剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第11蝶 牛の村の英雄編

SS スミカのいない日常その3(討伐編・前編)

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「お主はこの街の冒険者じゃったのか? 今まで会った事ないのじゃが」
「ん、まだなりたて。Fランク。だからだと思う」

 わしは、孤児院の工事を中断して、ある少女とスラムを目指し歩いている。
 その少女とは、

「して、メヤはあの時、何をしておったのじゃ? 本当に昼寝をしにきただけなのか?」
「ん、大体はそう」
「大体じゃと?」
「ん、他にもやる事があったから」
「…………そうか」
「そう」
「………………」

 先導するように、斜め前を歩くこの少女はメヤという名だ。
 そのメヤとわしはスラムを目的地として連れ立っている。
 
 先日ウトヤの森で開催した、Bシスターズの慰労会の初日、この少女とわしたちは既に会っていた。

 ねぇねが苦労して、シクロ湿原から連れてきたはいいが、行方がわからなくなってしまったキュートード。そんな落ち込むねぇねの前に現れ、その居場所や生態を詳しく教えてくれて、感謝されていた少女だ。
 
 そんな少女とわしが邂逅したのはつい半刻前。
 唐突に孤児院に訪れて、スラムに関わる、ある重大な情報を教えてくれた。


 その内容とは――――


「その情報の信憑性は確かなものなのじゃな?」
「ん、出所は教えられないけど確かなもの」
「じゃが、スラムのシザーセクトの亜種は、ねぇねが全滅させたはずじゃぞ?」
「ん」
「それが何故今頃になって、また出現するのじゃ? ねぇねが魔物の残党を見逃すとは思えないのじゃが?」

 そう。
 このメヤという少女は、まだ街に魔物が残っていると伝えに来た。
 スラム街の地下には、ねぇねが殲滅したはずの、あの魔物がまだいると。
 
 100人弱が住むスラムを、数刻で壊滅寸前まで追いやった、その元凶ともいえる虫の魔物が。

 それを伝えに、メヤはわしのところを訪ねたらしい。
 リーダーのねぇねが、ロアジムの依頼で不在だったと知らされた故に。

 
「ん、澄香は確かに全部倒した。それは間違いない事実」
「だったら何が残っておるのじゃ? それが事実なのじゃろ?」
「倒したのは成虫だけ。その後に産まれた」
「産まれたじゃと? それは、もしや――――」
「そう、産んでいた卵が孵る。だから気付かなかった。それに普通の卵ではない」

 わしを見下ろし、無表情で淡々とそう話す。

「うむぅ、そうじゃったのか…… して、何が普通と違うのじゃ?」
「え? メヤ、そんな事言った?」
「いや、わしの聞き違いじゃった。先を続けてくれなのじゃ」
「ん、それと地下深くに産んだから、澄香でもわからなかった」
「そうか…… それでさすがのねぇねでも、気付かなかったのじゃな?」
「ん、仕方ない」
「………………」
 
 それが、このメヤという少女から聞かされた情報だった。
 だが、どこか曖昧で、変に真実が含まれてそうな話だ。

 最初から虚言だと決める付けるのは簡単だが、この少女からはそう言った邪心を感じないし、そもそも嘘をつく理由も見当たらない。

 そう言った理由で、わしはこのメヤと行動を共にしている。


『しかし、ねぇねとの会話でも感じておったが、このメヤという少女は、正直掴みどころがないのぉ。いや、得体の知れないと言った方が当てはまるのじゃ』

 ウトヤの森で会った時、この少女は寝巻姿だった。
 しかも寝巻と同じ模様の枕を持参して現れた。あんな深い森の中で。

 そして、今の会話でもそうだが、ある突っ込んだ質問には、お茶を濁し、返答をはぐらかす。
 本人は誤魔化しているつもりなのか、わざとそうしているのかもわからない。

 スンとした能面のような表情と、どこか抑揚のない会話も相まって、余計に怪しく見える。


『うむぅ、ねぇねはあの時、警戒を途中で解いたが、やはりこの者は只者ではないのじゃ。気配もそうじゃが、一連の動作が洗練されのじゃ』 

 わしの隣を音もたてず、重心もブレる事なく、それが自然体とばかりに歩くメヤ。
 まるでネコ科の動物か、仮に職業で言えば、暗殺者のような歩の進めかただ。

 背格好は、ナゴタとゴナタ姉妹に近く、ねぇねよりかは身長は上だ。
 華奢と言った体つきだが、幼くも見えるがそうでもない。

 ねぇねのように、見た目少女の体躯というよりかは、もっと無機物を連想する。
 彫刻や石像、もしくは人形のような肌の白さも相まって、人工物を思い浮かべる。
 

 それが、わしがこの少女に感じた印象だった。
 そんな少女と今は行動を共にしている。

 またスラムを襲い始めるであろう、虫の魔物の殲滅に行く為に。


「そう言えば、お主は冒険者なんじゃろ? なら何故ルーギルに相談しなかったのじゃ? 普通、わしではなく、いの一番にそちらに報告するはずじゃろ?」

 スラムへと続く道を見据えながら、至極当たり前の質問をする。
 僅かでも、この少女に関する情報を引き出せればと。


「んっ? ん~~~~」
「どうしたのじゃ?」

 僅かだが目を開き、感情が揺らいで見えるメヤ。
 もしかしたら、何かしらのボロを出すのではないかと期待する。

『じ~~~~』

 そう、注意深くメヤの表情や言動に注視していると、

「ん、なんか言いずらい」
「何故じゃ?」
「だって、頼りないから。ここの冒険者」
「え?」

 バツが悪そうに、そっぽを向いてポツリと答える。

「………………そうか。気を遣わせてしまったのじゃ」
「ん」
「なら、後からルーギルに言っておくのじゃ。新人冒険者に心配されておるとな」
「ん」

 ポンポンと背中を叩きながら、そう答える。


『なんじゃ、まるで人形のように思っておったのじゃが、そんな事はなかったのじゃ。ただ単に、感情を外に出すのに慣れていないだけなのじゃな』

 無表情でも、何故か暖かく感じるメヤを見上げながらそう思った。


 それとは他に今まで聞けなかった、気になるものが、

「そのお主の背負い袋は、ニスマジの店で購入したものじゃな?」
「ん、このリュックの事?」
「そうじゃ、恐らくあ奴のところでしか、まだ作ってないしのぉ」

 そう言いながらメヤの背後に回り込んで、小さな背負い袋を見る。
 その袋の両脇には、黒アゲハ蝶の羽根をかたどった、綺麗な装飾が付いていた。

 もしかしなくても、この街の英雄さまを真似ての商材だろう。
 ねぇねを表す象徴ともいえる、蝶の羽根の部分は。


「ん、そう。黒蝶姉妹商店で買った。これから人気になるって」

 自身の背中に視線を向けながら、ポツリと答える。
 気のせいか、少しだけ喜んでいるようにも見える。


「それはそうじゃろ。ねぇねはこの街の英雄さまじゃからなっ!」」
「ん、だからメヤも買った。澄香は私も気に入ってるから」
「じゃろ? ねぇねはみんなの人気者じゃからなっ! 特に女子おなごにはのぉっ!」
「ん、澄香は人気者。子供にも人気」
「じゃな、後は――――」

 微かに頬を緩め、ねぇねの話をしだしたメヤ。
 わしも自然と笑顔になって、その話に是非とも加わる。


『色々と気になるところはあるが、そこまで悪者ではないようじゃな。それとどことなく雰囲気がねぇねに似ておる気がするしの。感情の出し方や話し方も』

 出会った頃よりもメヤへの警戒を解いて、二人でスラムの街に入った。


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