剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

初級魔法とスミカの全力

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「わたしは簡単な魔法しか使えないんだよ~っ!」

「うぇっ!?」

 フーナから出た予想外の答えに、思わず声が裏返る。

 そんなフーナは、私を鋭く睨む視線とは裏腹に、目には涙を溜めていた。
 しかも頬っぺたをプクぅと膨らませて、かなりご立腹の様子だ。
 
 もしかして、触れてはいけないところだったのだろうか?


「だから上の魔法とか知らないし、魔法書があっても文字が読めないから、中級以上の魔法は使えないんだよ~っ! もぉっ!」

「いや、だって大規模な魔法を使ってたでしょ?」

 やはり逆鱗に触れてしまったようで、がなり立てる様に叫びだす。
 なのでその矛盾を突いて確認してみる。


「あれは魔力量で調整してるんだよっ! それは出来る様になったからぁっ!」

「そ、そうなの? でも現に魔法は使えてるでしょ? あれはどうやって覚えたの? あ、もしかして誰か師匠がいるとか?」

 文字が読めないとすれば、最後の方法しかないはず。

「あれは大好きなリフレに、直接頭の中に魔法の内容を入れてもらったんだよ~っ!」

「ん? 直接脳内にインプットしたって事? そんな魔法あるの? それとリフレって、もしかして現実の友達って事?」

 ピンク色の髪の毛を見ながら、マジマジと聞き返す。
 特にリフレって言葉が気になる。


「うん、多分そうだと思う。でもその子が持っていたのが、挿絵付きの魔法書で『アリでも使える魔法入門書(初級編)』ってやつだったんだよぉ。 あ、リフレはリトルガールフレンドの略だよぉ」

「…………なんで引き合いに蟻なのかは置いておいて。その魔法書が入門編しかないから、フーナが使える魔法も初級魔法しかないって事?」

 リフレの意味はわかったけど、敢えて無視する。
 聞いてもいいけど、藪蛇になりそうだし。
 
「そうなんだよ。それでメドにも教えてもらおうとしたんだけど、私たちと言語が違うからって、難しいって言って教えてくれなかったんだよぉ。だから簡単な魔法しか使えないんだよぉ~ ううう……」

「………………」

 衝撃の事実だった。

 あれだけの魔法を放っておいて、使っていたのは初歩のもの。
 魔法には詳しくない。けど、あの威力が異常だってことはわかる。


『ん~、内包する力と知識が伴ってない感じかぁ。いくら馬力があっても、それを扱える技術が未熟だってことだよね? その見た目通りにチグハグな組み合わせだよ』

 でも強い。単純に強い。

 この世界はもちろん、元の世界でも相対した事ないほどに。
 
 だから中身と技術が伴ってないのなんて、この際些細なこと。
 それ程フーナの持っているポテンシャルは高い。

 でも逆に言い換えれば、このフーナはまだまだ成長する。
 これでまだ未完成なのだから、その伸びしろが予想できない。

 もしも使い方をマスターすれば、ほぼ敵なしの、それこそ文字通りの『無敵』になるだろう。 


「…………ふふ、面白いなぁ」
 
 思わず本音が口から零れる。

「はぁっ!? ぜんっぜん面白くないよっ! 一応オリジナルの魔法もあるけど、それだって制御が難しいから滅多に使えないしっ! 初級だけじゃカッコ悪いしっ!」

「ああ、ごめんごめん。そうじゃなくて、フーナがまだ成長段階なのがおかしくて、ちょっと声に出ちゃったんだよね。まだまだ先がありそうで楽しみだなって思ってさ」

 勘違いしたフーナに謝りながら、思った事を正直に吐露する。

「そうなの? でも楽しいってなんで? お姉さんはわたしに勝てないのに?」

「ん~、それは否定できないんだけどね。 でも自分の中の価値観や常識を超えた何かを見たいって、そういう衝動あるよね? 怖いもの見たさみたいなの。そんな感じ」

「ふ~ん、わたしは怖いのが嫌いだからそれはわかんないなぁ~」

「まぁ、そうだよね。そういう感情は人それぞれだからね。 あ、そう言えば、また魔法少女になれないの? さっきの大人の姿になったやつ」

 今の状態の、ちんまい姿を見て確認する。

「ん~、まだできるよ。でもあれはわたしのオリジナルで、魔力の消費も激しいから、まだ不安定なんだよね。だからあまり長い時間は出来ないよ? さっきみたいに途中で戻っちゃうから。でもなんで?」

 不思議そうに、指を頬に当てながら聞き返してくる。
 てか、元に戻ったのって、時間が原因じゃないよね? 


