425 / 586
第11蝶 牛の村の英雄編
汚い花火と新しい能力
しおりを挟む『こ、怖い、そしてデカイよ、あの魔物より、今のスミカが――――』
山ぐらいの巨大な黒い魔物。
杭型の顔面と、4枚に分かれた両翼、そして胸に開いた大きな窪み。
異様を通り越して、もはや不気味な存在だ。
魔物としても、生物としても嫌悪感しか感じない。
ただそんな魔物でさえ今のアタイには、野兎ぐらいの緊迫感しか感じない。
規格外の大きさや、異形な姿なんて、ただの見掛け倒しだ。
だって今、アタイの目の前にいる、小さな体躯の少女の方が、
『…………ごくっ』
その100倍以上も大きく、そして恐れを抱いているのだから。
―
「あっ!」
「なっ!」
シュ― ン
瞬間、黒いスミカが消えた。
アタイとロアジムさんの目の前からいなくなった。
ボトボト、ボトトッ ――――
それと同時に、地面に何かが落ちてきた。
蝙蝠のような巨大な翼に、蜥蜴のような巨大な足が。
ボトンッ!
更に続いて、杭型の魔物の巨大な顔面が。
「ひ、ひぃっ!」
「なっ!?」
アタイは恐怖で短い悲鳴を上げる。
両足と両翼、そして顔を無くした、胴体だけの浮いている魔物を見て。
「――――爆ぜろ」
「え?」
「なっ!」
今度は黒いスミカが、アタシとロアジムさんのいる壁の中に現れた。
そして魔物を睨みながら、小さく呟いた途端に、
ドバ――――ンッ!!
残った魔物の胴体が弾け飛んだ。
内部から何かが飛び出したように、破裂して跡形もなく吹き飛んだ。
ビチャビチャ
と、大量の血飛沫や肉片が、アタシたちのいる壁を覆い尽くす。
視界一面が何かの塊と、真っ赤かな血の色に染まる。
「た、倒したのか…… 全く見えなかったけど……」
これでユーアちゃんとハラミを襲った、あの魔物は跡形もなくいなくなった。
一瞬で四肢を落とされ、爆発するように弾けて消えた。
『で、でも、アタシたちはこれで助かったのか…… 本当に?』
隣に立つスミカを覗き見る。
魔物からの脅威は去ったが、体の震えが止まらない。
それはこの黒い少女が、今まで以上の脅威に感じるからだった。
ただし、それは――――
「スミカお姉ちゃん~っ!」
『わうっ!』
タタタ――――
それは、
黒い棺桶の中から現れた、ユーアちゃんとハラミを見るまでだった。
「ごめんね、ユーア。私のせいで、怖い目に合わせちゃって……」
「ううん、ボクが望んだんだもん。それにハラミが守ってくれたから」
「そっか、ハラミもありがとうね。あんなになってまで守ってくれて」
『わうっ!』
ユーアちゃんはスミカに抱き付き、笑顔で話している。
スミカはそんなユーアちゃんを優しく抱きしめている。
『うう~、無事で良かったぁ…… ユーアちゃんもハラミも……』
アタシはそれを見て、思わず涙ぐんでしまう。
二人が無事だった事もそうだが、普通のスミカに戻っていたからだ。
そして更に、アタシを泣かせる出来事が起こった……
「お~いっ! イナ~っ!」
「え?」
それは山の方からアタイを呼ぶ、元気な親父の姿を発見したからだ。
「お、親父っ!」
ダダダ――
ガバッ!
アタイは号泣しながら走り出し、親父の首筋に抱きついた。
「親父っ!」
「イナも無事だったんだなっ!」
「うん、うんっ!」
正直、何がなんだか分からない。
あの黒いスミカが何だったのか、どうしてユーアちゃんたちが助かったのか。
けど、これで終わったんだと思った。
「イナもどこもケガしていないなっ! 本当に良かったっ!」
「うん、うん…… ぐす」
ちょっと汗臭い、いつもの親父の匂いを嗅ぎながらそう思った。
力強くアタイを抱く、その温もりで実感した。
―
『…………消え、た?』
辺り一面に散らばっていた、魔物の破片が無くなっている事に気付く。
イナが透明壁スキルを飛び出した時には、既に消えていた。
辺りを見渡すと、残っているのはユーアたちが倒した魔物の死骸だけ。
黒の狂気の、私が倒したジェムの魔物の死骸はどこにもなかった。
『なら、なんでこの腕輪は残っているの?』
アイテムボックスに収納した、ジェムの数が5の腕輪。
この腕輪だけは、あの残骸の中に残っており直ぐに回収を済ませた。
『……て、事は。私が一人に戻って、ユーアと話している時に腕輪だけ残して消えたって事だ。今までの魔物は消滅せずに残ってたって言うのに、なんでこの魔物だけ?』
色々と疑問が残る。
今までは消滅せずに死骸を回収できたのに、なぜ今回は?
『なら、こっちは?』
『追尾』で後を付いてきている、もう一体の魔物の透明化を解く。
この魔物は洞窟内に出現し、実態分身の私を攻撃した小型の方だ。
止めを刺す時にラボに声を掛けられ、透明壁に閉じ込めたまま連れてきたもの。
体長は凡そ1センチほど。
極小のサイズと素早さで、実体分身の私を何度も貫いた杭型の魔物だ。
その魔物が、
『…………いない。 こっちも消えてる』
5センチのキューブ状にした透明壁の中に、その姿が確認できなかった。
あるのは、魔物と同じ大きさまで縮小した、ジェム5の腕輪だけ。
『……やられた、っていうか、多分、死骸から情報が漏洩する事を懸念して、こういう仕様に変更したんだ。それだけジェム5以上は特異な魔物かもしれない』
今回現れた魔物は、雑魚も含めて非常に厄介な魔物だった。
この世界に来たばかりの私だったら、容易く敗北したとさえ言える。
戦闘経験がどうとか関係なく、単純に戦いずらかった。
智略や小細工なんて、意味のないぐらいに相性が悪かった。
それがジェム5以上の魔物かもしれない。
今までとは強さの方向が違うかもしれない。
『それでも私たちの前に出てくるなら潰すだけ。ユーアを守るために、際限なく強くなるだけ。だからイタチごっこにはならない。絶えず私が上にいるからね。それに……』
メニュー画面を開き、新しく覚えた能力を見て笑みがこぼれる。
・~・~・~
『GGホッパー』
透明壁スキルがジャンプ台になる。
張力は調整可能、衝撃吸収もできる。
※スキルの重量・距離を超える物体は×
・~・~・~
これはジェムの魔物を討伐した時に増えた能力だ。
『なにこれ? もの凄く面白そうなんだけど。要は自在に操れるトランポリンみたいなものだよね? これなら空も自在に跳ねれるし、何なら味方や敵や、物体にも使えそう。くふふっ』
思わず変な笑いが出てしまう。
色々と使い勝手が良さそうな能力だと想像して。
『うん、これならトラップとしても使えるよね? どれ試しに――――』
試運転とばかりに足元1メートル前に設置する。
見た目は透明なままなので、普通の草原に見える。
「むふふ、それじゃ張力を最大にして乗ってみよう。どれだけって、ん?」
なんて、一歩前に出るとイナとラボがこっちに駆けてくる。
「スミカ姉っ! 親父を助けてくれて――――」
「スミカさ~んっ! 娘のイナを魔物から守ってくれて――――」
お互いに無事を確かめあって、どうやらお礼を言いに来たらしいが、
「あ、足元にホッパーが―――」
なんて危険な事を伝え終わる前に、
ビュンッ! ×2
「へ? うわ――――――っ!!」
「え? うおぉぉ――――っ!!」
地面より垂直に、夜空に向けて飛んでいってしまった。
「おおっ! もの凄い速さだっ! 軽々と飛んでいったよっ!」
目の前から消えたように、飛んでいった二人を見て感動する。
(うわ――っ! 本当になんなんだよっ! 外の世界の住人はっ!)
(イナっ! 俺に捕まるんだっ!)
ただしその上空では大騒ぎになっているのはご愛敬だ。
それに落ちてきても威力を吸収できるから大丈夫だしね。
なんて他人事みたく、飛んでいった二人を見ていたら、
「「じぃ~~~~」」
「うっ」
ユーアたちに白い目で見られたのもご愛敬だ。
これで後の仕事は、洞窟に残っている人々の救出だけだ。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる