剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

影の少女vs竜の幼女

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 『テンタクルSマフラー』

 触手のように自身の意思で操れる影色のマフラー。
 伸縮及び硬軟及び形状も自在に変化可能。
 操作できる範囲は凡そ30メートル。
  
 これは私専用に作製された、特殊素材のアイテム。 
 装備者のエナジーで登録しているため、本人しか操れない。
 操作にはエナジーを消費する。

 ※専用武器との併用も可。


 『インビジブルDシャドー(LV.5)』

 面積の概念を超え、生物の影のみに潜影できる能力スキル
 潜影(シャドーダイブ)の距離は半径約10メートル。
 潜影時間は凡そ180秒。
 使用時にはエナジーを消費する。
 
 ※テンタクルSマフラー及び、専用武器との併用も可。


 影に隠れて日向に現れる日陰のようなアイテムとスキル。
 ただそれだけに特化した私の特殊兵装。

 影を纏い、影と共に戦い、影のように儚く脆い。

 けど、

 それでも大切な人から受け取った、唯一無二の私だけの力だ。
 

――


「ん、あなたの能力は大体把握した。私の影に隠れる能力と、伸縮自在なだけの首巻きのマジックアイテム。持っている武器も名刀とは程遠く、切れ味も大したことない」

 ここは、他の区域に移動するために建築された、シクロ湿原に架かる大橋の上。
 その上に降り立ち、無表情で私を一瞥し、淡々と話すメド。

「ん……」

 確かに幾度となく打ち込んだ攻撃は、メドにダメージを与えられなかったどころか、逆にある程度の能力を看破されてしまっていた。

『ん』

 それはそうだ。
 出し惜しみなんかしていたら、とっくの昔にやられていた。
 だからほぼ全力に近い攻撃を仕掛けていた。


「ん、なのに何故戦う? このまま続けても私には勝てない」

「ん」

 それも知っている。 
 全ての攻撃はその強靭な肌に弾かれ、かすり傷一つ付けられていない。
 勝てる勝てない以前に、根本的に差があり過ぎる。 


「ん、だからもう終わらせる。私はフーナさまのところに戻る」

 薄く開いた瞳を、遠くで戦っている桃色と黒色に視線を向ける。

「ん、それはダメ」

「ん?」

「ん、理由は言えない」

「ん?」

「ん」

「ん、わかった。ならかかってくる。迎え撃ってそれで終わりにする」

「ん」

 タタンッ!

 私は後ろに跳躍して、相対するメドから距離を取る。
 テンタクルマフラーを操作し、橋の上を跳ねる様に後退する。


『ん――――』

 勝てないのは知っている。
 そもそも勝てるというビジョンさえ浮かばない。

 だからメドは気付いていない。
 最初から勝てる戦いを私がしていないことに。
 
 だからこそ、そこに付け入る隙がある。
 勝ち負けが全ての結果だと勘違いしているから。
 

「ん」

 シュ

 テンタクルマフラーの片方をメドに向けて伸ばす。
 1本の漆黒の触手が、床に影を映して白い子供に襲い掛かる。


「ん、それはもう知っている。でも鬱陶しいから破壊する」

 触手を避けることなく自らの手首に巻かせて、もう片方の手で掴み左右に伸ばす。そのまま力を込めて引き千切る算段のようだ。


「ん、それは無駄。影は千切れない。伸びるだけ。」

「んっ!?」

 グイと力任せに引っ張るが、ただ単に引っ張った分だけ伸びただけ。
 最大距離が30メートルあるのだから千切れるわけがない。 

「んっ!」

 ギュッ

 その隙に残った片側の触手をメドの首に巻き付ける。

「ん、しまった」

 次いで、巻き付けた触手からククリナイフを射出する。

「んっ! 首巻きの中からっ!」

 ガキィ

 一瞬だけ驚愕の表情を見せたが、触手が巻き付いていない片腕で弾かれる。 

「んっ! これもダメだった。なら――――」

 首に巻き付けたままの触手を伸ばし、残った方の腕にも巻き付ける。 
 そして首と両腕を拘束したまま、ナイフをメドに向かって投げる。 
 
「ん、それも無駄。もうあなたの攻撃は―――― んっ!? いない?」

 ナイフが直撃する直前に、投擲した本人の姿が消えていることに気付く。
 私は投げたナイフの影にダイブし、弾かれた瞬間にメドの背後に姿を現す。


「ん、これならさすがのあなたにもダメージを与えられる」

 背中から首筋に抱き着き、無防備な胸元に向かってナイフを突き下ろす。

「んっ、それも無駄。狙いはわかってた」

「んっ!?」

 ボウッ!

 組みついた体から有り得ない熱量を感じ、咄嗟にテンタクルマフラーを外して退避する。

「んっ! こ、これは?」

「ん、逃げられた」

 距離を取った私を、どこか感心する目で見るメド。
 ただしその全身からは青白い炎が噴き出していた。


「んっ! それはなにっ!」

 自身の体に異常がないか確かめると同時に問い掛ける。
 轟轟と燃え盛りながらも、平然としている奇異な存在に。


「ん、これは竜炎の鎧」

「ん? りゅうえんの、鎧?」 

 竜?

「んっ! 違う。ただの火の魔法」

「ん? あれが………… 火の魔法?」

 確かに火が上がっていた。
 自身の姿や衣服さえ焼かずに、鎧のように纏っている高熱の炎が。


「ん、そうただの火の魔法。わたしは火の魔法が一番得意」

「ん…………」

「ん、それでフーナさまは全属性の魔法が扱える。アドは氷の魔法。エンドは変化魔法。シーラは水の魔法が得意。他には――――」

「ん、もういい」

 突如、知らない情報まで早口で捲し立てるメドを止める。
 何かを隠しているのは、その態度で一目瞭然だった。


「ん、なら今度はこっちから行く。その方が早く終わるから。まだ何か隠してるみたいだけど、あなたの仲間が心配だから」

 遠目に見える、二つの影を視線で追いかけながら、メドが話す。

「ん、それはどういう意味?」

 おかしな発言に思わず聞き返す。
 心配するのは澄香ではなく、メドのマスターのフーナなのに。


「ん、フーナさまは怒ってた。だからやり過ぎるかもだから」

「ん?」

「ん、やり過ぎると周りにも被害が出る。蝶の英雄も巻き込まれる」

「ん、でも澄香は強い。だから大丈夫」

「ん、それも知ってる。あの動きと変な魔法は普通じゃなかった」

「ん…………」

 澄香の実力を認めても尚、フーナに分があると話す。  
 メド自身も驚異的な実力の持ち主、だからこそ、その言葉には信憑性がある。

 ならフーナは、私の想像の遥か上をいく実力者なのは間違いない。
 メドが言っている事は十中八九合っている事だろう。

 だからと言って必ずしも、勝敗に直結するとは限らない。
 強さの優劣は付けられるけど、それと結果はまた別の話だ。

 恐らくフーナの方が強い。けど、澄香も強い。
 ただその強さの方向性が違うってだけだ。


『ん、だから私は全力で引き留める。メドに合流されたら澄香でもきっと危ないから。だって澄香は今の世界とマスターを救ってくれる重要な人だと思うから』

 グッと腰を下げ、ククリナイフを持つ手に力を籠める。
 メドの攻撃を迎え撃つ為に、更に気を引き締める。


「ん? なぜ魔法を使わない?」

 仕掛けると言ったメドの青白い炎が消えていた。
 距離を取ったこちらまで届いていた熱量も収まる。

「ん、あまり長時間使うと、ここにも影響が出る。それに元々使うつもりはなかった」

 自身が立っている橋を見渡した後で視線を戻し淡々と答える。

「ん」

 何を言ってるかわからない。
 フーナのところに駆けつけるのが優先事項だったはず。

 だが逆にそれでわかったこともある。
 メドは何かを隠して行動していることに。

 それでも懸念が残るのは、さっきの火の魔法。
 あの炎を纏われては、私の攻撃が届かない。
 使わないと言っていたが、それを隠れ蓑にしている可能性もある。

 鵜吞みにすることは危険、だけど――――


「ん、行く」

 メドが宣告通りに先に動いた。
 50を超える炎の槍を、自身の周りに顕現させ、その1本を射出した。

「んっ!」

 間近に迫った最初の攻撃を右に躱す。 
 すると、躱した先に次なる槍が迫ってくる。

「ん」

 これは予想済。なので、マフラーで急停止してやり過ごす。

「ん、中々いい判断。だったら全部避けてみて」

 そう言い放ち、残りの炎の槍を一斉に発射する。
 50近くの高熱の槍が、幾重もの真っ赤な軌跡を残し、四方から降り注ぐ。


「んっ!」

 自身に届く瞬間、ククリナイフをメドに向かって投擲する。 
 ナイフの影にダイブし、接近と回避を同時に行うために。
 
「ん、それはさっき見た」

 小さく呟き、炎の槍の半数を操作し、標的にナイフも加えるメド。
 このまま撃ち落とされた場合、接近はおろか回避も不可能だ。


「んっ! 幻影ファントムシャドーそして―― 潜影シャドーダイブ

 それでも迫りくる炎の槍を横目にダイブした。 
 メドに向かって投擲した、の幻影の中の一つに。

「ん、ナイフが増えた? 違う全部が影っ!?」

 自身に迫るナイフが、途中で増殖したことに驚愕する。
 その数はメドの魔法を上回り、3桁に近い影を作りだした。



『ククリナイフ壱 影式』

 装備者の意志で分身する特殊ナイフ。
 実体はないが幻影と影を同時に作り出す。
 分身の数はエナジーを注いだ量に比例する。



「ん、なら全部撃ち落とすっ!」

 自身に迫る影に標的を変え、魔法を操作するメド。

『ん』

 私は冷静に見極め、炎の槍を避けながら、影の中を移動する。
 それでも大半の幻影が撃ち落とされるが、数を増やし、ダイブを繰り返しながらメドに近づいていく。


「ん、数が多いっ!」

 さらに増殖したナイフに、すかさず新たな魔法を追加するメド。
 大量の炎の槍を出現させるがすでに遅い。


『ん、この距離ならばメドの影にダイブできる。けど私の攻撃は通じない』

 接近してのナイフでの攻撃は2度も弾かれた。  
 分厚い鱗に打ち付けたように、まるで刃が立たなかった。

 なら出来る事は一つ。

 攻撃が通じないなら、攻撃をしなければいい。 
 目の前の相手ごと、私の世界に閉じ込めればいい。


『ん』

 私は残っているもう1本のナイフを取り出した。


『ククリナイフ弐 隠遁式』 


 そして――――


『ん、これならきっと効果ある』

 ナイフを逆手に握り、ここで使うと覚悟を決めた。

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