剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
505 / 586
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

3つのタマゴ?

しおりを挟む



「で、あれから体は問題ない?」

 一歩下がって、マヤメの顔色と全身を注意深く眺める。

「ん?」

 端から見たら、顔色も良く、身体にもケガもないように映った。
 頭の上のロッド(アホ毛)もきちんと装着されている。


「ん、異状ない。これも澄香のおかげ」

 それに対し、真顔の立ちピースで答えるマヤメ。
 表情がわかりにくいが、本人がそう言ってるなら大丈夫だろう。


 現在私たちは、シクロ湿原を後にし、今は透明壁スキルで空を移動している。
 フーナ達と別れた後で、桃ちゃんと合流し、ノトリの街に戻る途中だ。
 

「それでさ、話って何だったの?」

 用意したテーブルセットに座り、一息着いたところで聞いてみる。
  
「ん? はなし? なんの?」

「ああ、悪い悪い、主語が抜けてた。メドがマヤメにした話の事だよ。私が戻った後で何か言われたんでしょう?」

「ん」

 そう。

 私がフーナと対峙している最中、実体分身を使い、マヤメとメドの戦いの場へ駆けつけた。
 その時私が見たのは、影のような暗闇に呑まれた二人だった。

 発光の能力で二人を救出したが、エネルギーを消費し過ぎた影響か、マヤメだけは危険な状態だった。恐らくマヤメが使ったアイテムの反動だと思われる。
 
 その後、私が持っていたアイテム(メンディングロッド)で事なきを得たが、マヤメの意識が戻る前に、メドが私に言ってきた事だ。マヤメが目覚めたら話があるって。

 私はその後、フーナとの戦いに戻ったので、何の話かは知らなかった。


「ん、話してない」

「え? マジ?」

「ん」

「? ああ、そう……」

 だったらあれは何だったんだろう。
 かなり真剣な面持ちで、話をしたいって訴えてたように見えたのに……

 まぁ、実際はマヤメと同じ無表情で、その内心までは読み取れなかったけど。 


「ん、だからこれ渡された」

 カサ

「へ?」

 一枚の封書を渡される。
 何故かズボンの中から出てきたのは、今はいいとして。


「なんで手紙? 話がしたいって言ってた気がするけど」
 
 受け取った封書を、繁々と眺める。

「ん、マヤもメドも長い話するのが苦手。だからこれを渡したんだと思う。それをマヤに渡した後で、少し会話はしたけど、その手紙の内容とは違うと思う。それとメドが驚いていた。澄香の事を褒めていた。マヤを助けてくれた事に感謝していた。後、キュートードの件も謝ってた。狩り禁止区域なのは知らなかったけど、ごめんなさいって。それと――――」

「ちょ、ちょっと、もうわかったよっ! でも手紙は私が預かっていいの? ってか、読んでいいの?」

 いきなり饒舌になった、マヤメの言葉を遮り確認する。
 長話が苦手云々は、今は突っ込んだら負けな気がする。


「ん」

「そう、なら私が預かるよ。そろそろ街に着くから準備して」

 マヤメが頷いたのを確認して、アイテムボックスに収納する。
 内容が気になるけど、遠目に街が見えてきたので、今は後回しにする。


「ん、そう言えば、澄香に聞きたいことあった」

「なに?」

「ん、あの時なんで丸出しだった? フーナが仲間を呼んだ時」

「あ、ああ、あの時ね……」

 そっと目を逸らしながら、あの時の事を思い出す。
 フーナを追い詰めたと思ったら、新たな敵が増えた、あの絶望的な状況を――――





「んっ! 澄香っ! あのタマゴから何か出てくるっ!」

「わかってるっ!」

 最悪だ。
 まさかこのタイミングで援軍を呼ぶなんて。
 ラスボスの後にボスラッシュなんて、余りにも理不尽過ぎる。


「うえぇぇぇぇ――――――んっ! みんな助けてぇ――――っ!!」

 Gホッパーの鳥かごの中で、バウンドを繰り返し泣き叫ぶフーナ。
 その体が光った瞬間、フーナの周りにタマゴが出現していた。 

 フーナばりの気配を放つ『白』『青』『黒』の3つのタマゴ。

 実際はタマゴではなく、タマゴの形をした魔力の塊だろう。
 表面がゆっくりと消滅すると共に、その中身が姿を現した。

 
「ん?」
「がう?」
「何処よここは?」

 現れた3人は、状況を把握しようと、キョロキョロと周りを見渡している。
 幼い少女の姿だが、感じるプレッシャーが尋常ではない。


「んっ! メドがいるっ!」

 マヤメが一人の子供を指差し、名前を叫ぶ。

「メドがなんでっ!? でも他の二人は?」

「んっ! 他の二人はアドとエンド。特徴が一致している」

「アドとエンド? もしかしてあれもフーナの仲間なの?」

「ん、そうっ! フーナの家族」

「家族…… かぁ。なら戦いを避けるのは、尚更不可能に近いかも」

 私は答えながら、ドレスの裾に指を掛ける。
 『表裏一体モード』の時間を、いつでもチャージできるように。 


『最悪、向かって来るならこのまま戦うしかないっ! 三人相手で勝てる自信はないけど、表裏一体と安全装置を併用すれば、せめてここからの離脱は可能なはず』

 覚悟を決め、ゆっくりとドレスの裾を捲り上げていく。
 今の私の強さでは勝つのはほぼ不可能。

 ならば、マヤメを連れて撤退するのが、今は最善だと即断する。


「んっ! フーナさまっ!」
「がうっ! フーナ姉ちゃんっ!」
「あっ! フーナっ!」

 そんなメドたち三人は、悲鳴を上げるフーナに気付き、慌てて駆け寄る。
 これでフーナが私の名前を呼べば、一気にヘイトが私に集まるだろう。


『来るっ!』

 ババッ!

