剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
380 / 586
SS バタフライシスターズの慰安旅行

絶望する蝶の英雄

しおりを挟む



『いっそげ~っ! 最速でっ! 最短でっ! 真っすぐにっ! 一直線にっ!』

 私はスキルを操作し、ウトヤの森の中に突っ込む。まるで巨大な弾丸の様に。
 森の木々や細い枝にぶつかり、辺り一面に派手に散らすが、今はそんな事を気にしてられない。


「ちょ、ちょ、ちょ、スミ姉っ! 一体どうしたのよっ!」

 透明壁スキルの内部が揺れる中、ユーアとハラミに掴まっているラブナが叫ぶ。

「どうしたも何も、あの子たちが危ないんだよっ!」
「はぁっ!? あの子たちってなによっ!」
「せっかくみんなにも会わせようと思ってたのに―――― あ、湖が見えたっ!」


 森の中を突っ切る事数十秒。
 視界がパッと開けて、青い空とそれよりも濃い、湖の水面が視界一面に広がる。


「よし、着いたっ!」

 スタッ

 みんなが乗った透明壁スキルを湖の少し手前に止める。
 そして一人飛び降り、一目散に湖畔に駆け寄る。

 そして、

「ねぇ~、みんなぁ~っ! 約束通りに私が来たよっ!」

 広大なウトヤの湖に向かって、手を頬に当て大声で叫ぶ。

 し~~~~~~ん

「ねぇ~、怖くないから出てきて~っ! もう大丈夫だからね~っ!」

 し~~~~~~ん

「わ、私の仲間も連れてきたんだよぉ~っ!」

 し~~~~~~ん

「あ、あんなにいたのに、みんな一体どこへ…………」

 湖を見渡して小さく呟く。

 つい先日まではここにいたはずなのに、今は水面が緩やかに揺れるだけ。
 所々に広がっていた、色とりどりの花の姿が見えない。


「や、やっぱりみんな、ゴナタが言ってた、この湖のぬしの魔物に――――」

 ガクンッ

 私はショックのあまり膝から倒れ両手をつく。

「ううっ……」

 もっと事前に調べていたらこんな事にはならなかった。
 恐らくゴナタが言っていた、この湖の主の餌食になったのかもしれない。

 だって、あんなにいたみんなが、全員いなくなるなんて……


 トテテッ

「スミカお姉ちゃんっ! 突然どうしたのっ!」

 膝を付き、放心状態の私の傍らにユーアがやって来る。

「スミ姉っ! あの子ってどこ?」
「お姉さま? 一体どうしたというのですか?」
「お姉ぇっ!」
「ねぇね……」

 そして、ユーアに続き、みんなも私の周りに駆け付ける。


「あ、あのさ私、みんなにも会わせたくて連れてきたんだよ。でも、みんないなくなっちゃった。きっと食べられちゃったんだ……」

 俯きながら、ポツリとその理由を話す。

「え? 食べられたっ!? それがさっき言ってたあの子なのっ!」

 ラブナがその話を聞いて驚愕する。

「うん、だってたくさん連れてきたもん。でも今はいないんだもん……」
「連れてきたって、一体誰の事よ?」
「え? それはもちろん、キューちゃんたちだよ」

 顔を上げてラブナの質問に答える。

「キューちゃん? それってどこの子なの? そもそも人間なの?」
「違うよ。キュートードのキューちゃんだよ。ラブナもこの前会ったでしょ? 私、シクロ湿原から連れてきたんだ。みんなに見せたくてさ……」

 しずかに波打つ湖に視線を移す。
 昨日はキューちゃんの花があんなに咲いていたというのに。


「はぁっ!? って、理由はわかったけど、みんなってどれくらいなのよ?」 
「100匹」
「ひゃ、100匹っ!?」

 その数を聞いて、更に驚くラブナ。
 マジマジと私の顔を見ている。


「あ、あのぉ、そのキューちゃんって誰なの? スミカお姉ちゃん」

 おずおずといった様子で、ユーアが話に加わる。
 
「う、うん、あのね、ユーア。キューちゃんはね――――」
「ユーア、キューちゃんはただのカエルの魔物よ。ただスミ姉が異常に執着してるけど。それとかなり美味しいわよ、色んな料理があってねっ!」
 
 なぜかラブナがユーアに指を立てて説明する。 
 しかもそんな食材だけな言い方って……

『う~ん……』

 もっとキューちゃんの魅力を伝える言い方ってあるよね。
 私だったら余すことなく、その可愛さを伝えられる。

 それでも、まぁ、絶品なのは認めるけど……


「美味しいの?」
「へ?」
「キューちゃんって、美味しいの? スミカお姉ちゃん」
「………………うん」

 ほら。
 ラブナがそこを強調するから、ユーアが食いついちゃったよ。
 ユーアもみんなも少しだけど食べた事あるけど。


『それにしても、みんな食べられちゃうなんて…… こんな事になるんだったら連れて来なければ良かったよ……あっちで幸せに生きてて欲しかったよ。 ごめんね、キューちゃんたち……』

 私はあの愛らしい姿を思い出して、心の中で懺悔する。
 鳴き声も仕草もあんなに可愛かった、たくさんのあの子たちに謝る。

 私のせいで、儚くて小さなたくさんの命を散らせてしまった事に。


『はぁ…………』

 あの日。
 みんなが食材集めに行く事になったあの日。

 みんなより先に出かけ、キューちゃんのいるシクロ湿原ではなく、先にノトリの街に直行した。
 その理由は、街のみんなにキューちゃんたちの生態を教えてもらう為だ。

 シクロ湿原だけしか生息出来ないかとか。
 他の水辺でも大丈夫かとか。
 気候の変化とか水質はどうとか。
 何を主食にしているのだとか。
 勝手に連れて行っていいのかとか。
 繁殖に気を付ける点はどこかとか。

 私はキューちゃんを連れてくるにあたって、色々と情報を仕入れたのだ。
 あしばり帰る亭の料理長や、お土産をもらった街の人たちに聞いて。

 
『うう、透明壁スキルに入れて、せっかく慎重に連れてきたのに。みんなにも見て欲しくて頑張ったのに…… なのにこんな結末なんて、異世界は残酷だよぉ~』


 もちろん、外敵の事は頭にあった。
 どう見ても、あの愛らしいキューちゃんたちに身を守る術はないからと。

 なので、ここの湖の一部を透明壁スキルで覆い、その中にいてもらっていた。

 ただし、水中深くまではスキルで覆ってはいなかった。
 キューちゃんだって水の中で遊ぶだろうし、窮屈な思いをさせたくなかったから。


『きっと、それが裏目に出たんだね。もっと過保護になってたらこんな事にはならなかった。いくら繁殖能力が高いって言っても、一匹残らずいなくなったら、もうダメだよね……』

 顔を上げて、ウトヤの広大な湖の水面に視線を移す。
 太陽の光が反射して、キラキラと輝いていた。

 本当だったらそこに、色鮮やかな花が咲いていたはずだ。
 可愛いキューちゃんたちがみんなで合唱をしながら、さも楽しそう。


『みんなに紹介したくて、私は一日走り回ったって言うのに…… はぁ~』

 私は人知れず、自分の迂闊さと愚かさを呪った。
 あんなに小さくて、か弱い生き物を守れなかった事に。


 そんなこんなで初めてのキャンプは、私にとって最悪な初日を迎えたのだった。


 そう思っていたんだけど――――

 ザザッ

「ん? こんなところに人間がいる。珍しい」
「え?」

 ただしそれは、森の中から現れた、一人の少女によって救われる事になる。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...