剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
上 下
372 / 586
第10蝶 初デートは護衛依頼

貴族の傘下に入る蝶の英雄

しおりを挟む



「ごめんなさい。他を当たってください。私には無理です」

「ちょ、直属ぅっ!? って何で断るのさっ!」
「ス。スミカお姉さん、それは……」
「はわわわ…………」

 私はにべもなく、ロアジムの勧誘を丁寧に頭を下げてお断りする。
 そして、その返答に驚き慌てるリブたち。


 今の話の流れ的に、こういう話になるのはわかっていた。

 何だかんだで、ロアジムには色々とお世話になってるから、お抱えぐらいなら引き受けて良いかなって思っていた。それぐらいはね、ってな付き合いの感じで。
 

 ただ、今回の直属というのは、まるで意味合いが変わってくる。

 私の行動そのものが、ロアジムの地位や名声に直結する恐れがある。
 良いも悪いもそれが、私の首を絞める事に繋がるかもしれない。

 もっと本音を言えば、今以上に忙しくなりそうだった。
 そうなったら、更にユーアともいられなくなるし、この世界にいる意味も薄くなる。

 
 それがロアジムの誘いを聞いて断った理由だった。


『う~ん、ロアジムならそこまで考えてても、おかしくはないんだけど…… あれ?』

 そんなロアジムは、特に気落ちした様子は見られない。
 真摯な表情から一転、今度はニコニコと微笑んでいた。

 私の答えは、やはり予想済み。だったって事?


「わはははっ! これは何の説明をしなかったワシの落ち度だなっ! そんなに身構えなくてもいいのだよ、スミカちゃん」
「どういう事?」

 微笑みを浮かべたままのロアジムを見て怪訝に思う。

「今のままで構わないのだよ。スミカちゃんはきっとその方がらしいからなっ!」
「それって? 好きにしていいって事?」
「まぁ、大雑把に言えばそうだな。少し細かく言うと、空いてる時には依頼を受けて欲しいかな。ワシのの時にはな」
「うん、まぁ、そのくらいならユーアもいいって言うと思うけど。でもそれで一体何の利益があるの? ロアジムには」

 疑問に思い、率直に聞いてみる。

 ここまで聞くと、私だけが得をしているように思えるから。
 片手間に依頼を受けるだけで、貴族の名を持つロアジムの恩恵を受けられるのだから。
 

「うむ、スミカちゃんが疑うのは良く分かる。利益がスミカちゃんの方に偏ってるって言いたいんだろうな」
「うん、そんな感じ」
「ただそこには損得の勘定だけであって、ワシの気持ちは含まれておらぬだろう?」
「まあ、そうだね。ロアジムも、私も、仕事って話になると、そう思うよね」
「でもスミカちゃんは、ユーアちゃんを基準に仕事を受けるだろう?」
「ううっ! た、確かにそうだけど、でも私は自分の地位とか名声とか考えないし」

 ロアジムの突然の返しに、口ごもり、言い訳の様に答えてしまう。
 

「ワシもそれと一緒なのだよ。もちろん仕事も大事だが、今はスミカちゃんとのえんを大事にしたいのだよ。ワシたち家族の恩人だし、ユーアちゃんもシスターズも大好きだからなっ!」

 両手を広げて、まるで演説の様に語るロアジム。
 その表情は今日一番の満面の笑顔だった。



『それでも切れ者のロアジムの事だから、何かしらの思惑はあると思うけどね…… ただこのまま無下に断るのも、ちょっと抵抗あるんだよね』

 今、話したこと全部が本音だとも、全てを曝け出したとも思わない。
 こういった心理戦はロアジムの独壇場だろうし。

 ただロアジムの言う縁って言うのも気になる。
 ここまでロアジムにはかなりお世話になっている。


 今回のリブの依頼未達成の不問の件。
 貴族のおじ様たちに会わせてくれて、ナゴタたちの訓練を受け持ってくれた事。
 私たちの秘密に関わる情報漏洩の規制。
 アオウオ兄弟を大豆屋工房サリューに貸してくれた事。
 孤児院にエーイさんたちお手伝いさんを派遣してくれた事。


 それに今もこうして、私とアマジ親子とのほどよい関係が続いているのも、ある意味ロアジムが関わっている。普通に考えたら、自分の息子や孫娘に、得体のしれない冒険者を近づけさせたくないだろう。

 きっとその他にも、私の知らないところで動いているに違いない。

 それが自分への利益を優先してか、
 またさっき言った縁を大事にしてるかの判断は出来ないけど……


『まぁ、それでも…………』

 今のところはその条件は悪くはない。

 今だって、ロアジムの庇護下に入っていると言ってもいい。
 それにユーアを含め、私もロアジムを結構気に入っている。


 だったら――――


「わかった。その話受けるよ」
 答えながら、スッと左手をロアジムに差し出す。

「うむ。ありがとうな、スミカちゃんっ!」
 私の手を取りながら、更に破顔するロアジム。

 この瞬間、お互いの合意の元、利害が一致し、専属関係が成立した。


 だったんだけど、

 ロアジムは、私の手をそのまま握りながら先を続けて、

「いや~、ワシはもしかしたら生涯で今が一番幸せやもしれぬっ! スミカちゃんと念願の冒険に行けるのだからなっ! もちろんワシも冒険者としてだがなっ! わはは」

「え? ロアジムが冒険?」

「それではワシたってのお願いを言うぞっ! 4日後に、ある村を訪れたいのでスミカちゃんと空いてるシスターズを同席してくれないか? ワシのたってのお願いとしてなっ!」

 面食らっている私を他所に、お願いを連呼して「ニカ」と歯を見せるロアジム。


『しまったぁ~っ! 一杯食わされたぁっ!』

 ってか、そんな簡単に『たってのお願い』使うのはズルくない?
 しかも何でいい大人が、そんな子供のような無邪気な笑顔を見せるの?


「はぁ~、わかったよ。4日後だね? その辺りは予定を開けておくよ。一応ユーアにも聞いておくから。あ、もしかしたら連れて行くのはユーアかもだけど」

 屈託のない笑顔のロアジムを前に断れるわけでもなく、
 軽い溜息を吐きながら、その話を承諾する。


「うむ、ありがとうなっ! その時は是非ユーアちゃんを連れてきてくれなっ! いや~、4日後が待ち遠しくて、それまで夜眠れるかが心配になって来たなっ! わははっ!」

「あ、そう。それは喜んでくれて良かったよ。それじゃ、今日の話はもう終わり? だったら帰ってもいい? この後はリブたちに街を案内したいからさ」

 年甲斐もなくはしゃいでいるロアジムにジト目で聞いてみる。
 思ってたより結構な時間が過ぎちゃったから。


「そうなのだな。でもどうせなら、今夜は我が家でディナーを食べていけばいいのに。ゴマチも喜ぶと思うのだがな」

「う~ん、それもいいと思うけど、孤児院には準備を頼んできたから、今日は遠慮するよ。それとそういう誘いは前もって言ってくれると助かるかも。向こうも用意した料理を無駄にしないですむからね」

 食事を誘ってくれたロアジムにはそう断る。

 孤児院の資金だって、無限ではないのだ。
 今はナジメに頼っている状況だし。


「って、またスミカは、ロアジムさまの誘いを、そんな事で断って――――」

 すかさずリブが、また小言を言い出すが、

「そうだなっ! 今度からスミカちゃんを誘う時はそうするよ。ワシもまだまだ考えが足らぬのだと実感してしまうな。スミカちゃんと話をしていると」

「うっ…………」

 そんなリブは、理解を示したロアジムに遮られてしまい、黙り込んでしまう。


「うん、まぁ、そこまで気にしないでもいいけど、もっと一般人の生活を知った方が良いかもね。誰だって食べ物を捨てるのは嫌でしょう? それが元々食べ物に困っていた人たちなら尚更だからね」

 特に嫌な顔も見せず、頷いてくれたロアジムに、更に付け足し説明をする。
 わかってはいるだろうけど、誰かに言って貰った事なんてないだろうから。


「うむ、それも肝に銘じておこうっ! それでは今日はこれで解散だ。ちょうどエーイも戻ってきたみたいだしなっ!」

 解散宣言したロアジムの視線の先には、アマジがゴマチの手を握るその後ろには、少しだけ晴れやかな表情のエーイさんが付いてきていた。
 どうやらアマジへの誤解が解けたらしい。


「それじゃ4日後だったね? その前にまた連絡ちょうだい」
「うむ、その時はゴマチかバサに頼んで連絡させるなっ!」
「うん、よろしく~」

 そうして、私たちは貴族街を後にした。


 この後は、エーイさんも連れてコムケの街を案内して孤児院に戻ってきた。
 これで今日一日の予定も完遂だ。


 朝からナゴタたちとリブの衝突とかあったけど、今日も一日が終わった。
 異世界の一日って、現実世界に比べて濃厚過ぎだよね。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...