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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
フーナとメド
しおりを挟むシクロ湿原で突如襲われた、私とマヤメ。
相手はAランク冒険者のフーナとその家族のメド。
フーナたちは狩り厳禁の区域で、キューちゃんたちを乱獲していた。
それだけならば私も、そこまで腹を立てなかった。
ただあの二人は、競い合うように大量のキューちゃんたちを殺めた。
まるで賭け事かゲーム感覚で、小さな命を弄ぶように虐殺した。
私にはそれが許せなかった。
自分たちが狩る側だと、まるで疑いもしないあの二人に。
狩られる覚悟も無いまま無作為に、一方的に狩るあの子供が。
それでも言いたい事だけ言って、それで留飲を下げるつもりだった。
私の価値観を一方的に押し付けるのも、また好きじゃなかったから。
だけどあの二人は私を見るや否や、問答無用で攻撃してきた。
私をキューちゃんたちのように、無秩序に狩るつもりで。
それは寧ろ好都合。
向かってくるなら仕方ない。
言う事を聞かない子供には、大人が躾をする必要があるから。
狩る側から、狩られる側の気持ちを教えるのも大人の務めだから。
だから私はその誘いに乗った。
おいたする子供には、お灸をすえるのが当然だからだ。
「そうは言っても、あのフーナって子もメドって子も中身は別物だよね?」
『ん、あの二人は20年前からずっとあの姿』
私の呟きに、足元のマヤメが律義に答える。
「は? それってもしかして、私と一緒で――――」
『ん? 一緒?』
アバターなの?
だったら私も成長しないの? 小さなままなの?
それかナジメみたく、エルフとかドワーフとか?
「ねぇ、あの二人は長生きする種族だったりする?」
『ん、聞いた事ない。そうだったとしても異常な強さ』
「そうだね……」
確かにマヤメの言う通りだ。
10tのスキル盾ごと吹っ飛ばすその膂力に、攻撃を受けきる頑強さ。
どちらを取っても異常な程の力だ。この世界では異質と言ってもいい。
「もうっ! どこまで行くのっ! もしかして降参?」
「ん、逃げるの許さない」
距離を取った私の後を、難なく追い突くフーナとメド。
「別に降参も逃走もしないって。ただ避難するのを待ってたんだよ」
周りを見渡して立ち止まり、スキルの上に着地する。
「避難? って結局一緒じゃんっ! わたしたちから逃げてるじゃんっ!」
「ん、蝶の英雄は臆病者」
空を飛ぶ魔法なのか、宙に浮きながら、目くじらを立てる二人。
「まぁ、そっちがどう捉えるかは勝手だけど、避難したのは私じゃなくてキューちゃんたちだよ。ここなら思う存分相手してやれるからね」
フーナとメドの二人の遥か後方には、遊びに行った筈の桃ちゃんが他のキューちゃんたちを引き連れてここから離れてくれていた。その後ろには、鮮やかな花が大量に集まり移動していた。
「ありがとうね~っ! 桃ちゃん~っ!」
『ケロロ~っ!』
手を振りお礼を言うと、桃ちゃんから元気な返事が帰ってきた。
これなら安心して任せられる。
「え? わざわざ魔物を逃がすの? おかしいよ?」
「ん、蝶の英雄は変」
その意味を理解していない二人は、目を丸くして首を傾げる。
「おかしくても変でも構わないよ。私は私が正しいと思った事をやるだけだから。それにあなたたちも同じ運命になるかもよ?」
桃ちゃんから目を離し、フーナとメドを視界に収める。
「運命? わたしとメドが出会ったのは運命だって事? きゃっ!」
「ん、フーナさま。それはきっと違う」
「え? 面と向かって否定されると、ちょっと傷つくんだけど…… わたし」
「ん? きっとそう言う意味でもない」
「うえっ? だ、だったらどういう意味なの? 教えてよぉ~っ!」
「ん、きっと蝶の英雄が言いたいのは――――」
「はぁ~」
『…………』
なんだろうね? この二人。
せっかくの煽り文句が通じないよ。
特にフーナって子は、見た目だけではなく、中身も幼く見える。
これでAランクって言うんだから、人材不足を疑ってしまう。
それでもメドって子がフォローしてるからバランスが取れているんだろう。
危なっかしい妹が、過ちを犯さないように導いているんだろう。
「あのさ、運命ってのは、あなたたちもキューちゃんたみたく避難するって意味だよ。私に恐れて尻尾撒いて逃げるって事だよ」
いい加減、二人の寸劇も飽きたので、直球で言ってみる。
すると、
「むきぃ~っ! なんで正義のわたしが逃げなきゃいけないのぉっ! 逃げるのは悪者のあなたでしょうっ! おかしな事言わないでっ!」
「ん、フーナさま。逃げられても困る」
金切り声を上げて、憤慨するフーナと、それに冷静に突っ込むメド。
『はぁ~、なんだかやりづらいなぁ。もっとまともな悪役なら、問答無用で後悔させてやるのに。あとは単純に力の底が見えないってのもあるけど』
今のところ、実力の半分も見せてないように感じる。
そもそも魔法使いのフーナは物理攻撃だけだし、メドに至っては牽制か誘導だけで、直接的に攻撃を仕掛けてはこなかった。
それが自らが率先してサポート役に回っているのか?
そうでなれば、能力自体が相性の良いものなのだろうか?
今はまだ判断できないが、私にとってはフーナよりも、メドが脅威だったりする。
猪突猛進に突っ込むだけのフーナに対して、周りを見て的確に狙ってくるメドの方が、総合的には戦いにくいし、こちらからも仕掛けづらい。
「まぁ、それでも両方を相手にしないとダメなんだけどね。最悪は実態分身2を――――」
「ん、マヤが引き付ける」
ヒョコとマヤメが足元から出てくる。
「引き付けるって?」
「ん、マヤが引き付ける。きっとあの子が中心だから」
同じ足場に乗り、フーナの後方にいる白髪のメドを睨む。
「大丈夫?」
「ん、時間稼ぐだけ。だからその間にフーナにお仕置きして」
「お仕置き? 倒すじゃなくて?」
隣に並び、険しい表情のマヤメに確認する。
「ん、きっと勘違いしてる。フーナもメドも」
長い黒マフラーを首に巻き、両手にククリナイフを握り構える。
どうやらそれがマヤメ愛用の装備のようだ。
「まぁ、そうだね勘違いしてるね、いきなり襲ってきたし。ならマヤメにメドは任せるよ。指揮官がいなければイノシシを狩るのと一緒だから。あの調子なら何とかなるよ」
「ん」
タンッ!
マヤメは一瞬だけニコと微笑んだ後で、透明壁から飛び降りる。
マフラーを操作して、水面をアメンボのように滑走していく。
「よしっ! なら私はさっさと勘違い幼児を懲らしめてやろうか。それとここで戦うのもマズいから誘導しなくちゃだね。で、懲らしめた後で桃ちゃんとキューちゃんたちを前に土下座させてやる」
私もマヤメの真似をして、滑るようにフーナに向かい滑っていく。
足裏に透明壁を張り付けて、トップスケーターのように疾走していく。
そこでようやく気付く。
勘違いをしていたのは、私たちの方だって事に。
警戒するのはサポート役のメドではなくて、フーナだったって事に。
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