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SS バタフライシスターズの慰安旅行

釣って釣られる幼女

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「で、何か良い作戦あるの? ここのぬしを捕まえる方法が」

 自分で出した案に、上機嫌なナジメに尋ねる。

「うむ、それなのじゃが、ちょっと待ってくれなのじゃ?」

 ゴソゴソと腰のポシェットを漁り始める。
 あれやこれや言いながら。


「うむ、あったのじゃっ! で、次は――――」
「ん? それってロープ?」

 最初に出した物を見て聞いてみる。

「む? そうじゃよ。で、それに付けるエサは――――」

 答えながら、またゴソゴソと探し始める。

「エサ? もしかして釣り上げるつもりなの? そんなロープで?」
「そうじゃよ? わしはそれで大物を釣った事があるからのぉ!」

 探すのを止めて、自慢げに無い胸を張る。
 続けて、

「それにこれはただのロープではないのじゃ。強靭な糸を持つ、蜘蛛の魔物の素材から出来ておるのじゃ。この湖の魚ぐらいなら問題ないじゃろ」

「へ~、そんなのあるんだ。さすがは元高ランク冒険者だね。それで、エサは見付かったの?」

 話ながら、まだポシェットを漁っているナジメ。

「うむ、それが以前に、血抜きしたクマの魔物を入れておいたのじゃが、どうやら食べてしまったようじゃな。コムケの近くの森で狩った物じゃったが、どうしたものか……」 

 う~ん、と顎に手を当て悩み始める。
 もう当てがないんだろう。


「…………なら、私が持ってる魔物あげるけど?」

 なので、そんなナジメに見かねて、そう提案する。

「ぬ? ねぇねは何を持っておるのじゃ?」

「そうだね、オークとか、トロールが多いね。後は大きな虫と、ログマさんのとこで買った、加工済みのお肉があるけど。あ、あと素早いウサギのがあったね。名前忘れたけど」 

「そ、そうか、ならオークが欲しいのじゃっ! トロールではさすがにデカすぎるかもじゃからなっ! それとねぇねの収納魔法は、時間経過がなかったのじゃな?」

「そうだね。一応収納した状態で残ってるけど」

 キラキラと期待の眼差しを向けるナジメに答える。

「おお、さすがはねぇねじゃっ! それなら新鮮な極上のエサになるのじゃっ!」
「そう、それは良かったね。ならもう準備をしたら、みんなも作り始めてるし」

 森の近くのみんなを見渡して、そう話す。 

「うむ、わかったのじゃ。それじゃオークを出すのはちっと待ってくれなのじゃ」
「うん、別にいいけど」

 私に声を掛けて、トコトコと湖の際より少しだけ後ろに移動するナジメ。

「よし、いくのじゃっ!」
「ん?」

 止まったところで、手を挙げ何かを唱えると、ナジメの足元からアーチ状に地面が伸び、そのまま湖に向かって足場のようなものを作り上げていく。

「おぉ~っ!」
「むふふ~っ!」

 それは高さが湖面から10メートル程で、長さが50メートル程の、
 土で出来た橋だった。幅は約2メートル程だ。

「それじゃ、この橋の突き当りまで来てくれなのじゃっ!」
「うん」

 ナジメの魔法でできたばかりの橋を二人で渡っていく。
 湖面を覗くと、キューちゃんたちが首を傾げてこっちを見ていた。





「ねぇねよ。ここにオークを出してはくれぬか」
「うん、わかった」

 橋の末端まできたところで、ナジメに頼まれる。
 なので、未だに血糊の残る生臭いオークを一体、橋の上に出す。


「で、そっからどうするの? 竿とか針とか必要じゃないの?」
「針は元々持ち歩いているのじゃ」

 そう言いポシェットから、ナジメの身長の半分ぐらいの針を出す。

「おお、随分とデッカイね。で、釣り竿は?」

 早速、ロープを針とオークに結び付けているナジメに聞く。


「竿はわしじゃよ。わし自身じゃよ」
「はあっ?」

 エサにも結び終えたナジメは、今度は自分の腰にロープを巻き付けていく。

「………………」

 もしかしなくとも、そう言う事なんだろう。


「これで獲物が掛かったら、わしが引き上げて魔法を撃ち込んで終わりなのじゃっ!」

 準備が終わり、ドンと自分の胸を叩いて、声高らかに宣言する。

「いや、いや、ナジメが引き上げられるほど、主が小さいとは限らないからねっ! きっとナジメが思うよりも大きいと思うよっ!」

「ねぇねや。わしはこれで何度も大物を釣ってきたのじゃっ! そもそもわしが魚類なんぞに後れを取るわけないのじゃっ! ぶっこ抜いてやるのじゃっ!」  

 ふふんと鼻を鳴らして、何やら自信満々なご様子だ。
 腰に手を当て、ふんぞり返っている。


「魚類って、う~ん、そこまで言うんなら………… いいかな」
 
 そのどこからくるかわからない自信の根拠は、きっと今までの経験に裏打ちされたものだろう。

 だからそんなに心配しなくてもいいのかな?
 ナジメの魔法もあるし。


「それじゃ、のんびり釣っててよね。私はみんなのところに戻るから」

 軽く手を振って、ここを去る事を伝える。
 釣りなんて、結構時間がかかるし、気長にやるものだしね。 


「うむ、期待して待っておくのじゃっ! 極上の馳走を釣ってやるのじゃっ!」

 そんなナジメの明言を聞いて、私は踵を返し歩いていく。


『あ、もしナジメが釣り上げたら、ここならみんなに丸見えだよね? なら目隠ししておこう。ナジメもみんなに見せてびっくりさせたいだろうし』

 ここにいてもナジメを手伝えることはないので、歩きながら湖とみんなの前に、スキルで壁をパーテーションのように作っておく。

 これなら見えないし、みんなも調理に専念できるだろう。


 なんて、一人満足して歩いていると――――

「ぬおっ!」

「ん?」

 すぐさま背後から、ナジメのくぐもった声が聞こえてきた。

「え? もしかして、もうかかったの? さすがは釣り慣れているんだ」

 なんて、話ながら後ろを振り向くと、主らしきものと奮闘する幼女がいた。

「おおっ! ナジメ頑張れっ!」
「ぐぬぅ、た、たかが魚のくせしてっ! あっ!?」
「え?」

 シュンッ!

 一瞬にして、目の前からロープを持ったままのナジメの姿が消える。
 そして真下から、ジュボと何かが落ちる音が聞こえてきた。

 なんの力の拮抗もなく、簡単に引き込まれていった。
 ぶっこ抜くと意気込んでたのは誰だったろう。


「はぁ? って、ナジメが釣られてんのっ!?」
 
 タタタッ

 急いでナジメがさっきまでいた場所まで戻り、橋の下を覗き込む。

「ナジメ~っ! 大丈夫っ!」

 湖面に向かって、慌ててナジメの名前を叫ぶ。

「って、もう見えないっ! 水の中に引き込まれたっ!?」

 だけど叫んだ先には、緩やかに波紋が広がる水面があるだけだった。


「は、早く助けに行かないとっ! 水中戦はあまり得意じゃないけど、そんな事は言ってられないっ! …… ってあれ?」

 覚悟を決めて、飛ぶ込もうとした瞬間。ふと、ある物に気付く。


「え? これって、ナジメのロープ?」

 それは橋の隅で結んである、ナジメを縛っていたロープだった。
 そこを辿ると、どうやら水中まで伸びているようだ。

 きっとナジメはある程度の危険を見越して、保険で結んでおいたのだろう。
 まぁ、これでは長すぎて意味ないけど。


「で、でも、これを引っ張り上げれば、ナジメも主も一気に釣り上げることが出来るっ! よ、よし、気合入れて引っ張ろうっ!」

 湖面に向かって伸びているロープを強く握り、グッと力を入れる。
 なんだけど、固くて全く引き上げられない。


「こ、これは中々重いねっ! し、仕方ない、あれを使おうっ!」

 『Safety安全 device装置 relea解………』

「ん?」

 ピシュンッ
 
「えっ! あ、危なっ! 何か飛んでったっ!?」

 ロープを握る私の前髪を掠って、何かが上空に飛んでいく。
 気付くのがもう少し遅れてたら、おでこに激突するところだった。


(うぬ~っ! 奴めわしを弾き飛ばしてからに~っ!)

 その上空では聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ナジメっ!? なんで?」

 見上げると、ロープに絡まり、ジタバタしている小さな姿が見えた。


(ねぇねっ! そこも危ないのじゃっ! あ奴は怒っておるのじゃっ!)

「え? なんて~?」

 何やら叫んでいるが、飛ばされた影響なのか、クルクルと回っていてよく聞き取れない。

「そこも危ないのじゃ~っ! 逃げるのじゃっ!」
「危ない?」

 今度は落下してきて距離も近づいたので、幾分聞き取れた。
 
「危ないって、ここって湖よりかなり上だよ? 一体何が」

 確認の為に、橋より顔を出して水面を見てみる。

 すると――――

「え?」

 湖面が大きく膨らみだした瞬間、そこから破裂したように何かが飛び出る。 
 そしてその勢いのまま、私の立っている橋に激突し、

 ドゴォ――――ンッ!

「わっ!」

 ナジメの作った橋の瓦礫と共に、私まで空中に弾き飛ばされる。


「びっくりした~っ! もしかして主なのっ!?」

 スタッ

 空中で態勢を立て直し、透明壁スキルで足場を作り、その場に留まる。 


「って、今はそれよりもナジメにも足場を…… あ、違うっ! ナジメだけじゃダメなんだっ! ロープで繋がってるんだったっ!」

 なので、このままだとナジメも一緒に落ちる。
 主が水中に落ちたら必然的にそうなってしまう。


「だったら、あの主を水中に戻れないようにすればいいんだっ!」

 即座にそう判断して、飛び出て来たであろう巨大生物とナジメの真下をスキルで覆う。
 これならロープの長さも足りて、相手を逃がさないで済む。 


「ふぅ、何とか間に合ったよ。ナジメも大丈夫?」

 ナジメの乗ったスキルを操作して、私の隣に並べる。
 ロープは未だに繋がったままだ。


「うむ、助かったのじゃ、ねぇねよ。あ奴はわしが引きずり込まれた時に魔法を撃ち込んだら、怒り狂ってわしを弾き飛ばしたのじゃよ」

 濡れた髪をペタペタと触りながら、そう教えてくれた。

「そうなんだ。でも無事で良かったよ。本当に焦ったからさ」

 話ながらナジメにタオルを渡す。

「ありがとうなのじゃっ! ねぇねよ」
「うん、いいよ。それにしても、湖の主って――――」

 ナジメと私を弾き飛ばした、今は湖面ギリギリに打ち上げられた生物を見る。


「はぁっ? こ、これが主なのぉ~っ!?」

 思わずその正体を見て叫んでしまう。

「うむ、間違いないと思うのじゃ。その大きさじゃし。凶暴だしのぉ」
「いやいや、そもそも魚じゃないじゃんっ! 見た事あるもん、絶対に魚じゃないってっ! だってこれって――――」


 まるでウーパールー〇ーにそっくりだもん。
 魚類じゃなくて、両生類だよ。

 まぁ、大きさは本来の50倍以上あるけど。
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