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SS バタフライシスターズの慰安旅行
戦う基準とディスられる澄香
しおりを挟む私が取り出した謎の腕輪は全部で5つ。
その5つの腕輪はそれぞれに特徴があった。
精巧な装飾と、10センチ程度の太さ。色は黒色で統一してある。
ここまではどの腕輪にも見られる特徴だった。
ただ、装飾に埋め込まれた、水晶の種類とその数に違いがあった。
細かい装飾に紛れてはいるが、並べてみれば一目瞭然だった。
小型の俊敏性の高いオークの水晶はアクアマリン。その数は1つ。
大型のオークはトパーズ。数は同じく1つだった。
この2種類がサロマ村で討伐した魔物から獲得したものだ。
次に、ビワの森の洞窟前で戦った、超高速再生能力を持つトロール。
心臓を突き刺し首を刎ねても、即座に再生する厄介な魔物だった。
そのトロールの腕輪にはエメラルドが3つ。
数だけで言えばオークの3倍だ。
次は、スラムの地下から現れ、地中を根城にしていた、全長20メートルを超える虫の魔物。
シザーセクトと呼ばれるハサミ虫の魔物の異形種だ。
その魔物から回収したのは、2つのルビーがはめ込まれている腕輪だ。
最後に、一番直近で回収したのは、シクロ湿原に現れたリザードマン。
30メートルを超える巨体でありながら、姿も消すことが出来る。
そのリザードマンからは、4つのサファイアが埋め込まれていた。
その今まで獲得した腕輪の『水晶の種類』と『数』で纏めると、
オーク小型 1つ・アクアマリン(水色)
オーク大型 1つ・トパーズ(黄色)
トロール 3つ・エメラルド(緑色)
シザーセクト 2つ・ルビー(赤色)
リザードマン 4つ・サファイア(青色)
これが今現在、私が持っている腕輪の詳細だ。
一番水晶の数が少ないのはオークの2種。
逆に多いのはリザードマンだった。
そして水晶の種類はそれぞれが違っていた。
その特徴をみんなに細かく説明をした。
―
「見た通り、今は5種類の腕輪があるんだけど、この種類によって、みんなが戦うか否かの判断材料にして欲しい。遭遇したらそれを確認してもらってね」
各々が真剣に耳を傾ける中、腕輪を並べてそう説明する。
「スミカお姉ちゃん、ボク、良く分からないかも?」
「ああ、そうだね、これから簡単に説明するね」
目を真ん丸にしているユーアを撫でる。
「え~と、この腕輪の水晶の種類と数の違いがあるのはわかったでしょ? それで、その数の違いは強さのランクと、種類は能力を表していると思うんだ」
「強さと、能力じゃと?」
ナジメが一番に反応する。
「うん、推測だけど、水晶の数は『総合的な強さ』 種類は『付与された能力』だと思う。正しいかどうかはわからないけど」
「じゃが、その水晶の数で強さとは何の根拠があるのじゃ? もしや種類の方かもしれぬぞ? わしはいささか早計な推測じゃと思うが」
話を聞き、ナジメから最もな意見が出る。
「確かにナジメが疑問に思うのはわかる。ただ種類の方だと明確に強さの基準にはならないと思う。色に強弱なんて曖昧過ぎるからね。そもそも水晶の種類が多すぎるし」
「確かにそうですね? でしたら――――」
「うん?」
ナゴタも加わり話を始める。
「でしたら、私たちが戦った、再生力の高いトロールの水晶の数が3ってのは頷けますね。オークや虫の魔物より、あのトロールの強さは異常でしたから」
「うんっ! 確かにあれは強かったなっ!」
ナゴタの意見に、ゴナタも手を挙げ賛成する。
「じゃ、シクロ湿原でスミ姉が戦った、消える白リザードマンはそれよりも強いって事? アタシからしたら倒しきれないトロールの方が脅威なんだけど」
「速いオークと大きいオークが一緒なの?」
ラブナと、話を理解したユーアも手を挙げ発言する。
これだけの意見が行きかうと、どれが正しいかわからなくなる。
「う~む、みなから色々な疑問が出てしまったが、ねぇねが判断した理由をキチンと教えてくれぬか? ねぇねはなぜ、水晶の数と種類がそうだと思ったのじゃ」
一通りの話を聞いて、再度私を見やるナジメ。
その視線はいつもより鋭いものだった。
そんなナジメは、この情報の重要さに気付いているのだろう。
この先々で遭遇したら、戦わなければならない相手なのだから。
だからその慎重さも真剣さも良く分かる。
その信憑性によって、自身と仲間の命にも大きく関わってくるからだ。
なので、厳しくも感じるナジメの視線は自然と普通に思えた。
私もナジメと同じように、みんなの身の危険を危惧しているからだ。
「私がそう判断した理由は、全ての相手と戦ったからだね、単純だけど」
注目するみんなの視線を受けたまま、端的にそう答える。
そもそもそれ以外に判断する材料なんて、今のところないし。
だから私は自身の体験を語ったに過ぎないんだけど。
ただそれでも凡そは合っていると思う。
「お、そうじゃな。確かにその全てと戦ったのはねぇねだけじゃったなっ! わしは余計な事を聞いてしまったようじゃなっ! なら問題ないのじゃ!」
キョトンとして、一瞬だけ目を見開き、私の話に肯定するナジメ。
鋭かった視線も、今はいつものクリッとした目に戻っている。
「確かにお姉さまは、その異様な魔物ともいえる相手と戦って、その全てを屠ってきましたから、お姉さまがそう感じたのなら、それは間違いないと言い切れますね」
次いでナゴタも、ナジメの意見にうんうんと頷く。
「そっか~、確かにスミ姉がそう判断するんなら、それが一番正しいわね。なら、その腕輪の水晶の数が、魔物の強さの基準でいいんじゃない?」
ラブナも異を唱える事なく納得する。
「うん、私もそれで間違いないと思う。ただ水晶の種類は殆ど分からないけどね。でも違いがあるんだから、それぞれの能力の区別をつけているって考えは、良いところをついているんじゃないかな」
腕輪を手に取りながらそう話す。
何かしらの意味があるのは間違いない。
もしかしたら能力以外にも、意味があるかもだけど……
「だから、その種類の方は深く考えなくていいよ。そもそも判断できる程の証拠もないし。でも一応警戒はしておいてね? 能力の相性の問題もあるから」
腕輪を収納しながら、みんなを見渡して話す。
「あの、スミカお姉ちゃん。ボクたちはこれからどうすればいいの?」
クイと袖を摘まみ、私を見上げるユーア。
どうするとは、今後相対した時に、戦うか否かの話の事だろう。
「それも今から話すね。腕輪の水晶の数で決めるから」
人差し指を立てながら話を始める。
「その数で、ボクたちが戦ってもいいか決めるの?」
さっきよりも緊張しているように見えるユーア。
手の平をグッと閉じている。
「うん、そうだね。でも、最初に言っておきたいのは、私はみんなには戦って欲しくない。普通の魔物ならまだしも、腕輪を着けた魔物は私でも脅威に感じたからね」
「ねぇね、それじゃ昨夜の話に戻ってしまうのじゃが…………」
すぐさまナジメから突っ込みが入る。
「あ、ごめんごめん。そういうつもりじゃなくて、私の気持ちの話なんだよね。単純に危険な目に合って欲しくないって。ただのワガママみたいなものだから気にしないでいいよ」
フルフルと首を振って答える。
ユーアたちの強さと覚悟と想いは、それぞれと戦って理解しているから。
それにこれは親心ならぬ、妹たちを心配する、姉心だとも理解しているので。
「はぁ~、もういいわよ。で、先を話してよね、スミ姉。その基準みたいなの」
大袈裟に肩をすくめるラブナ。
「ええと、まず隠語として、水晶の名称を『ジェム』として呼びあおうか? 水晶なんて他の誰かに聞かれても良い事なんかないだろうから」
「じぇむですね? はい、わかりましたっ!」
ユーアだけが手を挙げ大きな声で復唱する。
他の面々は深く頷いている。
「うん、それじゃユーアとラブナとハラミ組は『ジェム2』までで、ナゴタとゴナタは『ジェム3』 で、最後のナジメは『4』までで」
分かりやすく、指を折りながら説明する。
「で、それ以上の相手だと確認できた場合は、守りに専念するか、すぐさま撤退するか、それはその場での判断に任せるよ。確認が出来なくてもそれは一緒で」
「ねぇねや、そのジェムの数は4が最高なんじゃろうか?」
ナジメから、再度質問が飛ぶ。
手持ちにあるのが、白リザードマンの『ジェム4』が最高だからだ。
「うん、私もそこは気になってた。多分だけどもっとあるんだと思う…… でも、現状ではそこまでしか情報がないから、それ以上だったら絶対に戦わないで、足止めもダメ。なりふり構わずにすぐさま逃げて」
みんなを見渡し、語尾を強く意識して話す。
戦える戦えない以前に、遭遇したらすぐさま撤退して欲しいと。
仮に、危険にさらされている人々がそこにいたとしても。
そこに、知り合いや友人、恋人や家族がいたとしてもだ。
ただそんな事をしたら、無慈悲や冷酷非道などと罵詈雑言を浴びせられるかもしれない。
卑怯や臆病者、ひとでなしなどと、揶揄されるかもしれない。
撤退ではなく、敵前逃亡したと後ろ指差されるかもしれない。
それでも――――
それほどの脅威だと私は感じていた。
これは予知や、予測ではなく、確信に近いものだ。
「お姉さまに、そこまで言わせるんですか…… ジェム4以上は」
「うん、だから逃げる事だけを考えて」
ポツリと零すナゴタに答える。
その理由は、まだ遭遇してないし、情報が無さ過ぎるから。
もしかしたら杞憂かもだけど、万が一を考えるのは私の務めだ。
「なんか、お姉ぇらしくないなぁ~。戦うなとか、逃げろとかさぁ?」
「そうよね、スミ姉がそこまで恐いと思ってるのはわかるけど、ねぇ?」
「んっ?」
何だろう?
ゴナタとラブナが、私の事を軽くディスっているような?
「そうじゃな、ねぇねがそんな殊勝な考え方だと、わしも情けなくなるのじゃ~」
「むっ!?」
そっぽを向いているが、わざと聞こえるように話すナジメ。
「はぁ~、何だかいつも自信満々の、スミカお姉ちゃんじゃないみたい。ボクの自慢のきれいで、カッコ良くて、優しいスミカお姉ちゃんじゃなくなっちゃったよ」
「いいっ!?」
最後に、隣のユーアが溜息と共に私を見上げる。
その目にはハイライトがなく、なんの期待もしていない事が読み取れた。
『う~~っ』
なんかこのままだと、私の株っていうか、価値っていうか、存在も含めて、色々と否定されそうなんだけど。
絶対に勘違いしてるよね?
だって戦わないのはみんなであって――――
「あのさ、みんなの行動は今話した通りだけど、私がそこにいたら、そんな奴ら一方的にボコボコにして、何もさせずに蹂躙して、塵も残さず消滅させるつもりなんだけど」
椅子に立ち上がり、腰に手を当てそう言い切った。
だって、私だけはどんな相手でも戦うつもり満々だもん。
そこにみんながいても、傷一つ負わせるつもりもないから。
それを聞いた、みんなの反応は、
「んふふっ! やっといつものスミカお姉ちゃんに戻ったぁっ!」
「あれだけ言ってやれば当然よねっ!」
「それがお姉さまらしいですねっ! それでこそお姉さまですっ!」
「いや~っ! やっぱりお姉ぇはカッコイイなっ! 憧れるなっ!」
「わははっ! やはり、ねぇねは毅然とした態度が似合うのじゃっ!」
口々に私を褒め讃え、一気に湧き上がるみんな。
それを聞くと、わざと私を焚きつけたんだとわかる。
さっきのは全て演技だったと確信する。
『まぁ、そんなみんなの考えも、私はわかっていたからね。だって、私はみんなを守ると共に、みんなの期待にも、全力で応えなきゃならないからねっ!』
だって、それがこの素晴らしいパーティーのリーダの役目だし、
この妹たちを守る、長女の私の役割だからね。
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