「ん?」

 仕掛けられる前に、一気にスカートを捲り上げる。
 だが、このままでは両手が使えないので、口に咥えて待機する。

 一瞬、隣のマヤメが「え?」って顔したけど、今は気にしてられない。
 あの三人が動き出したら、そんな余裕も消え去るだろう。


 ところが、

「ん、フーナさま。狩る場所間違ってた。だから謝ってきた」
「がう? 何やってんだ? フーナ姉ちゃん」
「はぁ、急に召喚されてみれば、一体これは何事かしら?」

「?」

 ところがそうはならなかった。 
 絶叫しながら跳ね続けるフーナを囲み、どこか場違いな会話が始まった。


「ん? これは新しい…… 遊び? それともお仕置き?」
「なんか楽しそうだなっ! がうっ!」
「またおかしな遊びを覚えたものね? いい加減大人になって欲しいわ」

 そんな三人はフーナの事を微塵も心配していない様子だった。
 それどころか、それが日常的に行われているみたいな言い方だった。


『…………え? 遊び?』

 新たな脅威に身構えていた私は、肩透かしを食らう。

 もしかしてこれがフーナの普通なの?
 三人の反応を見てると、なんかそんな気がする。

 フーナは規格外の実力者だったけど、その遊びも規格外だったって事?


「ち、違うよぉ~っ! あそこの蝶のお姉さんが、わたしをイジメるんだよ~っ! だから早くやっつけて助けてよぉ~っ!」

 ここでようやくフーナが口を開く。
 涎と涙と良くわからない液体で、顔をぐしゃぐしゃにしながら。


「ん」
「がう? 蝶の? なんだ?」
「蝶のお姉さんって、まさか?」

 フーナの必死の訴えにより、三人の視線が私に集まる。
 その瞳は大きく開かれ、マジマジと私の姿を見ていた。


『なんだよ、結局こうなるんじゃんっ! 一瞬期待して損したよっ! なら、マヤメは私の影に避難してもらって、後は時間稼ぎしながら――――』

 一気に緊張が高まる。
 私は思考を切り替えて、相手の動きに集中する。

 一人なら問題ない。戦いながらでも逃げ切れる自信がある。
 いや、逃げるだけではなく、表裏一体を使えば確実に勝てる。

 だが三人相手ではそうもいかない。

 表裏一体モードにも制限時間がある。
 今の時間だけでは、使えても2~3秒。

 効果が切れたら逃げ切れない。
 透明壁スキルも透明鱗粉も、フーナのように見破られる可能性が高いから。


もがもがマヤメっ!」
「ん?」
もがもがマヤメはもがもが私の影にもがもが隠れてっ!」
「んん?」

 マヤメに向かって叫ぶが、当の本人は不思議そうに私の顔を覗き込む。
 それはそうだ。スカートを口で咥えてるんだから、聞こえるわけがない。


「イジメてるって…… アドとメドはどっちがイジメてるように見えるのかしら? 我には逆に映っているのだけれども」

 黒い少女、エンドが私たちのやり取りを見て、ポツリと零す。

「がう? そうだなぁ~。俺から見たらフーナ姉ちゃんは楽しそうだぞっ! でも蝶の英雄は泣きそうだなっ! さっきからプルプル震えてるし」

「ん、どう見てもフーナさまがイジメてる。蝶の英雄にあんな破廉恥なポーズ取らせてる。大人パンツが丸出しでちょっと可哀想。フーナさま鬼畜」

『………………』

 アド、そしてメドの順番で、エンドの質問に見たまま答える。

 ってか、今の私って、そんな風に見えるの?
 確かに恥ずかしくて震えてるし、微妙に涙目だけど。

 
「ち、違うよ~っ! わたしをこんなにしたのは蝶のお姉さんなんだって~っ! なんでわかってくれないの~っ! 早くしないとわたし漏らしちゃうし、吐いちゃうよ~っ! うっぷ」

「んっ! 蝶の英雄。フーナさまは反省してる。だから止めて」   

 さすがに限界を感じたのだろう。
 フーナの危険を察知して、メドが早口で訴えてくる。


「もがもが?」
「ん、澄香、それじゃ聞こえない」
「ぺっ 止めてもいいよ。元々そのつもりだったし。ただ条件あるけど」

 メドに答えた通りにその予定だった。
 ただ援軍が来なければの話だったけど。

 けど、メドも他の二人もそうだけど、敵意や殺気は感じない。
 だから条件付きで解除することにした。


「ん? 条件? なに?」

「まず、この後で私たちと街に行って、謝罪する事」

「ん、謝罪?」

「そう。キューちゃんを狩ったでしょ? 禁止区域で」

「ん、それは済ませた。門兵の人間にお金も渡してきた」

 人差し指をビッと立てて、キリとした顔で答えるメド。


「え? あ、あれ?」

 そう言えば、マヤメに聞いた気がする。

 合流した時に、メドはノトリの街に行ったって。
 あの時はフーナが回復して、詳しい話は聞けなかったんだ。


「そ、そうなんだ。なら次はフーナを解放したら、私たちを襲わない事。街で謝罪したなら戦う理由がこっちにはないからね。これ以上の争いは不毛だし」

「ん、ワタシたちにも戦う意志はない。二人も満足してる。それとワタシたちはこれから行くところある。だから約束する」

 両脇に立つアドとエンドに目配せし、コクンと頷く。
 それに対し、アドは笑顔で、エンドは薄笑いで答える。


「そう。満足の部分はよくわからないけど、なら解放するよ」

 一応、三人の動きに警戒しながら、フーナを囲むスキルを解除した。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...