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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
高待遇のカエルの英雄さま
しおりを挟む「なんだよっ! やっぱり嘘だったんだっ! でも美味しい~っ!」
キュートードのお肉に、ザクっとフォークを突き刺して八つ当たりをする。
そしてそのまま口に運び、美味なる味に怒りが冷め、思わず頬が緩む。
「ん、澄香行儀悪い」
対面に座っているマヤメに注意される。
そんなマヤメは私と違い、お行儀よく黙々と食べていた。
表情を見る限りでは、料理を堪能しているのかは不明だ。
けど、眉が微かに動いているから、きっと美味しいと思ってる。
「そうですね、私も長年キュートードの調理をしていますが、そんな話は聞いた事ありませんね? 嘘と言うよりかは、なにか理由がありそうですけど」
テーブルの脇に立ってそう話す人物は、『あしばり帰る亭』の店主兼、料理長だ。
やはりと言うか、ルーギルのあの話は作り話だったようだ。
そんな私とマヤメは街の人たちの熱烈歓迎から解放されて、今はあしばり帰る亭で食事をしている。
そしてここの料理長には、キュートードの味が美味しくなる時期があるかどうか確認していた。
その答えを聞く限り、そんな時期は存在しないことがわかった。
この街一番のお店の料理長が言うのだから間違いないだろう。
「理由、ねぇ? そんなのルーギルにあるのかな? 何かあるにしてもそこまで頭が回るわけないから、クレハンも関わっていると思った方が良いね?」
「ん、マヤは知らない」
「え~と、スミカさんの街の、冒険者ギルドのトップの方からの依頼ですよね?」
「そうなんだよ。最初から胡散臭くは思ってたんだけど、依頼なら仕方ないかと受けたんだよね。キューちゃんたちにも会いたかったし、ついでに羽根休みもしたかったから」
テーブルの上の桃ちゃんに干物を上げながら料理長に答える。
「あはは、スミカさんは本当に面白い方ですね。魔物を餌付けしながら、その魔物を食しているんですからね。さすがはカエルの英雄さまですよ」
「う~ん、私はそうは思わないんだけど、でもみんなからも不思議がられてたね」
「ん、澄香は変」
「まぁ、誰かに迷惑掛けてる訳じゃないからあまり気にしないでよ。可愛いものは可愛いで良いと思うし、美味しいものは美味しいんだからさ」
ペロっと干物を食べた桃ちゃんを撫でながら答える。
「確かにそうですね。種族の分け隔てのない、そう言う見方も大事だと思いますよ」
料理長は目を細め、私と桃ちゃんも見て今の話をそう締めくくった。
「あ、それと話は変わるんだけど、私たちこの宿に泊まりたいんだけど空いてる?」
このあしばり帰る亭は食事処と宿が一体となった、大きなお店だ。
因みに私のお気に入りのお店でもあり、前回の依頼でもお世話になったお店だ。
「はい、もちろん空いていますよ。いつでも空けてありますから」
「それは良かったよ。でも、いつでもって何?」
「はい、この宿の一室を、スミカさん用に貸し切りにしてあるんですよ」
「え? どういう事?」
『ケロ?』
「この街の英雄さまがいつ来ても泊まって頂けるように、一番の部屋を確保しているんです」
「………………マジ?」
「んっ! ゴホゴホッ」
食べる手を止め、マジマジと料理長を見る。
マヤメは食事を喉に詰まらせたらしい。
「まじ? ああ、それはもちろん本当ですよ。それが私からの感謝の気持ちですから。それに他の方々の総意でもありますしね。英雄さまとその一行には楽しんでいただきたいと」
「………………う、うん」
手を広げ、目を爛々と輝かせ、当たり前のように言い切る料理長。
私はそれを聞いて言葉に詰まり、ある事を思い出す。
ここの料理長は他の人たちと違い、英雄の私を囃し立てる事はしなかった。
感謝はされても、いたって普通の接し方だった。
だからか居心地も良かったし、前回一人で来た時もここに来た。
