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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編
ギルドの思惑とスミカの願い
しおりを挟むスミカたちがイナたちを連れて、コムケに帰ってきた次の日の早朝。
俺はいつものようにギルド職員に挨拶して、2階にある書斎に入る。
ガチャ
「どうでしたか、ギルド長? あ、おはようございます」
部屋に入ると、既に仕事に取り掛かっているクレハンに開口一番聞かれる。
朝の挨拶を後回しにする程、昨日の結果を気にしている様子だ。
「ああっ! 嬢ちゃんに依頼として受けてもらったぜッ!」
ドカと自分の席に座りながら、挨拶と一緒にそう答える。
その依頼と言うのは、ノトリの街でご馳走を買ってくれと頼んだことだ。
「そうですか、前もってワナイ警備兵さんに言っておいて良かったですね。スミカさんたちが帰ってきたら、至急冒険者ギルドに教えて欲しいって事を。はいギルド長、熱いので気を付けて下さい」
「おうッ! そこはナイスだクレハンッ! 嬢ちゃんには早めに言っておかねぇとまた何かに巻き込まれるからなッ! その前に捕まえられたのは僥倖だったぜッ!」
クレハンが淹れてくれた紅茶を受け取り、グッと親指を立てる。
「それで確認なのですが、スミカさんは3日後に街を発たれるんですよね?」
「そうだッ! それで向こうで1週間程遊んでくれと頼んでおいたぜッ!」
淹れてくれた紅茶を飲みながら答える。
「なら、フーナさんが来るのが5日前後ですから、鉢合わせはしないようですね」
「だなッ! フーナが来ても嬢ちゃんはノトリに行ってるから大丈夫だッ!」
「それとフーナさんの滞在期間なのですが、本当にすぐ発たれるんですか?」
クレハンも自分の席に座り入れた紅茶に口を付ける。
「ああ、アイツは屋敷にも女を囲ってっからすぐに帰んだろッ! それと一通り街を散策したら飽きるだろうしなッ! 昔から堪え性のないって言うか、子供のようにフラフラとしてっかんなッ!」
「そうですか、そこだけが懸念材料だったんですが、でも念の為に手を打っておきましょう。もしかして街に長く滞在する理由が出来てしまうかもしれませんので」
「それがあるとすりゃあ、嬢ちゃんの知り合いに絡む事くれえかッ? ならそっちも問題ねぇッ。ちょっかいは出すやもだが、しつこく付きまとう事はしねぇからなッ!」
アイツは幼い女を趣味嗜好としている特殊な奴なんだが、嫌われる事を人一倍嫌う。
だからしつこくも、ましてや泣かれたりしたら、自分も号泣しながら謝り倒し、その後で逃げ出すだろう。
まぁ、これは俺がフーナとパーティーを組んだ、十年以上も前の話、だが。
『それでも問題ねぇだろうよ。見た目もそうだが、中身も変わらず幼いままだろうし、そもそもアイツが成長するとも思えないしなッ! そこら辺は嬢ちゃんと一緒だッ!』
どことなく昔のフーナとスミカ嬢を重ねてそう思う。
高い実力もさることながら、かなりこの世界の常識に疎く、どこか抜けている。
それでいて見た目幼いが、やる事は派手を通り越して現実味がない。
凡そこの世界では、異質と呼ばれる程の実力者だ。
それと、最近新しいランクが発足されたらしいが、そのランクより上だと俺は思っている。
現段階の最上位のSランクよりも、アイツ等は強いと直感で感じている。
『まぁ、そんな常識外の二人だがよッ。それでも大きな違いがあんだよな~。嬢ちゃんにはあって、フーナにはない、最初に会って感じたデカイ差がなッ でもよぉ――――』
こうやってクレハンと、あれやこれやと動いてはいるが、どこかであの二人が絡む事を望んでいる俺がいる。きっとクレハンも一緒だ。
どこか似たもの同士、それでも決定的な差が二人にはある。
俺はそれを見たいし、ハッキリさせたい。
どちらが強いか弱いかの単純な力比べではなく、どちらが格上なのかを。
個の生物として、どちらの存在が上位なんだと。
ただそれを明確にするのであれば、この街が巻き込まれる可能性がある。
だから俺たちはそれを防ぐために裏で動いている。
