461 / 586
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
お仕事二日目と犯人捜し
しおりを挟む『ケロロ~っ!』
「ふぁ~、よく寝た。起こしてくれてありがとうね、桃ちゃん」
『ケロロ』
「それじゃ、顔洗ってご飯食べに行こうか」
『ケロ』
ノトリの街に来て、二日目の朝。
私と桃ちゃんは一緒のベットで目が覚めた。
桃ちゃんをユーアのように抱き枕にして、ゆっくりと眠れた。
『あしばり帰る亭』
この街一番の宿屋兼、食事処で有名な、しかも最高級の部屋に泊った。
現代風で言えばスイートルームのような、普通では手が出ない部屋で目が覚めた。
ふかふかのベッドもそうだが、置かれている調度品も何処か高価に見える。
私にはそう言った知識はないが、至る所が他とは違うものだとわかる。
少し狭いがお風呂があったり、大理石でできた化粧台もある。
踏むと沈む、柔らかな絨毯も敷き詰めてあり、ちょっとしたバルコニーもある。
さすがに現代の最高級ホテルとは比べ物にならないが、それでもこの世界ではかなり豪華な部屋なんだと思う。快適さで言えばレストエリアには敵わないまでも十分居心地は良かった。
「ん、澄香おはよ」
「うわっ!」
『ケロっ!?』
もう一つのベッドからマヤメがむくりと起き出す。
「ん、なんで驚く?」
「いや、いい加減気配消すのやめてよ。心臓に悪いよ」
「ん、別に普通にしてる。マヤは悪くない」
「あ~」
そうだったね。
マヤメの言う通り本人は悪くない。悪いと言えば忘れていた私だ。
この街に着くまでに聞いた、マヤメの正体について頭から抜けていた。
気配云々よりもマヤメには、そもそも気配自体が存在しないんだって事を。
「とりあえず顔洗ってきなよ。その後は朝食にするから」
眠たげな眼のマヤメにタオルを投げて渡す。
と言ってもはジト目でわかりにくいけど。
「ん、そうする」
瞼を擦りながら洗面所に消えて行った。
私たちはマヤメが戻った後で、桃ちゃんと一緒に顔を洗い部屋を出た。
「ん、それどうやって付いてる?」
「わかんない」
1階に続く廊下を歩いていると、マヤメが私を見上げ聞いてくる。
頭に大人しくくっついている桃ちゃんを不思議に思ったみたいだ。
「ん、マヤにも貸して」
「はい」
ピト
「ん、くっつかない」
「え? あ、本当だ。何でだろう?」
『ケロ?』
ご希望通りにマヤメの頭に乗せたが全然くっつかない。
桃ちゃんも不思議に思ったらしく、可愛らしく首を傾げていた。
どうやら自分の意志では吸着出来ないみたいだ。
「ん、もういい。マヤにはこれがある」
どこか対抗するように、突然何かを取り出すマヤメ。
「麦わら帽子? でも建物の中では変だよ」
「ん、なら外に出る時に被る。それで澄香と一緒」
「まぁ、それならいいけど。それでも一緒でもないけど」
「ん、別にいい」
どこか不機嫌になって帽子をしまう。
そもそも桃ちゃんと帽子を一緒にしないで欲しい。
「あ、ご飯食べたら街を見て、またシクロ湿原に行くからね」
「ん、マヤもそれでいい」
「なんか養殖しているキュートードが盗まれているみたいだから」
「ん、わかった」
この情報は、ここの店主兼、料理長が教えてくれた。
昨日から、養殖地の中のキュートードの数が激減していると。
今日もどうせ行く事になるので、ついでに調べてみようと思った。
依頼ではないが、色々とこの街には贔屓してもらってるからね。
なので朝食を食べて、少しブラブラしてから向かう事にした。
((あ、メド。あの二人はシクロ湿原に向かうみたいだよっ!))
((ん、なら先回りして待ち伏せするのが最善))
けど、私たちを尾行している存在には気が付かなかったけど。
――――
「みんな~、今日も私が来たよ~っ!」
『ケロロ~っ!』
「ん」
シクロ湿原に到着し、広大な湖面に向かって声を張り上げる。
桃ちゃんも頭に上から降りて一息鳴く。
「ん、ここ一帯が養殖しているとこ?」
「そうだね。向こうに杭が刺してあるからこの付近だと思う」
遠目に見える一定間隔にある杭を指差して答える。
『シクロ湿原』
全長が20キロ以上にも及ぶ広大な湿原。
面積で言えば、某ドームが約5000個分の広さだ。
深さは凡そ1メートル位、透き通った淡水で小魚も豊富だ。
そんな広大な湿原には巨大な橋がいくつも設けており、10数キロ先にある中央の展望台から各地方に渡れるように分岐している。観光客、そして運搬にも大いに利用されており、ノトリの街にとっても流通の要となる重要な橋だ。
私たちはノトリの街から到着し、湿原をグルっと回った北東の畔に来ている。
ここら一帯がキュートードの養殖地と聞いてここまで来た。
「私たちは少し調べものがあるから、桃ちゃんは遊んできていいよ。ここにいても退屈だもんね。後で呼ぶから楽しんできてね」
『ケロロ?』
ピュン
桃ちゃんを頭から降ろすと、湿原を少しの間見渡した後で水面に飛び込む。
そして桃色の花を咲かせたままで、スイスイと泳いでいった。
「さて、それじゃ少し見張っていようか? 今日も泥棒が来るかわからないけど」
湿原を見渡せる距離まで下がり、テーブルセットを取り出す。
今日も昨日に続き快晴で、少しだけ強くなってきた日差しが心地よかった。
「ん、待つ」
メヤは椅子に腰かけて麦わら帽子を被り目を細める。
眠いのか何なのかリラックスモードになっていた。
「こんなゆっくりするのは久し振りだよ。景色もいいし、キューちゃんもいて最高だよ」
「ん、澄香はお疲れ?」
「まぁね、でも私だけじゃないからね」
マヤメに答えながらそっと目を閉じる。
肌を撫でる暖かい風と、照りつける日差しが気持ち良かった。
『うん、大自然に囲まれてのんびりするのもたまにはいいね。確かに最近はバタバタしてたからね。今頃みんなもゆっくりしてるのかな? 私がいないからね~』
ここにはいない、ユーアたちと街のみんなを思い浮かべる。
みんなが忙しいのは私のせいかなと、ちょっとだけ思っちゃったけど。
「んっ? 澄香。向こうで水飛沫が上がったっ!」
少しだけまどろんでいると、マヤメが大声を張り上げる。
「えっ!?」
すぐに目を開け、マヤメが見ている方向に視線を移す。
するとその方角には、小さな飛沫が上がったのが確認できた。
「もしかして犯人かもっ! よし、確かめに行くよっ!」
「んっ!」
こうして私の安らぎの時間は、たったの数分で終わりを告げた。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる