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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
アドのエンドの脅威とは
しおりを挟むスミカとフーナが接触した、その当日の朝。
冒険者ギルドの長、ルーギルは、少し遅れて職場のギルドに入った。
いつものように受付の職員に挨拶し、2階の書斎に向かう。
ガチャッ
「おうッ! ちと遅れて悪かったなッ。朝一ロアジムさんのところに――――」
「一大事ですっ! ギルド長っ!」
「うわっ! 唐突になんだッ!?」
部屋に入るや否や、クレハンが俺の顔を見て喚き立てる。
「なんだよ、一体何があったって言うんだッ?」
床に散らばった書類とクレハンを見渡して聞いてみる。
その有様だけでも、予想外の何かがあった事だけは推測できる。
「き、来たんですよっ! 来てしまったんですよっ!」
「いいから落ち着けッ。ほれ」
「あ、ありがとうございますっ! ゴクゴク」
見るからに動揺しているクレハンに、下から持って来た果実水を渡す。
「で、何があったんだッ? お前がそんな取り乱すのは珍しいぜッ?」
落ち着いた頃を見計らって尋ねる。
聞かなくても大体の予想は付くが。
こんな朝に緊急性の高い話なんて、あれの件しかないからな。
「ふぅ~、ええとですね、ギルド長が来ない間に二人の子供が訪ねてきたんです」
「ああんッ! まさかもうフーナがッ!?」
冷たいものを飲み、落ち着いたクレハンの返答に、今度は俺が慌てる。
「いいえ、どうやら違うようです。特徴が聞いていたものと違ってたようなので」
「ん? その口ぶりだとお前は会ってないのかッ?」
話の内容に違和感を感じ、その部分を聞いてみる。
「はい。1階の職員にギルド長がいない事を聞くと、そのまま帰って行ったそうです。なのでわたしは直接は会ってはいません」
「ん? なら何でお前はフーナじゃねぇのに取り乱してたんだッ?」
良く分からない。
会ってもいないし、しかもフーナじゃないのに慌てる理由が。
「職員の話ですと、ギルド長を訪ねてきたのは、子供二人で――――」
「それはさっき聞いたぜッ?」
まだ本調子ではないのか、さっきの話を繰り返す。
「はい、それはわかってますよ。そうではなくて続きがあるんです」
クイと眼鏡を戻し、俺の様子を伺いながら話し始める。
「来訪した二人の子供の特徴は、ナジメさまくらいの背格好で」
「ああ、子供ってんだからなッ」
「その子供が、青い髪の子と、黒髪の子で」
「んッ?」
「アドとエンドって名乗ってたそうですが、何か心当たりありませんか?」
「んあッ?」
俺の目を見つめ、真面目な表情で聞いてくる。
そうは言っても、目尻が僅かに下がっている事を見逃さなかったが。
「…………お前」
「はい?」
「わざと慌てた振りしてただろッ?」
「…………と、言いますと?」
「そもそもアドとエンドを知らねぇお前が、子供が来たぐらいで大騒ぎするなんておかしいんだよッ」
「え~と、そうですかね?」
「だからその二人に正体を聞いたって事だろう? フーナの家族って事をよッ」
いい加減、三文芝居に付き合うのも飽きたので、白状させることに決めた。
それに、芝居をするほど余裕があるって事は、きっと思い違いをしている。
「クレハン。お前には言ってなかったか? フーナの家族もヤバいって事をッ」
「それは聞いてますよ。フーナさんには劣りますが、相当な実力者って事は」
「ああ、それは間違っちゃいねぇが――――」
やっぱり勘違いしてる。
実力がどうのこうのなんて、些細な事に拘っている。
「違うぜ、クレハン。フーナがヤベぇのは元々わかり切ってる事だッ。あいつの二つ名は『災害の魔法使い幼女』だかんなッ。そんなでもあいつは意外と常識人だッ。魔法の威力のせいで色々巻き込んじまうことはあってもだッ」
「はい。それだけでも十分危険人物なんですがね?」
