464 / 586
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
アドとエンドとシスターズ
しおりを挟むスミカたちとフーナが邂逅した、ほぼ同時刻。
コムケの街から10キロほど西に離れたサロマ村では。
「フォレストウルフは群れで動くから気を付けて下さいっ!」
「アンダーラビットはキバ以外にも後ろ足に注意してくれよなっ!」
「「はいっ!」」
「「おうっ!」」
数か月前に廃墟と化した、このサロマ村では、ナゴタとゴナタが先導して、訓練も兼ねての冒険者たちによる魔物の討伐が行われていた。
この村は以前にオークの襲撃に合い滅んだ村で、その要因となったオークはスミカたちによって殲滅したが、その後にもまた魔物が出現するようになった事で、ギルドからの討伐依頼が出ている村だ。
「今度はアイアントが出ましたっ! これは私が対処しますっ!」
「あっちにはロックベアーが出たぞっ! ワタシが相手するぞっ!」
新たな魔物の出現に、ナゴタとゴナタも戦線に加わる。
訓練に連れてきた冒険者だけでは手に余りそうだと判断したからだ。
「にしてもよぉッ! ギョウソからの報告では聞いていたが、本当に種族や生息地関係なく、ごちゃ混ぜに魔物が出てくんなッ! オラッ!」
更に双剣使いの熟練者も加わって、魔物の数を減らしていく。
その腕前と風貌は、どこかで見たことあるギルド長だった。
「それにしてもルーギル。なぜあなたがここにいるのですか?」
「ナゴ姉ちゃんの言う通りだ。なんでいるんだい?」
ナゴタは鉄の硬度を持つアイアントの首を両断しながら、ゴナタはロックベアーの岩の体を粉砕しながら、本来ここにいる筈のない、ギルド長を訝し気に見る。
「んあッ? そ、それはお前たちを尾行…… じゃなくてだな、サロマ村の視察に来たんだよッ! ここ最近、急に魔物が増えたって聞いたんでなッ!」
姉妹に答えながら、襲ってきた魔物を双剣で葬る。
「それは本当なのですか? わざわざギルド長自らが出てくる依頼でもないですが。敵が多いだけで、私たちだけでも殲滅可能ですから」
「そうだぞっ! だからあんまり張り切るなよなっ! このくらいなら、ここにいる冒険者とワタシたちだけで十分だぞっ!」
加勢に来たルーギルを、どこか邪魔者扱いするナゴタとゴナタ。
どうやら手柄を横取りされると思っているようだ。
以前にスミカに頼まれていたこの件を、自分たちで解決したいと。
「いや、お前らだけで対処がどうとかの話じゃなくてだなッ! あの子供を見失った先が、偶然ここだって聞いたもんだから、俺が出張って…… おっと、なんでもねえ、今のは無しだッ! そ、それよりも向こうにもでたぜッ!」
スタタタタ――――
前方を指差し、新たな魔物を見付けたと言って、慌てた様子で離れるルーギル。
「はい?」
「え?」
ただしその方向には魔物の影はもちろん、冒険者の姿も見えなかった。
誰が見ても明らかに挙動不審で意味不明だった。
「なにか聞き捨てならない単語が聞こえたような?」
「うん、尾行とか子供とか言ってたなっ!」
そんなルーギルの後ろ姿を見ながら、顔を見合わせて怪しむ姉妹。
「ナゴタさんとゴナタさん。向こうにゴブリンが出たんですが、一人が負傷してしまったので手を貸してください。数は凡そ20体です」
何の気配もない建屋に入って行ったルーギルを眺めていると、若い冒険者から手助けを頼まれる。
「はい、なら私が行きます。ゴナちゃんはこの付近を警戒してて」
「うん、わかったぞっ! ナゴ姉ちゃん」
「ありがとうございます。こっちです」
妹のゴナタに声を掛け、若い冒険者の後を着いていく。
タタタタ――――
「それでゴブリンはどこですか?」
「あそこの廃墟の中にまとめて追い込んでいます。ケガ人は逃がしてあります」
「そうですか、わかりました」
前を行く、落ち着いた態度の冒険者に、緊急性は低いと安堵していると、
「がうっ!」
ドガガガガガガ――――ンッ!!
