上 下
446 / 581
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

ギルドの思惑とスミカの願い

しおりを挟む



 スミカたちがイナたちを連れて、コムケに帰ってきた次の日の早朝。
 俺はいつものようにギルド職員に挨拶して、2階にある書斎に入る。

 ガチャ

「どうでしたか、ギルド長? あ、おはようございます」

 部屋に入ると、既に仕事に取り掛かっているクレハンに開口一番聞かれる。
 朝の挨拶を後回しにする程、昨日の結果を気にしている様子だ。


「ああっ! 嬢ちゃんに依頼として受けてもらったぜッ!」

 ドカと自分の席に座りながら、挨拶と一緒にそう答える。
 その依頼と言うのは、ノトリの街でご馳走を買ってくれと頼んだことだ。


「そうですか、前もってワナイ警備兵さんに言っておいて良かったですね。スミカさんたちが帰ってきたら、至急冒険者ギルドに教えて欲しいって事を。はいギルド長、熱いので気を付けて下さい」

「おうッ! そこはナイスだクレハンッ! 嬢ちゃんには早めに言っておかねぇとまた何かに巻き込まれるからなッ! その前に捕まえられたのは僥倖だったぜッ!」

 クレハンが淹れてくれた紅茶を受け取り、グッと親指を立てる。


「それで確認なのですが、スミカさんは3日後に街を発たれるんですよね?」
「そうだッ! それで向こうで1週間程遊んでくれと頼んでおいたぜッ!」

 淹れてくれた紅茶を飲みながら答える。

「なら、フーナさんが来るのが5日前後ですから、鉢合わせはしないようですね」
「だなッ! フーナが来ても嬢ちゃんはノトリに行ってるから大丈夫だッ!」
「それとフーナさんの滞在期間なのですが、本当にすぐ発たれるんですか?」

 クレハンも自分の席に座り入れた紅茶に口を付ける。

「ああ、アイツは屋敷にも女を囲ってっからすぐに帰んだろッ! それと一通り街を散策したら飽きるだろうしなッ! 昔から堪え性のないって言うか、子供のようにフラフラとしてっかんなッ!」

「そうですか、そこだけが懸念材料だったんですが、でも念の為に手を打っておきましょう。もしかして街に長く滞在する理由が出来てしまうかもしれませんので」

「それがあるとすりゃあ、嬢ちゃんの知り合いに絡む事くれえかッ? ならそっちも問題ねぇッ。ちょっかいは出すやもだが、しつこく付きまとう事はしねぇからなッ!」

 アイツは幼い女を趣味嗜好としている特殊な奴なんだが、嫌われる事を人一倍嫌う。
 だからしつこくも、ましてや泣かれたりしたら、自分も号泣しながら謝り倒し、その後で逃げ出すだろう。
 
 まぁ、これは俺がフーナとパーティーを組んだ、十年以上も前の話、だが。 

『それでも問題ねぇだろうよ。見た目もそうだが、中身も変わらず幼いままだろうし、そもそもアイツが成長するとも思えないしなッ! そこら辺は嬢ちゃんと一緒だッ!』

 どことなく昔のフーナとスミカ嬢を重ねてそう思う。

 高い実力もさることながら、かなりこの世界の常識に疎く、どこか抜けている。
 それでいて見た目幼いが、やる事は派手を通り越して現実味がない。
 凡そこの世界では、異質と呼ばれる程の実力者だ。

 それと、最近新しいランクが発足されたらしいが、そのランクより上だと俺は思っている。
 現段階の最上位のSランクよりも、アイツ等は強いと直感で感じている。


『まぁ、そんな常識外の二人だがよッ。それでも大きな違いがあんだよな~。嬢ちゃんにはあって、フーナにはない、最初に会って感じたデカイ差がなッ でもよぉ――――』

 こうやってクレハンと、あれやこれやと動いてはいるが、どこかであの二人が絡む事を望んでいる俺がいる。きっとクレハンも一緒だ。

 どこか似たもの同士、それでも決定的な差が二人にはある。
 俺はそれを見たいし、ハッキリさせたい。
 
 どちらが強いか弱いかの単純な力比べではなく、どちらが格上なのかを。
 個の生物として、どちらの存在が上位なんだと。

 ただそれを明確にするのであれば、この街が巻き込まれる可能性がある。
 だから俺たちはそれを防ぐために裏で動いている。

 アイツらの事をもっと知りたい、けど、嫁も暮らすこの街を危険に晒したくない。

 俺らはそんな葛藤の中、悶々としながら話し合いを続けた。



――――――



 今日から明後日までは依頼もなく、実質冒険者のお仕事はお休みだ。
 ただし3日後にはルーギルの依頼でノトリの街へ行く事になっている。

 本当にいるかどうか正直疑わしい、ルーギルの奥さんの為に、キュートードの料理をノトリの街で買ってきて欲しいと頼まれた。
 寂しい思いをさせている奥さんへの記念日のプレゼントとして。

 ただおかしな事に、1週間も滞在して来いって変わった条件を付けられた。
 その分の旅費はもちろん払ってくれると言う。


『なんか裏があるっぽい気もするけど、依頼として言われたら何も言えないなぁ。こう言う時、雇われの身としては辛いよね? 別にお金に困ってる訳じゃないけどさ』 

 私一人だけだったら、そこまで律義に言いつけを守る必要はない。
 寧ろ依頼さえ面倒で受けない。いや、それどころか冒険者にもなっていないだろう。

 でも現状の私は、みんなを守る長女の立場だし、この街意外でも色々と付き合いも増えてきているので、自分勝手な行動は控えたいと思う。
 英雄とか呼ばれてるのにも、今の考えに拍車をかけている。

 それと付き合いと言えば昨夜の食後に、子供たちを含めて、近況の報告を受けた。
 私たちがこの街にいなかった5日間の事を。


『孤児院の子供たちは、問題なくメルウちゃんのところで働いているみたいだし、スラムの子にも勉強も教えてあげてるみたいで安心したよ。何だかんだでユーアやシーラの教育の賜物かもね?』

 ほぼ毎日交代で、大豆屋工房サリューに働きに行っている子供たち。
 まだ数日なので慣れない様子だけど、ボウとホウがその子たちに教えているらしい。

 年長のシーラの時間の殆どが、子供たちの勉強を見ているらしく、それが落ち着いたらお仕事をしたいとも言っていた。今までお世話になった、ユーアやラブナに何か贈り物をしたいとも。

 ビエ婆さん率いるお世話組は、子供たちの教育に重きを置いているようだ。
 話し方やテーブルマナー、情操教育などを合間に教えていると言っていた。

 それとアマチに恋心を抱いている(予想)の幼馴染のエーイさんは、特に進展はないらしい。
 これはエーイさん本人からではなく、ビエ婆さんからこっそりと聞いた情報だ。

 実は、恋愛&キューピット役として、私がビエ婆さんに頼んでいた事だった。
 もちろんエーイさん本人は知らない。さり気なく相談を受けて欲しいと言ってあるので。

『まぁ、この話は経験少ない私からは助言できないし、ビエ婆さんに任せておけばなんとかなりそう? 人任せであれなんだけど…… ってか、なんで人の恋の行方を気にしてんの? 私?』

 恋愛に興味が無い訳ではない。
 でも今はそれを考えられない。

 だって私はもっと楽しい事と、やりたい事を見付けたから。
 だから恋だなんて私に似合わないものに、うつつを抜かす暇がない。

 なら何故、人の恋路が気になるのか、それは――――


「私にもわからない。けど、きっと縁なんだと思う。私はユーアに出会って変わった。だからその恩返しとして、関わった人たちを変えたいんだと思う。みんなを幸せにとか、そんな自惚れた話ではなく、今よりちょっとだけ変わったみんなを見たいんだと思う」
 
 元々の私は、こんなに面倒ごとに顔を突っ込むことも、面倒見もいいとは言えなかった。

 けど、ユーアを含め、私はこの世界に変えてもらった。

 だから私は自分の世界を創る。
 ユーアとみんなが過ごしやすい私の世界を創る。

 それがこの世界への恩返し。
 こんな素性の知れない、異世界人の私を受け入れてくれた事への恩義。


 だから今日も私は――――

「ん~っ! よし、それじゃそろそろ起きようか。今日はギルドで報告して、それからイナたちの案内と、後はナジメに聞いたメヤの事も気になるからねっ!」

 だから今日も私は自分の為に動き出す。
 自分が望む世界が、みんなの為になると信じて行動を開始する。

 それがこの世界での、私のやりたい事だからね。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...