料理を気に入ったのもあったけど、料理長自身にも好意を持ったからだ。
それが――――
『ああ、納得したよ。だから私たちだけ個室に案内されたんだ…… しかもお店自体は忙しいのに、料理長が付きっきりなのも合点がいったよ』
キュートードの流通が円滑になった影響で、このお店は以前の活気を取り戻した。
いや、前の話だとそれ以上に繁盛していると言っていた。
それは元々人気店なのと、それに私が通った事もあり人気にその拍車をかけたらしい。
英雄さまご一行が度々利用されているお店として、更に繁盛していると。
お店自体はひっきりなしにお客さんが訪れている。
なのに責任者の料理長は私たちの相手をしている。
ならそう言う事なのだろう。
『まぁ、他の人たちとは違いグイグイ来るわけではないからいいけどさ、でも前よりはちょっと居づらくなるよね? 余り贔屓されると遠慮しちゃうよ』
気兼ねしちゃうのは、根っからの小心者なのだろう。
あんまり歓迎されると、その度合いと同じくらいに引いてしまうのは。
「あ~、でも料金はきちんと払うからね? 食事分と持ち帰り分と部屋の分も」
ここだけは引けないと料理長の目を見て話す。
さすがにフルコースとVIPの部屋は気持ち的にも重すぎるから。
「いいえ、それも結構です。ご満足いただけるだけご利用くださって」
「い、いや、それは嬉しいんだけど、私が悪い人だったら際限なく利用しちゃうよ? それこそお店が潰れるくらいに頼んじゃうよ? そうなったら困るでしょう?」
若干、言葉に詰まりながら弱々しく脅してみる。
僅かに抵抗をして見せるように。
「スミカさんがそう言った立場を悪用しない人なのは知っています。それは人柄もそうですが、他の街でも英雄扱いされている事も耳に入っていますしね。だから何も心配していませんよ?」
「そ、それはそうだけど……」
「あ、私は部屋の支度を指示してきますので、何かありましたら呼び鈴でお呼びください。ではごゆっくりとお食事を楽しんでください」
「あ」
にこやかな笑みのまま、料理長は恭しく頭を下げて部屋から出て行った。
私のささやかな抵抗は失敗に終わった。
「はあ~、だから目立ちたくないんだよ。好意を持たれて、あれこれしてくれるのはいいんだけど、度が過ぎると何だか気が引けるから」
「ん、それは澄香のせい」
「何それ? 私が悪いみたいに聞こえるんだけど」
思わず出た独り言に反応したマヤメを睨む。
「ん、違う。澄香は良い事した。だからみんな親切になる」
「まぁ、それもわかるけどね。私もユーアに何でもしてあげたいと思うもん」
「ん? それは良く分からない」
無表情で首を傾げるマヤメ。
今の話に繋がるとは思えなかったのだろう。
「それはそうだよ。私の中だけの話だから。ユーアはどう感じているかわからないけど、私は救われているからね。この世界に来て見付けられたから」
「ん? この世界?」
「あ、何でもない。それよりも今日はここに泊って、明日また街を散策しようよ。シクロ湿原にも行きたいし、もう少しゆっくりしたいから」
「ん」
そんなこんなで、依頼の一日目は何事もなく過ぎて行った。
あと9日間も滞在するかは後で考えよう。
――――
一方、その半時前。
あしばり帰る亭の外では、二人の幼女がコソコソと話し合っていた。
「ん、フーナさま。あの人たちここに入って行った」
「うん、もしかしたら泊まるのかな? ならチャンスは明日だね?」
「ん、街を出る時もあるかもしれない」
「よし、ならわたしたちもここに泊ろうよっ! 部屋はもちろん一つで」
この街一番のお店を見上げて、メドに提案する。
「ん、フーナさまがそう言うなら」
「だったら抱き枕してもいい? 略してメド枕」
「ん、それはダメ」
「グスン」
こうしてメドとわたしたちの一日も終わりは告げた。
明日こそは抱き枕、じゃなくて、蝶の駆除をすると心に決めながら。
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