剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

アドの異変

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 スミカとフーナの戦いも、ようやく終焉を迎えそうな、その半刻ほど前。

 
 ドガンッ!

「がう? ゴナタはさっきの攻撃の方がもっと強かったぞっ! それとナゴタももっと速かったのに、もう疲れたのか?」

「いちいちうるさいなっ! そっちが硬すぎるんだってっ!」
「一体何が言いたいのですか? まだ私たちは余力を残していますよ」

 サロマ村に突如現れた、アドと対峙するナゴタとゴナタの双子姉妹。


 それと、この3人から少し離れたところでは――――

「今が嬢ちゃんに貰った、このアイテムの使い時だッ! だがまだ時機じゃねぇ、もっと確実な隙が欲しいぜッ!」

 姉妹の二人を援護しようと隙を伺い、真剣な眼差しを向けるルーギルもいた。


 だが、その決着は意外なものだった。

 思いがけない幕切れで、この戦いは終止符を打つこととなった。


 
――――


「がうっ!」

 ドガンッ!

「うぐぅ、なんだってそんな態勢で強力な攻撃が出来るんだっ!」

 振りかぶる動作も、力を溜める素振りもなく、ヒョイと突き出しただけのアドの拳を受け止めるゴナタは、アドとは対照的に表情を歪めていた。

 ウォーハンマーを盾に、『デトネイトHブーツ』の推力で下半身を踏ん張り、剛力の能力を使って何とか耐えるが、それも次の一撃を喰らったら、また武器ごと吹っ飛ばされるだろう。


「ゴナちゃんっ!」

「わかったぞっ、ナゴ姉ちゃんっ!」 

 タンッ

 ナゴタに呼ばれたゴナタは、すぐさま後ろに飛び退く。
 ハンマーをグルリと回転させ、アドの拳を弾いて下がる。

 その隙にナゴタが俊敏の能力を使い、瞬時にアドの間合いに入る。
 

「がう? なんだ今度はナゴタか。なら戦いはもう終わりか?」

 ゴナタと入れ替わったナゴタに、どこか不満そうな目で問い掛けるアド。
 小さな拳を開き、わかりやすく脱力している。


 そんな態度にナゴタは憤りを感じ、

「終わり? だって私がまだいるじゃないですか」

 鋭い視線で睨みつけ、両剣の切っ先を向ける。

「だってお前は速いだけで弱いだろ? ゴナタの方が楽しいぞ? がう」

「そうですか? ならその思い違いを正してあげますよっ!」

 ヒュッ

 アドに向けたままの切っ先を、ナゴタは最小限の動きで突き出す。

 ガンッ

「ほら、当たっても痛くないぞ?」

「なら、これはどうですか?」

 ヒュンッ

 両剣を引くと同時に、鋭い前蹴りを放つ。
 突きと同等以上の速度の蹴りは、アドの右脇腹に突き刺さるが、


「がう、痛くないぞ? やっぱりお前は非力なんだぞ。だから早くゴナタと交換――――」

「やはり引っ掛かりましたね」 

「がう? うが――――っ!?」

 アドの小さな体が破裂したように弾け飛び、後方に吹っ飛ぶ。
 蹴りを受けた右脇腹から薄っすらと、白い煙をあげながら。


「がうっ!? なんだ? 爆発したぞっ!?」

「まだ終わりませんっ!」

 シュ ン――――

 淡い光を体に纏わせ、飛んで行ったアドの姿を追う。
 
 そのまま能力を使用し、目に見えぬ程の鋭い蹴りを放つ。 
 両剣も併用して、四方八方から攻撃をする。


「うがっ! ぐがっ! どうして、うごぉっ! 爆発するんだっ! がうっ!」

 ナゴタの蹴りを喰らう度に、アドの小さい体が跳ねる様に弾ける。
 その弾け飛ぶ先にも回り込まれ、両剣での斬撃と、蹴りでの爆裂を数多に受ける。


 その爆発が起きる原因は、ナゴタの装備しているブーツ(アイテム)にあった。


 『デトネイトHブーツ』(サイズ・カラー調整可)

 地面を高速でホバー移動でき、攻撃にも使えるブーツ。
 蹴りの強弱によって、爆発の威力が変わる。


 このアイテムはスミカから受け取ったもの。
 強力なアイテムが保管されている、スミカのホームにあるストレージボックスのものだ。

 ナゴタの長所を活かし、尚且つ、弱点を補うものと与えられたもの。
 爆発の推進力でもっと速度を、足技には爆発を付与して、更に威力を上げるものだ。
 

「がうっ! ゴナタよりは強くないけど、体中がチクチクとうるさいぞっ!」

 その威力に、鬱陶しそうに腕を交差させて縮こまるアド。
 僅かでも被弾箇所を減らそうと、背中を丸めて防御態勢を取る。

 
「ようやく隙が出来ましたねっ!」

「がう? 隙?」

 絶え間なく続く爆発の中で、目だけを覗かせ首を傾げるアド。

「そうです。あなたは自然体が構えで、今見せたその動作が一般的なんです」

「がう?」

「まぁ、これを言ってもわからないでしょうね? 自然体がある意味、脅威だったと言っても。避ける事もかばう事もしないから、今までの攻撃が無意味だったなんて、不安に駆られる事も」 

「が、う?」

「ナゴ姉ちゃんっ!」 

「っと、おしゃべりはここまでみたいです。ようやく人間らしい隙を見せたあなたに、痛恨の一撃をお見舞いする時が来ました」

 ドガンッとアドの腕を下から蹴り上げ、すぐさま離れるナゴタ。
 
「がうっ!?」

 蹴りと爆発の威力で腕が弾かれ、驚くアドの顔が見える。

 そこへゴナタが、

「今度はさっきのとは違うぞっ! お姉ぇの力も加わってるんだからなっ!」

 猛スピードで滑走しながら、空いた右脇腹にハンマーをたたき込む。
 
 
 ドゴォォォォ――――――ンッ!!


 ブーツでの助走と遠心力、そして剛力の能力も加わって、威力が倍増されたゴナタの一撃。
 その強烈無比な一撃を受けたアドは、


「うがぁ――――――っ!」

 絶叫を上げながら、廃屋目掛けて吹っ飛んでいき、

「もう一撃ですっ!」

 ドガァ――――――ンッ!!

「んがぅっ!」

 壁に激突する寸前で、腹部に踵落としを喰らい、盛大に地面に叩きつけられる。
 俊敏の能力で追い付いたナゴタが、追い打ちとばかりに放ったものだった。


「さて、次は俺の出番だ――――」

 姉妹の攻撃を受けたアドの惨状を見て、ルーギルが潜んでいた廃屋から姿を現すが、


「がうっ! がうがうがうがうがうがっ――――!!」

 遠吠えのような雄たけびを上げて、ムクリとアドが立ち上がる。


「な、なんだぁッ!? あれほどの攻撃が効いてねぇのかッ!?」
「いえ、確実に効いてます。ゴナちゃんの攻撃を二度も同じところに受けたんですから」
「んあッ? そう言えばさっきも脇腹を押さえてたなッ?」

 それはルーギルの言う通りだった。
 限界を変えたゴナタの攻撃を受けた際も、左手で右の脇腹を押さえていた。

 だたその時の表情と態度からは、一時の痛みなのか、体に残るダメージを負ったのかの判断はできなかった。


「だけど今なら断言できます。ゴナちゃんの攻撃、そして私の攻撃も無駄ではなかったって事に」
「ん? ゴナタのだけじゃなく、ナゴタの攻撃もか?」  
「はい。お腹を押さえている手がおかしいのに気が付きませんか?」
「手?…… そう言えばさっきも――――」

「おいっ! ナゴ姉ちゃんとルーギル、なんかアドが変だぞっ!」

 駆け付けたゴナタが、ハンマーを構えながらアドの様子を伝える。

「はい、わかってるわ。ゴナちゃん」
「変だとッ? それは元々…… って、何やってんだぁッ?」

 ナゴタとゴナタとルーギルの三人が注目する中、


 ムニュムニュ

『――――もう、いいよな? メド姉ちゃん。俺、もう、我慢できない。だってコイツ等と戦うの、楽しい、ぞ、だからもうちょっと――――』 

 そんなアドは、身長に似つかわしくない巨大な胸を、何故か揉みしだいていた。
 虚ろな目で何かを呟きながら、無表情で行為を続けている。


「あ、あいつ一体何をッ!?」
「なんか急に大人しくなったな? もっと怒ってくると思ったのになっ!」
「…………はい、それが逆に不気味です。まるで嵐の前の静けさみたいで」

「……………………がう」

 予想外の反応に、各々が不自然さを感じる中、不意に片足を上げるアド。
 僅かに口角を上げながら、そのまま勢いよく地面を踏み抜く。


 ダンッ!


 ピキッ


「なッ!」
「はっ!?」
「いっ!?」


 ピキキキキキ――――――――ンッ!!


 地面を踏みしめたアドの足元から、波紋のように冷気が迸り、ナゴタたち三人を襲った。


「何だこれはッ! 魔法かッ!?」
「そ、それよりも足がっ!?」
「ワ、ワタシの武器が地面と一緒にっ!?」

 アドから放たれた冷気によって、一瞬で膝上まで凍り付いた三人。
 ゴナタは愛用のハンマー地面に降ろしていたために、同時に凍り付いていた。


「がう、ちょっとだけ約束破るぞっ!」

 動けない三人に向かって、何かを決心ようにゆっくりと歩を進める。
 凡そアドには似つかわしくない、妖しい笑みを浮かべたままで。 



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