剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

チンプンカンプン

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「ん、なんでメドは大人しく見てる。それと澄香はどうしてここに? フーナはどうしたの? なんでマヤはまだ動ける? あとマヤの頭に付いてるのなに?」

 橋の上のメドや、目の前の澄香。さっきまでフーナがいた湿原の向こう。それと頭に生えた何かを触りながら、息継ぎなしで一気に質問する。
 目覚めた時の状況が、劇的に変化していて混乱する。


「いや、そんなに聞かれても、あまり時間ないよ?」 
「ん? 時間ない。なんで?」 

 見るからにソワソワしている澄香。
 さっきから湿原の向こうを気にしている。

「あっちは実体分身に任せてるんだよ。なんかフーナが話がしたいって言うから、その隙をついてこっちに来たんだよ。なんか変な感じの影が見えたから」

「ん、変な影」

 それは『ククリナイフ弐 隠遁式』を使用した影響だとわかる。

「そ、だから試しに『発光』の能力で一気に照らしたら、パッと掻き消えて、その中からマヤメとメドが出てきたんだよ。で、衰弱したマヤメには、そのアイテムを着けたんだ」

「ん? これ?」

 一本だけヒョイと長い、髪の毛のようなものを引っ張る。

「そう。その効果は後で説明するよ。それも試しに使ったものなんだけど、今のところ問題なさそうで良かったよ」

 安堵した表情に変わり、ポンポンと頭を叩く。

「ん、やっぱり澄香が、マヤを――――」
「あ、あと、メドの事なんだけど」 
「ん」
「話があるって」
「ん?」

「ん」

 澄香に言われメドに視線を向けると、軽く頷いている。
 表情からはなにも読み取れないが、さっきよりも敵意が薄れたのだけはわかった。

『ん――――』

 だけど、

「じゃ、そんな訳だからもう行くよ。あの感じだともう戦わないだろうし」

 チラとメドを一瞥して背中を向ける澄香。
 視線はフーナがいるであろう方向を見ている。

「ん、待ってっ!」
「なに?」

 ここを離れようと踵を返す、澄香の背中に声をかける。

「ん、まだ終わってないっ!」
「なにが?」
「マヤとメドの戦い」
「えっ!? でも、マヤメではメドに――――」
「んっ! そんなの理解してるっ! でもまだ終わってないっ!」

 澄香、そしてさっきまで戦っていたメドを見て声を張る。

 それは強がりや、負け惜しみなどでは決してない。

 敵わないのは最初からわかっていた。 
 手を抜かれてるのも途中から気付いていた。

 でもそうじゃない。

 このまま助けてもらうだけでは、今後一緒にいられない。
 これからも何かあるたびに、きっと救いを求めてしまうから。

 だって私は助けてもらいたいのではなく、ずっと傍にいたい。
 他のシスターズのように、胸を張ってシスターズを名乗りたい。
 
 このまま負けるわけにはいかない。
 助けを期待するだけの存在にはなりたくない。

 だから私は戦う。
 心まで負けてしまっては、この先もずっと独りになるから。 


「ん、ワタシもそれでいい。あなたが納得しないならまだやる」

 見ているだけだったメドが、ようやく口を開き返答する。 
 
「ん、なら今度は――――」

「ちょっと待ったマヤメっ! これ以上続ける理由ってなに?」

 メドと私の間に入り、どこか納得できない表情の澄香。

「ん………… これからのマヤに必要なこと」
「必要って?」
「ん、覚悟みたいなもの。それと悔しい」

 メド、そして澄香の目を見てそう答える。

「…………わかった。ならマヤメが納得できるまで戦いなよ。でも今度は助けに来れないよ? フーナもようやく本気になったっぽいし」

「ん、それでいい。マヤはきっと勝つから心配しないで」
 
「そう。でもまた無茶したら本気で怒るからね? それじゃあ、私は行くよ」

「ん、ありがとう。澄香」

 遠のく後ろ姿に頭を下げて感謝する。
 羽根を揺らして去っていく、大きな背中を、また追い駆けたいと願って。
 

「ん、それじゃ始める。今度は魔法と格闘も使う」

「ん、望むところ」

 こうして澄香が去った後で、メドとの再戦が始まった。

 今度は誰かの為にだけ、じゃなく、私自身の未来の為に戦う。


――――


 ※スミカ視点。

「こっちは何とかするから、マヤメも頑張りなよ。どんな理由があるか知らないけど、その覚悟は大切な人が喜ぶだろうから」

 湿原を少し離れたところで、さっきのマヤメを思い出す。
 感情の起伏がわかりにくい分、逆にその本気さが伝わった。
 
 本音を言えば心配でしょうがなかった。
 メドからは敵対する意思がないように見えたが、それでも不安を払拭できない。

 私が間に合わなければ、あの時マヤメは活動を停止していただろうから。


「また無茶されても、私は駆け付けられない。もう余裕がないんだよね」 

 さっきマヤメに説明した通りに、実体分身をフーナの元に残して駆け付けた。
 提案がどうとか言っている隙に、気配を分身体に移し、本体の私は透明化して、二人の戦い場に急いだ。

 その道中に組み合っている二人から暗闇が溢れ、それに飲み込まれた。
 私はその光景を目の当たりにし、絶句した。
 
――

「な、なんなのこれ?……」

 小さなブラックホールのような闇の空間を前に、一瞬言葉を失った。

 そこでなりふり構わずに『発光』の能力で最大出力の閃光を放ってみた。
 暗闇に対抗するには光だろうと、あの時はそれしか考えられなかった。

 結果的にはそれで二人を救出することに成功したが、マヤメだけが無事ではなかった。

 橋の上に横たわったまま、全く動かないマヤメ。
 白い肌が侵食されるように、影の色に変色していく。

 まるで存在そのものを上書きするように、黒く塗り潰されていく。


「ん、まさかこんな事になるなんて……」

 その脇でメドは、私がいる事にも気付かずに茫然としていた。
 メドにとってもきっと、予想外の出来事だったのだろう。


「あのさ、今は休戦しない?」

 何か手立てがないかと頭を巡らしながら、立ち竦むメドに提案する。

「ん、それでいい」
「うん、ありがとう。それでマヤメはどうしてこうなったの?」
「ん、ワタシに抱き着き、自分の胸にナイフを刺した」
「自分に? なんで?」
「ん、きっとそれで発動するアイテムなんだと思う。自分の命を燃料にワタシを閉じ込めたんだと思う」

 マヤメの傍に落ちている、黒いナイフを指差しそう告げる

「命を燃料に、か? わかった。ならもしかしたら、これで――――」

 アイテムボックスからあるものを取り出し、マヤメに装着する。
 黒に侵食されていた肌が、瞬く間に肌色に塗り替えられていく。

「ん…………」

 その直後、マヤメが僅かに身じろぎをした。
 意識は戻らないが、どうやら窮地を脱したようだ。


 私がマヤメに使ったアイテム、それは、

『メンディングロッド』

 マシン系に装着する事で、修理と補給を同時に行うアイテム。
 長さ20センチほどで、普段は先端が垂れ下がったロッド。
 装着箇所に合わせて色が変化し、周りから目立たなくする
 夜の時間帯に充電し、充電中は雷のような形状で立っている。



「ふぅ~、これで後は様子見だね」

 全身の色が、いつもの肌に戻ったのを見てホッとする。
 これで最悪の状況にはならないだろう。
 頭に着けちゃったので、アホ毛に見えるのはご愛敬だけど。


「んっ! 何そのアイテムっ! もしかして蝶の英雄も…………」

「で、目を覚ましたらどうする? まだ戦うってなら、私が二人を相手にするよ? マヤメに要因があったとしても、ここまでされたら黙っていられないからね』

 驚くメドの言葉を遮り、キッと威圧を込めて睨む。

「ん、戦わない。もうわかったから」
「本当に? でも、わかったって何?」
「ん、それはまだ言えない。でも戦わない」
「………………そう」

 何か腑に落ちないが、戦う意志がないのならそれでいい。
 今はメドを怪しがるよりも、マヤメの方が優先だから。 


「…………ん、それと――――」
「なに?」
「もし目が覚めたら、話したいことある」
「マヤメに?」
「ん」

 横たわるマヤメを見ながら、コクンと微かに頷く。

「う、ん………… 眩しいっ!」

 ちょうど話が終わったタイミングで、その当人が目を覚ました。

「眩しい? もしかして寝ぼけてる? それとも――――」
「んっ! 澄香なんでっ!? ん? ここは橋の上?」
「そうだよ。体は大丈夫みたいだね?」

 眩しいとか言ってたけど、私も含め、周りも見えているようで安心した。

 そしてその後、メドとの再戦を望んでいたから、私はフーナのところに戻った。
 今まで感情をあまり出さなかったが、その目に確固たる決意と覚悟を感じたから。

 だからか、メドとの再戦は今のマヤメにとって、きっと大事なものだろうと察した。
 不安は拭えないが、それでも生きようとする、強い意志を感じたから。


「よし、なら次は私の番だ。こっちは色々とキツそうなんだけど、その分収穫もあったから文句も言ってられないからね。それとキューちゃんたちの件もあるし」

 メニュー画面、そして、さっきのマヤメを思い出して、一人気合を入れなおした。


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