426 / 586
第11蝶 牛の村の英雄編
在りし日の面影と親子喧嘩
しおりを挟むギュッ
「ユーア、本当にごめんね、ハラミもユーアも怖い目に合わせちゃって…… 私の見通しが甘かったせいだよ。ジェムの魔物が2体現れる事も予想しないとダメだった……」
未だ洞窟内にいる、残りのみんなを迎えに戻る前に、ユーアとハラミを抱いて私のミスを謝る。
「うん、でもボクも失敗しちゃったんだ…… だってハラミにいっぱい無理させて、それでケガさせちゃったんだもん…… ごめんね、ハラミ」
そんなユーアは、今は小さくなって腕の中にいるハラミをキュっと抱く。
『きゃふっ!』
「ううん、違うよ、ハラミは悪くないんだよ。ボクがスミカお姉ちゃんみたく色々と考えて戦わないといけなかったんだ。だからごめんね」
『くぅ~ん、きゃうっ!』
「うん、そうだねっ! だからボクたちももっと強くなろうねっ! もっとアイテムを使えるように、もっと色んなことを考えてねっ!」
『きゃふっ!』 ペロペロ
「くふふ、くすぐったいよっ! あはははっ!」
私の腕の中で、ユーアとハラミが談笑している。
どうやら、私が最初に謝った流れで、姉妹での反省会が行われたみたいだ。
『ふぅ~、この様子なら大丈夫そうだね。本当に良かった』
私はそんな姉妹を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
あんな事があったのに、笑顔を見せてくれた事に。
あの時、黒の私が駆け付けた時には、前足と後ろ足の2本を失った、重症のハラミを抱いて嗚咽を漏らしているユーアだった。
そんな二人が魔物に踏み潰される前に、ギリギリ透明壁で二人を覆い、通過を使って私も中に飛び込んでいた。
『…………ユーア』
そこにいたユーアは、ハラミを抱いたまま小刻みに震えていた。
すぐ傍にいる私にさえ、気が付かないままで。
ハラミを守れなくて、悔しい、何もできなかったと、自分を責めながら。
だからハラミだけでも助けて、と私の名前を叫びながら。
私はそんなユーアを見て、胸が締め付けられた。
泣き叫び、懇願する姿を見て畏れた。
この先、戦う事なんて無理なんじゃないかと。
大切な者が傷つけられる事に、今後堪えられないのではないかと。
でもそれも、今の二人を見て少しだけ安心した。
あんな事があった直後にじゃれ合って、無邪気に笑っているんだから。
『…………強いね、本当に。出会った頃から』
柔らかい髪に、そっと顔を埋めながらそう呟く。
出会った当初、この少女は守れる力も抗う力も、何も持ってはいなかった。
今の私の様に、強さの裏付けとなる経験も乏しかった。
なのに、その心根は強い。
その根本となる、縋るものなど持っていないと言うのに。
『まるで………… いや、まさか…… ね?』
一人では何もできなかった、ある人物を思い出す。
私の背中をちょこちょこと付いて回るだけの、幼い少女を。
姉が傍にいる事により、実力が徐々に開花していった、甘えん坊の妹の顔を。
「………………」
「どうしたの? スミカお姉ちゃん」
『きゃふ?』
物思いに耽る私を心配して見上げるユーア。
「ううん、何でもないよ」
いつものように、頭を撫でながら笑顔で答える。
「あ、ボク、そう言えばきちんと言ってなかったんだ」
撫でられながら、クリッとした目で私を見つめる。
「ん? どうしたの? お腹減ったの?」
「ううん、違うよ。ハラミを助けてくれてありがとう、スミカお姉ちゃんっ!」
「え?」
ギュッ
「いつも助けてくれて、ありがとう。澄香お姉ちゃんっ!」
「っ! ――――――」
撫でる私の手を握り、ニコと満面の笑みを浮かべるユーア。
私はそんな姿に息を呑み、在りし日を思い出す。
そんな矢先、
「スミカちゃん、また洞窟に入るんだろう?」
「あ、ああ、ロアジムもお疲れ様。うん、まだ中にみんなも牛もいるからね」
ロアジムに呼ばれて軽く頭を振り、直ぐにそう答える。
「そうだよな。なら残りの村人を起こして、塞がれた洞窟を開けるかい?」
マング山とは反対方向を見て、確認してくる。
「ん、それは朝になってからでいいと思う。まだ夜中だし、それにラボやイナや他の人たちも、今夜は休んだ方が良いと思う。あんな事があったんだしね」
「うむ、スミカちゃんならそう言うと思った。ならわしも洞窟に連れて行ってくれぬか? 中がどういった構造なのかが気になるのでな」
「うん、別にいいよ。それじゃ誰かに案内を頼もうかな?」
ラボとイナの方を見ながらそう答える。
MAPはある程度出来てはいるけど、ガイドがいた方が早いから。
「ア、アタイが案内するぞ、スミカ姉……」
おずおずといった様子で、一番に手を挙げるイナ。
「え? イナ?」
思いがけない人からの立候補を聞いて驚く。
さっきまで中にいた、ラボが名乗りを上げると思ってたから。
なんて、思っていると、
「いや、俺が行くぞスミカさん。イナ、だからお前は休んでてくれ。子供にこれ以上負担を掛けさせるわけにはいかないからな」
やはりと言うか、イナの前に父親のラボが一歩出る。
「ちょ、親父、アタイはもう大人だってっ! もう15になったんだからなっ! だから親父こそ休んでいろよ。もういい年なんだからなっ!」
心配する父親の、更に前に出て反論するイナ。
「いや、俺はまだ30だぞっ! だから年寄りみたいに言うなっ! それにお前だって、大人なんて言うが先週の話だぞ? まだ15歳と数日だっ!」
そんなイナの、更に更に前に出て、声高に異を唱えるラボ。
「はぁっ!? それだってれっきとした大人だ、もう子供じゃないっ!」
「いや、お前のそういったところが子供なんだって、だから言う事を聞けっ!」
「もうっ! 親父はいつもアタイを子供扱いしてさっ! いい迷惑だよっ!」
「だから、自分を大人って言い張るのが、その証拠なんだよっ!」
「な、何を~っ!」
「何だ~っ!」
お互いの主張同士がぶつかって、気が付けば親子喧嘩に発展していた。
手四つに組み合って、出口の見えない口論が続いている。洞窟だけに。
「あのさ、私も15歳なんだけど? 大人なんだけど? そこはどうなの?」
なので、そんな二人の前に立ち、手を挙げそう宣言してみる。
イナと同じ年だから、ラボの言葉に甘えて任せていいのかな? なんて期待しながら。
「……………………」
「……………………」
そう思って聞いてみたんだけど、私を見て無言になってしまった。
『うっ…………』
この反応は、色々突っ込まれるより正直キツイ。
二人の視線が上下に行ったり来たりして、ある部分を凝視した後で固まってるから。
くっ! 一体どこ見てんのさ、親子して。
「あの、スミカお姉ちゃん、ボクも行っていいですか? 洞窟の中見たいです」
「え? う、うん。ならハラミも連れてみんなで行こうか?」
親子の視線から逃げるように、ユーアに答える。
「はいっ! お願いしますっ! それじゃハラミも行こうねっ!」
『きゃふ~っ!』
結局、ここには誰も残らずに、みんなで洞窟に入る事で話がまとまった。
何か私だけ、心に傷を負った気がするけど。
最初からみんなで行けば良かったよ。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる