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SS バタフライシスターズの慰安旅行

キャンプ当日。それぞれの朝

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 ゆさゆさ、ゆさゆさ、

「もぅ~、スミカお姉ちゃん起きて下さいっ! 早くお風呂入らないと、みんな先に来ちゃうよっ! ハラミも待ってるよっ!」

 大きく体が揺さぶられる感覚と、耳元で聞こえる声で、意識が覚醒……

「うん? むにゃむにゃ…… おやすみ~……」

 する事はなかった。
 逆に、程よい揺れと、聞きなれた心地いい声で意識が沈んでいく。


「ねぇ、起きてっ! スミカお姉ちゃんっ!」

「んん~、お日様がもう一度昇ったら起こして…… 昨日遠出したから疲れたんだよ。あと、私の分までお風呂入ってきて…… むにゃむにゃ……」  

「んもうっ! もう一度お日様昇ったら、明日になっちゃうよぉ~っ! それとスミカお姉ちゃんの分までお風呂ってどうやるのっ! ハラミ、もうお願いっ!」

『がうっ!』 ペロペロ

「うきゃっ!? な、何か生温い物が顔をっ! って、舐めるのは反則だよっ!」

 ガバッと飛び起き、濡れた頬をパジャマの袖で拭き上げ、文句を言う。

「反則じゃないもんっ! ハラミだって起こすの手伝ってくれたんだもんっ! それよりも早く準備しようよぉ~!」

「もう、わかったよ。お陰ですっかり目が覚めたから。それじゃ、一緒にお風呂して、先に行ってみんなを待ってようか? まだ時間あるし」

「うんっ!」

 朝から一段と元気なユーアを宥めてお風呂に向かう。


「それじゃ、バンザイして?」
「うんっ!」

 両腕を上げたユーアの服を、いつもの様にスポっと脱がす。
 私も脱いで裸になり、お風呂場に入る。

「頭から洗うね? 目は気を付けてね」
「うんっ! お願いしますっ!」


 そんなユーアがご機嫌なのは、もちろん――――


 ジャ―― ワシャワシャ

「ユーアとハラミは、何の食材を用意したの?」
「え? それは秘密です。でもハラミが探してくれたんだっ!」
「ハラミが? そうなんだ。なら楽しみにしてるね、今日のキャンプのご飯は」
「うんっ!」


 ――――もちろん今日が、慰労会を含めてのキャンプの当日だからだ。



 そんな私たちは何日かぶりに、自分たちのレストエリアに帰ってきた。
 なので、今朝はユーアと二人きり。あ、ハラミもいるね。

 ナゴタとゴナタもラブナも、昨夜は自分たちのレストエリアに。
 ナジメも一人で屋敷に帰って行った。


 やっぱりこういったイベント事は、待ち合わせをして合流したいじゃない。
 新鮮とまではいかないけど、待ち合わせも楽しみだったりするし。

 特に友人と待ち合わせをした記憶が無い元ヒッキーな私からしたら、これでも一大イベントだ。ユーアじゃなくても、多少は心が躍る。

 なにせ私だって、この日の為に頑張って準備したんだから。


「それじゃ、行こっか?」

 レストエリアを出て、いつもより2倍増しの笑顔のユーアに手を伸ばす。

「うんっ!」

 元気に返事をして、ギュッと私の手を取り一緒に歩き出す。


 そうして私たちは、シスターズとの待ち合わせ場所に向かった。
 このコムケの街を守る門の前に。


「今日もいい天気だね。これなら雨の心配はないかな?」
「うん、暖かくなりそうですねっ!」
『がうっ!』

 今日も雲一つない、遠くまで青い空が良く見える快晴だ。
 これなら絶好のキャンプ日和だ。




 

「な、なぁ、やっぱり変じゃないかな? ナゴ姉ちゃん……」
「大丈夫よ、ゴナちゃん。凄く似合ってるから」

 少し俯き、両手を胸の前で合わせて、指を絡めるゴナタに告げる。

「ア、アタシはどうかしら、ナゴ師匠…… おかしくない?」
「ラブナもイメージが変わって素敵よ。赤もいいけど、それも合ってるわ」

 スカートの裾を軽く持ち、クルと回って頬を染めるラブナ。


 そんな二人は今日の為に降ろした、新しい衣装に身を包んでいた。


「そ、そうかなぁ? お姉ぇも褒めてくれるかなぁ?」
「うん、きっとお姉さまも褒めてくれるわ」

 ゴナタはいつもの赤のホットパンツではなく、色は一緒だけど、フリルの付いた膝上のスカートを履いている。上半身は今の陽気に相応しい、桃色の麻の上着で、肩を派手に露出したタイプだった。


「ア、アタシもユーアやスミ姉が、褒めてくれるわよねっ?」
「もちろん、お姉さまもユーアちゃんも、喜んでくれるわ」

 ゴナタの後に続いてラブナも、頬を染めながらもじもじしている。

 そんなラブナの今日の服装は、いつもの真っ赤なローブではなく真っ白なワンピースだった。これもお姉さまの様にフリルがあしらえてあり、胸元の小さなリボンと腰の紐は赤色のものだった。


