406 / 586
SS バタフライシスターズの慰安旅行
キャンプ地を後に
しおりを挟む随分と長話になったようで、照りつける日差しが強くなってきた。
メニュー画面を見ると、時刻は10時過ぎだった。
朝食を摂ったのが8時前後なので、ミーティングは2時間近くかかっていた。
ミーティングが終わったみんなは、それぞれに緊張の色が見えた。
気持ちが逸ってしまうのか、アイテムを出して、練習を始めてしまうほどに。
そんな中、
「ナジメちゃん、まだキャンプは終わってないよ? だからもっと遊ぼうよっ!」
「そうよっ! ユーアの言う通りだわっ! ナゴ師匠たちも水着に着替えてよっ!」
ユーアとラブナの年少組は違っていた。
二人とも水着に着替えて、手を振り、ナジメ達に催促する。
もっと遊ぼうと、まだキャンプは続いているんだよ、と。訴えるように。
「う、むぅ、すまんのじゃ。ユーアとラブナの言う通りなのじゃ」
「そうですね、まだお姉さまが企画した慰労会は続いてますものね」
「うん、なんか焦っちゃったけど、ワタシももっと遊びたいなっ!」
それを聞き、ナジメ達も着替えて、笑顔で湖の二人に混ざって行った。
「さすがはユーアだね。私の気持ちを代弁してくれて」
私はそんなやり取りを見て、感心すると共に感動した。
「あんな話をした私が言うのもあれだけど、ユーアとラブナの言う通り、ここへは訓練に来たわけじゃないからね。楽しんでもらおうと企画したんだからね」
ユーアがみんなをまとめてくれた事に嬉しくなった。
だって私が言っても、腕輪の件で煽ちゃったみたいで説得力がないから。
ただ、ラブナは単純にユーアと遊びたかったんだと思う。
何気にここ一番の笑顔だし、さり気なくユーアに抱きついてるし。
「それでもラブナがいたから、ユーアも言えたんだと思う。きっとみんなもそれはわかっている。だからこそ今は訓練をやめて、年少組の気持ちを汲んであげたんだと思う。なら私だけ傍観者はおかしいね」
私は装備の『変態』を使いビキニタイプに変化させる。
ついでに、大型スライダーをスキルで作成し、みんなの元に駆けて行く。
タタタ――――
「お~いっ! みんな~っ! 私も混ぜてよ~~っ!」
だって今日はまだ、みんなと楽しむための一日だもん。
せっかくユーアたちが作ってくれた、みんなと遊ぶための時間だもん。
そんな幸福な時間を堪能しようと、みんなのところに行ったんだけど、
「スミカお姉ちゃんも水着じゃないと、ダメだよ?」
「スミ姉っ! それはルール違反だわっ!」
「そ、そうですよ、お姉さまっ! 早く着替えてくださいっ!」
「うわぁ~、お姉ぇって空気が読めないんだなっ!」
「ねぇねだけ水着じゃないのはズルいのじゃっ! 着替えるのじゃっ!」
「へ? ええええ――――――っ!!」
なぜかみんなにダメ出しをくらってしまう私だった。
なので昨日の水着に着替えて、再度湖に戻る事となった。
ただし今回は、装備の上から着たのは内緒だけど。
その後はお昼まで泳ぎ、キューちゃんも混ざって楽しく遊んだ。
ランチは、みんなが持ち寄った料理に舌鼓を打ちつつ、二日間を振り返っての話で盛り上がった。
水着が装備の上からでも着れる事を思い出し、それぞれに交換をして、発表会みたくなったのはご愛敬だ。
それと双子姉妹には、サイズ調整機能が働かない事も再確認できた……
こうして私たちの慰労会という名のキャンプは終わりを告げた。
日帰りでもいいから、また来たいねと、みんなと話しながら。
――
「スミ姉、キュートードはあのままで良かったの?」
帰りも空の旅を満喫していると、ナゴタと話している私に声を掛けるラブナ。
「うん? あのままじゃないよ。少しだけ連れてきたんだ」
「そうなの? でもどこにもいないじゃない?」
不思議そうに周囲を見渡し、その後で私の顔を見る。
「ああ、そうか、保護色だから見えないんだけど、今はほら」
答えながら上空を指差す。
「ほら、保護色を解いたから見えるでしょ? 太陽光が反射して」
「へ?………… あああっ! って、……まじっ?」
指した空を見て叫んだ後で、ジト目で私を睨むラブナ。
そこには全長50メートルを超える巨大な水槽が浮かんでいた。
もちろん、透明壁スキルで作ったものだ。
今は『追尾』の能力で私たちの上を着いてきている。
「お、ラブナもマジを使いこなしてきたね。連れて来たのは10匹で、今日から孤児院裏の池にいてもらうんだ。ナジメにもさっき許可取ったし、池も作ってもらったからね」
ユーアと一緒にハラミをブラッシングしているナジメを見る。
「うむ。ねぇねに頼まれて作った池が、まさかキュートードの住処になるとは予想外じゃった。わしは子供たちの遊び場だと思っておったからのぉ。さすがねぇねというべきじゃな、うんうん」
何に感心しているかわからないけど、今、話した通りに、ナジメが孤児院の工事に参加するという事で、前もって頼んでおいた。
他のメンバーが食材確保に行ったその日に。
「それじゃ、キューちゃんたちは孤児院で飼うのっ!」
バッと顔を上げ、すかさず反応するユーア。
その目はキラキラと上空を見上げている。
見間違いじゃなければ、口端に光るものが……
「う、うん、10匹だけど飼う事にしたんだ。あんまり池も広くないからね。後は明日、ウトヤに来て、残りはそのまま送り届ける予定。シクロ湿原方面を通る許可が出たら」
ちょっとだけ、ユーアの視線を気にしながらそう答える。
池に放流したその日に、全滅なんかしないよね?
「お姉ぇは明日どっかに行くのかい?」
「そうですね、今の話だと街を出るみたいに聞こえましたし」
ナゴタとゴナタが今の話に反応する。
「うん、明日はロアジムと南西の村に出かける予定なんだよ。その時に少し遠回りだけど、キューちゃんを連れて行こうと思ってね」
「え? そうなの? またスミカお姉ちゃん出掛けちゃうの?」
キューちゃんから目を離し、衣装の袖を軽く摘まむユーア。
その表情はちょっとだけ寂しそうに見える。
「うん、そうなんだけど、ユーアも一緒だからね。ロアジムにも言ってあるし、ハラミも大丈夫だよ。だから明日は、朝から私とお出かけね」
ホワホワとした頭を撫でながら微笑んで返す。
「そ、そうなの、ボクもハラミ一緒なのっ! やった―っ!」
『がうっ!』
私の話を聞いたユーアは、嬉しそうにハラミにダイブする。
また毛並みが乱れちゃったけど。
「あ、それとロアジムの話が出たからついでに話すけど、私たちバタフライシスターズは、ロアジム直属の冒険者になったから」
「「「………………はあっ!?」」」
それを聞いてユーア以外のみんなが、目を丸くして私に注目する。
気のせいか、なんか怒っているような……
「ごめん、キャンプの準備もあって、話すのを忘れてたんだよ」
なので顔の前で手を合わせ、ごめんなさいする。
何となく不穏な空気を感じたけど、気のせいだと信じたい。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる