上 下
498 / 581
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

勝者と敗者は?

しおりを挟む



『ガウッ! やっぱり凄いなお前たちハッ! 俺を見てビビるどころか、真っ先に向かってくるなんて驚きダッ!』

 逃げる事無く、向かって来る姉妹を前にして、アドは心から称賛する。


「別にあなたに褒められても嬉しくありませんっ! 私たちはもっと褒めてもらいたい人がいますからっ!」

「そうだぞっ! 竜を倒したって言ったら、きっと褒めてくれるからなっ! だから覚悟しろよなっ!」

『ガウッ! 本当に面白いなお前たちハッ! ならこれを受けても同じ事を言えるかッ?』 

 どこか愉悦を感じる笑みを浮かべながら、姉妹に向けて魔法を操作する。 
 待機していた巨大な氷柱を、ナゴタとゴナタに向けて掃射する。


 ギュン――

 ゴガガガガ――――――ンッ!

「うぐっ! 固いけどワタシでも壊せるぞっ! でも、数が――――」

 掘削機のように、自身に迫りくる順番に氷柱を破壊していくゴナタ。
 だがその数の多さに、次第に能力が薄れていく。


 ヒュン――――

「速さはそれほどでもないけど、これ以上は――――」

 消耗を抑えるために、ギリギリで氷柱を躱し続けるナゴタ。
 いつ終わるか不明な数に、能力だけが消耗していく。
 
 ナゴタとゴナタが渡り合えたのは、ほんの一瞬だった。
 破壊しても避けても、無限に増え続ける氷柱に、次第に動きが鈍くなる。


「はぁ、はぁ、これいつまで続くんだっ! いい加減にしろっ!」
「ふぅ、ふぅ、いくら何でもこの魔力は異常だわ……」

 戦い始めてからものの数秒で、二人とも息を荒げていた。

 手も足も出せないどころか、本体のアドにさえ届かないままに、限界を迎えようとしていた。


「こ、これはヤベぇッ! このままだとナゴナタ姉妹が力尽きるのが先だッ! 無限に魔法が使えるとは思えねぇが、いつまで続くか予想が出来ねえッ! なんか手助けできるアイテムがないかッ?」

 次第に動きが鈍くなる姉妹を前に、藁にも縋る思いで、自身のマジックポーチに手を入れるルーギル。

 ガサッ

「おッ? これならアドの気を逸らせるかッ!?…… いんや、迷ってる暇はねぇッ! おいッ! ナゴタとゴナタッ! 目を閉じてろッ!」

「は、はい?」
「な、なんだって?」

 ブンッ!

 二人が目を閉じるのも確認無しに、握った物を空に向けて投げ放つルーギル。
 クルクルと回転しながら、筒状の物が三人の近くに届いた瞬間に、


 バシュンッ! ×10


「なっ!」
「うわっ!」
  
『ガウゥッ! ま、眩しいぞッ!? ん、フーナ姉ちゃん?』

 膨大な光が爆発するように弾け飛び、アドだけではなく、その効果は姉妹まで巻き込んだ。
 

 ルーギルが二人を手助けしようと空に放った物。

 それはスミカに貰った『閃光手榴弾』だったが、敵を前にした状況で、目を閉じる事が出来なかった姉妹までも巻き込んでしまった。
  
 そして、

  
 ヒュ―――――――ン

 ドゴォォォ――――――ンッ!!


「うぐぅっ!」
「んぎゃっ!」

 視界を遮られ、空中での制御が不能になった姉妹が墜落してきた。
 碌に受け身も取れないまま、無防備な態勢で地面に叩きつけられていた。


「お、おいッ! なんでお前らまで喰らってんだッ! 目を閉じろって言っただろッ!」

 派手に落ちてきた姉妹を心配して、直ちにルーギルが駆け寄る。


「く、あんな状況で目を閉じろなんて、それこそ自殺行為ですよっ!」
「ふざけんなよルーギルっ! さっきからお前はどっちの味方なんだっ!」

 無理難題を吹っかけてきたルーギルに、すかさず詰め寄る姉妹。
 こめかみに青筋を立て、涙目になりながら、拳を振り上げる。


「おわッ! でもあのままだとお前らがヤバかったろッ! だから俺が手助けしてやったんだッ! 現にお前らだけじゃなく、アドだって―――― へ?」

「はあっ!? それこそ私たちを巻き込んだら意味がないでしょうにっ! って、こんな時に一体どこを見てるのですか?」 

「そうだぞっ! ナゴ姉ちゃんとワタシはギリギリで閉じたけど、あれがモロだったら、ワタシたちの目が潰れたかもだぞっ! 本当にいい加減にしろよなっ! なあ、さっきから聞いてるのかっ!」

 恨み言の最中で、固まっているルーギルに激昂する。
 その当人はポカンと口を開け、空を見ながら放心している。


「いねぇ…………」

「は? 何の言い訳ですか?」
「なんだって?」

「アドがいなくなってんぞッ!」

「えっ!?」
「はっ!?」

 ルーギルの返答を聞き、慌てて視線の先を追うが、閃光が晴れた空には、大きな雲が広がっているだけだった。

 三人を覆っていた巨大な影も、あの禍々しい気配も霧散していた。


「な、なんでですか? もしかして、さっき使ったルーギルのアイテムで、あの巨体が跡形もなく消えてしまったんですか?」
  
 引き攣った笑みを浮かべながら、ルーギルを恐る恐る見るナゴタ。


「はぁッ!? ち、違うぜ、あれは単に――――」

「なぁっ!? そ、そんな危険な物をワタシたちに使ったのかっ!」

「いや、だから違うって、あれは目くらまし用のアイテムだッ!」

「はっ!? だって現にアドが消えてしまったではないですかっ! 何もあそこまでする必要はなかったはずですっ! あまつさえ死体さえ残らないなんて」

「そうだぞルーギルっ! ワタシたちは負けを認めて、ちゃんと謝ってくれればそれで良かったんだっ! なのに殺すだなんて酷いぞっ!」
 
「い、いや、だから俺はお前たちを手助けしようと――――」

「そんな余計な事をする前に、そもそもどうしてあなたは逃げなかったんですかっ! 自分の命を守れるほど強くはないでしょうにっ!」

「ナゴ姉ちゃんの言う通りだっ! お前がやられたら、どうお姉ぇに説明すればいいんだっ!」

「そんな事を言ったら、俺だって嬢ちゃんに説明できねぇだろうよッ! 近くにいたのに、お前たちを見殺しにしたみてぇでよォッ!」

 声を荒げる姉妹に、必死に言い訳を続けるルーギル。
 それでも追及をやめないナゴタとゴナタ。


 突然に訪れた結末に、三人は困惑し、それぞれに苛立ちを見せる。
 誰もが納得できない結果に、感情の抑えが効かなかった。


 こうしてアドがいなくなった事で、一応の決着を迎えた戦いだったが、後に残ったのは、苛烈な戦いの跡と、アドが消えた事実と、どうしようもないほどの虚無感だけだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...