剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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第11蝶 牛の村の英雄編

村娘イナの葛藤

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「ぼ、冒険者カード? って、今はそれどころじゃないだろっ!」

 アタイは差し出されたカードを思いっきり突っぱねる。 

 
 今、アタイは怪しげな3人と、白い子犬に囲まれている。
 冒険者と名乗る、如何にも胡散臭い3人に。

 いくら田舎で育ったからって、アタシだって冒険者の事は知っている。

 以前に会った冒険者は、もっとデカくて強そうで、体中傷だらけだった。
 大きな剣や斧や、重くて頑丈そうな鎧を着て、顔も厳つい男たちだった。


 それが、今、アタイの目の前にいるのは――――


 一人目は、アタイを介抱してくれた、人のよさそうなお爺ちゃん。

 体も細くひょろりとして、鎧も武器らしきものも持っていない。
 あるのは、腰に結び付けているポーチだけ。


 二人目は、アタイよりも頭一つ以上小さくて、小動物の様に可愛らしい女の子。
 肩の上になぜか同じ髪色の子犬を乗せている。

 服装は、動きやすそうな短パンに、半袖の白シャツと皮のベスト。
 一応武器らしい短弓を持ってはいるが、そんな玩具で魔物なんか倒せる訳がない。きっと子ウサギなどの小動物を狩る、狩猟用だろう。

 
 最後の三人目。
 この少女が一番よくわからない。

『………………』

 何故か、背中に羽根の生えた白と黒のフリフリのドレスに、華奢な体つき。
 羨ましい程の長くきれいな黒髪に、誰もが美少女と認める整った顔立ち。

 この場には一番相応しくないし、最も違和感があって、過去最高に怪しい。
 

 そんな3人に冒険者だと言われても信じられないし、それどころではない。
 そもそもアタイは、得体の知れない魔物に襲われて死にそうになったんだからな。

 そんな魔物が奇声を上げながら、大量にアタイたちの上空を羽ばたいている。
 また襲われるかもしれない恐怖で、呑気に話している場合ではない。

 それはアタイだけではなく、ここにいる3人と1匹も同様だろう。

 なのに、なぜ…………
 

「え? だって私たちの事疑ってんでしょう? ならカード見ればすぐわかるでしょ」
「うん、ボクもそう思いますっ!」
「間違いないな。イナと言ったか? 今は安全だから確認してみてくれ」

 そう言って、また冒険者カードを差し出してくる。

「は、はぁ?」

 なぜ、この3人はここまで落ち着いているんだろう。
 命を脅かす存在に囲まれているというのに。
 アタイたちなんか一瞬で、絶命させられるかもしれない、異形な魔物たちを前に。


『あれ? でも、なんでアタイはこうして生きてるんだ? 確か襲われた直後に、魔物の動きが一瞬止まって、その後で――――』

 グシャッ!

 っと、突然頭から圧し潰されるように、地面に叩きつけられたんだ。

『な、なんなんださっきのはっ! も、もしかして本当に冒険者なのか?』

 アタイはその光景を思い出して、更に混乱する。
 絶対にそうではないと、見た目と雰囲気でそれを感じる。

 けど、現に倒された1体の魔物。
 この中の誰かが倒し、アタイを助けてくれたのは否定できない事実だ。

 グルグルと事実と感情が頭の中を駆け巡る。

 そんな時、アタイはある一言を思い出していた。

 『外の世界を見て、もっと見識を広げて、自分がやりたい事を見付けなさい』

 息を引き取る前に、母さんがアタイの将来を気に掛けて、言ってくれた言葉だ。


『外の世界……』

 確かにアタイはここの村以外知らない。
 幼い頃に拾われてから、この村を出た事もない。

 母さんは、アタイが外の世界に憧れている事を知っていた。
 だから成人したら、村を出ろとも言ってくれた。

 アタイは母さんの言う通り、本当はここを出たいと思っていた。
 それはアタイ独りだけではなく、本当は両親とだったけど。

 ただなんで、外の世界に憧れていたかはわからない。

 山から空を眺めて、もっと違う景色を見てみたいと思ったのかもしれない。
 もっと色んな土地に行って、酪農で作ったものを広げたかったかもしれない。 
 それも、アタイを愛しここまで育ててくれた両親と一緒に。

 だからか、外の世界に憧れていたし、そんな未知の世界だからこそ――――

『ああ――――』

 だったら、こんなおかしな冒険者もいるかもしれないと思った。
 だってアタイはここを出た事ないし、何も知る機会がなかったんだから。

 だから飛び込んでみようと思った。今まで見た事もない世界に。


――――


「どう? 間違いないでしょう?」
「う、うん。信じられないけどそうみたいだな……」

 アタイは受け取ったカードを見終わって、それぞれに返す。
 間違いなくこの3人は冒険者だった。 

 人のよさそうなお爺ちゃんがFランク。
 一番小さい女の子がDランク。

 そして、

「それに、ここにいれば安全なのもわかったよね? だから慌てないで今の状況を教えて? 私たちが力になれるかもだから」

 ここを仕切っているであろう、この蝶の少女がCランク。
 しかもアタイと同じ15歳。成人している。

 色々と突っ込みたくなるが、今は自重する。
 変な服の事や、成人しても残念な体型に関しては敢えて触れないでおく。 

 アタイだって空気の読める大人なのだ。
 それにそう言う種族の人間かもしれないし。蝶なだけに。

 なんて、自分に言い聞かせてたんだけど、


「あ、あのさっ! なんであの魔物たちは見えない何かにぶつかってんだっ! なんで次々に固まった後で、叩き落されてんだっ!」

 そう聞かずにはいられなかった。

「ん? ああ、少しうるさかった? ユーア、一度止めてくれる?」
「はい、スミカお姉ちゃん!」
「ははは、確かに鳴き声がうるさいからなっ!」 

「い、いや、そうじゃなくて――――」

「はい、これで少しは静かになったでしょ? なら説明してくれる?」

「………………」

 確かにこのスミカの言う通りに静かになった。
 魔法の壁で覆っているから、アタイたちが安全なのも説明してくれた。

 それにしたって、この状況は理解できないし、信じられない。
 いざ、未知の世界に飛び込んでみたはいいが、奇天烈すぎて逆に混乱する。


「ん? どうしたのイナ。まだ目障りなら――――」
「はぁ、もういいや」
「「「????」」」

 アタイはもう諦めて、目の前の現実を受け入れる事にした。
 だってこの人たち、根本的に何かがいるんだから。

 だからか、アタイ独りだけが取り乱してるのは滑稽に思える。
 アタイだけが損をしているなんて、変な錯覚をしてしまう。

 だからアタイはもう諦めて、無駄な事を考えないようにした。

 この人たちにとってはきっと、なんだろうから。


「うん、全部説明するから、アタイの親父と、この村を助けてくれっ! みんな強い冒険者なんだろっ! 何でもするからお願いだよっ!」

 なので、この人たちを信じて、全てを話す事にした。

 きっとこれがアタイにとっても村にとっても、今の最善のはずだから。

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