剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

影の少女の覚悟

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「んっ! どこまで増えるっ!――――」

 増殖を繰り返し、向かって来るナイフの幻影に鋭い視線を向けるメド。
 炎の槍で撃墜する以上に、増える幻影にかなり苛立っている。

 
『んっ、エナジーの消費が止まらない。でも幻影は止められない……』

 数多に増え続けるククリナイフの幻影。
 もちろん無限などではない。注いだエナジーの量に比例しているだけだ。

 纏っている装備の全ては、私の核とリンクしている。
 したがって使用するには、装備者のエネルギーを使うことになる。

 だからと言って消費は止められない。止めたらそこで負けだから。
 私を制してフーナと合流し、二人で澄香を襲うだろう。

 それだけは避けなければならない。

 いくら澄香でも二人相手では分が悪い。
 いや、恐らくは敗北するだろう。

 未だに実力の底を見せない、このメドが加われば澄香は――――


『ん、だから合流させる訳にはいかない。澄香にはお願いしたから。私はその恩を返すから』

 ここに来るまでに澄香に話した、私の事情。
 それを聞いた澄香は何の逡巡もなく、笑顔で快諾してくれた。


((別にそこまで畏まらなくていいよ。元々はナジメに頼まれた事だし、それと気になる事もあるし。ええと、それから…… まぁ、そんなわけだから私にも関係ある事なんだよね。だからもっと笑顔―――― は難しそうだね。じゃなくて、せめて顔を上げて前を見なよ。せっかく美人に創ってもらったんだから勿体ないよ))

 どこか言い訳がましく、でも、こんな正体も素性も怪しい私の話を信じて、背中をポンと叩いてくれた。その優しくて温かくも力強いあの感触が、未だ私の背中に残っている。
 

『ん』

 だから私は恩を返す。
 澄香がきっと助けてくれると信じているから。


――


「んっ! いい加減時間の無駄。だから全部消滅させる――――」

 目前に迫る幻影に向かい、小さな口を開き、息を吸い込む仕草のメド。

『んっ! 詠唱? 範囲っ!?』

 私はその行動で、強力な魔法だと身構えながら、更に幻影を増やす。
 メドの元に辿り着くための安全な道筋を、少しでも多く確保する為に。


「ん――――――っ!!」

 途端、詠唱、かと思いきや、吸い込んだ息を、長い息吹と共に吐きだしたメド。
 
『ん?』

 ただし、小さな口から吐き出したものは、息吹などではなく、 

『んっ!!』 


 ゴォォォォォォォォッッッッ――――!!!!


 視界の全てを覆い尽くす程の、真っ赤な獄炎の息吹だった。


『んんっ!――――――――』

 目前に現れた獄炎の息吹は、全ての幻影を飲み込み、瞬く間に消滅させた。
 投げたナイフもろとも、膨大な火力で、私の存在そのものも消し去ってしまった。

「ん?」

 そこに残ったものは僅かな熱気と、悠々と立っている白い少女だけ。

「ん、橋は問題ない。ふぅ~」

 目の前の視界が晴れた中、慌てて周囲を見渡し安堵するメド。
 口端には僅かに炎が残ったまま、大橋を見渡し、軽く息を吐きだす。 

「ん、大丈夫」

 他の建造物に異常がない事を確認し、遠目に映る二つの影に視線を移す。

「これでフーナさまのところに行ける」

 トン

 そして軽く跳躍し、ここを離れようと魔法で宙に浮く。
 
「ん?」

 その飛び立つ間際、地上では気にかけていなかった、空に浮かび小さくなった自分の影が目に入る。
 
「ん、あの能力は中々良かった。だけど弱点も多い」

 影を一瞥しながらポツリと呟き、離れたフーナ達の方に再度視線を向ける。

 ただし、息吹が届かなかった、一本の細い影には気付かずに。 

 
 ガシッ

「ん、や、やっと捕まえた、はぁはぁ――――」

 私はメドを背中から羽交い絞めし、乱れたままの呼吸で『ククリナイフ弐 隠遁式』を握りしめる。

『ん…………』

 後は密着した状態で、これを心臓にひと突きすれば効果が発動する。
 メドと共にエナジーが続く限り、影の世界へと幽閉できる。

 ただし懸念がある。

 今までの戦いの影響で、エナジーの残量が僅かな事。
 度重なる能力とアイテムの使用で、その殆どを使ってしまった。

 残りは予備のリザーブ分を残すだけ。
 これを空にすれば直ちに活動を停止する。


『ん、だけどやらなければダメ。これぐらいのことをしないと返せない。澄香はマスター以外にもたくさん救ってくれるから』 

 そう。
 それが私の覚悟。

 これは自己犠牲ではなく、これから来る未来への恩返し。

 蝶の英雄はこれからも、多くの人たちを笑顔にしてくれるから。
 それは決まった未来だから。


「ん、見事」

 羽交い絞めされたままのメドが一言呟く。

「はぁ、はぁ、ん? な、なにが?」

 掠れた声で耳元で聞き返す。

「ん、あの状況で逃げ延びたのが見事。ワタシがブレスを撃った瞬間、あなたは首巻きを橋の裏側に伸ばして回避した。そして隙を見逃さなかった。それが今の状況」

 前を見たまま律儀に答えるメドだったが、その話を聞いて驚愕する。

「んっ! な、なんで知ってたのに捕まるっ!」

 メドは全てを知っていた。
 メドがした説明通りに、私が回避したことを。
 やられたと思わせ、油断を誘い、その隙を狙っていたことも。


「ん? それは探してたから」
「ん、さ、探して? はぁ、はぁ」
「ん、今のは何でもない。独り言」
「? はぁ、はぁ」
「ん、でもどうする? その武器ではワタシは倒せない」

 片手に握ったままのナイフに目を向けるメド。

「ん、そんなの最初から知ってる。だからこれは――――」

 ビュンッ

 全てを言い終わる前に『ククリナイフ弐 隠遁式』を振り下ろす。

「ん?」

 ただしそれは、今捕えているメドに向かってではなく、

「んっ!」

 グサッ!

「んっ! な、なにをっ!?」
「んっ! ぐはっ!」

 生物でいえば心臓ともいえる、自身の『核』目掛けて振り下ろした。

 そして私とメドはナイフの柄から溢れだした、漆黒の中に飲み込まれていった。


『ん、あとはお願い。そしてサヨナラ―――― 』


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