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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
意外な再会
しおりを挟む「よし見えてきたね。もう少しでお友達に会えるからねっ!」
『ケロ~』
桃ちゃんと一緒に街を出て数時間。
私たちの影が短くなった頃、遠目に見覚えのある森が見えてきた。
そこはウトヤの森。
希少な魔物や素材が少ない影響で、あまり人が寄り付かない秘境の地。
ただそのお陰で、誰にも踏み荒らされてない、緑豊かな自然の森だとも言える。
中心の拓けた場所には、この前Bシスターズでキャンプをした湖がある。
濁りのない綺麗な清水と、多くの緑に囲まれて、真夏なら絶好の避暑地とも言える。
因みにその湖には、湖の主の獰猛な魔物のパルパウがいたけど、今はいない。
ナジメが退治して、みんなで食べちゃったから。あ、全部じゃないよ?
「あ~、あのカラフルなお肉美味しかったなぁ。まだアイテムボックスにあるから焼いて食べるのもいいねっ! って、今はそれどころじゃなかった。キューちゃんを呼ばないと」
そう。
ここに来た目的は、この湖に放流したままのキューちゃん(約80匹)を故郷のシクロ湿原に連れ帰る事だ。決して一人バーベキューをしに来たわけではない。
「キューちゃ――――んっ! 私が来たよぉ――っ! 桃ちゃんも一緒だから出ておいでぇ――っ! 元のお家に帰るよぉ――っ!」
『ケロロ―ッ!』
さざ波に揺れる湖面に向かって、ここにいるはずのキューちゃんたちを呼ぶ。
その意味を知ってか知らずか、頭の上の桃ちゃんも一鳴きする。
すると、
ザバッ!
「ん?」
目の前の水面が揺れ、水中から何かがゆっくりと姿を現した。
「キューちゃん? って、えええええ――――っ!」
水面から突如現れた、予想外の物に驚く。
頭のカラフルな花が浮かび上がるものだと思ったのに、出て来たのは人だった。
「ん、澄香が落としたのはこの金のカエルと銀のカエルどっち?」
湖の中から出て来たのは、一人の女の子だった。
以前にここで会った事のある、メヤと名乗った少女だった。
「はあっ!? なんで水の中から出てくるのっ! そもそも水着も着ないで泳ぐのもおかしいしっ! じゃなくて、そこで何してんのっ!? 他のキューちゃんたちは?」
「ん?」
ツッコミどころが多く、思わず早口になる。
そもそも金ではなく黄色だし、銀色も灰色のキューちゃんだった。
そんな慌てる私を見て、首を傾げる仕草を見せるメヤ。
「ん、ん――――、なんで?」
「いや、聞いてるのはこっちっ! なんで私に聞いてるのっ!」
「ん? なんでって、それは――――」
――――
スミカの二日目の休みの日。
次の日には依頼に出掛ける前日の事。
「ん、明日は出発する日。だから早めに出ないとマヤでは追いつけない」
いつもの装備に着替えて、最近購入したお気に入りの蝶のリュックを背負う。
下着型のアイテムボックスの中身も確認する。
「ん、準備万端」
一人呟き住み慣れた、この街の我が家を後にする。
「あら、おはようメヤちゃん。今日も早いのね?」
「ん、ちょっと遠いところに行く。それとおはよう」
家を出たところで、掃除をしていた隣のおばちゃんに挨拶される。
「遠いところ? ならこれを持って行きなよ。背負い袋に入るでしょ?」
「ん、これは?」
差し出された包みを受け取りながら視線を向ける。
ほのかに暖かく、白い布で巻いてあった。
「おにぎりよ。今朝の余りで作ったから大したものじゃないけどね。それと日持ちはしないから早く食べなよ? 中身はメヤの好きな塩肉と梅よ」
「ん? これ余りで作った? メヤが好きなのに?」
「そうよ。だから気にしないで持って行ってちょうだい」
「…………ん、わかった。ありがとう。お昼に食べる」
「それじゃ、気を付けて行ってきなっ!」
「んっ! 痛い。でも行ってくる」
バンと背中を叩かれて、笑顔で送り出される。
まだ上手にできないけど、マヤも笑顔を作っておばさんに返す。
「ん、今日もいい天気。きっと向こうも晴れてる」
この前おばちゃんに貰った麦わらの帽子を被り、遠くの空を眺める。
――――
「ん、こんな感じ」
「いやいや、ただ家を出ておばちゃんに挨拶されただけじゃ意味わかんないからっ!」
唐突にポツポツと話が始まったけど、物語はまだ何も始まっていない。
家を出て空を眺めて、この先何かあるかと期待したがそのまま終わっていた。
「ん、仕方ない。なら続き話す。それから――――」
キリと私を見た後で、佇まいを正し再度話し始める。
「はぁ~、もういいや。どの道あなたに会いたいと思ってたところだから。一緒に行けるならその道中で聞くよ? だからその前に他のキューちゃんたちが何処に行ったか知らない?」
「え?」
この少女が悪者だとは思えない。
それは何度か会った時から気付いていた。
シクロ湿原での相対した時も。
それとこのウトヤの森で再開した時も。
『あ~、初対面のシクロ湿原の時は、確か「マヤ」って名乗ってたっけ? あの時は銀髪で今は黒髪。髪の長さも髪型も服装も違うけど、独特な話し方や細かな仕草、それと――――』
「ん?」
私を不思議そうに見る、あまり変化のない表情と、どこか眠たそうな半目は間違いなく同一人物だ。
「ん? なんでメヤに会いたかった?」
ゆっくりと湖から陸に上がり、私の傍までやって来る。
その両手にはキューちゃん抱きながら。
「ナジメに聞いたんだよ。私が見逃していたスラムの虫を駆除してくれたってね」
メヤにタオルを渡しながら答える。
「ん、ありがとう。でもあれは誰にも見付からない。見逃してたは違う」
髪や手足を拭きながら、私の話を擁護する。
「まぁ、そうなんだろうけど。元々私はあの巣穴を後で調べるつもりでいたんだよ。以上に長くて深い洞窟だったからね」
「ん、なんで?」
「あそこ以外でも変な魔物が出没したところは、何かおかしくなってるらしいんだよ」
「おかしく?」
「そう。以前にも出現したサロマ村に、普段は森や山にいる魔物が押し寄せているんだよ。それで討伐依頼が出ているって聞いたから」
この情報は、先日ナゴタとゴナタから聞いたものだ。
「ん………………」
「私の勘だとサロマ村に近い、ビワの森の頂上の洞窟に原因があると思うんだ。ここも変な魔物を退治した後、その巣穴を調べてないからね」
「ん、マヤ、そんなの知らない……」
「でも色々と忙しくなって行けなかったんだよ。 だからスラムの件はありがとうね。メヤの情報が無かったら、スラムだけじゃなく、コムケの街も危険になってたからね」
「ん、マヤはあの街が好きだからそうしただけ。後ナジメがいてくれて助かった」
渡したタオルを律義に畳み、そっと差し出す。
「で、最初の質問に戻るけど、会いたいって言うのは、そのナジメが気に掛けてくれって言ってたんだよ。何かあったら話を聞いてくれって」
「ん………… ナジメ」
「後それと、私の妹のユーアからも頼まれてるからね? あの子は悪い子じゃないからナジメちゃんの言う通りにしてあげてねって」
湿り気のあるタオルを収納しながら、メヤの目を見て話す。
「ん、ユーアも良い子。マヤも好き」
胸の前で両手を握って目を細める。
「で、結局あなたの名前はなんなの? メヤが偽名でマヤが本名でいい?」
「ん、私の名前は『マヤメ』今まで嘘ついてごめんなさい」
無表情のまま、ぺこりと頭を下げる。
「別に謝らなくていいよ。そっちにも事情があるだろうし。聞けばこうやってキチンと教えてくれたから。だからその話はもういいよ」
「ん」
「で、マヤメの話は後にして、残りのキューちゃんたち知らない?」
話をしながらも、視線だけで探してたけど見当たらなかった。
今いるのはマヤメの足元の2匹だけだ。
「ん、マヤも見てない」
「そう、なら何処に、湖にいるのは間違いな――――」
『ゲロロロ――――ッ!!』
「ちょっと、どうしたのっ!?」
今まで大人しかった桃ちゃんが、頭から飛び降り、巨大化して鳴いた。
地面に両手をしっかりと付けて、湖に向かって吠えた。
すると―――――
『ケロロ――ッ!』『ケロロ――ッ!』『ケロロ――ッ!』
『ケロロ――ッ!』『ケロロ――ッ!』『ケロロ――ッ!』
『ケロロ――ッ!』『ケロロ――ッ!』『ケロロ――ッ!』
今までなだらかだった水面が揺れ、見える一面に色とりどりの花が咲いた。
「うわ~っ! きれいっ! そしてみんな戻ってきたよっ!」
「ん」
こうして桃ちゃんのお陰で残りのみんなも帰って来て、新しい仲間も引き連れて、次はシクロ湿原を目指して出発した。
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