「なっ!?」
「うわっ!」
目の前の建物に、無数の氷柱が豪雨のように降り注ぎ、ゴブリンもろとも破壊した。
「あ、あなたはっ!」
「あの子供はっ!」
建物を崩壊させた余波で土煙が舞う中、一人の子供が空から降りてくる。
トン
「がう? こっちがおっぱいの姉ちゃんだったなっ! 大正解だっ!」
ナゴタの姿を見付けて、屈託のない笑みを浮かべる子供。
それはコムケの街に来ていた、エンドの連れのアドだった。
――――
一方同時刻。
スラムにある牛舎の外では、牛たちの様子を見に来ていた、ナジメとユーア、そしてラブナの前にも、ある人物が姿を現した。
それはAランク冒険者のフーナの家族である、エンドだった。
「して、お主はなぜまた現れたのじゃ? もうここにはお主が興味を示すものなど無いじゃろうに」
腕を組み、黒い子供に話しかける。
その後ろにはユーアたちを隠しながらも油断なく睨みつける。
「我がどこに行こうとあなたには関係ないわ。それとも許可が必要なのかしら?」
それに対し、髪をかき上げ、どこか挑発するように答えるエンド。
その目はナジメだけではなく、その背後にも向けられていた。
「そんなものは必要ないのじゃ。じゃが理由ぐらい話しても良かろう。ここには牛とスラムの人間ぐらいしかおらぬのだからな」
エンドに視線に気付き、僅かに体をずらしてユーアたちを隠す。
「あら? そうかしら。あなたもそうだけど、後ろの少女たちもいるでしょ?」
「何の事じゃ? わしらはこの土地の人間ではないのじゃ」
黒い子供を睨みつけながら答える。
「はぁ、そう意味で言った訳ではないのだけれども、まぁ、いいわ。ついでだから自己紹介するわ。我の名はエンド。この国のAランク冒険者のフーナの従者の一人よ」
片足を斜め後ろに下げ、ドレスを摘まみ、優雅にお辞儀をするエンド。
その見た目に似合わずに、かなりサマになっていた。
「うわ~、小さいのに偉いねっ! エンドちゃん」
「ふ~ん、子供のくせに中々に上手じゃないの」
その挨拶を見て、ユーアとラブナから称賛の声が飛ぶ。
「ふんっ! わしだって挨拶の心得はあるのじゃっ!」
同じぐらいの幼さのエンドに対抗意識を持ったのか、鼻息荒く、自分も出来ると宣言して真似をするナジメ。
だったが、
「んぬっ!? こうヒラヒラと摘まめないのじゃっ! わしの自慢の装備なのにっ!」
いつものぴったりとフィットした、スクール水着の装備のせいで、スカートの部分を持ち上げることが出来ず、半泣きになるナジメ。
「はぁ、そんなのやる前からわかり切ってるじゃな――――」
「そ、それよりもお主は何用じゃっ! 用事は何じゃっ!」
エンドが溜息と共に言い終わる前に、無理やり方向転換する。
「そうよ。なんでAランク冒険者の付き人がここに来るのよ」
「エンドちゃん今日はどうしたの? 迷子ならボクが案内するよ?」
ナジメに次いでラブナとユーアも、その動向が気になったようだ。
ただし、警戒するナジメとは正反対だったが。
「そうねぇ、用事と言えば単なる暇潰しかしら? 連れのアドも途中でいなくなっちゃったし」
「暇潰しじゃと? じゃからここにはお主が暇を潰せるものなど――――」
「いるじゃない?」
「何がじゃっ!」
話を途中で遮られ、声を荒げるナジメ。
「元Aランクの鉄壁の開墾幼女、そしてその後ろの蝶の英雄の妹たちが」
「お主は一体何を言っておるのじゃっ! わしたちは――――」
「知ってるわよ? あなたたちこの街では結構有名人じゃない。肝心の英雄さまは不在らしいけど、それは後からの楽しみとして取っておくわ。だから前菜としてあなたたちと遊ぶことに決めたのよ」
斜に構え、舌なめずりをし、ナジメ達をねっとりとした瞳で見るエンド。
見た目の幼さとは裏腹に、まるで娼婦のような妖艶な笑みを浮かべる。
「…………そうか。どうしても引かぬと言うのだな。お主の言う『暇潰し』をしたいと。わしたちを相手に戦って退屈を埋めたいと。そう言うのだな?」
「え? エンドちゃん、そうなの?」
「はぁ、なんでアタシが子供相手に戦う流れになるのよ?」
ナジメの話を聞いて、困惑気味のユーアとラブナ。
「そうよ。この街で強い匂いを感じたのは、あなたたちだったから。だから遊びに来たのよ。それでもフーナに比べたら弱々しくて、息を吹きかけるだけで霧散しそうだけど」
「ほう。随分わしたちを過小評価するものじゃな。そんなにお主の主は強いと言うのか? わしたちのリーダーの蝶の英雄よりも」
「そうね、単純に強いわ。全てがデタラメ過ぎて、正直わからないけど…… ただハッキリと言えるのは、あなたたちのリーダーよりは強いわ」
「なぬっ!?」
「えっ!?」
「はあっ!?」
「きっとフーナにかかれば一撃で倒されるんじゃないかしら? 英雄ごっこでいい気になってる、そんなリーダーなんかは足元にも及ばないわ」
「「「………………」」」
エンドの話を聞き終え、感情を無くしたかのように、能面になる三人。
そしてお互いに顔を見合わせて、一斉に振り向き、ビッと指を突きつける。
自分たちの尊敬する姉を愚弄した、愚か者に制裁を加える為に。
「だったらわしたちも暇だから、お主に付き合ってやるのじゃっ!」
「うんっ! ボクも頑張るっ! ハラミ戻っておいでっ!」
「アタシも暇だったからちょうどいいわっ! 仕方なく遊んであげるわよっ!」
こうして、シスターズのたちとフーナの家族の暇潰し(戦い)が始まった。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる