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第10蝶 初デートは護衛依頼
SS蝶の英雄の訓練 その2
しおりを挟む「一体何だっていうの。お腹は大きいし、みんなは疑うし。ん、おはよ~、ラブナ」
台所から食堂へと移動し、一人椅子に座るラブナに手を振る。
子供たちは隣のリビングで何やら騒いでいて、ここには誰もいなかった。
「ぐみげぇ~っ! もごもご~っ!」
「ん? 朝から何かの物真似? それよりもナゴタたちは? ユーアもいないけど。あ、ナジメは昨夜は晩ご飯食べて帰ったんだっけ」
不思議な言語で話すラブナに首を傾げながら、ナジメ以外の居場所を聞く。
「ん"ん"ん"~っ!」
「お、お姉さま、おはようございます…… うううっ」
「お姉ぇ、お、おはよぉ、むぐぐ……」
ラブナがもごもごしていると、ちょうど姉妹の二人が入ってくる。
何やら辛そうに見える。
「ナゴタとゴナタもどうした…… あれ? ナゴタとゴナタだよねっ!?」
苦しそうな表情もそうだが、二人のある部分に違和感を感じて聞き返す。
「は、はいそうです。私たち朝起きたら、こんな事に……」
「うううっ…… キツイよぉ」
そんな二人は体を抱いて、少しだけ辛そうに見える。
って、それよりも――――
「な、なんで二人は真っ平になってるのっ! 胸はどこいったのっ!?」
二人の変貌した姿を見て、我を忘れて大声を上げる。
「ううう、締め付けが苦しいです…… 胸は大丈夫です」
「うう、胸がキツイぞ」
そんな姉妹の二人は、アイデンティティである、Gランクの凹凸が無くなっていた。
そして今は寸胴な体型になっている。
その姿はまるでコケシみたいだ。
『こ、これって………… もしかして?』
次に、椅子に座って唸り声を上げるラブナを見る。
「ん"ん"ん"っ!」
何かを訴える様に、必死に自分の口元を指さしている。
ただし、その口元は動いてはいたが、口は開いてはいなかった。
『…………』
ラブナの口元を見ながら、スキルを解除する要領で操作する。
「っ!? ぷはぁ~、ぷはぁ~、や、やっと喋れたわっ!」
何度も息継ぎをして、涙目で復帰するラブナ。
どうやらこれで話せるようになったみたいだ。
『…………』
次にナゴタとゴナタの順に解除する。
「あっ! 急に楽になりましたっ!」
「ほ、本当だっ! 大きいのも嫌だけど、キツイいのも嫌だったなっ!」
解除された姉妹の二人は、ムギュと両手で持ち上げて、安堵している様子。
『う~ん…………』
何の事はない。
3人とも透明壁スキルでいたずらされていただけだ。
ラブナは口を覆われ、余計な事を話せなくして。
姉妹は矯正下着の様に胸を抑え付けられて平らにされていた。
ただ問題はそこじゃない。
誰がやった? のかでもない。
だって、解除できたんだから首謀者は私なんだもん。
一番の問題は「いつ?」それと「なぜ?」だろう。
そこを解決しないと、また同じ事が起きる。
『いつってのは、夜中に私が帰ってきた以降だよね? なぜ、ってのは――――』
額に人差し指を当てて考え込む。
すると、
「ス、スミカお姉ちゃんっ!」
スタタタ――――
隣の部屋で賑やかだった子供たちの間から、ユーアが私を見つけ駆けてくる。
「あ、ユーア、おは――――」
「これ、スミカお姉ちゃんだよね?」
朝の挨拶を遮って、ユーアがモジモジと自分の頭の上を指さす。
その指さす方向には……
「え? こ、これって、天使の輪。だよね?」
「う、うん。そう見えるよね」
赤い顔で俯くユーアの頭の上には、煌々と光る輪っかが浮かんでいた。
白のワンピースも相まって、本当の天使に見える。
だから子供たちは騒いでいたんだろう。
その神秘的なユーアのお姿を見て。
『こ、これは――――』
【湾曲】+【鱗粉発光】+【追尾】の能力の3コンボだ
完璧に天使の輪を再現している。
「ね、ねぇ、これ恥ずかしいから、もう取ってください、スミカお姉ちゃん」
「わ、わかった。なんか似合ってるけど、それじゃ外歩けないもんね」
すぐさま、ユーアの天使の輪もどきを解除する。
「ありがとうスミカお姉ちゃんっ! あ、それと、いくら夜にお腹が減っちゃったからって、勝手に食べ物を食べちゃダメだよ? さっきお手伝いさんが騒いでたよ」
「え?」
「ハラミがね、黒いスミカお姉ちゃんが食べてたって、教えてくれたよ。それじゃボクはお手伝いに行ってくるねっ!」
輪が取れて、笑顔が戻ったユーアは、そう言って私のお腹を見ながら去っていく。
「黒い私?」
「お、お姉さま、そんなに空腹でしたら、私がご準備しましたのにっ!」
「お姉ぇ、いつでも言ってくれよなっ! 干し肉も持ってるからさっ!」
「スミ姉だったのね、犯人はっ! さっさと謝りにいきなよねっ! あと、お腹が胸より出てるわよっ!」
ユーアの暴露話を聞いたシスターズは、それぞれに言いたい事を言っているが、私の耳には入ってこなかった。
去り際にユーアの言っていた、
『黒い私』
の単語が引っ掛かっていたからだ。
『はぁ~~、もういい加減受け入れよう。ってか、全ての証拠が私だって言ってるじゃん。朝起きたら違う部屋で寝ていたのも、食料を盗み食いしたのも、ナゴタ達にいたずらしたのも……』
心の中で長い溜息を吐き、今までの罪を認める。
ハラミが食堂で目撃し、ユーアにチクった『黒い私』は【暴食】
そのせいか、食材を貪り喰ったから、お腹が大変な事に。
そして、シスターズにいたずらしたのは――――
こっちはハッキリと分からないが、何となく予想してみる。
ナゴタたちの胸を平らにしたのは『白い私』の【嫉妬】
その理由は言わないけど。
次にラブナの口を塞いだのは同じく『白い私』の【憤怒】
これは色々と辛辣な事を言われてるからだと思う。
「なんだけど……」
ただ、なぜユーアに天使の輪を乗せたのかがわからない。
『え~と、出ていない色欲にも当てはまらないし、怠惰も違う。もしかして強欲? 私がユーアを天使にしたいって事? でもそれもピンと来ないな。う~ん、一体何だろう?』
ユーアだけは何故か、何の本能にも当てはまらない事に気付く。
まさか天使になりたいだなんて、ユーア自身も思ってたわけではないし。
まぁ、私は天使のような存在だって思ってたけどね。
あの無垢な笑顔と、可愛い声も愛くるしい仕草も。
『にしても、やっぱりまだ不明な点が多い能力だよね。私以外の外部の思念を読み取ってる可能性もあるかもだし…… でも今回やらかしたのは、乱発し過ぎて脳処理のキャパを超えちゃったのが原因だと思う、頭重かったし。回数だったら補足があってもいいからね』
後はバージョンが上がるのに期待するか、訓練でコツを掴めばいいかな?
そう締めて、私はみんなに事情を説明してごめんなさいする。
ビエ婆さんたちがいる台所にも行って、平謝りをする。
シスターズのみんなは私のいたずらって気付いていたらしいけど、この後に謝った、お手伝い組は少しだけ複雑な表情だった。
『うん、まぁ、ね、これは私が全面的に悪いよね…… げぷ』
それはそうだろう。
食料という物的被害を受けたのは、ビエ婆さん率いるお手伝い組だけなんだから。
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