剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
382 / 586
SS バタフライシスターズの慰安旅行

愛しのあの子は何処に?

しおりを挟む



「んん、近い」
「そんなのいいから、さっきの話を、く・わ・し・くっ!」

 『私のキューちゃんが帰ってくる、かも……』

 そんな可能性の話を聞いて、勇み足で詰め寄る私に不満を言うメヤ。
 だけどそれを無視して、更にズイと超至近距離で問いただす。
 

「ん、さっき?」
「キューちゃんたちが生きてるかもって話だよっ!」
「ん。それは………… 何だっけ?」
「はぁ~っ!?」

 ここまで来て小首を傾げ、突然話をはぐらかすメヤ。
 相変わらず掴みどころがないと言うか、無表情も相まって思考が読めない。 

『くっ!』

 もしかして、ここから先は取引をしなくちゃダメなの?
 忘れた振りして、私を試してるって言うの? 見返りに何かを求めてるの?


「だったらこれあげるよっ!」

 私はメヤに、あるものを突き付ける。
 せっかくお昼にみんなにも出すはずだったのに。


「ん、何これ?………… パンツ?」
「あ、間違えたっ! ここ、こっちだよっ!」

 バッとそれを奪い返して、本来の物を押し付ける。

『ふぅ~、危ない危ない。慌ててユーアのパンツを渡しちゃったよ。このユーア成分補充用のものを……』

 額の汗を拭う。振りをする。
 間違ってご神体渡すところだったよ。

 グイグイ

「ん?」
「あの、なんでボクのパンツを持ってるの?」
「え?」

 そのやり取りを見ていた持ち主に、羽根を引っ張られ薄目で突っ込まれる。

「その模様のお気に入りだったのに、ちょっと前に無くなったんだよ?」
「あ、何でだろうね? 私のと間違ったのかな? あはは」
「でもそれ、洗う前にどっか行っちゃったんだよ? なんで持ってるの?」
「ううっ」

「「「じ~~~~」」」

「はっ!?」

 強い視線を感じて振り返ると、ラブナを筆頭にみんながこっちを見ていた。
 全員揃ってジト目のままで何か言いたそうだった。


「あ、あの、これはね、なんて言うかねっ ――――」
「ん。相変わらず仲良し。で、これは?」
「あ、ああ、それはね、ある街に現れた虫の魔物のサンドイッチなんだよっ!」

 メヤに振り向き、薄目のユーアから逃げるように答える。
 渡りに船とは、この事だろう。


「ん、この中味は見た事ないかも」
「まぁ、虫のお肉だからね。普通はあまり見ないよね?」
「ん、でもこのお肉、蛍光ピンクできれい、美味しそう」
「え? そ、そう? 見た目はあれだけど、確かに絶品だよ」

 変わってるね、この子。
 サンドウィッチの具材を虫って明かしたのに、それでその感想とは。

 まぁ、女の子に虫を出した私が、言うのもあれなんだけど。
 でも、その見た目に反して、大いに裏切られる事だろう。


 パク
 
「…………ん、凄く美味しい」

 躊躇なく一口食べて、その味を絶賛するメヤ。
 これはかなりの好感触だ。

「でしょっ! でしょっ! だからキューちゃんたちの事教えてよっ!」

 なので、その余韻が収まらないうちに再度尋ねる。


「ん、別に元々言うつもりだったけど」

 ペロっと一切れ食べて不思議そうに私を見る。

「そうなの?」
「ん。さっきは情報を検索するのに時間がかかっただけ。でも思い出した」
「へ、へ~、なら良かったよ」

 なんか言い方が引っ掛かるけど、教えてくれるならいいか。
 サンドウィッチ上げた意味なかったけど。


「キュートード水中では速い。それと臆病」
「速い? あのキューちゃんが?」

 臆病ってのはわかるけど、速い要素なんかあるだろうか?
 だって、ちょっと大きくて、カラフルなカエルだよ?


「ん。後は、変わった能力持ってる。弱いから」
「能力? ってどんな」
「ん、それは――――」

 メヤは私の疑問に、つらつらと思い出す様に話し始めた。


――――


「え? あのキューちゃんたちにそんな能力が? それとオスとメスいないの? あと、エサはあまり食べなくていいの? そんなの全然知らなかったんだけどっ!」

 メヤの説明を聞き終わり驚く。
 ノトリの街で聞いた話よりも、情報が多かったからだ。


 その詳細は――――

「まさか、水中では頭の花を開閉して、それで泳ぐだなんて…… 確かにあのホワホワの手では水掻けないもんね。しかも閉じてる間は姿が見えないって」

「ん、だから水中では消えたり現れたりして、しかも速いから普通の魔物には捕まえられない。それと敵意や物音に敏感だから、すぐに逃走する」

「へ~、しかも魚を好きって聞いてたけど、太陽を頭に浴びてればそれが栄養になるんだ。なんか光合成してるみたいで魔物って感じしないけど」

「ん。それでも数週間に一回はエサ食べてる。あとは、住む水場の面積によって、数は調整するみたいだから増えすぎる事も、絶滅する事もない。繁殖力が高くても」

「うん、それならどこに行っても生きていけるね。さすが可愛いだけのキューちゃんじゃなかったねっ!」

 メヤの説明の内容はこんな感じだった。


 弱い魔物だけに、絶滅の危機や逃げ延びる能力に長けてたようだ。

 なら何故ノトリの街では、名物と言われるまでに出回っているのだろう?

 なんて疑問も湧いたが、その訳もメヤが教えてくれた。


「ん、単純にあそこは水深が浅い。だから泳げない。湖の一部を囲っておけばそこで増える。多分それで養殖みたいな事してる」

 との、事だった。

 今までの説明を聞いていれば確かに納得できる。


「いや~、かなりいい情報を聞いたよ。ささ、飲み物も飲む? 話過ぎて喉乾いたでしょ? これはキューちゃんから採れた、甘くて美味しいジュースなんだ」

 更なるお礼に、枕を抱いたままのメヤにキュージュースを渡す。
 これはノトリの街の屋台で買ってきたものだ。


「ん、またカラフル。虹みたい…… でも美味しい」 
「でしょ? それにミルクとか入れたらもっと美味しいよね。冬は温めても良いだろうし」

 どうやら今度も満足してもらったみたいだ。
 表情が分かりずらいけど、ちょっとだけ笑顔に見える。気がする。


「ん、それじゃ、メヤはこれで帰る。お昼寝もあるし、お仕事もあるから」
「そう? 結構忙しそうなんだね。どうせなら、もう少し話を聞きたかったけど」

 キュージュースも飲み終わり、帰る素振りのメヤにそう声を掛ける。

「ん、ありがと。そしてご馳走さま。でもまた会えると思う」
「うん、そうだね。また会えるかもね。それじゃ元気でね。色々ありがとうっ!」
「ん、それじゃまたね」

 そう挨拶を交わして、謎の少女、
 メヤは森の中に消えて行った。
 

『う~ん、結局何者かはわからなかったなぁ……』

 けれど悪い人間ではないって事はわかった。

 あれだけの情報を持っていたのだから、きっとキューちゃん好きに違いない。
 だったら尚更悪人なわけはない。


 『それと、一番いい情報も教えてくれたしねっ!』


「あ、スミカお姉ちゃんっ! あの花がそうなの?」
「お姉さまっ! どんどん増えていきますよっ!」
「うわ~、本当に色んな色の花が咲くんだなっ!」
「おうっ! わしも久し振りに見たのじゃっ! きれいじゃなっ!」
「って、スミ姉っ! 本当に100匹連れてきたのねっ!」

 みんなが湖面を見て騒ぎ出す理由、それは、

『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』
『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』

 色取りどりの花を湖面に咲かせたキューちゃんたちが戻ってきたからだ。


「うわ~っ! 本当に帰ってきた~っ!」

 私もそれを見て、嬉しさのあまり両手を上げて絶叫する。


 何の事はない。

 キューちゃんたちは、もちろん、ここの主に食べられたわけではなくて、私たちが森を無理やり突っ切ってきた物音に驚いて、水の中に逃げて行っただけだった。
 それが落ち着いて、また水面に姿を現したって事だった。


『いや~、みんな戻って来て嬉しいよっ! あのメヤって女の子には感謝だよっ! 次に会ったらまたお礼を言いたいねっ!』

 さっきまでここにいた、無表情の不思議少女を思い出して、心の中で感謝する。
 あの子のお陰で、みんなにもキューちゃんに会わせる事ができた。


『ん~、ただちょっと気になる事があるんだよね。 私、あの子に名前教えてないよね?』

 メヤの去り際の挨拶を思い出して、不思議に思った。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

処理中です...