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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
起きた事と起きない者
しおりを挟む『ガウ――――――――ッ!!』
「な、何よこの巨大な魔物はっ!? 一体どこから出てきたのよっ!」
咆哮と共に現れた、ウルフの魔物の姿に驚愕する。
視界が悪く、突如目の前に現れた事もそうだが、その大きさに取り乱す。
『ガウッ!』
ブンッ!
そんな取り乱すエンドなどお構いなしに、魔物が鋭い爪を振り下ろす。
ドガンッ!
「くっ!」
ダメージは殆どないが、その姿を見てさらに困惑する。
『お、大きさに一瞬身構えたけど、威力は大したことないわっ! けどなぜ我を攻撃するのよっ! 普通の魔物が竜族に歯向かうなんて、そんな愚かなことをしないわっ! そもそもどこから来たのよっ!』
意味が分からない。
立て続けに起こる不可解な出来事に、状況の整理が追い付かない。
強力な魔力弾を放つマジックアイテムの存在に、視界がきかない中での精密射撃。そして恐らく仲間であろう、見聞きした事のないほど巨大なウルフの魔物。
見たもの受けたもの全てが、初見な出来事。
考えれば考えるだけ、脱出不可能な思考の渦に呑まれる。
ただわかったこともあった。
いや、再認識したと言った方が正しい。
この三人は間違いなく強い。
相手を屈服させる圧倒的な力は持ってないが、それぞれが食わせ者。
一癖二癖もある、非常に厄介な実力者たち。
「二人ともナイスなのじゃっ! ハラミもさすがなのじゃっ! 最後はこのわしが空から引きずり下ろして終いなのじゃ――――っ!!」
「霧が晴れて?…………」
気付いたら霧の魔法が消えていた。
恐らくこの機会を見計らって、術者のラブナが魔法を止めたのだろう。
『………………』
だから今なら見える。
爪の塔に潜んでいたラブナや、不細工なナジメの土の竜も。
そして――――
「よしよしっ! やっぱりハラミは凄いねっ!」
『魔改獣』らしき、魔物の頭を笑顔で撫でる、無邪気なユーアの姿も。
ギュルルル――――――ンッ!
ガブリッ!
「………………」
巨大化したままのエンドの腕に、首を伸ばしたナジメ竜の牙が食い込む。
そして地面に叩きつける勢いで、一気に引っ張られる。
『………………』
エンドはそれを他人事のように、どこか冷静に眺めていた。
『はぁ~、腕の次は、首が伸びる竜はいないって、本当は突っ込みたいけど、なんだか疲れたわ…… それに、我だけ一人騒いでるみたいで、ちょっとだけ虚しいわ……』
目前に迫る地面を見ながら、心の中で嘆息する。
理解を超えたものを立て続けに魅せられ、かなり食傷気味だった。
『でもこれで満足したわ。今度会ったらもっと本気で遊んでみたいわね。フーナに預けた魔力が戻ってくれば、もう少し楽しめそうだし。それにこの三人も、これからもっと強くなるのは明らかだしね』
次に再会した時は、きっと本来の力で遊べる。
とは言い過ぎだが、それでも確かな手ごたえを感じた三人。
大陸一の土魔法使いと名高い、エルフとドワーフの混血種のナジメ。
多少遊び癖もあるが、それを補う奇抜な魔法と鉄壁が強みだ。
それと、まだ幼さを残しているが、度胸と魔力量が持ち味のラブナ。
属性の違う魔法を掛け合わせた、多種多様な攻撃を仕掛けてきた。
そして最後は、ユーアとその相棒らしい謎の魔物なのだが、
『…………正直、このコンビが一番良くわからないわね? ただウルフの魔物の方は、アイツらと似た匂いを感じたわ。どうやって手懐けたのか、それとも全くの別物なのか、色々と興味が尽きないけど、そろそろ呼ばれているから、詮索は今度の楽しみに取っておきましょうか、うふふ――――』
ドゴォォォォォ――――――ンッ!!
