剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第11蝶 牛の村の英雄編

攻守交替

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「それじゃ、戻ろうか」

 先頭のラボと、牛たちの治療が終わり、戻ってきたみんなに声を掛ける。

「ス、スミカさん、これ返します…………」

 牛たちを治療した、村人の中の一人からポーションを渡される。

「ああ、こんなに余ったんだ。随分と節約してくれたんだ」

 受け取った本数を見ながら、そう答える。

 20本の内、返ってきたのは18本だったから。
 200頭以上いるから足りないと思ってたのに。


「あ、俺も持ってたんだ。スミカさん、俺も返すぞ」

 ラボからも1本受け取る。
 これで合計19本も返ってきた事になる。


「はぁ? それじゃ1本だけで足りたって事? それで牛たちは大丈夫なの?」

「は、はいっ! 元々衰弱していたのは仔牛のような未熟な牛ばかりなので。それでも50頭ほど使わせていただいたんですよっ!」

「なら本当に大丈夫なんだね? まだ洞窟を抜けるって、ひと仕事あるけど」

「は、はいっ! それだけなら問題ないですっ!」

 何故か敬礼しそうな程カチコチな村人。
 ここに戻って来てから様子がおかしい。


「まぁ、普段世話している職人さんが言うんだから間違いないか。なら牛たちは何処から出ていくの? ここからは出れないよね?」

 結構な高さの洞窟の地面を見る。
 今、私たちがいるところは洞窟の中腹だからだ。

 
「スミカさん、それは戻る事になるんだ。この崖もそうだが、ここまで来る通路が牛たちには狭いので。だから入ってきた道を戻ろうと思う」

 ガチガチな村人の代わりに、ラボがそう教えてくれる。

「なら、私も行くから戻ろうか? 案内してくれる」
「はい。それじゃ、先に俺が行きますね」

 ラボが後ろを向き、先頭を歩き出す。
 その後に私も続き、離されないように歩いていく。

 そんな矢先、

「うがっ! う、腕がっ!」
「っ!?」

 一番後方の村人から悲鳴が上がる。
 見ると、腕を抑えて膝を付いている。

「な、なに? 敵襲っ!? あなた腕は大丈夫っ!」

 タタッ

 すぐさま駆け寄り、腕にRポーションを使う。

「は、はいっ! ありがとうございますっ!」

 抑えていた腕を解き、お礼を言ってくる。
 見るとその服の部分には、5mm程の小さな穴が開いていた。


「それよりも、みんなは先に行ってっ! 私はここに残るから」
 
 魔物の正体の見当をつけ、みんなにここを離れるように叫ぶ。

「い、いや、だって魔物なんかいない――――」

「いるよっ! 見えないだけで何かいる、だから早くっ!」

「わ、わかったっ! みんなスミカさんの言う通り離れるぞっ!」
「「「お、おうっ!!」」」
 
 ラボの号令を聞いて、急いでここを離れて奥に逃げる村人たち。
 それを確認し、透明壁スキルで壁を作る。

 これなら奥に逃げたみんなに手出しできないだろう。


「それにしても厄介なのが来たな。目視出来ない魔物がいるなんて」

 さっき何者かの攻撃を受けた村人を思い出す。
 傷はすぐに治したが、服には貫通された形跡があった。


「一応、索敵出来るか見てみよう。無駄っぽいけど……」

 透明壁スキルで自分を囲みながら、索敵モードに切り替える。


 すると、

「ま、まさか、ユーアたち、もう全滅させたのっ!?」

 ここではない洞窟の外の、最後のマーカーが消えた事に気付く。
 するとそれと同時に、その5倍以上の巨大なマーカーが現れたのを目にする。

「マ、マズイっ! 外に出現したのはジェムの魔物だっ! あっ! だったら今ここにいるのは何? もしかして、2体現れたって言うのっ!?」

 索敵には映らないが、この付近にも確実に何かがいる。

 シクロ湿原で相対した、消える白リザードマンの様に姿が見えないのか。
 それか、村人が負った傷跡から推測して、姿が見えない程のサイズなのか。

 私は今の状況で、その二つの予測を立て考える。

『どうする? ここで倒さないと回り込まれて、いずれラボたちが襲われる。でもユーアたちの方が心配だ。もしもジェムの数が今までにない数だったら――――』

 パスンッ!

「え? あ、れ?」
 
 ドサッ

 唐突に、こめかみに強い衝撃を受けて、そのまま地面に倒れる。


『くはっ! ま、まさか内部にいたの? 私の周りに張ったスキルの中、に?』

 倒れ込んだ私に、トドメとばかりに何度も攻撃を仕掛ける何か。
 その攻撃を受けるたびに、体の数か所が貫かれるのを感じた。

『ぐ、これは、まさ、か?――――』

 自身の傷跡の大きさ、微かに耳に届いた羽音、そして私一人分のスキルの中にいられるのは、透明な魔物ではなく、極小の魔物だったと気付く。


『ユ、ユーア、今、私が行くから、だから――――』

 ググッ
 シュパンッ!

 腕を付き、立ち上がろうとするが、その腕さえも貫かれる。 
 膝を付けば、また同じように貫かれる。

『うぐぅ』

 それでも私は立ち上がらなければいけない。
 脳みそや、腕が、足が、四肢の全てが貫かれても。


 だって、私には聞こえるから。

『くっ――――――』

 ユーアが私に助けを呼ぶ声と、悔しくて泣いている声が。


――


「も、もう少しだね、ハラミっ!」
『はぁ、はぁ、がうぅっ!』

 ボクとハラミは魔物をたくさん退治しました。
 ハラミの『こまんど』と、ボクの射撃と鎖でいっぱい倒しました。

「だ、大丈夫? 少し休む?」

 ボクは息の荒い、ハラミが心配で声を掛けます。
 きっと『こまんど』のせいでいっぱい疲れちゃったから。


『が、がう? がう~っ! はぁ、はぁ』 
「大丈夫なの? もう少しだからいいの?」
『はぁ、はぁ、がうっ!』
「う~ん、ハラミがそう言うならいいけど…… でも無理しないでね」
『が、がう~っ!』

 ボクはハラミの事を信じて、残りを退治する事に決めました。
 ボクも疲れちゃったけど、お姉ちゃんのボクも頑張らないとって思ったから。

 でもボクは後悔しました。

 ここで無理をさせちゃったハラミの事と、
 スミカお姉ちゃんより先に倒そうってお願いしちゃった事に。





「よし、これで最後の1体だよっ!」
『がうっ!』

 氷の柱を踏んで、空中を自由に駆けるハラミ。
 ボクが捕まえた魔物まで、爪や牙で切り裂いちゃいます。

 それももう最後です。

 ボクが捕まえて、またハラミが倒してくれたから。


「よし、よし、頑張ったね、ハラミっ!」
『はぁ、はぁ、がう~っ!』

 最後の魔物が落ちていくのを見た後で、ボクはハラミの頭を撫でます。
 そんなハラミは息を「はぁはぁ」しながらも喜んでくれました。


「それじゃ、おじちゃんとイナさんのところに帰ろうねっ! そしたら元気の出るおやつをあげるからねっ!」
『がうっ!』 
「ボクはイチゴ味で、ハラミはブドウ味ねっ!」
『わうっ!』

 ボクとハラミはおやつを楽しみにしながら、氷の柱を辿って降りていきます。
 おじちゃんとイナさんの待つ地面に。


 なのに、そんな時にあいつがやって来た。
 やっとみんなで休めると思った時に。


「ハラミっ! 上になにかいるよっ!」
『がるる―っ!』

 ボクが先に気付いて、お空を見上げます。
 ハラミもすぐに気付いて、威嚇をします。

 そして、ボクたちが見上げるその先には――――


「うわっ! 大きいっ!?」

 その魔物は、姿はさっきの杭の魔物と一緒だけど、大きさは5匹分くらいありました。
 それと、前足のところには見た事のある腕輪もありました。


『くぁwせdrftgyふじkolp――――ッ!!!!』

「ううっ! な、なにっ!?」

 ボクが驚いていると、突然変な声で鳴きました。
 今までにも聞いた事のない、おかしな鳴き声でした。


「あ、あれ? 頭がクラクラする?」

 その変な声を聴いたら、目の前がぼやけちゃって、頭が痛くなりました。

『がうっ?』
「あれ? ハラミは平気、なの?」
『がうっ!』 
「そ、そうなんだね、良かった……」
 
 どうやらボクだけの様で、少し安心しました。

 バザァァァ――――ッ!!

「わっ!」

 いきなり杭の魔物が、大きな翼を羽ばたかせました。  

 そして、それと同時に、

 ザンッ!

『ぎゃうっ!』
「え?」

 ハラミの叫ぶ声と、白い何かがブンと飛んでいくのが見えました。


「ハ、ハラミ、大丈夫っ!」

 ボクは心配になってハラミを見てみます。 
 さっきの風と一緒に、大きな声で鳴いたので。

 すると、

「あ、手が…… 手が」

 そこには血をたくさん流している、右の前足が無いハラミがいました。

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