剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第11蝶 牛の村の英雄編

魔物の分析と妹の想い

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「ん、思ったより入り組んでいる。MAP出来てないのがキツイね」

 私は薄暗い洞窟を、索敵のマーカーを頼りに足音も立てずに走っていく。

「これじゃ、奴らの方が着くのが早いかも。まさかショートカットする訳にもいかないし」

 マーカーの動きを見て少しだけ焦る。
 5個の大きなマーカーの動きが一気に変わったからだ。

 恐らく、村人たちの位置を把握したのだろう。
 人間には無い、その特殊な器官を使って。


「あいつ等はきっと、微弱な何かを体から発っして、周りの状況を感知している。じゃないと、見えない攻撃を寸前で避ける事なんか出来ないからね」

 マング山をスキルで昇る時にも、私たちは襲われた。
 顔面が杭の形で、胸の前に穴が開き、4枚の蝙蝠のような翼をもつ漆黒の魔物に。


 その異形の魔物に襲われた際、私は透明壁で先制攻撃を仕掛けた。
 だがその魔物は予知したかのように、身体に当るギリギリで躱していた。

 なので、ユーアのチェーンリングとスタンボーガンで動きを止めた後で、私が止めを刺して、イナの元まで辿り着いた。


「それと、あの胸の穴から出る奇声は、あれは鳴き声じゃないね。あれも何かの音波を出して、位置を探るのに使っているんだと思う」

 あの奇妙な姿を思い出して、そう結論を出す。
 だから暗闇でも動けるし、顔が存在しないのもそれで理由がつく。


「まぁ、そんな訳で外の広い場所での敵は、ユーアとハラミに任せたんだけどね。あの姉妹ならまず捕まる事もないし、問題なく圧倒できる。ユーアの能力とハラミの機動力があれば、万が一もないから」

 ユーアの力強い返事を思い出して、任せて良かったと思う。
 今まで頼りなかった妹が、あんなにも自信を付けてくれた事に。


「姉離れの時期が近づいて、かなり寂しい気持ちもあるけど、それも姉の役目だから割り切るしかないね。でも、私は妹離れするつもりはないから、ユーアが嫌がってもずっと傍にいるけどね。ふふふ」

 反応がおもしろ可愛くて、いつも構い過ぎて度々怒られる、私。
 そんなやり取りでさえ、私には必要だし、更に実感させられる。


 この世界に来て、本当に良かったと。


 危険に自ら飛び込む、小さなその姿。
 本当は見たくもないし、勿論させたくもない。

 だが、ユーアがそれを望んだ。

 なら私は、グッと感情を押し込んで、その望みをかなえよう。
 ユーアが活躍する機会を与えて見守ろう。

 だって、それがお互いに必要な事。
 ユーアもそして私も、今以上に成長するためには。





『んふふっ! スミカお姉ちゃんに任されちゃったっ! 本当はちょっと怖いけどハラミもいるし、スミカお姉ちゃんが、この魔物はボクに相性がいいって言ってくれたしね、それに――――』

 両手の『スタンボウガン』をグッと握ります。

 この武器は光の矢を射出して、当たった相手をビリビリさせる凄い武器だ。
 一つで同時に5本も撃てて、向きを変える事も出来るんだ。

 そして両腕に嵌めている2つの腕輪『チェーンWリング』

 ボクが見た敵を鎖でグルグル巻きに出来て、先端で刺して攻撃も出来る。
 鎖も最高で10本も出せる不思議な武器だ。

 
『これだけでも見た事も聞いた事もない武器なのに、もっと凄いのスミカお姉ちゃんから貰っちゃった。でもこれ本当にボクが貰って良かったのかな?』

 右手の薬指に嵌めている青緑色の指輪を見て、貰った時の事を思い出す。

『これをボクにくれた時のスミカお姉ちゃん、なんか寂しそうだった…… いつもの優しい笑顔で渡してくれたけど、あんなスミカお姉ちゃん、初めてだった……』

 ボクにはいつも笑顔で微笑んでくれる、優しいスミカお姉ちゃん。
 強くて美人で頭も良くて、何でもできる、自慢のボクのお姉ちゃん。
 
 なのにこの指輪をくれた時は違うと思った。
 いつものスミカお姉ちゃんなのに、あの時はいつもと違ったんだ。


『だから大事な物なんだと思う…… ボク、スミカお姉ちゃんの事はあまり知らないけど、きっとここに来る前の誰かの物をくれたんだと思う。あんなに寂しくて、でも、あんなに笑顔のスミカお姉ちゃん見た事ないから……』

 ボクはキュっと指輪を手の平で包む。
 微かに感じる暖かい温もりと、確かな感触。

 『千里の指輪』

 きっとこれは大事な物で、それでもボクにくれた大切な物。

 ならボクは、そんなスミカお姉ちゃんの為に何が出来るんだろう?
 こんな泣き虫で弱くても、何か出来る事はあるのかな?

 だったら、ボクは――――


「ハラミっ! スミカお姉ちゃんが帰ってくる前に、全部倒しちゃうよっ! ボクも頑張るから、ハラミも協力してっ! 『こまんど、駆け足』っ!」

『がう――っ!』

 ボクはハラミにお願いします。
 いつものお願いじゃなくて、もっと強い願望。
 ハラミがボクに教えてくれた、全力で叶えてくれる強固な命令。

 シュ ン――――


「うわっ!」

 ハラミとボクは、あっという間に飛んでいる魔物の上に出ちゃいます。
 氷の柱を蹴って、ギュンと空中を駆けあがります。


「それ、10本同時だよっ!」

 ヒュッ ×10

 両手のボーガンを構えて、ボクたちの下にいる魔物に発射します。

『クオォ――ッ!』

 それを見て、魔物たちは一斉にばらけます。
 全部の光の矢が、何もないところに飛んでいっちゃいます。
 
 でもこれでいいんです。

「よし、3匹捕まえたっ!」

 両腕には微かな感触を感じます。
 ギリギリと黒い魔物を締め付ける確かな感触が。

 ボクは矢が避けられた時に、鎖を出して捕まえました。
 どこに避けるか、何となくから。


「それっ!」

 捕まえた魔物を見ながら、ギュッと拳を閉じます。

『グオッ!?』

 すると魔物に巻き付いた鎖が、グググと締め付けていき、

 ゴキ、バキ、ゴガ、パキ、――――

『グェッ!!』

 大きな体と翼ごと、その捕えた魔物の全身を、

 グシャッ! ×3

『グゲェッ!!』

 粉々に砕いてヒュンと落ちていきました。
 これで残りは15匹です。


「ふぅ、やっぱりこの指輪は凄いねっ! 魔物がどこに動くかちょっと視えるんだもんっ! でもスミカお姉ちゃんの説明では、そんな事言ってなかったよね?」

 指輪を撫でて不思議に思う。
 スミカお姉ちゃんの説明とは違うみたいだから。


「でもいいんだっ! ボクにも出来る事があるんだからっ! この凄い指輪がボクを戦えるようにしてくれたんだからっ! だからボクは――――」

 スミカお姉ちゃんに喜んでもらう為に頑張ろう。
 この指輪を上げて良かったよって、笑顔で言ってもらう為に。


「よし、次は5匹捕まえるよっ! まだまだ行くよっ! ハラミっ!」
『がうっ!』


 だってそれがボクにできる、精一杯のお返しだから。

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