剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

不思議な依頼

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「うお――――いっ! スミカ嬢っ!」

 ラボ親子の勘違いに凹んでいると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

「うん?……………」

 この野蛮で、無神経で、不潔で、戦闘狂でもあり、見た目山賊のくせして、奇跡的に結婚しているようなデカイ声は……

「なに? 冒険者ギルド長のルーギル」
 
 ここまで駆けてきた、ルーギルに振り向く。

「なに? じゃねぇッ! お前の悪口全部聞こえてっぞッ!」 
「え?」
「え? でもねぇッ! 声で山賊とかわかるかよッ! 結婚してて悪かったなッ!」
「はぁ、もう因縁付けられるのは酔っ払いでうんざりなんだけど。しっしっ!」

 ヒラヒラと手を振ってルーギルをあしらう。

「くっ! 相変わらず嬢ちゃんは――――  じゃなくてだな。それよりもなんでギルドに報告に来ねぇんだッ? 依頼は終わったんだろうッ? 戻ってきたって事はよッ」

 苦笑いから一転して、訝し気な視線に変わる。

「え? 報告……………… は明日行くよ。今日はもう遅いし」
「スミカ嬢お前、今の今まで忘れてただろう。依頼人もいるのによぉッ」
「うん。ごめんね?」

 可愛くペロと舌を出し、顔の前で両手を合わせて素直に謝る。
 忘れてたのは事実だしね。

「スミカ姉…… 本当に冒険者なのか……」
「どんどん英雄の印象が変わってくる……」

 ただしその後ろでは、またラボとイナが白い目で私を見てたけど。


「でだ、報告自体は明日でもいいんだがよぉッ。実は折り入って頼みがあるんだがいいかッ? 個人的な事なんだがよッ」

 体を寄せ、神妙な顔つきに変わり小声で話す。

「やだ」

「実はさっきの嬢ちゃんの話にも出てきたが、嫁の俺の記念日に…… って、まだ何も聞いてもいねぇのに断るなよなッ!」

 頼みごとをあっさりと断った私に目くじらを立てる。
 
「だって、たった今帰って来たばかりなんだよ? もう働きたくないよ」

 腕を組みぷいとそっぽを向く。

「いや、今からじゃねぇ。後5日の猶予…… じゃなくて、3日後でも構わねえんだッ。ノトリの街に向かってご馳走を買って来て欲しいんだッ! キュートードのフルコースをなッ!」

「キューちゃんの? なんで?」

 腕を解きルーギルに向かい合う。

「さっきも言いかけたが、嫁との記念日なんだよッ。そこで豪華な料理を用意してくてなッ。仕事ばかりでいつも寂しい思いをさせってかんなッ」 

「ふ~ん。本当にいるんだ。人外の嫁さん」

「くっ……………… まぁ、そんな訳だ。それに嬢ちゃんもノトリは依頼で一度行ってるだろう? だから3日後に出発して1週間くらいゆっくりしてくれやッ。費用は全部俺持ちで、依頼として報酬も出すからよッ」

「? 3日後は別にいいんだけど、なんで1週間も滞在しないといけないの? そもそも記念日っていつなの? 良く分からないんだけど」

 明らかにイミフな事を言うルーギルに突っ込む。
 10日も先なら出発も当日でいいはずなんだけど。


「んあッ!? そ、そうだな、嬢ちゃんはこの国に来たばっかで知らねえと思うが、ちょうどその時期が一番味が乗ってて美味いらしいんだよッ! ちょうど10日後が最高らしいッ! だからその日程で行ってくれよなッ! なッ!」

 慌てて付け足したように、更に不思議な事を話すルーギル。
 なんでそんなに日程に拘るのかがわからない。


「あのさ、カエルの魔物にそんな収穫時期みたいなのあんの? しかもピンポイントでその日とか。少なくとも私は知らないんだけど」 

 異世界の事なので断定はできないけど、今まで聞いた事ない。
 ノトリの料理長も、あの不思議少女のメヤも言ってなかったし。


「スミカお姉ちゃん、どうしたの? ルーギルさんもこんばんはっ!」

 ヒョコと私の脇から顔を出し、笑顔で挨拶をするユーア。

「うん、なんかルーギルが私に個人的に依頼したいんだって。3日後に出発して、1週間滞在して帰って来いってさ。イナたちの案内や、スラムとかにも行きたかったのに」

 私とルーギルの間に来たユーアに事の成り行きを説明する。


「え? そうだったんですか…… ならスミカお姉ちゃんがお仕事中は、ボクがラボさんとイナさんを案内しますっ! ボクもシスターズだからねっ!」

 凹凸のない胸を突き出し、元気にお手伝い宣言するユーア。
 ちょっとだけドヤ顔で、背伸びしてる姿が可愛い。


「なら出かけた後はユーアに任せちゃおうかな? なんかあればロアジムかナジメに聞けばいいと思うし。 ね、それでいいよね?」

 後ろを振り向き、一緒だったロアジムに確認を取る。

「うむ、わしは全然かまわないぞ。寧ろ頼ってくれた方が嬉しいくらいだっ! スミカちゃんが出かける前に貯まった仕事を片付けるからなっ! ユーアちゃんも遠慮する出ないぞっ!」

「うん、ありがとうおじちゃんっ!」

 ユーアを撫でながら、笑顔で快く引き受けてくれた。
 
 これで心配事が減り、身軽になれた。
 なら暫く街を離れても大丈夫だろう。


「って事だから、その依頼受けるよ。詳しい話は報告と一緒で明日でいいよね?」

「あ、ああッ。それで構わねぇッ。でもすまねえな、俺個人の頼みで、嬢ちゃんを巻き込んじまってよッ。そもそも嬢ちゃんしか間に合わねぇ距離だからよぉッ」 

 ガリガリと頭の後ろを掻きながら、軽く頭を下げるルーギル。
 なんか急にしおらしくなった気がするけど。


「別にいいよ。依頼出した時点でそれも仕事なんでしょう? それに近々行くつもりだったんだよ。ウトヤの森にキューちゃんを残してきたままだから」

「ん? 何の話だッ?」 

「ああ、実はね、以前にシクロ湿原からウトヤの森にキューちゃんを連れてきたんだよ。それで今回の依頼のついでに故郷に帰す予定だったんだけど、忘れてそのまま帰ってきちゃったんだ」 

 首を傾げるルーギルに簡単に説明する。

 そう。
 本当はナルハ村に行く前に行く予定だった。
 けどロアジムに急かされたので、帰りにする事にしたんだ。
 しかもそれもど忘れしたって言う、おっちょこちょいな話。


「魔物をあちこち連れ回すって………… スミカ嬢お前は何をしてたんだッ? って、まぁいいか。今更嬢ちゃんに常識を語っても手遅れだしなッ!」

「ちょ、私だって、一般的な常識ぐらい――――」

「ああ、もうわかったぜッ! なら明日はよろしく頼むなッ!」

「あっ!」

 スタタタタタ――――

 私が言い返す前に、そそくさこの場からいなくなるルーギル。
 あの図体にしてはかなりの逃げ足だった。


「く、あの結婚詐欺野郎めっ! 明日会ったら十倍に返してやる」

 曲がり角で姿が消えたその背中に、拳を握り復讐を決意する。

 私一人だけなら聞き流せたんだけど、今はみんなが一緒だ。
 だからこれ以上私の評判を下げる悪評を広めないで欲しかった。

 特に、

「ス、スミカ姉は、魔物が怖くないのか? なんであちこち連れてくんだよ……」
「ああ、しかもあの人はギルド長だろ? そんな人に対して、あの態度は……」

 今の話を聞いて、私を見る目と更に物理的に距離が開いた二人。
 親子で寄り添い、何とも言えない目でこっちを見ている。
 明らかに、心の距離も開いている。


『はぁ、私にも原因があったにせよ、そこまで警戒しなくてもいいんじゃない? そもそも蝶の英雄って肩書がなければ、ここまで幻滅されなかったかもね……』

 背中の蝶の羽根をヒラヒラさせて、ちょっとだけ悲しくなった。



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