剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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SS バタフライシスターズの慰安旅行

英雄さまの冒険者カードと帰宅と

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「ごめん、キャンプの準備もあって、話すのを忘れてたんだよ」
 
 なので顔の前で手を合わせ、ごめんなさいする。
 忙しいを言い訳にして、遅れたのは事実だし。


「違いますっ! そう言う事ではありませんっ!」
「そうじゃぞっ! ねぇねっ!」

 ナゴタがテーブルに乗り出し、ズイと迫る。
 ナジメもブラッシングの手を止め私の隣で叫ぶ。

「わっ! なに? 何が違うのっ!?」

 二人の剣幕に、若干逃げ腰になる。
 他の二人はポカンと口を開けて見ている。


「こ、こほん。もう一度確認します。私たちBシスターズは、リブさんのロンドウィッチーズのように、お抱えではなく、直属というお話で間違いないですかっ!?」

 熱くなった事に気付いたのだろうか。
 腰を椅子に降ろしながら、声量を下げて聞いてくるナゴタ。
 それでも語尾に、その余韻が残っているけど。


「そうだよ。誘われた時に、リブたちもいたから間違いないよ。なんなら、帰ったら聞いてみてもいいし」

 さすがにそこは聞き間違いなんてしない。
 何となくだけど、その意味は察していたから。

「ねぇねや。その時にロアジムと専属の契約は交わしておるのか?」

 落ち着いたらしいナジメから、違う質問が飛ぶ。

「いや、そんなものはないけど。明日会うから、その時じゃないの? なんか急ぽかったから、書類が用意できなかったとか」

 確かあの時は、そんな話は一切なかったのを思い出す。


「そうなのか? でもねぇねはロアジムの屋敷に行ったのじゃろ? 書類がないとは思えんのじゃが…… それに突発的に言い出すのも、あ奴らしくないのじゃが……」

 首を捻って悩み始めたナジメ。
 私よりも付き合いが長いこともあり、違和感を感じているようだ。


「あのお姉さま? 他に言われたことはないんですか?」
 
 今度はいつもの調子に戻ったナゴタから聞かれる。

「ん~、そうだね。握手はしたね。それと今まで通りに活動していいって言ってたよ? その方が私らしいからって――――」

 そう。
 最初は専属と聞いて身構えた。
 けど、その話が後から出たから、それが引き受ける理由にもなったんだ。


「あ、あと冒険者カードを更新してくれたんだ。これもその時に受け取ったんだけど」
「え? ロアジムさんからですか?」
 
 あの時のやり取りを思い出してたら、ふと気付いたのでカードを渡す。

「ぬ、わしにも見せてくれぬか?」
「はい、わかりました。ナジメ」

 ヒョイと自分の膝にナジメを乗せて、ナゴタと二人でカード確認する。


「ね? なんかおかしいでしょ。私の年齢が「?」ってなってるし、乙女の年齢疑うって酷いよね。それで身分証明で使えるのって感じ」

「………………」
「………………」

 二人が確認し終わったタイミングで話しかける。

「あ、あのぉ、この『の英雄』ってなんですか? 英雄の部分はわかるのですが……」
「ねぇね、この『C』って何なのじゃ? 初めて見たのじゃが……」

 困惑気味に顔を上げる二人。
 やっぱりそこも引っ掛かるよね?

「あ~、『蝶の街』ってのは、将来的にそう呼ばれるとかなんとか…… 『+++』の部分は、ロアジム以外に、ルーギルとクレハンが付けた、票みたいなものって言ってた。なんでも、ギルドでの役職がある人や、貴族としても偉い人が付けられるみたいな」

 頬に人差し指を当てながら、その時のやり取りを話す。
 確かこんな感じで説明されたような。

 それの内容を聞いた二人の反応は、

「まじですかっ!?」
「まじなのかっ!」

 二人で顔を見合わせて驚愕していた。

「なに? もしかしてその意味わかるの?」

「い、いいえ、確実とは言えないですけど、とても重大なものだとわかります」

「蝶の街って…… 一体ロアジムは何を見越しておるのじゃ? それと「+」の数が票数とは、こっちは何か新しい事を始めようとしておるのかも……」

 ナゴタは何となしに、その意味を悟ったらしい。
 ナジメは「+」が気になっている。

「後は、わしたちには確認できない、特記事項に何かあるやもじゃな」

 神妙な顔つきで、カードを返してくれるナジメ。

「あ、ナジメでもそこは見れないんだ」

 受け取りながら聞いてみる。


「恐らく、ロアジムが制限をかけておるのじゃろ。ルーギルが記載した部分に関しては、わしなら閲覧出来るのじゃが、ロアジムが掛けたものとなると見れないのじゃ」

「そうなんだ。なら仕方ないね。そこまでしてロックするんだから見ない方がいいかもね? もしかしたら個人情報を書かれてるかもだし」

 もしかしたらナイスバディの私のスリーサイズとか、体重とか。

「いや、それはどうだかわからないのじゃが、決して悪い事は書いておらぬ筈じゃ。ねぇねはロアジムにもルーギルにも好かれておるからのぉ」

 苦笑気味に返事をするナジメ。
 何となく気疲れしているようにも見える。


「ま、心配しないでいいんじゃない? ロアジムの人柄は私も信用してるから」
「そうじゃなっ! ねぇねの言う通りじゃ」

 そんなナジメを撫でて話を締めると、笑顔に戻って答える。


 そうして、この後はキャンプでの話で盛り上がったまま、気付いたらコムケの街まで帰ってきた。


――


「おお~っ! さっすがナジメだねっ! 水まで張ってくれたんだっ!」
「うぬ、ねぇねっ! 苦しいのじゃっ!」

 その出来栄えに驚嘆し、思わず用意してくれた小さな領主を抱きあげる。
 数日前に頼んでおいた、キューちゃんたちが住む大きな池を作ってくれたナジメを。

「道もきれいになったし、お庭も広くて、大きな池もあるなんて凄いねっ!」 
「うわっ! ユーアもやめるのじゃっ! 子供たちも見ているのじゃっ!」

 そこにユーアも加わって、二人でギュッと抱きしめる。
 そんなナジメは、出迎えてくれた子供たちの視線が気になるようだった。

 
 今、私たちの目の前には、林に囲まれたきれいで大きな池があった。
 孤児院裏の、雑木林の一部を伐採して。

 全長は凡そ20メートルで、深さは5メートル程で作ったらしい。
 その周りには柵も設置してあって、安易に子供たちが入れないようにもなっていた。
 なので、水遊びには使えないようだった。


「それじゃ、早速出してあげるね。窮屈だったでしょう」

 透明壁スキルを、池の畔まで操作して解除する。

『ケロロ?』『ケロロ?』『ケロロ?』
『ケロロ?』『ケロロ?』『ケロロ?』

 すると、10匹のキューちゃんが周りを見渡し、池の方に注目する。
 

「あれ? どうしたんだろう。見ているだけで、中々入らないね? ほら、大丈夫だから水に入ったら? それともお腹減ったの?」

 色とりどりのキューちゃんに話しかける。
 怯えている様子はないから、単純に変化した環境に驚いているだけだろう。

『ケロロっ!』

 チャポンッ

 先頭にいた桃色のキューちゃんが、鳴いた後で勢いよく飛び込む。

『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』
『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』

 チャポンッ! ×9

 すると、それに続いて残りのキューちゃんたちも一斉に飛び込む。


「ん? もしかして、桃色キューちゃんがリーダーなのかな?」

 スイスイと、桃色キューちゃんの後を泳ぐ姿を見てそう思う。

「まぁ、なんにせよ。喜んでくれて嬉しいよ。これでキューちゃんたちも、この孤児院の家族になったしね。いや、この街って言ってもいいのかな?」

『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』  
『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』『ケロロ~♪』  

 今は池の真ん中の大岩に乗って、声高らかに合唱するキューちゃんたち。
 その姿を見て胸を撫で下ろす。

 そんなキューちゃんたちの首には『従魔の首輪』が巻かれていた。

 これで何の後ろめたさもなく、キューちゃんたちを愛でることが出来るし、これからも一緒に暮らせる。子供たちも怖がっている様子もないし、これならみんなと仲良くやっていけそうだ。

 
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