アイツらの事をもっと知りたい、けど、嫁も暮らすこの街を危険に晒したくない。
俺らはそんな葛藤の中、悶々としながら話し合いを続けた。
――――――
今日から明後日までは依頼もなく、実質冒険者のお仕事はお休みだ。
ただし3日後にはルーギルの依頼でノトリの街へ行く事になっている。
本当にいるかどうか正直疑わしい、ルーギルの奥さんの為に、キュートードの料理をノトリの街で買ってきて欲しいと頼まれた。
寂しい思いをさせている奥さんへの記念日のプレゼントとして。
ただおかしな事に、1週間も滞在して来いって変わった条件を付けられた。
その分の旅費はもちろん払ってくれると言う。
『なんか裏があるっぽい気もするけど、依頼として言われたら何も言えないなぁ。こう言う時、雇われの身としては辛いよね? 別にお金に困ってる訳じゃないけどさ』
私一人だけだったら、そこまで律義に言いつけを守る必要はない。
寧ろ依頼さえ面倒で受けない。いや、それどころか冒険者にもなっていないだろう。
でも現状の私は、みんなを守る長女の立場だし、この街意外でも色々と付き合いも増えてきているので、自分勝手な行動は控えたいと思う。
英雄とか呼ばれてるのにも、今の考えに拍車をかけている。
それと付き合いと言えば昨夜の食後に、子供たちを含めて、近況の報告を受けた。
私たちがこの街にいなかった5日間の事を。
『孤児院の子供たちは、問題なくメルウちゃんのところで働いているみたいだし、スラムの子にも勉強も教えてあげてるみたいで安心したよ。何だかんだでユーアやシーラの教育の賜物かもね?』
ほぼ毎日交代で、大豆屋工房サリューに働きに行っている子供たち。
まだ数日なので慣れない様子だけど、ボウとホウがその子たちに教えているらしい。
年長のシーラの時間の殆どが、子供たちの勉強を見ているらしく、それが落ち着いたらお仕事をしたいとも言っていた。今までお世話になった、ユーアやラブナに何か贈り物をしたいとも。
ビエ婆さん率いるお世話組は、子供たちの教育に重きを置いているようだ。
話し方やテーブルマナー、情操教育などを合間に教えていると言っていた。
それとアマチに恋心を抱いている(予想)の幼馴染のエーイさんは、特に進展はないらしい。
これはエーイさん本人からではなく、ビエ婆さんからこっそりと聞いた情報だ。
実は、恋愛&キューピット役として、私がビエ婆さんに頼んでいた事だった。
もちろんエーイさん本人は知らない。さり気なく相談を受けて欲しいと言ってあるので。
『まぁ、この話は経験少ない私からは助言できないし、ビエ婆さんに任せておけばなんとかなりそう? 人任せであれなんだけど…… ってか、なんで人の恋の行方を気にしてんの? 私?』
恋愛に興味が無い訳ではない。
でも今はそれを考えられない。
だって私はもっと楽しい事と、やりたい事を見付けたから。
だから恋だなんて私に似合わないものに、うつつを抜かす暇がない。
なら何故、人の恋路が気になるのか、それは――――
「私にもわからない。けど、きっと縁なんだと思う。私はユーアに出会って変わった。だからその恩返しとして、関わった人たちを変えたいんだと思う。みんなを幸せにとか、そんな自惚れた話ではなく、今よりちょっとだけ変わったみんなを見たいんだと思う」
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けど、ユーアを含め、私はこの世界に変えてもらった。
だから私は自分の世界を創る。
ユーアとみんなが過ごしやすい私の世界を創る。
それがこの世界への恩返し。
こんな素性の知れない、異世界人の私を受け入れてくれた事への恩義。
だから今日も私は――――
「ん~っ! よし、それじゃそろそろ起きようか。今日はギルドで報告して、それからイナたちの案内と、後はナジメに聞いたメヤの事も気になるからねっ!」
だから今日も私は自分の為に動き出す。
自分が望む世界が、みんなの為になると信じて行動を開始する。
それがこの世界での、私のやりたい事だからね。
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