剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

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SS バタフライシスターズの慰安旅行

シスターズの食材集め

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「うむ。さすがわしじゃ。これなら荷馬車も子供たちも通りやすくなったじゃろう。後は孤児院内の整地も出来そうじゃな。お~い、皆の者。そろそろ休憩にするのじゃ~っ!」

 わし自身で舗装した、街までの道を眺めてその成果に満足する。
 そして次の作業に入る前に、門の施工に取り掛かる作業員に声を掛ける。

 ねぇねも適度に休憩を取れと言っておったから。


「了解っす、ナジメさまっ! って…… こ、これナジメさまお一人で、全部なさったんすかっ!?」
「そうじゃよ? どうじゃ、凄いじゃろ?」

 通りに出ている、わしの隣に並び、その出来栄えに感嘆する作業員。
 その視線の先には、黒光りした真っ平な道が続いている。

「うわ~、本当に凄いっすねぇ~ でも――――」
「ふふんっ!」

 わしはその作業員の驚く顔を、下から見上げて鼻を鳴らす。

 そうじゃろ、そうじゃろ、わしだって会心の出来じゃと思っとるからのぉ。
 何せ、鉄の硬度以上の『土鉄壁』の魔法で施工したからなぁ。
 大盤振る舞いじゃ。


「いや~、この短時間で凄いっすけど、こんなにツルツルな表面だったら、雨や雪降ったら滑るっすよ?」
「む?」
「それとある程度左右に傾斜を付けないと、雨水がけないっすね」
「え?」
「後は、色的に、夏になれば熱を吸収して、熱した鉄板みたくなりますよ? 黒ですと」
「んなっ!?」
「あ、それはこれから調整する感じだったんすかね? ナジメさまの事ですから」
「う、うむ。そうじゃよ? そんなの当り前じゃ。じゃからお主らは先に休憩するのじゃ」 
「はい、それじゃお先に失礼するっすっ!」
「………………」

 そう言って作業員は戻って行った。
 わしが魔法で建てた、屋根付きの小さな休憩所へ。


「う、むぅ。まだまだ職人の道は険しいのぉ。これでねぇねにお願いされた、仕事に間に合うじゃろうか? いや、わしはこれでもこの大陸一の土魔法使いじゃと自負しておるのじゃっ! じゃから余裕なのじゃ~っ!」

 わしは腕まくりをし、子供たち、そして喜ぶねぇねを思い浮かべて作業を開始した。



――――


「ハラミっ! 今だよっ!」
『がうっ!』

 ザシュッ

 スタンボウガンで痺れさせた大きな蛇の魔物を、ボクを背に乗せたままのハラミが、その首に噛みついて止めを刺してくれました。


「うわ~、びっくりした~。あんな大きな蛇もいるんだね。本当にハラミと来て良かったよぉ。ボクだけだったら、一口で食べられちゃってたもん。ありがとうね、ハラミっ!」
『わうっ!』

 お礼に魔物を倒してくれた、ハラミの頭を撫でます。
 するとちょっとだけ頭を上げて一声鳴きました。いつものように気持ちよさそうです。
 尻尾もボクの後ろで、ブンブン振っています。


「それじゃ、もうちょっと奥に入ってみようか? よろしくね、ハラミ」 
『わふっ~!』

 死んじゃった魔物を、ハラミが魔法で仕舞ってくれました。
 ボクのアイテムポーチには大き過ぎたからです。

 そうしてボクとハラミは、ウトヤの森を探索します。
 ちょっと薄暗くてジメジメしたところだけど、美味しい食べ物があるから。


「その食材って、ハラミは匂いでわかるの?」
『わうっ!』
「ならボクは、悪い魔物がいたら教えるね、だから気を付けて行こうねっ!」
『がう』
「うん、お願いね、それじゃしゅっぱ~つっ!」
『わう~っ!』

 ハラミとお話して、更に暗い森の中に入っていきます。

 それは明日の『きゃんぷ』に持って行く食材を探しに。
 そして喜んでくれる、みんなとスミカお姉ちゃんの笑顔を見たくて。


――――


「ワナイさん、それでは門の警護、頑張ってください」
「アタシたちはビワの森に行ってくるなっ!」
「どうも、ワナイさんっ!」

「おう、ありがとうな、そっちもどこ行くか知らないけど頑張ってこいっ! 今日はシスターズは別行動なんだな。スミカは早朝に独りで、ユーアはハラミとさっき出掛けて行ったぞ」

 明日の食材確保の為に、私たちも街を出る。
 その際、コムケの街の門を守るワナイさんに声を掛けながら。


「はい、お姉さまも、ユーアちゃんたちも目的は一緒です。明日はお姉さまが企画してくれた、慰労会を開催するので、その食材集めなんです」
「うん、アタシたちもお姉ぇに負けないぐらいの、美味しいのを採ってくるんだっ!」

「ほう、それは興味あるな。スミカやお前たち高ランクが何を集めてくるのかが」

「ただ、時間が無いから遠出も出来ないし、近くのビワの森になっちゃうのよっ! 本当はゆっくり冒険しながら美味しいのを見付けたかったんだけどねっ!」

「ははは、でもラブナはこの前スミカと出掛けたじゃないか。あれも冒険だろう?」

「うん、そうなんだけど、でも遠くの街につくのも一瞬で、帰りも速攻で帰ってきたわ。スミ姉が異常だから仕方ないかもしれないけど、だから楽しむ余裕はなかっ…… って痛いわっ! ナゴ師匠っ!」

 私は調子に乗り始めたラブナの頭に拳骨を落とす。
 その痛みに、顔をしかめながら振り向く。

「こら、ラブナ。ワナイさんと親交を深めるのはいいけど、お姉さまの評判を落とす事や、貶める事を言ってはダメよ? お姉さまはこの街の英雄さまなんだから」

「え?」

 そう涙目のラブナに注意をする。

 この子は本気で言っていない事は、私もゴナタもわかっている。
 その性格ゆえに、言い方が過激なのも理解している。

 それでも、ラブナの性質を知らないものが聞けば、
 お姉さまに迷惑が掛かるかもだから。


「ゴ、ゴメンなさい、ナゴ師匠。そうよね、アタシたちのリーダーだもんね。それを悪く言ったら、アタシたちだって同じ目で見られるものね。今後は気を付けるわっ! だから今のは無しよ、ワナイさん」

「ああ、わかってるぞ。俺はこの街を救ったスミカやシスターズの味方だからな。だから何も吹聴しないし、ここでの話も秘密にしておくぞ。それじゃ、そろそろ行ってこいっ!」

 そうして、私たち一人一人の背中を叩いて、笑顔で送り出してくれた。
 ラブナも言い訳も、その意味もわかってくれて。


「はい、それじゃ行ってきますっ!」

 なので、私も笑顔で返事を返します。
 この人も、この街も良いところだなと、今更ながらに気付いては。


『お姉さまに会うまでは、こんな些細な事で、嬉しくも楽しくも感じなかったわ。お姉さまが私たち姉妹を過去の過ちから解放してくれたからこそ、色んな事が鮮やかに見えるし色々と感じ取れる。だから少しでもお姉さまに恩返しを――――』

 隣に歩く、妹のゴナタを見る。
 そんなゴナタも、お姉さまに会ってからは変わった。

「ん? なんだい。ナゴ姉ちゃん?」

 いや、変わったのではなく、のだろう。

 だって――――

 
「ううん、何でもないわ。それよりも良い食材探しましょうね」
「そうだなっ! この山にもあればいいなっ! あの食材っ!」

 そう答えて、ブンブンと腕を振りながら無邪気な笑顔で答えるゴナタ。

『うふふ』

 私はその笑顔を見て、思い出す。


 だってその笑顔は、駆け出しの冒険者だった頃の、

 あの時と同じ笑顔だったから。






「ふぅ~、さすがに疲れたね。でも予定より1時間は早く着いたからいいか」

 ドリンクレーション(ソーダ味)を咥えながら疲労を癒す。
 普通に走ればそうでもなかったけど、今はそれを言っても仕方ない。

 私にはどうしても、抑えきれない衝動があったのだから。


「でも急がば回れって、あれは嘘だね。急ぎたい時ほど無駄をなくして直線距離で来た方が早いもん。まぁ、森や山を飛び越えられたらの話だけど」

 なんて、ことわざにもの申しながら、これから行く場所を見渡す。


「え~と、先ずは詳しい人を見付けて話を聞いてからだねっ!」

 私はある人物を思い浮かべて、足取り軽く歩いていった。

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