのなかった、名前のない小さな孤島。
 
 その地下施設でタチアカは、何者かと通信をしていた。


『そんな簡単に見つかるわけないじゃん。マヤメはシスターズの中でも隠密行動が得意だったじゃん? そもそもアイツの能力はアンタだって認めてたのに、そんな簡単に見つかったらシスターズにいなかったじゃん。ってか、仲間に引き入れたのは元々アンタじゃん』

 タチアカの通信相手の『メーサ』は、悪びれもなくそう返す。

「確かに、マヤメをRシスターズに引き入れたのはアタシだ。ここから逃亡したアイツの創造主を処分し、エナジーの供給をエサに、マヤメをシスターズに入れたのはな」

『結構エグイ事するじゃんね? そんで今度はマヤメが裏切ったら、後生大事に隠している、創造主の亡骸を消しちゃうの? マジかなりヤバい奴じゃん、アンタって』

「いちいちお前に言われる筋合いはない。それと手掛かりがないなら、最初にアイツを発見した『トリット砂漠』付近を念入りに調査してみろ。そこに痕跡がある可能性が高い」

『はぁ? なら最初からそこに飛ばしてくれじゃんっ! スレインの森に来たのは全部無駄足だったじゃんっ!』

 タチアカから次の行き先を告げられ、通信玉の向こうで激昂するメーサ。
 だが、そんなメーサの反応を意に返さずに、タチアカは話を進める。

「全くの無駄ではないはずだ。その森でつい先日、魔改兵の反応が消えたんだ。マヤメは蝶の英雄と言う冒険者と同伴している。ならその冒険者が倒した可能性があるだろう」

『だから何もなかったって言ったじゃんっ! それのどこが無駄じゃないじゃんっ!』

「それは結果論だろう? そもそも『裏世界』のこちらに入ってくる情報が少ないんだ。だから一つ一つ可能性を潰していくのは間違ってはいない」

 声のトーンを下げ毅然たる態度で答える。

『……はぁ、もういいじゃん。ならさっさとそのトリット砂漠ってとこに飛ばすじゃんよ。まだリムバブルのエネルギーは、帰還分を残して2回は残ってるじゃん』

 有無を言わさずなタチアカの態度に、メーサは投げやり気味に返す。

「言われなくともそのつもりだ。それと念のため『ヒトカタ1号』を送る。まだ試作段階らしいが、何かの役には立つだろう」

『いっ!? そ、それは送らないでいいじゃんっ! アタイだけで大丈夫じゃんっ! 寧ろ、そんなのが来たら余計にアタイが――――』
 
「そうは言うが、技術開発主任の『マカス』から、早期にテストしてくれと頼まれているんだ。さすがに断る事は出来ないな」 

『そんなのそっち(裏)でやればいいじゃんっ! こっち(表)に来たって迷惑じゃんっ! 余計に面倒ごとが増えるだけじゃんっ! 巻き込まれたら嫌じゃんっ!』

 タチアカの説明を聞き、更に声を荒げるメーサ。 
 恐らく通信先の向こうでは、憤怒と悲哀が混じった、複雑な表情をしている事だろう。


「お前の意見は関係ない。やれと頼まれた以上、やるしかないんだアタシたちは…… これも『逆転劇』を遂行するのに必要な事なのだ…… ではまた連絡する」

『ちょ、まだ、◎△$♪×¥●&%#っ!?――――』

 プツン

「はぁ……」

 メーサが後ろでなり立てているが、タチアカは構わず通信を切る。
 そして次の部屋に向かいながら、薄暗い天井を見上げて、溜息を吐いた。



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