上 下
449 / 581
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

スミカの普通とマヤメと組織と

しおりを挟む



「どうしたの? 二人とも」

 来る時とは違って、どこか上の空のイナとラボに声を掛ける。
 どこか呆けた顔で、私の後を付いてきているからだ。

 そんな私たちは朝一番に、ニスマジのお店『黒蝶姉妹商店』に行った後で、忘れかけていた冒険者ギルドに寄ったその道中だ。

 前者はイナとラボの日用品と衣類を購入する為に。
 後者はナルハ村での依頼の報告にと寄ったものだ。


「うん、なんか驚きを通り越して緊張しちゃうよ…… スミカ姉がこんなにこの街で有名人だったなんてさ。こんな凄い人と一緒に歩いてていいのかなってさ」
 
「そうだな、スミカさんの凄さはわかってはいたが、まさか店の従業員がスミカさんたちの格好をしていたのは驚いた……」

 二人顔を見合わせて、しみじみと話す。

「あ、ああ、あれは何とかして欲しいよね? ガチムキの男3人が女装なんかで宣伝したら、Bシスターズの評判が下がっちゃうし、私たちも恥ずかしいから」

 あの店の惨状を思い出して顔をしかめる。
 たった数日行ってなかっただけで、アイツらがパワーアップしていたからだ。

 店主のニスマジは幸いな事に留守だった。
 けど、3人の看板男どもが私たちのコスプレをしていた。

 それはいい。
 いや、良くはないけど、前にも見たからある程度周知の事だった。

 けれど、数日振りに見たガチムキ看板男どもは、どこで見聞きしたのか知らないけど、シスターズのキャンプで着ていた『水着姿』で現れた。

 ユーアを真似ての花柄のビキニタイプの一人が店頭に。
 ラブナが着ていた白と赤のモザイク柄のワンショルダータイプが案内に。
 最後はナジメが着ていた三角タイプの青緑色のストライプ柄の男が会計に。

 そんな3人が満遍なく店に配置しており、何処を見ても気持ち悪かった。
 しかも新商品なのか、それぞれが羽の生えたリュックを背負っていた。

 イナとラボはそのリュックを見て、私の真似をしていると気付いたらしい。

 ある意味、店にニスマジがいなくて幸運だったとも言える。
 もしその場にいたら、羽根を引きちぎって燃やしていたであろうから。


「あ、あの変な店もそうなんだけど――――」
「ん?」

 まだ何か言いたげな表情のイナがこっちを見る。
 歩く速度を落として隣に並ぶ。

「――――冒険者ギルドってとこでも、スミカ姉は注目されてたよなぁ」
「そう? 最初からあんなだったよ? この姿だし。普通じゃないかな?」

 歩く速度を落として、イナの隣に並び答える。

 注目されるなんて、ゲームの世界でもこの世界でも日常茶飯事だ。 
 まぁ、その意味合いはかなり違うんだけど。
 トッププレイヤーと奇抜な装備のせいで。


「いや、あれは普通ではないと俺は思うぞ。スミカさんがギルドに入った途端に、受付までの道が出来たからな。混雑していたはずなのに、強面の冒険者たちが揃って頭を下げて、脇にどいてくれたからな」

「あ~、そう言えばそうだったね」

 確かにラボの言う通り、私を見た途端にモーゼの十戒のように人混が割れたっけ。
 以前はそんな事なかったんだけど。
 せいぜい恭しく挨拶されるくらいだったのに。


「それと何でスミカ姉は、ギルド長さんの隣の部屋に案内されたんだ? 眼鏡の人もアタイたちに高そうなカップで紅茶を淹れてくれたりしたけど、あれも普通かい?」

「ああ、何やら高級そうな調度品が揃っていた部屋だったなぁ…… 恐らく来賓用の部屋でも、かなりの要人が来た際に使われる部屋だったのだろうなぁ」

 イナは私の顔を覗き込んで、ラボは遠くを見ながらしみじみと話す。
 相変わらずこの親子の観察眼と洞察力が鋭い。って言うか面倒くさい。


「う~、その話はもういいでしょ? それよりもなんか二人とも疲れた顔してるよ? この先に知り合いのお肉屋さんの2階に食堂があるんだけど、そこで少し休憩する? その後でスラムに案内するけど」

「どうする親父? アタイは構わないけど。街の中も覚えられるし」
「そうだな、スミカさんの好意に甘えようか。イナも疲れただろうしな」
「って、アタイは子供じゃないんだっ!」

 ラボは答えながらイナの頭を撫でて、いつもの様に怒られる。

「なら行こっか。ついでに私もお肉の買い足しするから」
「うんっ!」
「スミカさんお願いする」

 こうして次の行き先は、ログマさんとカジカさん夫妻が経営する『トロの精肉店』になった。

 そこでは夫婦のログマさんとカジカさんが、ナゴタとゴナタが着ていたスク水で現れて、またイナとラボが騒ぎ出したのは記憶から消したい。

 ログマさん……

――――

 ここは、とある大陸の沖合に浮かぶ名も無い無人とされる島。
 その島の地下にある部屋の中では、この施設の主と、組織の精鋭部隊を預かるタチアカとの話し合いが行われていた。


「で、どうだったんだい? マヤメの説得は?」

 部屋に入ると座っていた椅子から立ち上がり、一人の男がタチアカを出迎える。
 へらへらと薄い笑みを浮かべているが、こちらを見る視線だけは鋭い。


「どうも何も、アイツを切り捨てる事にしたさ」 

「えええっ! だってマヤメはタチアカが連れてきたんじゃなかったの?」 

 まるで下手な演技のように、大袈裟に両手を広げ唖然とする。

「そうだ。だが今の任務に就いてから、度々不穏な動きをする。報告の内容も正確性に欠けるし、未だに自分の潜伏場所を明かさない。聞くとのらりくらりとはぐらかす。まぁ、そっちは大方の予想は出来るが」

「え? それってなんの意味があるの? 居場所を知らせないって」 

 大仰に身を乗り出し、わざとらしく目を丸くする。

「ああ、これはアタイの予想なんだけど、恐らく潜伏先に何かあるんだと思う。アイツが気に入った村か街か、はたまたそこに住む何者かを組織に知られない為に。 それかそのまま逃亡する腹つもりかも知れんな。アイツを作った創造主と同じようにな」

 目の前の男とは違い、淡々と自分の考えを話す。

「そっかぁ~、どっちにしろこのまま僕を裏切る流れになるのかぁ~、でもよくタチアカもそんな判断したよね? 自分で連れてきたくせにさぁ」

「ア、アタイはただ、あんたの命令を聞いて――――」

「しかも、マヤメが組織に入るように、あの子の一番大切な者を壊しちゃってさぁ。そんな自暴自棄の絶望の中で勧誘されたら付いてくるしかないよね?」 

「だ、だからアタイは組織の――――」

「まぁ、親も親なら子も子だったって事だ。僕を裏切るならマヤメはもういいや。どうせ勝手に停止するんでしょう? それにそっちばかりにかかりっきりにもなってられないからね」

 言いたい事だけを並べて、心底興味を失ったように自分の椅子へと戻る。

「はぁ? ならマヤメもそうだが、魔改兵を殲滅している奴らを見逃すのかっ!? 絶壁の女勇者や、災害の幼女、北の氷結王女や、東の断罪シスター、そしてマヤメが追っていた蝶の英雄と呼ばれる者もっ!」

 机にダンと手を付き、どこか気だるげな男に詰め寄る。


「うん? ああ、そっちはタチアカとシスターズに任せるよ。それに魔改兵が倒されても悪い事ばかりじゃないんだよ。そこら辺は技術開発主任のマカスが知ってるから。それじゃ後はよろしく」

 クルリと体ごと椅子を回転させて、アタイに背中を見せる。
 どうやらこれ以上話をする気が無いという意思表示らしい。


「はぁ、わかった。後はアタイたちの勝手にさせてもらう。だが報告も怠らないし、組織に不利益な事もしない。ただ無茶はしても文句は言わないでくれ。これも組織とあんたの為なんだから」

「はい、はい、それじゃよろしく~っ!」

「ああ」

 背を向けながらヒラヒラと手を挙げた男を尻目に、アタイは部屋を出る。
 先ずはマヤメが隠した創造主の体の行方と、潜伏先への情報を集める事を決めて。


「ならマヤメの前にコムケと言う街にいた、アイツに話を聞くとしよう」

 各地に派遣しているナンバーのないシスターズの下位たち。
 その中でもマヤメの前任として就いていた、アイツを思い出し会いに行く事にした。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...