剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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SS バタフライシスターズの慰安旅行

レッツスライダー1(年少組編)

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「スミカお姉ちゃん滑ろうっ!」

 ユーアが笑顔で私の腕を取り、スライダーの手前まで引っ張っていく。

「じゃ、ユーアは前ね? ア、アタシはスミ姉の後ろにするわっ!」

 ラブナは後ろに回って背中を軽く押してくる。

「うん、それでいいよ」

 了承しながら滑り台の前でユーアを足の間に座らせ、腰に手を回しホールドする。
 ラブナも後ろでは同じ様に、私の腰に手を伸ばしお腹の前で固定する。

「ふ、わぁ、スミ姉って、こんなに細くて、肌も白くて、でも強くて――――」
「なに?」

 背中ではブツブツとラブナが何かを言っている。

「んあっ! な、何でもないわよっ! それよりも早く行くわよっ!」
「そう? あまり怖いならやめるけど、大丈夫?」

 上擦った様子の返答を聞いて、心配する。
 3人で一気に滑るのが、危ないと危惧しているんだろうと。

「ち、違うわっ! ただちょっとスミ姉が近いのと、それと、ごにょごにょ」
「?」
「ラブナちゃん、どうしたの? もう行くよ?」

 その様子に心配したユーアが振り向き、ラブナに声を掛ける。
 ユーアの髪の毛が鼻にかかって、ちょっとくすぐったい。

「だ、大丈夫よっ! それじゃ前まで行くわよっ!」

 ギュッ

「っ!?」
「うん、ラブナちゃんっ! 行こうっ!」

 3人で体を滑らせ、ズリズリとスロープまで近づく。
 その際に、背中に柔らか物体が2つ当たるが気にしない。

「くっ!」

 私だって、似たようなもの持ってるからね……
 だから何の感情も湧かないからね?


「お姉さま~っ! 景色はどうですか~っ!」
「お姉ぇっ!」

 眼下では、ナゴタがこちらに向かって手を振っている。
 妹のゴナタはキューちゃんを1匹持ち上げて、片手でブンブンしている。

 ナゴタはいいとして、ゴナタは仲良くなったって認識でいいよね?
 まさか「食材ゲットだぞっ!」とか言わないよね?

「うん、景色はいいよ~っ! キューちゃんも華やかだし、湖もきれいだからね」

 笑顔の二人にそう返し、もう一度見渡してみてみる。

 透明度の高いウトヤの湖と、帰ってきたカラフルなキューちゃんたち。
 それと太陽光がキラキラと反射して、まるでおもちゃ箱のようだ。
 水面に映り込む緑の木々も、その雰囲気へ更に相乗効果を与えている。


「本当にきれいだね、この世界は……」

 私はその光景に見蕩れる。

 こんな景色は知らないし、行った事もない。

 元の世界にもあるだろうが、行った事も、行きたいとも思った事はなかった。
 私の世界の大半は画面の中だけで終着し、そこから出る事は稀だったのだから。


「スミカお姉ちゃん、どうしたの?」

 前に座るユーアがクリッとした目で振り返る。

「どうしたのよ、スミ姉? 早く行くわよ」

 背中では結構なボリュームの、二つの柔らかい感触を持つラブナが。

「くっ! な、何でもないよっ! それじゃレッツゴーっ!」

「「うんっ!!」」


 そうして私たち3人は、なんちゃってスライダー(チューブ型)を滑降していった。


――――


「ぷはっ! 楽しかったね、スミカお姉ちゃんっ!」
「そ、そうだね、ふぅ~」
「やっぱり3人だと速さが違うわねっ!」
「そ、そうだね、はぁ~」

 スライダーで、水面に飛び込んだ二人はどうやら満足したようだ。
 顔を上げて早々に、感想を言い合っていた。

 そんな中、私は胸の鼓動を落ち着かせるのに深呼吸を繰り返していた。

『だって、あんなに滑るだなんて思わなかったよっ! もっとカーブとジャンプ台を自重すれば良かったよぉっ! どこかに飛んでいきそうだったよっ!』

 笑顔の二人とは裏腹に、心の中で反省する。

 楽しかったと言えば、楽しい。
 でもあまり楽しむ余裕なんてなかった。
 まぁ、それを作ったのは私なんだけど。

 グルグルと視界は変わるし、速度は上がっていくしで、楽しむよりは恐かった。
 きっと、蝶の装備をしていなかったのも原因の内の一つだ。

 それでも目の前のユーアは両手を挙げてはしゃいでいた。
 そんな姿を目の当たりにしたら、作って良かったなと、その時は心底思った。

 けど、この早鐘の鼓動の主な原因は、ある意味背中の人物が引き起こしたものだ。

 前列のユーアとは違って、後列は両手を離すことが出来ない。
 それは途中で分解して、別々に滑っていってしまうからだ。

 したがって、後列のラブナは私の背中に密着する事になる。

 急カーブなり、ジャンプ台なり、興奮度が上がる度に背中に押し付けてくる。
 今にもDランクにも匹敵しそうな、その凶暴な塊を。

『…………チラ』 
 
 その張本人を横目で見てみる。

「でね~、今度はナジメと3人でさっ!」
「うん、次やってみようよラブナちゃんっ!」

 そんな加害者は手振り身振りでユーアと談笑している。
 被害者の私の気持ちと、心に負った傷の事も知らないで。


「はぁ~」

「さぁっ! お姉さま。次は私たちと滑ってください」

 グイッ むにゅ

「いいっ!?」

「次はお姉ぇとナジメの4人で滑るぞっ!」

 グイッ むにゅ

「うはぁっ!」

「ねぇね、わしとも滑ってくれなのじゃ~っ!」
「ほっ」

 グイッ ぴと

 そんな傷心している私の心の内情も知らずに、
 更なる追い打ちをかけるように、姉妹の二人が腕を取り引っ張る。
 ナジメは腰にくっついてきた。

『うわ~っ! こ、これ以上、私を落ち込ませてどうするのっ! そんなの絶対に私が挟まれて、その圧倒的物量に悶絶する未来しか見えないよっ!』

 なんて、笑顔でキャッキャと手を引く、本人たちの前では言える訳でもなく、

「わ、わかったから、もう少し離れて行こうねっ! 二人とも」

 若干、引き攣った笑みでそうお願いする。が、

「え? 何ですか、お姉さま?」
「うん? ナジメがうるさくて聞こえなかったぞ、お姉ぇ?」
「うむ、わしが悪いのかのぉ?」

 ぎゅむ ×2
 ぴと ×1

 更に、心に傷を刻み込まれていく、見た目全裸の私だった。


『ああ…………』

 ユーアの感触をもっと味わって、自信を付けておくんだったよ。

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