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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
勝者と敗者は?
しおりを挟む『ガウッ! やっぱり凄いなお前たちハッ! 俺を見てビビるどころか、真っ先に向かってくるなんて驚きダッ!』
逃げる事無く、向かって来る姉妹を前にして、アドは心から称賛する。
「別にあなたに褒められても嬉しくありませんっ! 私たちはもっと褒めてもらいたい人がいますからっ!」
「そうだぞっ! 竜を倒したって言ったら、きっと褒めてくれるからなっ! だから覚悟しろよなっ!」
『ガウッ! 本当に面白いなお前たちハッ! ならこれを受けても同じ事を言えるかッ?』
どこか愉悦を感じる笑みを浮かべながら、姉妹に向けて魔法を操作する。
待機していた巨大な氷柱を、ナゴタとゴナタに向けて掃射する。
ギュン――
ゴガガガガ――――――ンッ!
「うぐっ! 固いけどワタシでも壊せるぞっ! でも、数が――――」
掘削機のように、自身に迫りくる順番に氷柱を破壊していくゴナタ。
だがその数の多さに、次第に能力が薄れていく。
ヒュン――――
「速さはそれほどでもないけど、これ以上は――――」
消耗を抑えるために、ギリギリで氷柱を躱し続けるナゴタ。
いつ終わるか不明な数に、能力だけが消耗していく。
ナゴタとゴナタが渡り合えたのは、ほんの一瞬だった。
破壊しても避けても、無限に増え続ける氷柱に、次第に動きが鈍くなる。
「はぁ、はぁ、これいつまで続くんだっ! いい加減にしろっ!」
「ふぅ、ふぅ、いくら何でもこの魔力は異常だわ……」
戦い始めてからものの数秒で、二人とも息を荒げていた。
手も足も出せないどころか、本体のアドにさえ届かないままに、限界を迎えようとしていた。
「こ、これはヤベぇッ! このままだとナゴナタ姉妹が力尽きるのが先だッ! 無限に魔法が使えるとは思えねぇが、いつまで続くか予想が出来ねえッ! なんか手助けできるアイテムがないかッ?」
次第に動きが鈍くなる姉妹を前に、藁にも縋る思いで、自身のマジックポーチに手を入れるルーギル。
ガサッ
「おッ? これならアドの気を逸らせるかッ!?…… いんや、迷ってる暇はねぇッ! おいッ! ナゴタとゴナタッ! 目を閉じてろッ!」
「は、はい?」
「な、なんだって?」
ブンッ!
二人が目を閉じるのも確認無しに、握った物を空に向けて投げ放つルーギル。
クルクルと回転しながら、筒状の物が三人の近くに届いた瞬間に、
バシュンッ! ×10
「なっ!」
「うわっ!」
『ガウゥッ! ま、眩しいぞッ!? ん、フーナ姉ちゃん?』
膨大な光が爆発するように弾け飛び、アドだけではなく、その効果は姉妹まで巻き込んだ。
ルーギルが二人を手助けしようと空に放った物。
それはスミカに貰った『閃光手榴弾』だったが、敵を前にした状況で、目を閉じる事が出来なかった姉妹までも巻き込んでしまった。
そして、
ヒュ―――――――ン
ドゴォォォ――――――ンッ!!
「うぐぅっ!」
「んぎゃっ!」
視界を遮られ、空中での制御が不能になった姉妹が墜落してきた。
碌に受け身も取れないまま、無防備な態勢で地面に叩きつけられていた。
「お、おいッ! なんでお前らまで喰らってんだッ! 目を閉じろって言っただろッ!」
派手に落ちてきた姉妹を心配して、直ちにルーギルが駆け寄る。
「く、あんな状況で目を閉じろなんて、それこそ自殺行為ですよっ!」
「ふざけんなよルーギルっ! さっきからお前はどっちの味方なんだっ!」
無理難題を吹っかけてきたルーギルに、すかさず詰め寄る姉妹。
こめかみに青筋を立て、涙目になりながら、拳を振り上げる。
「おわッ! でもあのままだとお前らがヤバかったろッ! だから俺が手助けしてやったんだッ! 現にお前らだけじゃなく、アドだって―――― へ?」
「はあっ!? それこそ私たちを巻き込んだら意味がないでしょうにっ! って、こんな時に一体どこを見てるのですか?」
「そうだぞっ! ナゴ姉ちゃんとワタシはギリギリで閉じたけど、あれがモロだったら、ワタシたちの目が潰れたかもだぞっ! 本当にいい加減にしろよなっ! なあ、さっきから聞いてるのかっ!」
恨み言の最中で、固まっているルーギルに激昂する。
その当人はポカンと口を開け、空を見ながら放心している。
「いねぇ…………」
「は? 何の言い訳ですか?」
「なんだって?」
「アドがいなくなってんぞッ!」
「えっ!?」
「はっ!?」
ルーギルの返答を聞き、慌てて視線の先を追うが、閃光が晴れた空には、大きな雲が広がっているだけだった。
三人を覆っていた巨大な影も、あの禍々しい気配も霧散していた。
「な、なんでですか? もしかして、さっき使ったルーギルのアイテムで、あの巨体が跡形もなく消えてしまったんですか?」
引き攣った笑みを浮かべながら、ルーギルを恐る恐る見るナゴタ。
「はぁッ!? ち、違うぜ、あれは単に――――」
「なぁっ!? そ、そんな危険な物をワタシたちに使ったのかっ!」
「いや、だから違うって、あれは目くらまし用のアイテムだッ!」
「はっ!? だって現にアドが消えてしまったではないですかっ! 何もあそこまでする必要はなかったはずですっ! あまつさえ死体さえ残らないなんて」
「そうだぞルーギルっ! ワタシたちは負けを認めて、ちゃんと謝ってくれればそれで良かったんだっ! なのに殺すだなんて酷いぞっ!」
「い、いや、だから俺はお前たちを手助けしようと――――」
「そんな余計な事をする前に、そもそもどうしてあなたは逃げなかったんですかっ! 自分の命を守れるほど強くはないでしょうにっ!」
「ナゴ姉ちゃんの言う通りだっ! お前がやられたら、どうお姉ぇに説明すればいいんだっ!」
「そんな事を言ったら、俺だって嬢ちゃんに説明できねぇだろうよッ! 近くにいたのに、お前たちを見殺しにしたみてぇでよォッ!」
声を荒げる姉妹に、必死に言い訳を続けるルーギル。
それでも追及をやめないナゴタとゴナタ。
突然に訪れた結末に、三人は困惑し、それぞれに苛立ちを見せる。
誰もが納得できない結果に、感情の抑えが効かなかった。
こうしてアドがいなくなった事で、一応の決着を迎えた戦いだったが、後に残ったのは、苛烈な戦いの跡と、アドが消えた事実と、どうしようもないほどの虚無感だけだった。
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