剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第11蝶 牛の村の英雄編

SS スミカのいない日常その3(討伐編・中編)

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「あっ! ナジメさまどうしたんですか? こんなとこまで来られてっ!」

 メヤと一緒にスラムに入ったところで、カイと、数名の見知った顔に出くわす。
 ただその中には、会った事もない中年の男性もいた。


「うぬ、カイたちこそ一体どうしたのじゃ? まだ大豆屋に世話になってる時間のはずじゃろ?」
「はいそうですっ! それで今もお仕事の途中です。そうですよね? マズナ親方」

 カイはわしに答えると同時に、もう一人の見知らぬ男に振り向く。

「は、はいっ! 初めましてナジメさま。 俺は…… じゃなくて、私は、大豆屋工房サリューの店主のマズナと申しますっ!」

「おお、そなたがねぇねが言っていた店主だったのかっ! うむ、聞いておるぞ、何でも、他の大陸の珍しい食材で、この街で一番繁盛している店だとなっ! それと孤児院の子供たちや、スラムの人たちの仕事の面倒も見てくれているとなっ!」

 いくらか緊張気味の、店主のマズナに近寄り、ニコと手を差し出す。


「がははっ! それもこれもみんな、スミカさんとユーアさんのお陰なんだがなっ! あ、じゃなくて、スミカさまと、その妹のユーアさまの、え~と……」

 ガシと、わしの手を握り返し、急にあわあわと話し出す。
 どうやら領主のわしを前にして、若干上がっているようだ。


「マズナよ、わしの前ではあまり礼儀を気にする必要などないのじゃ? それにお主はねぇねとも懇意にしておるのじゃろ? 一人娘もユーアと仲が良いと聞いておるしなっ!」

 握手している手を、ブンブンと上下に振りながらそう諭す。

「そ、そうですか? ならなるべく普通に話す努力をします。 あれ? 逆か?」

 せっかく宥めたというのに、訳の分からない理由で混乱する。

「まぁ、どうするかは任せるのじゃが、あまり堅苦しいのは好きではないぞ? わしもそこまで礼儀や作法に精通しているわけではないからのぉ」

「は、はいっ! ならあまり失礼にならない程度に気を付けますよっ!」

「うむ、それぐらいの方が話しやすいのじゃ。して、なぜにスラムに来ておるのじゃ?」

 マズナも含め、カイとみんなを見渡し聞いてみる。

「ナジメさま、それはこのスラムにも――――」

 幾分、硬さが抜けたマズナから、簡単に説明を受ける。




「そうじゃったかっ! 大豆とその工房を作る建屋の下見に来たんじゃな」

「そうなんですっ! 大豆もかなり質がいいし、量も豊富にあって、石の建屋も大豆の製法に適したもので、かなり驚いていますよっ!」

 グルリと周りを見渡して、歓喜の声を上げるマズナ。


「それは良かったのじゃ。ねぇねにも感謝じゃな。では、もう少し話をしていたいが、わしらも緊急の用事を抱えておるから、ここでお別れなのじゃ」

 軽く手を振って、マズナたちの元を離れようと振り返る。
 その後ろには、メヤが無言で付いてくる。


「緊急ですか? そう言えばナジメさまは結局何をしに? また視察ですか?」

 背後とわしを交互に見て、カイからそんな質問が飛ぶ。

「あ、そうじゃな。お主たちにも重要な事じゃったな。なら話すのじゃ」
「はい、なんでしょう? ナジメさま」

 一旦立ち止まり、説明の為に口を開く。

「虫の魔物が出るらしいのじゃよ。ねぇねが退治した、あのシザーセクトの亜種が」
「あ、ほ、本当ですかっ! またこのスラムが危険に晒されるんですかっ!」

 わしの説明に一瞬唖然とした直後、口早に質問を投げかけてくる。

「らしいのじゃ。それを調べにわしたちは来たのじゃよ」
「で、でも姐さんはこの街にはいないですよねっ! スラムの英雄の姐さんがっ!」
「ちょっと落ち着くのじゃっ! だからわしが来たって言っておるじゃろうにっ!」

 虫の魔物の襲撃の可能性と、ねぇねが留守な事も相まって、一層取り乱すカイ。
 この態度で、一度この街を救ったねぇねをかなり信頼しているのだとわかる。

 まるで救世主。もしくは信奉者のような。


「それにカイたちにはわしの力を見せたじゃろ? 魔物が開けた穴を塞いだのはわしの魔法じゃ。じゃからそんなに不安な顔するでないぞ? ちょっと落ち込むから止めてくれなのじゃ」

 幾分平静を装ってはいるが、やたらまばたきの多いカイたちを叱咤する。


「も、申し訳ございません…… そ、そうですよねっ! それにナジメさまは元Aランクの冒険者だったんですものねっ! ただ見た目があれなせいで―――― って、あわわわっ」

 思い出してくれたのはいいが、最後に余計な事を口走り、オロオロするカイ。
 それを聞き他の仲間たちも、一瞬首を縦に振ろうとしてそのまま固まる。


「…………まぁ、いいのじゃ。見た目でどうこう言われるのは慣れているからのぉ。それでも子供扱いされるよりはマシじゃ。カイたちはわしを心配してくれただけじゃしのぉ」

 薄い目で睨みながら、そう付け足す。

「す、すいませんっ! ナジメさまは姐さんのパーティーメンバーですものねっ! いらぬ心配をして申し訳ございませんっ!」

「いや、そこまで頭を下げずともいいのじゃ。ねぇねに比べたらわしだってまだまだじゃし。昔のランク何てそれこそ意味ないのじゃ」

「はぁ~、そう言うものですか? それでナジメさまは、一人で退治に行かれるのですか?」

「なに? 一人じゃと?」

 カイの質問を聞いて、慌てて周りを見渡すが、付近には誰もいない。
 

「………………うぬ?」

「ど、どうしたのですか、ナジメさま?」

 キョロキョロするわしを心配して声を掛けてくる。

「いや、何でもないのじゃ。今はわし独りでも、頼りになる冒険者がいるから心配せずともいいのじゃ。それと、みなが混乱するから街の者には伝えなくてよいぞ。情報も定かではないしのぉ」

「わ、わかりましたっ! それではこの街をよろしくお願いいたしますっ!」

「うむ、任されたのじゃ。それではまた後でな」

「はいっ!」

 そうしてわしたちは、マズナとカイたちと別れて、スラムの外れに向かって歩き出す。


「メヤ。近くにいるんじゃろ?」

 少しみんなから離れたところで、ここまで一緒だった同伴者の名を呼ぶ。

「ん」
「って、なんじゃっ! 後ろにいたのかっ!」

 聞きなれた声が間近で聞こえてピョンと跳ねる。

「ん、隠れてた。話した事ない人たちだから」
「そ、そうか、人見知りなんじゃな」
「ん、そうかも」
「そうか」
「ん」

 そんな意味のない会話をしながら、スラムの外壁に近い広場に到着する。

「ここでいいのじゃな?」
「ん」

 この場所は魔物が出てきた穴の中でも、一番巨大な穴があったところだ。


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