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第11蝶 牛の村の英雄編
美味しいお乳と親子の絆
しおりを挟む「うんっ! このチーズ、濃厚で美味しいよっ! モグモグ」
「うわ~、もの凄い伸びるよ、スミカお姉ちゃんっ! もぐもぐ」
「ふむ、モグ、これがチーズの味なのか? 多少塩気が多いが中々うまいなっ!」
『きゃふっ!』
初めてのチーズの味に戸惑いながらも、美味しそうに口に運ぶ、ユーアとロアジム。
私も初めて食べる濃厚な味に舌鼓を打ちつつ、堪能するようにゆっくりと味わう。
今、私たちが食べているのは、パンの上に乗せて焼いただけな簡単な料理だったりする。
なのに、村を囲む大自然の景色と、みんなの笑顔も相まって、数段美味しく感じた。
「それじゃ次はこれなっ!」
イナが嬉々として次の料理を持ってきてくれる。
私たちの反応を見て嬉しそうだ。
「うん? これって…… ジャガイモと何かのお肉?」
「そうだよ、ジャガイモと牛肉の上にチーズを乗せて焼いたんだっ!」
ニカッと笑顔で教えてくれるイナ。
現代風で言えばグラタンに近いものだろうか?
「てか、乳牛だと思ったのに、普通に食べちゃうんだ?」
「うん? それはそうだよ。お乳が出なくなったら食用として出すんだから」
「ふ~ん、そう言うものなんだ」
私たちの近くを大人しく座り込んでいる、白黒の牛たちを眺める。
まつ毛が思ったよりも長くて、黒目がちな優しい瞳が可愛い。
そんな牛たちが実は、宴の料理を運んでくれた牛さんだったりする。
宴が始まった直後、ラボと数名の村人が、荷台を引いている牛たちをこの広場まで連れてきた。
その荷台の上には、ここで取れた牛乳を使った、大量の料理が載せられていた。
―
「みなさん全員に行き届きましたね? それでは、村と牛たちを救って下さった牛の英雄さまたちと、これから一層の村の発展を祈願して、かんぱ――――いっ!」
「「「牛の英雄さまにかんぱ――――いっ!! ゴクゴク、ぷはぁ~っ!」」」
村長のコータの音頭で、各々がグラスを持ち上げグイッと一気に飲み干す。心底美味しそうに、喉をならして嘆息するみんな。
「ぷは~っ! 冷たくて美味しいね、スミカお姉ちゃんっ!」
隣のユーアも真似をして一気に煽り、ニカと満面の笑顔を浮かべる。
「ほら、口の周りが白くなってるよ?」
ハンドタオルでふきふきする。
まるで麦のお酒を飲んだみたいになってるから。
因みに、他のみんなも同じように白くなっている。
けど、それはお酒ではなく牛乳だった。
なんでもこの村での宴での乾杯は、昔から牛乳って決まっているらしい。
それを見て、乳製品を産地としているナルハ村らしいなって思った。
「ありがとう、スミカお姉ちゃんっ! ボクお代わり貰ってくるねっ! ハラミも行こうっ!」
『きゃうっ!』
そう言ってユーアはグラスを片手に、牛の背中に載せられたミルクを取りに小走りして駆けて行く。随分と気に入ったみたいた。
『うーん、あまり飲むとお腹壊しそうどけど、その時はRポーション使えばいいかな?』
なんて、跳ねるように走って行ったユーアの後ろ姿を眺めていると、
「うむ、コムケで飲むのと違くて美味いなっ! わしもお代わりを貰ってくるのだっ!」
隣にもう一人、ナルハ村のミルクの虜になった貴族もいた。
ユーアたちの背中を追うように、小走りで駆けていく。
『やっぱり、食材として牛乳は欲しいよね。ロアジムはあれとして、ユーアがもの凄く気に入ってるみたいだし。孤児院やスラムの子たちの栄養源としてもいいし、それに私の成長の為にも……』
スッと視線を真下に落とし、なだらかな傾斜を見て、グッと拳を握る。
数ヶ月後にはラブナやシーラを追い抜く事を期待して。
『そうなるんだったら、是非ともなんとかしたいよね? まぁ、あんな事があった後じゃ無理なんだろうけど』
こうして、牛たちが運んできた料理と、村を救ったとされる私たちを囲んで、宴という名の乳製品をふんだんに使ったビュッフェが始まった。
ー
「あれ? これってハンバーガー?」
イナがまた持ってきてくれた料理に質問する。
見た目がファーストフード店にある、あれに似ていたから。
「はんばーがー? 違うぞ。牛肉をミンチにしてチーズと野菜を一緒に挟んだだけなんだ。名前なんてないし」
「え、そうなの?」
「うん、仕事の合間に手軽に食べれるって理由で作ったものだから、名前なんて決めてないよ」
「にしても、野菜もシャキシャキだし、バターも塗ってあるんだね? お手軽料理の割に手間かかって美味しいよ、モゴモグ」
これでジャンクフードなんて呼んだら失礼だね?
野菜も多くて新鮮だし、ジューシーな牛肉も美味しいし。
「で、話は変わるけど、お父さんには話したの?」
ペロと、指先を舐めながらイナを見る。
話というのは、村を出て行く事を父親のラボに了解を得る事だ。
「うん、話はしたんだけど、返事がないんだよな~、親父も忙しそうだし」
若干、恨めしそうな顔で父親のラボを見る。
そんなラボは、村長のコータとロアジムも混ざってグラス片手に談笑をしている。その回りには、他の村人も一緒になって盛り上がっている。
たまにチラチラと視線が合うのは気のせいだと思いたい。
興奮した、ロアジムの声が聞こえてくるのは幻聴だし。
「まぁ、仕方ないんじゃない? イナのお父さんって、コータさんの次に偉いっていうか、信頼されてそうだからね。助けた時もそんな感じだったし」
「そうなんだよな―、色々と仕切っちゃうから、みんなから頼りにされてるみたいなんだよな~」
軽く愚痴を吐き、小さな不満を露にするイナ。
確かに村の人気者なんだろうけど、娘をほったらかしは良くない。
私も子供の頃に寂しい思いをしたから良く分かる。
なんて蚊帳の外から、イナとラボを観察していると、
『ん? なんだ、前々違うじゃん。ラボは私じゃなくて、イナを見ているんだ』
きっと愛娘が心配で、度々様子を伺っていたんだろう。
ロアジムや他の人とは違い、私だけを見ていなかった。
どちらかと言うと、話に合わせているようにも見える。
イナを様子を見るついでに私を見る、みたいな。
『ん?』
そしてそんな私と視線が合うと、恐縮したように軽く頭を下げてくる。
私には、それがまるで――――
『娘をよろしく』て、言ってるみたいに見えた。
まぁ、それは私の勘違いだったんだけどね。
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