そしてエンドはそのまま地面に叩きつけられた。
結局ナジメの宣言通りに、空から引きずり降ろされた、結果となったが、
「うぬっ!? 今の衝撃で地面が崩落するのじゃっ! みな危険じゃから、直ちにここを離れるのじゃっ!」
「えっ!? マジでっ! あ、これは本当だわっ!」
「あ、ナジメちゃんとラブナちゃんっ! ハラミお願いっ!」
『ガウッ!』
ついでにナジメたち三人と一匹も、空からではないが、地上より地下に引きずり降ろされた。
――――――――
「と、言う事なのじゃ」
「なるほど…… 随分と壮絶だったようですね。エンドさんとの出会いは」
ここまでの話を聞き、神妙な顔で頷くクレハン。
何かあったのはわかっていたが、まさかここまでとは思わなかった。
面影がないほど荒れ果てた地面に、いくつもの巨大な土の塔。
元Aランクのナジメの顔にも、疲労の色が濃く残っている。
そして未だ気を失っている、ユーアとラブナと従魔のハラミ。
この惨状を見れば、今の説明以上に苛烈だったことが容易に想像できる。
「そ、それでその後どうなったのですか? 地下に戦場を移して、まだ戦いが続いたのですか? ユーアさんたちは何故気を失ったのですか? どうやって地下から出てきたんですか? それとエンドさんは――――」
「ちょ、あまり急かすなクレハンっ! この妹たちの治療が先じゃっ! 幸いそこまでのケガではないが、それでも心配じゃから、もう少し待っておれっ!」
「す、すいません……」
ナジメに叱責されて、気まずそうに頭を下げるクレハン。
「よし、これで大丈夫じゃろう。ねぇねの回復薬ならば、すぐに目を覚ますじゃろうて。して、続きの話じゃな? その後、地下に落ちてどうなったかを知りたいのじゃったな?」
「は、はいっ! お願いします」
姿勢を正し、ナジメの話に耳を傾ける。
「結末だけ言うとじゃな、エンドはあの後いなくなったのじゃ」
「………………はい?」
予想外の答えに目を丸くするクレハン。
ナジメは構わずそのまま話を続ける。
「瓦礫と共に落ちる最中、桁違いな魔力と膨大な光が弾けて、そのまま地下の洞窟に落ちた時には、あ奴の姿がなかったのじゃ。ハラミはユーアとラブナを背に乗せ、わしは能力のお陰で無事じゃったのだが、エンドだけは見つからなかったのじゃ」
「も、もしかして、そのまま生き埋めで、死? なんて事は……」
「いや、それはないじゃろ。あ奴はわしらに戦いを吹っかけてきておいて、実力の半分も出してはおらぬからな。こっちはわしの勘じゃが、それでも恐らく合っておるじゃろう。そんなエンドが崩落に巻き込まれたぐらいで死ぬなんて、そんな荒唐無稽な話もないじゃろ」
「た、確かにそうですね。ナジメさまたちも無事だったのですから、更に上の実力を持つエンドさんの身に何かあるなんて事、一般的に考えてあり得ないですからね」
「むっ、何か引っ掛かる物言いじゃが、それで合っているじゃろう」
ギロとクレハンを薄目で睨むナジメ。
「い、いや、そうだとすると、ナジメさまが感じた桁違いな魔力と何か関係があるんですかね? それか何かのアイテムで脱出をしたとか? そう言った物もあると聞いた事があるのでっ! あはは」
うっかり出た失言を誤魔化す様に、更に次の質問をするクレハン。
「う~む、どうじゃろうな? まぁどちらにしろエンドはいなくなったのじゃから、あ奴が無事なのは間違いないじゃろ。その理由だけは本人しかわからぬ事じゃがなぁ」
「それでナジメさまが無事なのはわかったのですが、ユーアさんたちは一体?」
ハラミの傍らで横たわるユーアとラブナに視線を向ける。
多少衣服は汚れているが、見える素肌には外傷が見当たらない。
「うむ。まずラブナの方は、あの魔力に当てられて気絶したのじゃろう」
「あの魔力とは?…… ああ、光と共に弾けた桁違いの魔力って奴ですね?」
「そうじゃ。ラブナも今までの人生であれ程の魔力を感じた事ないじゃろ。わしの長い人生でも覚えがないからのぉ」
「え? 長い人生?」
「ん? どうしたのじゃクレハン。わしの事をジロジロ見て」
「へ? い、いや、何でもないですっ! それでユーアさんと従魔のハラミは?」
贔屓目に見ても6歳程の、小さな体から目を離し、慌てて視線を逸らす。
「ふむ、まぁいいじゃろ。で、ユーアとハラミの事なんじゃが、恐らくラブナと似たようなものじゃろう。意味合いがちと違うかもじゃが」
胸の前で腕を組み、神妙な面持ちでユーアたちを見る。
「違うといいますと?」
「うむ、実はハッキリとはわからぬが、ラブナは駆け出しとは言え魔法使いじゃ。魔力の感知にはおのずと敏感になる。じゃが、ユーアとハラミは――――」
「あ、二人は魔法使いではないと。でもハラミは魔法を使えるんですよね? でしたら、ハラミの方は同じ理由ですかね? だとしたらユーアさんは……」
「いや、ハラミが使っているのは、正確には魔法ではなく精霊魔法じゃ。自然界の精霊の力を借りて発動する魔法じゃ。わしも度々使っておるものじゃ」
「えっ! そうだったんですかっ!? それは初耳ですよっ!」
「そうなのか? わしは二つを混ぜて使っておったんじゃよ。その両方に適性があるから、その都度使い分けておったんじゃが」
「あ、そうかっ! ナジメさまはドワーフとエルフの―――――」
何かを思い出したように、ハッとナジメを見る。
「わしの話は今はどうでもいいのじゃ。それよりもユーアのたちの事なんじゃが、気を失った切っ掛けは同じじゃ。じゃが、意味合いが違うと言ったのは、その後の話じゃ」
「その後?…………」
「その後、ラブナは普通に目を覚ますじゃろ。ただ単にショックで気を失っただけじゃからな。じゃが、ユーアとハラミは――――」
「えっ!? もしかしてこのまま目を覚まさないとか言うんですかっ! だってケガもしていないんですよっ! もしそんな事になったら、あの人はこの街にはもう――――」
「ぬ?」
更に深刻な表情に変わったナジメを見て、思わず声を荒げるクレハン。
それでも最後に出かかった、ある人物の名を口に出すのを思い留まる。
口に出したら最後、それが現実になるのを恐れての事だった。
あの人がこの街から去ってしまうと、最悪の展開を懸念しての事だった。
それは勿論『スミカ』と言う、駆け出しの冒険者で、ユーアの姉の名前だった。
この街、延いては、この国を救ってくれるであろう、未来の英雄の名前だった。
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