「でもナゴ姉ちゃんもきれいだなっ! お姉ぇも喜んでくれるよっ!」
「そうねっ! ナゴ師匠もいつもと違うから、スミ姉も驚くわっ!」

 先ほどの自信なさげな、しおらしい態度が一変して、今度はこちらに注目する二人。
 どうやら私に太鼓判を押されて、心に余裕が出来たらしい。


「え? そ、そうね、お姉さまは普段から、私たちをきちんと見てくれるから、きっと褒めてくれると思うわ。ユーアちゃんも絶対にね」

 先ほどの二人の緊張が移ったのか、無意識に上擦った声で返答してしまう。


「うん、ナゴ姉ちゃんもいつもと全然違うからなっ!」
「ゴナ師匠も、ナゴ師匠も、もう冒険者に見えないわよっ!」

「うん、ありがとうね、二人とも」

 今日の私の衣装は、いつもの薄青いドレスではなく、初めて履いた、薄青で丈の短いフリルスカートと、上は真っ白なノースリーブ。

 確かに二人の言う通りに違うと言えば違う。
 ただ見た目よりも、足元も肩も生地が短すぎて、そっちの方が落ち着かない。 


「それでは、お姉さまたちとの待ち合わせ場所に行きましょう。二人とも準備は大丈夫よね?」

「うん、ワタシは大丈夫だっ!」
「アタシは…… あ、靴だけいつものだったわっ! 新しいの出さないと」
「ふふ」

 そうしてドタバタしながらも、私たちはお姉さまより借り受けた家を出て、コムケの街の門を目指して歩いていく。


『こういった無駄な事も何だか新鮮に映るわね。本当に不思議で唯一無二の方です。あの方は――――』


 横目に、これから会う予定のお姉さまとユーアちゃんの住む家を見ながら、待ち合わせに向かって頬を緩めながら歩いていく。





「ナジメ、随分と早く出かけるのだな? あ、今日はスミカちゃんたちと出掛ける日か」

 エントランスにて、外に続く扉に手を掛けた瞬間、後ろ姿に声を掛けられる。

「うむ。また泊めてもらってすまぬのぉ、ロアジムよ。そうじゃ、これからシスターズたちとウトヤの森に『きゃんぷ』とやらに行くのじゃ。要は骨休みみたいなものじゃな」

 振り返り、何かの書類を手にしているロアジムに答える。
 そんなロアジムは、朝早いと言いながら身なりはキチンとしている。
 
 この様子だと、太陽が昇り切る前から仕事を始めてたらしい。
 一昨日に、ねぇねに会うために時間を作ったからその影響だろう。


「く~っ! ワシも忙しくなかったら付いていったというのになっ! もうっ!」

 物欲しそうな顔で、歳に合わない駄々をこねるロアジム。

「さすがにそれは、ねぇねたちも嫌がると思うのじゃ。今回は水入らずっておもむきじゃったからのぉ。孤児院の子供たちもスラム組も誘わなかったのじゃから」

「ん? なんだ、ナジメ。こんな早朝から出かけるのか」

 皮の胸当ての軽装に身を包んだアマジが通りかかる。

 その格好から、朝の鍛錬をしに行くつもりだろう。
 後ろにはバサもいる事から。


 それよりも気になる事が……


「むぅ、珍しいのぉ。アマジがわしに声を掛けるなぞ。お前はわしを嫌いじゃなかったか?」

「確かにそうだ。俺はお前を好いてはいない。今でもそれは変わらない。だが、スミカたちと出掛けると聞いて声を掛けただけだ。あいつとユーアにはゴマチが世話になってるからな。そのメンバーのお前をいつまでも無下には出来まい」

 腕を組み、淡々とその理由を話すアマジ。
 その表情はいつもの仏頂面で、その内面までは読み取れない。

 けど、

「……そうか、どうやらアマジも、ねぇねの影響を受けておるのじゃな。口ではそう言っておるが、昔と比べて目が違うのじゃ。ギュッと力が入ってないのじゃ」

 アマジを知らないものからしたら気付かない、些細な違いを指摘する。

「む、そうなのか? 幼馴染のエーイにも似たような事を言われたが…… うむ」
「でもわしの事は嫌っていても構わぬぞ? その理由も重々承知しておるからな」 

 わしの指摘で悩み始めたアマジにそう付け足す。

「そうか…… でも今思えば、これは俺の八つ当たりみたいなものだ。だからお前が気に病む必要はない。それよりも、そろそろ向かった方がいいのではないのか? ナジメよ」

「わっ! そうじゃな、わしが一番遠いからもう出ねばじゃっ! それじゃ世話になったのじゃ、ロアジムとアマジよ。ゴマチにも伝えてくれなのじゃっ!」

「おうっ! ナジメもシスターズたちによろしくなっ!」
「ああ、ゴマチにも伝えておこう」

「うむっ! ではなっ!」

 早朝から見送ってくれた、親子に手を挙げ外に駆けだす。
 今日も青く澄んだ空が広がり、これは絶好のきゃんぷ日和だろう。


 スタタタタ――――

 その青空の元、わしは待ち合わせ場所に駆けながら頬が緩んでしまう。
 さっきの親子との会話を思い出して。

「やっぱりねぇねは凄いのじゃっ! ロアジムを夢中にさせただけではなく、わしと長年仲違いしているアマジをも変えてしまうとはっ! わしは長年生きているが、あんな人間は初めてなのじゃっ!」

 ぴょんっ!

 わしは土魔法で足場を作り、建屋の屋根に出てその上を駆けて行く。
 まるで憧れのねぇねのように。

「この歳でこんなに毎日が楽しく感じるのは何十年振りじゃろっ! わしももっとねぇねと一緒にいたいのじゃっ! もっとねぇねを知りたいのじゃっ!」

 わしは一人、喜悦を上げながら、みんなの待つ場所まで最短距離で進んでいった。


 今日も楽しい一日の始まりじゃ。


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