378 / 586
SS バタフライシスターズの慰安旅行
出発
しおりを挟む私とユーアは目覚め始めた街の中を手を繋ぎ、談笑しながら歩く。
一般地区では朝食を作る少しの喧騒と、その香ばしい匂いが微かに漂ってくる。
商店街に入ると、お店の人たちが仕込みや開店準備で忙しなく動いている。
もう少しで、この街も本格的に動き出す時間帯だ。
「もうみんな来てるかな? お天気大丈夫かな? あと何を持って来たのかな?」
私と手を繋ぐ隣のユーアは、レストエリアを出てからずっとこの調子だ。
ニコニコと笑顔のまま、落ち尽きない様子で何度も話しかけてくる。
「まだ時間的には少し早いから大丈夫だよ。天気は予報士じゃないから私にはわからないな。あと、何を持って来たのかは、お昼の時間まで楽しみに取っておこうよ」
そわそわしているユーアを撫でながら答える。
随分と今日のキャンプを楽しみにしているようだ。
「う、うん、そうだよね。スミカお姉ちゃんでもお天気はわかりませんよね?」
青い空を見上げるユーア。
「まぁ、そうだね。でも予想する事はできるよ。もの凄くアナログな予報だけど」
「あなろぐ?」
「あ、うんとね、あまり根拠のない古い考え方みたいな事」
「うん? それってどんな事ですか? それでお天気わかるの?」
コテンと小首を傾げながら私に視線を移すユーア。
「あ~、例えばネコが顔を洗うと雨が降るって言うよね? それとクモの巣に朝露が残ってると、その日は晴れの可能性があるとか」
何となしに、昔覚えてた知識を披露してみる。
子供の頃に母親に聞いたのを思い出しながら。
「え? そうなんですかっ!? なんで?」
「うん、ネコの場合は、雨みたいな湿気が多いと、毛並みが乱れるから毛繕いするみたい。クモは水蒸気が冷やされて水に変わって、水滴がクモの巣にかかると―――― あ、もうみんな来てるね。それじゃ、急ごうか」
「え? あっ! うんっ!」
ここまで歩きながら話してるうちに、コムケを守る門が見えてきた。
そして、その詰所の脇にはシスターズのみんなの姿を見つける事が出来た。
どうやら一番遅いのは私とユーアとハラミだったようだ。
――――
「おはよぉ~、みんな。なんだ私たちが最後だったんだね」
笑顔で手を振って迎え入れてくれたみんなに挨拶する。
「おはようございますっ! お姉さまとユーアちゃんっ!」
「おはようなっ!」
「ユーア、おはっ!」
「あれ? 何かみんな随分とお洒落してきたんだね、見違えたよっ!」
ナゴタとゴナタ、そしてラブナの服装を見る。
いつもの装備ではなく、3人とも華やかな色合いの衣装に身を包んでいた。
しかも3人ともスカートが短く、白く肉感的な生足を惜しげもなく曝け出している。
「へ~、ナゴタは腕を出して涼しそうだね。袖のフリルも上品に見えても可愛いし、スカートも色合いが今の時期にぴったりだねっ!」
ノースリーブの為に、更に強調されたGランクに触れないように褒める。
「あ、あ、ありがとうございますっ! 着た甲斐がありましたっ! うふふ」
「お、お姉ぇっ! ワタシは?」
喜ぶナゴタの横では、ゴナタが自分を指差し聞いてくる。
「うん? ゴナタもスカートなんだね。いつもの活発なイメージから一気にエロ…… じゃなくて、桃色の上着も腕を出して涼しそうだねっ! その色も似合って――――」
「ス、スミ姉っ! アタシは?…………」
「あ、こら、ラブナっ! ワタシがまだっ!」
今度はゴナタの感想を言い終わる前に、ラブナがズイと前に出てくる。
気のせいか、ちょっとだけ頬が赤いけど。
そんなラブナは、白のワンピースで、胸元と腰の紐の赤色が印象的だった。
「おお~っ! いつもの真っ赤なイメージから、白く清楚なお嬢様に見えるよ。胸のリボンと腰の紐がアクセントになってて、余計に白が映えていい感じだねっ!」
「あ、ありがと…… ま、まぁ、アタシは何でも似合うから褒められても嬉しくないんだけどねっ! 一応喜んでおくけどさっ!」
そう返事して、フイと私と視線を外すラブナ。
ってか、人に聞いておいてなんでそっぽ向いてんの?
まぁ、照れてるのはわかるんだけど。元々ツンデレキャラだし。
「で、なんで、ナジメはワナイに頭下げてるの?」
何故かナゴタたちから離れて、詰所の入り口でペコペコ頭を下げている幼女を見る。
ワナイもそんなナジメに恐縮している様子で、反射的に頭を下げている。
まるで水飲み鳥みたいだ。
「う~ん、なんだかさっき聞こえた会話だと、屋根の上がどうとか言ってたなぁ」
ゴナタがナジメ達を見ながら、そう教えてくれる。
「屋根?」
「うん、屋根の上に登ったとかそんな感じだったなぁ?」
「ふ、ふ~ん……」
『屋根の上』と『ワナイ』
だったら、きっとあれで説教されてるんだよね?
『もうっ、領主が朝から何やってるんだろう。私みたいに急いでたのかな? それにしても、その格好は異世界でもまた奇抜な格好だね』
お互いにピョコピョコと頭を下げているナジメの方を見る。
その格好は小学校の入園式に着るような、白のワンピに肩から掛ける紺色のプリーツスカートを履いていた。そして黄色のメトロ帽子もセットだった。
その姿はまんま小学生だった。
※※
「じゃ、みんな揃ったね。忘れ物とかない? もう明日まで帰って来ないよ」
街を出た所で振り返り、みんなに確認する。
特にナジメの方を見ながら聞いてみる。
「わ、わしは大丈夫じゃっ! 食材は現地で採るし、着替えはマジックポーチに入っているのじゃっ! だからわしばかりに注目しないで欲しいのじゃっ!」
パタパタと手を振り、必死に弁明するナジメ。
よく見たら私以外にもみんながナジメを見ていた。
何だかんだ言って、この見た目幼女の事が気になるんだろう。
いい意味でも、悪い意味でも。
「そう、そこまで言うなら大丈夫だね。で、他のみんなは?」
「はいっ! ボクは大丈夫ですっ!」
『わうっ!』
「アタシも問題ないわっ!」
「私も家を出る前に確認したので大丈夫です」
「ワタシはナゴ姉ちゃんに見てもらったから大丈夫だなっ!」
ユーアに続いて、他のみんなも手を挙げて答える。
ナジメの様に、オドオドした様子ではなかった。
まぁ、何かあってもアイテムボックスで事足りるけどね。
「よしっ! それじゃ、初めてのピクニックにしゅっぱーつっ!」
北西を指さし、声高らかに宣言する。
これから向かうであろう、ウトヤの森を。
この世界に来て、初めてのレクリエーションを行う為に。
そして、
リアルでは一度も経験しなかった、仲間との楽しい時間を過ごす為に。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる