剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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SS バタフライシスターズの慰安旅行

食い違いと宣戦布告

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「それは確かに恐ろしい、ですね…… お姉さまが持つ強力なアイテムと、同レベルの技術のものを、真っ当な事に使わない輩がいるなんて」

「そうだなっ! そいつらの目的はよくわからないけど、魔物に装備させて、人々を襲わせるんだから普通じゃないよなっ!」

 ラブナと私とのやり取りを、神妙な面持ちで、最後まで聞いていた姉妹が口を開く。

「うむ、確かにそうじゃな。こんなものがわしらの知らぬところでバラまかれているとはのぅ。それがどこぞの誰かの仕業かもしれぬとは……」

 ナジメも私たちの話を聞き、その危険性に眉をひそめる。


「確かにみんなが感じた通り、腕輪の事もそうなんだけど、それを悪用して、何かをやろうとしている存在がいるって事が一番問題なんだよ。目的も、何者かもわからないって事がね」

「それが今回私たちに、このマジックアイテムを渡したのが理由なのですね? 私たちシスターズも、その正体不明の敵と戦えと、そういう意味なのですね?」

 渡されたアイテムに、視線を移すナゴタ。
 それを聞いて、他のみんなもアイテムに目を移す。 

 その表情は一様に無表情で、心中が読み取れない。

 話を聞いて、巻き込まれたと迷惑に感じているのか?
 こんなアイテム一つで、危険の中に身を晒したくないのか。


「それは違うよ、ナゴタ。私はみんなに戦って欲しい訳じゃないんだ。守って欲しいんだよ。自分自身や、周りの大切な人々や住む街を。だから矢面に立つのは私だけでいい。みんなは自分に降りかかった火の粉を払うのに、そのアイテムは使ってね。そういう意味であげたんだ」


 こんな戦いに、大切なみんなを巻き込む事はしたくない。
 私の手が届かないところなら尚更だ。
 
 ただそうは言っても事態は水面下では動きだしていて、意志とは関係なく巻き込まれることもあるだろう。実際には私たちの住むコムケの街のスラムや、近くのビワの森まで侵略してきているのだから。

 だが、そうなった時には戦いを選択しないで、身を守る事に専念して欲しい。
 それを含めての、護身用って意味でアイテムを渡しただけ。

 それにこの者たちとの戦いは、そもそも私の領分だろう。
 他の異世界人とのいざこざを、私が鎮圧するのは。


「違うよ、スミカお姉ちゃん。そうじゃないよ?」

 ユーアがクイクイと袖を引っ張る。

「ん? 違うって?」
「うんとね、みんなも守りたいって思ってるんだよ?」

 クリッとした目で見上げてくる。

「うん、だから、自分や大切な誰かを守るためにね、――――」
「それがスミカお姉ちゃんなんだよ? みんなが守りたいのは」
「え?」

 言った意味が分からずに、ポカンとユーアの顔を見てしまう。

 すると、

「そうなのです。ユーアちゃんの言う通りです、お姉さま。お姉さまを守るだなんて、おこがましいとは思いますが、そう言った事ではないんです」

「お姉ぇっ! ワタシたちはお姉ぇを守ってあげたいんだっ! え~と、なんて言うのかな? お姉ぇが誰にも負けないって知ってても守りたいって事だっ!」

「ゴナ師匠…… 言ってる事が支離滅裂でわからないわ。 要するに、スミ姉はアタシたちを心配してる、その気持ちを守りたいって言いたいんでしょ? アタシたちも戦って、それは余計なお世話何だって」

 ナゴタ、ゴナタ、ラブナの順で、ユーアの話を代弁するように話してくれた。

「そ、それは……」

 みんなの想いを聞いても、尚、口ごもってしまう。
 そして心の中で葛藤する。

 みんなの想いを尊重して、このまま火中の中に飛び込ませていいものか。
 それか私の想いそのままに、戦いからは一歩引いてもらうのか。
 

「ねぇね」

 思い悩んでいる私の肩をポンと叩くナジメ。

「なに?」
「ねぇねは何をそこまで悩んでおるのじゃ? みなにあそこまで言われて」
「それはもちろん、みんなの身の安全だよ」
「わしも含めて、それぞれが強者の枠組みにいてもかのぉ?」
「うん。強くてもそれは一緒」

 躊躇うことなく答える。
 誰だって身近で大切な者に、危険な目にあっては欲しくないだろう。

 いくら強さを信用していても、それと感情の話は別だ。


「はぁ~、やはりねぇねは優しいのじゃ。わし自身は、今は活動していないが、他のみなは冒険者を生業としておる。危険など元々隣り合わせじゃろうに。それでも不安が拭えぬのかのぉ?」

「そうだね、みんなの事は知ってるし、信用もしてる。けど、それとこれとは――――」

「なら」

 肩に置いたままのナジメの手に、少しだけ力が入る。

「ん?」
「明日は時間があるのじゃろ?」
「? そうだね、午後までは大丈夫だよ?」

 突然の話の転換に、戸惑いながらも返答する。

「なら、午前中時間をくれんかのぉ?」
「うん、別にいいよ。みんなが好きにして過ごしても」
「いいや、みなではなく、ねぇねの事なんじゃが」

 ナジメはここで置いていた手を放し、みんなの顔を見渡す。

「私? ああ、私も特に予定はないから何かして欲しいなら――――」
「なら戦ってくれなのじゃ」
「は?」
「わしも含めて、シスターズ全員と明日、模擬戦をして欲しいのじゃっ!」
「へ? うえええぇぇぇ――――っ!!」

 唐突の模擬戦宣言に、素っ頓狂な声を上げて驚き、ナジメの顔をマジマジと見てしまう。

 それはそうだろう。

 たった今、強さに関しては信用していると伝えたはず。
 なのに、またそれを混ぜ返す話になるなんて。


「なんでっ! だってみんなの事は認めてるんだよ? それなのにっ!?」

 目的の意図が読めずに、上擦った声で答えてしまう。

「うむ、そうじゃっ! その方が手っ取り早いのじゃっ! みなもそれでいいじゃろっ!」

 「ふんす」と鼻息荒く、他のみんなにも確認するナジメ。

「うんっ! ボクもそれがいいと思うんだっ!」
「ユ、ユーア?」

「そうですね、私もナジメの提案に賛成です」
「うん、その方が、早いしなっ!」
「ナゴタとゴナタもっ!?」

「そ、そうねっ! アタシもスミ姉の過保護っぷりには飽き飽きしてたわっ!」
「過保護なのっ!? それにラブナまで?」

 
『うう~』

 ユーアに続き、全員一致した答えに驚く。
 反対意見が出なかった事に慄く。


 意味が分からない。
 いや、何となくはみんなの言いたい事はわかる。

 恐らく、模擬戦で実力を示して、私の考えを変えるつもりだろう。
 不測の事態には、自分たちも前線で戦いたいと。


「あっ!」

 ここで私はある事に気付く。
 この提案に賛成していないメンバーが残っていた事に。

「ハ、ハラミはどうするの?」

 おずおずとユーアの膝の上のハラミに問い掛ける。

 ハラミが反対したら、ユーアももしかして……  
 なんて、一縷の望みを託しながら。


『きゃふっ!』

 そんなハラミはユーアの胸にキュッと抱き付き、尻尾を振り始めた。
 どうやら飼い主の味方をするようだ。


『そ、それはそうだよね…… ユーアはハラミの恩人だしね。裏切られたのはちょっとショックだけど。私だけ仲間外れだし…… でも、まぁ仕方ない。みんなが納得しないのであれば――――』

 ガタ

 私はゆっくりと椅子の上に立ち上がる。
 そして、腰に手を当てシスターズ全員を見下ろす。


「わかった。なら明日は、私とみんなの実力の違いをわからせてやるっ! だから後悔しないように、全力でかかってきなよっ!」

 キョトンとするみんなに、指を突きつけ高らかに宣言した。

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