剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
475 / 586
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

チンプンカンプン

しおりを挟む



「ん、なんでメドは大人しく見てる。それと澄香はどうしてここに? フーナはどうしたの? なんでマヤはまだ動ける? あとマヤの頭に付いてるのなに?」

 橋の上のメドや、目の前の澄香。さっきまでフーナがいた湿原の向こう。それと頭に生えた何かを触りながら、息継ぎなしで一気に質問する。
 目覚めた時の状況が、劇的に変化していて混乱する。


「いや、そんなに聞かれても、あまり時間ないよ?」 
「ん? 時間ない。なんで?」 

 見るからにソワソワしている澄香。
 さっきから湿原の向こうを気にしている。

「あっちは実体分身に任せてるんだよ。なんかフーナが話がしたいって言うから、その隙をついてこっちに来たんだよ。なんか変な感じの影が見えたから」

「ん、変な影」

 それは『ククリナイフ弐 隠遁式』を使用した影響だとわかる。

「そ、だから試しに『発光』の能力で一気に照らしたら、パッと掻き消えて、その中からマヤメとメドが出てきたんだよ。で、衰弱したマヤメには、そのアイテムを着けたんだ」

「ん? これ?」

 一本だけヒョイと長い、髪の毛のようなものを引っ張る。

「そう。その効果は後で説明するよ。それも試しに使ったものなんだけど、今のところ問題なさそうで良かったよ」

 安堵した表情に変わり、ポンポンと頭を叩く。

「ん、やっぱり澄香が、マヤを――――」
「あ、あと、メドの事なんだけど」 
「ん」
「話があるって」
「ん?」

「ん」

 澄香に言われメドに視線を向けると、軽く頷いている。
 表情からはなにも読み取れないが、さっきよりも敵意が薄れたのだけはわかった。

『ん――――』

 だけど、

「じゃ、そんな訳だからもう行くよ。あの感じだともう戦わないだろうし」

 チラとメドを一瞥して背中を向ける澄香。
 視線はフーナがいるであろう方向を見ている。

「ん、待ってっ!」
「なに?」

 ここを離れようと踵を返す、澄香の背中に声をかける。

「ん、まだ終わってないっ!」
「なにが?」
「マヤとメドの戦い」
「えっ!? でも、マヤメではメドに――――」
「んっ! そんなの理解してるっ! でもまだ終わってないっ!」

 澄香、そしてさっきまで戦っていたメドを見て声を張る。

 それは強がりや、負け惜しみなどでは決してない。

 敵わないのは最初からわかっていた。 
 手を抜かれてるのも途中から気付いていた。

 でもそうじゃない。

 このまま助けてもらうだけでは、今後一緒にいられない。
 これからも何かあるたびに、きっと救いを求めてしまうから。

 だって私は助けてもらいたいのではなく、ずっと傍にいたい。
 他のシスターズのように、胸を張ってシスターズを名乗りたい。
 
 このまま負けるわけにはいかない。
 助けを期待するだけの存在にはなりたくない。

 だから私は戦う。
 心まで負けてしまっては、この先もずっと独りになるから。 


「ん、ワタシもそれでいい。あなたが納得しないならまだやる」

 見ているだけだったメドが、ようやく口を開き返答する。 
 
「ん、なら今度は――――」

「ちょっと待ったマヤメっ! これ以上続ける理由ってなに?」

 メドと私の間に入り、どこか納得できない表情の澄香。

「ん………… これからのマヤに必要なこと」
「必要って?」
「ん、覚悟みたいなもの。それと悔しい」

 メド、そして澄香の目を見てそう答える。

「…………わかった。ならマヤメが納得できるまで戦いなよ。でも今度は助けに来れないよ? フーナもようやく本気になったっぽいし」

「ん、それでいい。マヤはきっと勝つから心配しないで」
 
「そう。でもまた無茶したら本気で怒るからね? それじゃあ、私は行くよ」

「ん、ありがとう。澄香」

 遠のく後ろ姿に頭を下げて感謝する。
 羽根を揺らして去っていく、大きな背中を、また追い駆けたいと願って。
 

「ん、それじゃ始める。今度は魔法と格闘も使う」

「ん、望むところ」

 こうして澄香が去った後で、メドとの再戦が始まった。

 今度は誰かの為にだけ、じゃなく、私自身の未来の為に戦う。


――――


 ※スミカ視点。

「こっちは何とかするから、マヤメも頑張りなよ。どんな理由があるか知らないけど、その覚悟は大切な人が喜ぶだろうから」

 湿原を少し離れたところで、さっきのマヤメを思い出す。
 感情の起伏がわかりにくい分、逆にその本気さが伝わった。
 
 本音を言えば心配でしょうがなかった。
 メドからは敵対する意思がないように見えたが、それでも不安を払拭できない。

 私が間に合わなければ、あの時マヤメは活動を停止していただろうから。


「また無茶されても、私は駆け付けられない。もう余裕がないんだよね」 

 さっきマヤメに説明した通りに、実体分身をフーナの元に残して駆け付けた。
 提案がどうとか言っている隙に、気配を分身体に移し、本体の私は透明化して、二人の戦い場に急いだ。

 その道中に組み合っている二人から暗闇が溢れ、それに飲み込まれた。
 私はその光景を目の当たりにし、絶句した。
 
――

「な、なんなのこれ?……」

 小さなブラックホールのような闇の空間を前に、一瞬言葉を失った。

 そこでなりふり構わずに『発光』の能力で最大出力の閃光を放ってみた。
 暗闇に対抗するには光だろうと、あの時はそれしか考えられなかった。

 結果的にはそれで二人を救出することに成功したが、マヤメだけが無事ではなかった。

 橋の上に横たわったまま、全く動かないマヤメ。
 白い肌が侵食されるように、影の色に変色していく。

 まるで存在そのものを上書きするように、黒く塗り潰されていく。


「ん、まさかこんな事になるなんて……」

 その脇でメドは、私がいる事にも気付かずに茫然としていた。
 メドにとってもきっと、予想外の出来事だったのだろう。


「あのさ、今は休戦しない?」

 何か手立てがないかと頭を巡らしながら、立ち竦むメドに提案する。

「ん、それでいい」
「うん、ありがとう。それでマヤメはどうしてこうなったの?」
「ん、ワタシに抱き着き、自分の胸にナイフを刺した」
「自分に? なんで?」
「ん、きっとそれで発動するアイテムなんだと思う。自分の命を燃料にワタシを閉じ込めたんだと思う」

 マヤメの傍に落ちている、黒いナイフを指差しそう告げる

「命を燃料に、か? わかった。ならもしかしたら、これで――――」

 アイテムボックスからあるものを取り出し、マヤメに装着する。
 黒に侵食されていた肌が、瞬く間に肌色に塗り替えられていく。

「ん…………」

 その直後、マヤメが僅かに身じろぎをした。
 意識は戻らないが、どうやら窮地を脱したようだ。


 私がマヤメに使ったアイテム、それは、

『メンディングロッド』

 マシン系に装着する事で、修理と補給を同時に行うアイテム。
 長さ20センチほどで、普段は先端が垂れ下がったロッド。
 装着箇所に合わせて色が変化し、周りから目立たなくする
 夜の時間帯に充電し、充電中は雷のような形状で立っている。



「ふぅ~、これで後は様子見だね」

 全身の色が、いつもの肌に戻ったのを見てホッとする。
 これで最悪の状況にはならないだろう。
 頭に着けちゃったので、アホ毛に見えるのはご愛敬だけど。


「んっ! 何そのアイテムっ! もしかして蝶の英雄も…………」

「で、目を覚ましたらどうする? まだ戦うってなら、私が二人を相手にするよ? マヤメに要因があったとしても、ここまでされたら黙っていられないからね』

 驚くメドの言葉を遮り、キッと威圧を込めて睨む。

「ん、戦わない。もうわかったから」
「本当に? でも、わかったって何?」
「ん、それはまだ言えない。でも戦わない」
「………………そう」

 何か腑に落ちないが、戦う意志がないのならそれでいい。
 今はメドを怪しがるよりも、マヤメの方が優先だから。 


「…………ん、それと――――」
「なに?」
「もし目が覚めたら、話したいことある」
「マヤメに?」
「ん」

 横たわるマヤメを見ながら、コクンと微かに頷く。

「う、ん………… 眩しいっ!」

 ちょうど話が終わったタイミングで、その当人が目を覚ました。

「眩しい? もしかして寝ぼけてる? それとも――――」
「んっ! 澄香なんでっ!? ん? ここは橋の上?」
「そうだよ。体は大丈夫みたいだね?」

 眩しいとか言ってたけど、私も含め、周りも見えているようで安心した。

 そしてその後、メドとの再戦を望んでいたから、私はフーナのところに戻った。
 今まで感情をあまり出さなかったが、その目に確固たる決意と覚悟を感じたから。

 だからか、メドとの再戦は今のマヤメにとって、きっと大事なものだろうと察した。
 不安は拭えないが、それでも生きようとする、強い意志を感じたから。


「よし、なら次は私の番だ。こっちは色々とキツそうなんだけど、その分収穫もあったから文句も言ってられないからね。それとキューちゃんたちの件もあるし」

 メニュー画面、そして、さっきのマヤメを思い出して、一人気合を入れなおした。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...