相槌を打つように茶々を入れてくる。
「でだ、一番の相棒のメドは、怪しいところもあるが人間を区別できるッ」
「ん? 随分と含みのある言い方ですね…… 区別とはどういう事でしょうか?」
「わかりやすく言やぁ、俺やクレハンを見た目で区別できるって事だッ」
空になったグラスに映るクレハンを見ながらそう説明する。
「はい? それはそうですよね。わたしとギルド長では体格もそうですが、髪型や肌の色だって違うのですから。でもその流れですと、アドさんとエンドさんは違うって事ですか?」
話の先を読んだクレハンに聞き返される。
「ああ、その言う通りだッ。メドはまだマシとして、他の二人は見た目で区別がつかねぇッ。いや、出来てはいるんだろうが、それは容姿ではなく、恐らく『匂い』だッ」
「に、匂い? それではまるで獣みたいですね」
眉を顰めながらも、まだ笑みを浮かべている。
「それもあながち間違っちゃいねぇッ。アイツらの正体を知っちまったらなッ」
「正体? その話しぶりからすると、もしかして…………」
「ああ、アイツらは人間じゃねぇ、詳しくは言えねぇがなッ。だから人間の区別がつきにくいんだろうよッ。お前だってゴブリンの群れを見て区別がつくかッ? あのゴブリンが親の仇なんだとなッ」
「いいえ、目立った特徴が無い限りは、難しいですね……」
顎に手を添え悩むクレハン。
「だろッ? まぁそう言う事だ。だから匂いで判別してんだろッ。ただしその基準は大人や子供、性別じゃなく、強者を匂いで嗅ぎ分けているらしいんだよッ」
「え? それには一体どういう意味が」
更に困惑し、目を丸くする。
「アイツらの中身が強者に従う種族なんだよッ。だから実力者には、本能的に嗅覚が働くみてえなんだよッ。これはフーナから聞いた話だけどもよぉッ」
「そ、その話が本当ですと、見た目子供とはいえ、魔物が街に入り込んでいるのも重大ですが、その子供たちを従えているフーナさんって……」
ようやく事の重大さと、フーナの異常性に気付く。
「ああ、フーナに付き従っているって事はそう言う事だッ。フーナの方が強者だって事だッ。メドもアドもエンドも、実力的にはAランクを凌駕する強さなのになッ」
「…………それは大変ですね。その内の二人がこの街に来ているって事もそうですが、万が一、フーナさんとスミカさんが衝突する事があった場合は――――」
「だから、そうならねぇように俺たちが動いたんだろッ? フーナとスミカ嬢が会う事はねぇようになッ。正直惜しいとは思うが、この街を危険に晒すわけにはいかねえからなッ」
それでも脅威が去ったとは言い難い。
アドとエンドがこの街にいるだけで、えもいわれぬ不安感が増す。
「クレハン、手の空いてる冒険者に言って、アドとエンドを尾行させてくれやッ。撒かれちまうかもだけど、行き先ぐらいはわかんだろッ」
「は、はいっ! わかりました」
クレハンは俺の指示を受け、慌てて部屋から出て行く。
「後は偶然でも、フーナと嬢ちゃんが対面しねぇ事を祈るだけだなッ。20年前の天災の立役者はフーナ。10年前は名前も知らねぇ奴だったッ。で、今の時代にあの天災が起きたら、その時は――――」
あの蝶の少女が容易く解決するものだと思っている。
他愛もなく何とかしてくれるものだと信じている。
いつものようにあっけらかんとしながらどうにかする。
それがこの街を危機から救った、蝶の英雄さまだ。
だからそれまでは、誰にも負けない事を信じている。
――――――
その数時間後、シクロ湿原でフーナたちと相対している、スミカたちは。
バリ――――ンッ!!
「うそ、でしょ?」
「んっ!? ま、まさか、澄香の……」
フーナに攻撃によって破壊された、魔法壁を目の当たりにし、絶句していた。
スミカの真骨頂とも言える、透明壁スキルを粉々にした相手を前に、言葉を失っていた。
そしてそれを切っ掛けに、一気に戦況が偏り始めた。
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