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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
3つのタマゴ?
しおりを挟む「で、あれから体は問題ない?」
一歩下がって、マヤメの顔色と全身を注意深く眺める。
「ん?」
端から見たら、顔色も良く、身体にもケガもないように映った。
頭の上のロッド(アホ毛)もきちんと装着されている。
「ん、異状ない。これも澄香のおかげ」
それに対し、真顔の立ちピースで答えるマヤメ。
表情がわかりにくいが、本人がそう言ってるなら大丈夫だろう。
現在私たちは、シクロ湿原を後にし、今は透明壁スキルで空を移動している。
フーナ達と別れた後で、桃ちゃんと合流し、ノトリの街に戻る途中だ。
「それでさ、話って何だったの?」
用意したテーブルセットに座り、一息着いたところで聞いてみる。
「ん? はなし? なんの?」
「ああ、悪い悪い、主語が抜けてた。メドがマヤメにした話の事だよ。私が戻った後で何か言われたんでしょう?」
「ん」
そう。
私がフーナと対峙している最中、実体分身を使い、マヤメとメドの戦いの場へ駆けつけた。
その時私が見たのは、影のような暗闇に呑まれた二人だった。
発光の能力で二人を救出したが、エネルギーを消費し過ぎた影響か、マヤメだけは危険な状態だった。恐らくマヤメが使ったアイテムの反動だと思われる。
その後、私が持っていたアイテム(メンディングロッド)で事なきを得たが、マヤメの意識が戻る前に、メドが私に言ってきた事だ。マヤメが目覚めたら話があるって。
私はその後、フーナとの戦いに戻ったので、何の話かは知らなかった。
「ん、話してない」
「え? マジ?」
「ん」
「? ああ、そう……」
だったらあれは何だったんだろう。
かなり真剣な面持ちで、話をしたいって訴えてたように見えたのに……
まぁ、実際はマヤメと同じ無表情で、その内心までは読み取れなかったけど。
「ん、だからこれ渡された」
カサ
「へ?」
一枚の封書を渡される。
何故かズボンの中から出てきたのは、今はいいとして。
「なんで手紙? 話がしたいって言ってた気がするけど」
受け取った封書を、繁々と眺める。
「ん、マヤもメドも長い話するのが苦手。だからこれを渡したんだと思う。それをマヤに渡した後で、少し会話はしたけど、その手紙の内容とは違うと思う。それとメドが驚いていた。澄香の事を褒めていた。マヤを助けてくれた事に感謝していた。後、キュートードの件も謝ってた。狩り禁止区域なのは知らなかったけど、ごめんなさいって。それと――――」
「ちょ、ちょっと、もうわかったよっ! でも手紙は私が預かっていいの? ってか、読んでいいの?」
いきなり饒舌になった、マヤメの言葉を遮り確認する。
長話が苦手云々は、今は突っ込んだら負けな気がする。
「ん」
「そう、なら私が預かるよ。そろそろ街に着くから準備して」
マヤメが頷いたのを確認して、アイテムボックスに収納する。
内容が気になるけど、遠目に街が見えてきたので、今は後回しにする。
「ん、そう言えば、澄香に聞きたいことあった」
「なに?」
「ん、あの時なんで丸出しだった? フーナが仲間を呼んだ時」
「あ、ああ、あの時ね……」
そっと目を逸らしながら、あの時の事を思い出す。
フーナを追い詰めたと思ったら、新たな敵が増えた、あの絶望的な状況を――――
※
「んっ! 澄香っ! あのタマゴから何か出てくるっ!」
「わかってるっ!」
最悪だ。
まさかこのタイミングで援軍を呼ぶなんて。
ラスボスの後にボスラッシュなんて、余りにも理不尽過ぎる。
「うえぇぇぇぇ――――――んっ! みんな助けてぇ――――っ!!」
Gホッパーの鳥かごの中で、バウンドを繰り返し泣き叫ぶフーナ。
その体が光った瞬間、フーナの周りにタマゴが出現していた。
フーナばりの気配を放つ『白』『青』『黒』の3つのタマゴ。
実際はタマゴではなく、タマゴの形をした魔力の塊だろう。
表面がゆっくりと消滅すると共に、その中身が姿を現した。
「ん?」
「がう?」
「何処よここは?」
現れた3人は、状況を把握しようと、キョロキョロと周りを見渡している。
幼い少女の姿だが、感じるプレッシャーが尋常ではない。
「んっ! メドがいるっ!」
マヤメが一人の子供を指差し、名前を叫ぶ。
「メドがなんでっ!? でも他の二人は?」
「んっ! 他の二人はアドとエンド。特徴が一致している」
「アドとエンド? もしかしてあれもフーナの仲間なの?」
「ん、そうっ! フーナの家族」
「家族…… かぁ。なら戦いを避けるのは、尚更不可能に近いかも」
私は答えながら、ドレスの裾に指を掛ける。
『表裏一体モード』の時間を、いつでもチャージできるように。
『最悪、向かって来るならこのまま戦うしかないっ! 三人相手で勝てる自信はないけど、表裏一体と安全装置を併用すれば、せめてここからの離脱は可能なはず』
覚悟を決め、ゆっくりとドレスの裾を捲り上げていく。
今の私の強さでは勝つのはほぼ不可能。
ならば、マヤメを連れて撤退するのが、今は最善だと即断する。
「んっ! フーナさまっ!」
「がうっ! フーナ姉ちゃんっ!」
「あっ! フーナっ!」
そんなメドたち三人は、悲鳴を上げるフーナに気付き、慌てて駆け寄る。
これでフーナが私の名前を呼べば、一気にヘイトが私に集まるだろう。
『来るっ!』
ババッ!
「ん?」
仕掛けられる前に、一気にスカートを捲り上げる。
だが、このままでは両手が使えないので、口に咥えて待機する。
一瞬、隣のマヤメが「え?」って顔したけど、今は気にしてられない。
あの三人が動き出したら、そんな余裕も消え去るだろう。
ところが、
「ん、フーナさま。狩る場所間違ってた。だから謝ってきた」
「がう? 何やってんだ? フーナ姉ちゃん」
「はぁ、急に召喚されてみれば、一体これは何事かしら?」
「?」
ところがそうはならなかった。
絶叫しながら跳ね続けるフーナを囲み、どこか場違いな会話が始まった。
「ん? これは新しい…… 遊び? それともお仕置き?」
「なんか楽しそうだなっ! がうっ!」
「またおかしな遊びを覚えたものね? いい加減大人になって欲しいわ」
そんな三人はフーナの事を微塵も心配していない様子だった。
それどころか、それが日常的に行われているみたいな言い方だった。
『…………え? 遊び?』
新たな脅威に身構えていた私は、肩透かしを食らう。
もしかしてこれがフーナの普通なの?
三人の反応を見てると、なんかそんな気がする。
フーナは規格外の実力者だったけど、その遊びも規格外だったって事?
「ち、違うよぉ~っ! あそこの蝶のお姉さんが、わたしをイジメるんだよ~っ! だから早くやっつけて助けてよぉ~っ!」
ここでようやくフーナが口を開く。
涎と涙と良くわからない液体で、顔をぐしゃぐしゃにしながら。
「ん」
「がう? 蝶の? なんだ?」
「蝶のお姉さんって、まさか?」
フーナの必死の訴えにより、三人の視線が私に集まる。
その瞳は大きく開かれ、マジマジと私の姿を見ていた。
『なんだよ、結局こうなるんじゃんっ! 一瞬期待して損したよっ! なら、マヤメは私の影に避難してもらって、後は時間稼ぎしながら――――』
一気に緊張が高まる。
私は思考を切り替えて、相手の動きに集中する。
一人なら問題ない。戦いながらでも逃げ切れる自信がある。
いや、逃げるだけではなく、表裏一体を使えば確実に勝てる。
だが三人相手ではそうもいかない。
表裏一体モードにも制限時間がある。
今の時間だけでは、使えても2~3秒。
効果が切れたら逃げ切れない。
透明壁スキルも透明鱗粉も、フーナのように見破られる可能性が高いから。
「もがもがっ!」
「ん?」
「もがもが、もがもが、もがもがっ!」
「んん?」
マヤメに向かって叫ぶが、当の本人は不思議そうに私の顔を覗き込む。
それはそうだ。スカートを口で咥えてるんだから、聞こえるわけがない。
「イジメてるって…… アドとメドはどっちがイジメてるように見えるのかしら? 我には逆に映っているのだけれども」
黒い少女、エンドが私たちのやり取りを見て、ポツリと零す。
「がう? そうだなぁ~。俺から見たらフーナ姉ちゃんは楽しそうだぞっ! でも蝶の英雄は泣きそうだなっ! さっきからプルプル震えてるし」
「ん、どう見てもフーナさまがイジメてる。蝶の英雄にあんな破廉恥なポーズ取らせてる。大人パンツが丸出しでちょっと可哀想。フーナさま鬼畜」
『………………』
アド、そしてメドの順番で、エンドの質問に見たまま答える。
ってか、今の私って、そんな風に見えるの?
確かに恥ずかしくて震えてるし、微妙に涙目だけど。
「ち、違うよ~っ! わたしをこんなにしたのは蝶のお姉さんなんだって~っ! なんでわかってくれないの~っ! 早くしないとわたし漏らしちゃうし、吐いちゃうよ~っ! うっぷ」
「んっ! 蝶の英雄。フーナさまは反省してる。だから止めて」
さすがに限界を感じたのだろう。
フーナの危険を察知して、メドが早口で訴えてくる。
「もがもが?」
「ん、澄香、それじゃ聞こえない」
「ぺっ 止めてもいいよ。元々そのつもりだったし。ただ条件あるけど」
メドに答えた通りにその予定だった。
ただ援軍が来なければの話だったけど。
けど、メドも他の二人もそうだけど、敵意や殺気は感じない。
だから条件付きで解除することにした。
「ん? 条件? なに?」
「まず、この後で私たちと街に行って、謝罪する事」
「ん、謝罪?」
「そう。キューちゃんを狩ったでしょ? 禁止区域で」
「ん、それは済ませた。門兵の人間にお金も渡してきた」
人差し指をビッと立てて、キリとした顔で答えるメド。
「え? あ、あれ?」
そう言えば、マヤメに聞いた気がする。
合流した時に、メドはノトリの街に行ったって。
あの時はフーナが回復して、詳しい話は聞けなかったんだ。
「そ、そうなんだ。なら次はフーナを解放したら、私たちを襲わない事。街で謝罪したなら戦う理由がこっちにはないからね。これ以上の争いは不毛だし」
「ん、ワタシたちにも戦う意志はない。二人も満足してる。それとワタシたちはこれから行くところある。だから約束する」
両脇に立つアドとエンドに目配せし、コクンと頷く。
それに対し、アドは笑顔で、エンドは薄笑いで答える。
「そう。満足の部分はよくわからないけど、なら解放するよ」
一応、三人の動きに警戒しながら、フーナを囲むスキルを解除した。
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