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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
翻弄されるアド
しおりを挟む「あの赤いおっぱいの姉ちゃんを追いかけなくていいのか? がう」
こちらにトコトコと歩いてきたアドは、ゴナタが消えていった方向を指差し、不思議そうにナゴタの顔を見る。
「…………意外、ですね? 唐突にそっちから仕掛けておいて、何故あなたが妹の心配をするのでしょうか?」
指差す方向には目もくれず、油断なくアドの動きだけに注視するナゴタ。
「がう、あれはお前の妹だったのか? 名前はあるのか?」
「当たり前です。 名前はゴナタで、私は双子の姉のナゴタです」
質問の内容に、どこか違和感を感じながら返答する。
「双子? その割には姉ちゃんのほうが弱いな。がう」
「弱い? 私が? また何を基準に言っているのですか?」
「さっき俺の攻撃をお前が武器で防いだ時、全然強くないと思ったんだぞ。あっちのゴナタの方が何十倍も強かったぞ。あの攻撃はかなり痛かったんだぞ。ほら」
そう言いながら更に近づき、手を見せる様に差しだす。
「いえ、何もないのですが?…………」
目立った傷も痣も見当たらず、その行動に戸惑う。
「がう? ほら、ここをよく見てみろ。少し白くなってるだろ?」
「そうですね、少しだけ色が違うように見えますが…………」
確かに左手のコブシの先が薄っすらと白茶けていた。
面と向かって教えられなければ、気付けないほどに。
「だろ? こんなのは久し振りだぞっ! 何とかの王女や、どこかの絶壁のゆうしゃ? あとは真っ赤な鎧の奴にやられた以来だぞ? 最後のはもうちょっと強かったけどなっ! がうっ!」
傷らしき箇所を撫でながら、どこか得意げに話すアド。
その強さ故、汚点にもなりかねないというのに笑顔を浮かべていた。
ただそれとは対照的に、話を聞いたナゴタの表情は険しくなる。
「なるほど、良くわかりました。あなたが何を伝えたいのか――――」
ゆっくりと数歩下がり、アドの全身を視界に収める。
「がう?」
「要するに、私たちはその程度だと言いたいんですよね? そんな傷だか痣だかを付けられるのが精一杯だと。どんなに鍛錬しても、そこまでが限界なんだと」
「……まぁその通りだなっ! 強いって言っても所詮人間だからなっ! 年を取るほど弱くなるし、簡単に死んじゃうだろ? だから鍛錬なんてしたって無意味だぞっ!」
それが真理とでもいうように、腰に手を当て極論を豪語する。
「…………なるほど。やはりそれがあなたの考えなのですね? そう言えばついさっき、あなたは私の方がゴナタより弱いって言ってましたよね? 何故ですか」
「がう、お前は非力過ぎだぞ。今まで戦った中でも弱い方だ」
「確かに。私はそれほど腕力に関しては自信ありません。自分でもそれは理解しています。恐らく同じランクの中でも劣っている方かもしれません。ただし――――」
「がう、そうだと思うぞ。だから――――」
「ただしそれは、あなたの中の偏った基準ですよね?」
両剣を構えなおし、グッと腰を下げ、後ろ足に力を込める。
まるで弓を引き絞る狩人のように、その矢が放たれる合図を待つ。
「がう? そうだぞ。強いってのは元々強いんだ。フーナ姉ちゃんみたいに圧倒的な力でねじ伏せる事を言うんだぞ。だからお前は見込みないぞ。もう強くなるのは諦めた方がいいぞ?」
「あなたの言いたいことはわかりました。なら、その圧倒的な力で、ゴナちゃんがあなたにされたように、私があなたを軽くあしらってあげましょう。ただし、同じ力でも私のは――――」
「がう?」
シュ ――――ン
「腕力ではなく、脚力ですけどね」
「がうっ! どこ行ったんだっ!?」
目の前から忽然と消えた、相手の動きに驚愕する。
ナゴタは自身の能力を使い、更に速度を上げていく。
ナゴタの持つ特殊能力
『20 times.Agility』
先天的に持つ俊敏性を、更に一時的だが20倍まで上昇できる。
これが『神速の冷笑』と呼ばれたナゴタの能力。
未使用時でも一般人ならば、消えたように錯覚する。
それを20倍まで引き上げる。
放たれる矢よりも速く、常人では全く視認できないくらいに。
「がうっ? どこ行った…… うがっ!? こっちだ」
シュン――
「違います。あなたの後ろです」
「がう、速いだけの攻撃なんて、俺には――――」
「通じないでしょうね?」
「がうっ!? 今度は目の前に、むぐぅ――――」
シュン――
「ではないですよ、今は上です。そして――」
ガンッ!
「ぐぅっ!?」
シュン――
「次は全方位です」
ガンッ ガガンッ
ガガガガガガガガガ――――――
「がうっ!?」
蜃気楼のような淡い光を纏い、幾度も両剣で斬りつけるナゴタ。
その動きを捉えられないアドは、全ての攻撃をまともに受ける。
それでも尚、
「がうっ! 痛くはないけど鬱陶しいなっ!」
三桁に届く攻撃を受けても尚、未だ無傷のアド。
速度と手数で圧倒していても、ダメージには繋がっていない。
『くっ、これは予想以上に硬いわ。ゴナちゃんの戦いを見てわかってたつもりだけど、攻撃を仕掛けるこっちの手が痺れるなんて、まるで…………』
両親から聞かせてもらった、昔話のドラゴンのようだ。
分厚く強靭な鱗で、弓矢はもちろん、剣でさえも歯が立たなかったという。
大規模な上級の魔法でさえも、跳ね返したとされている。
『だからといって、ここで弱音を吐くことは出来ない。雨粒のような私の攻撃だって、大岩にも穴を穿つ事が出来るはずだわ。それにはもっと速度と手数と集中を、そして一点に攻撃を――――』
長期戦は覚悟していた。
出会った時から予想していた。
一筋縄どころではない。
今のままでは敵わないとさえ予感していた。
だから、
『ぐっ!』
キュ ン――――
更に速度を上げる。
限界を超えても尚、上を目指して回転を上げていく。
「んッ? なんだぁッ? アドの周りがボヤけて――――」
ずっと手が出せずに見ていた、ルーギルだけはその異変に気付く。
巻き込まれないようにと、距離を取っていたからこそ見えたものがあった。
アドを中心に半径10メートル程の範囲を、蒸気が覆っていたことに。
余程目を凝らさないと視認できないが、薄青い霧のようなものが発生していた。
「な、なんだぁ、これはッ!? まるで竜巻みてぇに渦巻いてんぞッ!? これはアドを逃がねぇように霧が覆ってんのかッ!?」
目の前の現象を上手く説明できない。
そもそもどっちが優勢かも視認できない。
ただわかっている事は、結界のように薄青い何かがアドを覆っている。
その中で弾かれるように、何度も体勢を崩す小さな姿が見える。
ルーギルが見ているもの。
『ぐ、はぁ、はぁ――――』
それは、能力の限界を超え、体から薄青のオーラを出し続けるナゴタの姿だった。
竜巻のように覆って見えたのは、その速さ故に見えた幻影だった。
「がうっ! むぐぅっ!? ちくしょうっ! 俺の、あがっ!? 攻撃が全然、うがっ! 当たらないぞっ! うが~~っ!」
空回りする自身の攻撃と、ナゴタを捉えられない事で悔しがるアド。
防御も回避も間に合わないままに、百を超える斬撃を受け続けている。
『はぁ、はぁ、さすがにもう体力が…… それに足も腕も限界が近い。でもそろそろ――――』
一時的だったとは言え、限界を超えた能力の反動は凄まじく、一気にナゴタの体力を奪っていた。体中が軋みを上げる中、それでも緩めることはしない。
だが、ナゴタの意志とは反して、その速度は落ちていく。
強い気持ちだけでは消耗を抑えられない。
「ナ、ナゴタッ!? 危ねぇッ!」
「はぁ、はぁ、はっ!?」
そしてついにナゴタは失速し、荒げた呼吸のまま姿を現す。
両剣を構えたまま、目を見開き、アドの前で立ち竦む。
「がうっ! 今までのお返しだぞっ!」
「くっ」
ブゥンッ!
その好機を逃さずに、間髪入れずアドが拳を振り抜く。
ゴナタを武器ごと吹っ飛ばした、その剛拳を叩きつける。
ところが、
「うぎゃっ――――――!!」
ドゴォォォ――――――ンッ!
ナゴタに攻撃が当たる瞬間に、吹っ飛んでいったのはアドだった。
小さい体が小石のように飛ばされ、数軒の廃屋を貫き、姿が見えなくなる。
「ただいまっ! ナゴ姉ちゃん」
そこへ、ハンマーを担いだゴナタが笑顔で姿を現す。
薄赤いオーラを纏いながら、双子の姉に声をかける。
「もう、待ちくたびれたわよ。ゴナちゃん」
武器を下ろし、双子の妹に笑顔で答える。
「ごめんなっ! お姉ぇに貰ったブーツがまだ上手く使えなくてさっ!」
「やっぱりお姉さまに助けてもらったのね。そうよね、その装備は、まだ練習の途中だから仕方ないわよ」
ゴナタの足元を見る。
スミカに渡された『デトネイトHブーツ』を装備していた。
「うん、それよりも、そろそろ戻ってくるわよ?」
「そうだよな~っ! でも手応えあったからダメージはあったと思うぞ」
「なら今度は二人で戦いましょう。そうじゃないと太刀打ちできないから」
ナゴタもブーツを装備し、スミカに貰ったレーションを口に含み回復する。
その途端に、
「うが――――――――っ!!」
甲高いアドの絶叫と共に、数十メートル先の廃屋が弾け飛んだ。
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