「ちょっと全力を出そうと思ってさ。だから変身してくれる?」

「全力? ああ、さっき言ってたやつだっ! 負け惜しみみたいなのだっ!」 

「負け惜しみね? まだ見てもいないのに随分な言いようだね。なにか確証があるの?」

 腕を組み、薄目で見ながらフーナの答えを待つ。

「わたしだって色んな敵と戦ってきたんだもん。お姉さんがわたしに勝てないのなんて、今まで戦ってきてわかるもんっ! 全力出したって無駄だよっ!」

「ふ~ん、要は今までの冒険者としての経験則で、相手の強さが分かるって事だよね?」

 自信ありげに胸を張るフーナに聞き返す。

「うん。お姉さんもかなり強い方だけど、わたしはもっと強いのと戦ったことあるから。昔なんて、女神の魔物が現れて―――― って、最後のは何でもないっ! でもそんな感じだよっ!」

 最後だけは慌てたように訂正して、そう話を締めくくる。 


『…………なるほどね』

 フーナの持つ自信の根源が分かった気がする。

 女神の魔物が何なのかは不明だけど、かなり手強かったのは、話の流れでわかる。
 それと長年冒険者に身を置いてるだけあって、相手とも戦っているし、の場数も踏んでいる。

 更に付け足すなら、自分の実力も把握しているからこそ、私との戦いに自信があるのだろう。


「――――パンプ〇・ピン〇ル・ト〇ポップンッ! 大人になあれっ!」

 なんて思案している最中に、フーナの変身が完了する。

 そして眩い光と共に、自称魔法少女が姿を現し、


「ジャキ――――ンっ! 私の夢は可愛い幼女だけの街を作る事っ! それがマイドリームっ! その為にお小遣いを貯めてるんだっ!」

 そして決め台詞を、さっきと同じポーズで言い放った。

「………………」

 だけど願望っていうか、最低で最悪に改悪されたセリフになってるけど。
 全く共感できない、お小遣いの使い道を暴露したんだけど。


「よしっ! なら私も5秒だけ見せるよ」

 変身を終えた姿を見て、私も覚悟を決める。

「え? もしかしてお姉さんも変身っ!? でも5秒って?」

「フーナも今までかなりの相手と戦ってきたんだね? 魔物や人もそうだけど、それこそ人知を超えたおかしな存在とかも。さっきも女神とかって言ってたし」

「うぇっ!? ま、まぁね、変なのいっぱいいたよっ!」

 目を逸らしながら、慌てて答える。
 あまり触れられたくない内容らしい。


「ならその中に異世界人っていたの? 私やフーナみたいに、他の世界から来たプレイヤーとか」

「ぷれいやー? お、お姉さんも、もしかして――――」

「『Safety安全 device装置 release解除 MAX最大』――――」

「えっ?」

「――――『dix』」

 リミッターを一気に最大まで解除し、刹那の間でフーナに詰め寄る。

 パンッ

「うごぉっ!」

 破裂音と同時に、苦悶の表情でくの字に体を折るフーナ。
 全く反応出来ずに、打たれた腹部を両手で押さえ、激痛に悶えている。


『う、くっ、やっぱり体への負担が半端ないっ!』

 ようやくダメージを与えようだが、全身への負荷が尋常ではない。
 脳が破裂しそうな頭痛と、四肢が千切れそうなほどの激痛が私を襲う。


『残り4秒。ここで決めないと………… 私の負けだ』

 唇を強く噛み、最後で最大の攻撃をフーナに仕掛けた。


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